解読、その1
「暗号を解くって。今、この暗号は解けないって……」
そう言った、そう言ったけれども。
自分の口が強張るのがわかる。もう言ってしまったんだから引き下がれない。もとより、引き下がるつもりも全くない。大丈夫、策も考えもへったくれもないけど手段ならある。
「ええ、それは普通にやったらです。なら、普通じゃない方法で、邪道も、ズルも当てずっぽうも、全部まとめて使ってこの暗号を解いてみせます。大丈夫、作られたんだから解けるはずです」
そう作られたんだから、解けるはず。
先ずは暗号の描いてある切れ端に視線を落とす。
◆△ ▽ ●□◇●▼ ○ ④⑤▼③◎☆
♡⑩② ◆△ ⑥ ▲▼◇◎ ③⑦☆
◆△ ⑧■ ⑪③□⑨▽■ ●□◇●▼ ② ○⑪■⑨☆
♡③⑫ ●□◇ ⑧■ ⑬⑯■⑮ ③■⑩⑭ ⑥ ●①△⑤☆
⑰⑱⑨▽■ ◆△ ○ ▲▼◇◎ ▽ ●⑧⑨☆
◆△ ▽ ◆△ ○ ▲▼◇◎ ⑥ ●◇⑦ ⑳○ ○
⑳○ ● ①⑲☆
もう、当てずっぽうも良いとこだけど、先ずは一番可能性が高い「暗号が文章だと」仮定して解読を進めていくしかない。それで途中で矛盾が出たり、解読出来なかったりしたら出来なかったで「これは文章ではない」と言う答えが出る。それはそれでやる価値がある。
そう、可能性の高いところから、しらみっ潰しに試してやればいい。それで最後に残った答えがどんな物でも、それが答えだ。
まずはこの〈☆〉
これが文章ならだけど。文章の最後に必ずこの〈☆〉がついてる。
それなら、これは句読点である可能性が高い。あるいはたまたま文章の最後が全部同じ文字と言う可能性もある。だけど、これは可能性的には非常に低い。だから、考えとしては後回しにしていいだろう。
となると、暗号はこうなる。
◆△ ▽ ●□◇●▼ ○ ④⑤▼③◎。
♡⑩② ◆△ ⑥ ▲▼◇◎ ③⑦。
◆△ ⑧■ ⑪③□⑨▽■ ●□◇●▼ ② ○⑪■⑨。
♡③⑫ ●□◇ ⑧■ ⑬⑯■⑮ ③■⑩⑭ ⑥ ●①△⑤。
⑰⑱⑨▽■ ◆△ ○ ▲▼◇◎ ▽ ●⑧⑨。
◆△ ▽ ◆△ ○ ▲▼◇◎ ⑥ ●◇⑦ ⑳○ ○ ⑳○ ● ①⑲。
正直、これではまだ解読なんて言える作業とは程遠い。だけど、この暗号が文章なんだとしたら、これはほぼ確実に合ってると思う。しかし、ここからどっと当てずっぽうの度合いが高まる。だけど。今はとにかく、可能性が高い物を全部はめ込んで試してみるしかない。
先ずは同じ記号が並んでる箇所を選別する。
すると……
〈◆△〉が6つ。
〈●□◇●▼〉が2つに〈●□◇〉が1つ。
そして〈▲▼◇◎〉が3つ。
この片寄り方からして、流石にこの記号、ひとつにつき一文字入ると思いたい。それに今は入るとして考えるしかない。
となると。この〈◆△〉はかなりの確率で〈つえ〉か〈うみ〉が入ると思う。何故なら、この〈◆△〉の後には、僅かな感覚を開けて〈◯〉あるいは〈▽〉そして〈⑧■〉が必ずついてる。
これが恐らく〈つえが〉であったり〈うみに〉と言った感じで単語の間に文字が入るのだろう。
だけど、ここで〈⑧■〉と言う物がなんだろうかと思うが。まだこれは可能性としてはあてはまる事柄があるので今のところは矛盾しないと仮定して解読していくしかない。
次に〈●□◇●▼〉の2つと、1つだけ存在する〈●□◇〉についてだが。正直、これはわからない。と言うより、この解読はわからないなんて当たり前で進めて行くしかない。けれども、この1つだけ存在する〈●□◇〉の存在がかなり大きい。
〈●□◇●▼〉だけだったら、五文字の単語程度にしか絞れなかったが、この〈●□◇〉が1つあるだけでかなり絞れる。
逆に〈●□◇〉だけだったとしても絞るのは難しかったと思う。〈●□◇〉だったら〈ふとう〉でも〈とけい〉でも〈あさひ〉でも〈ゆうひ〉でもなんでも当てはまってしまうからだ。
だけど〈●□◇●▼〉があればかなり候補は絞れる事になる。〈●〉が最初と途中で重複して出てくる言葉で尚且つ今回の暗号に関係する言葉はそうそうない。〈●□◇●▼〉に入るのは、ほぼ間違いなく〈とけいとう〉だと思う。
「すいません。何かの書く物と紙はありますか?」
僕がそう言うと、彼女が自分の手帳と万年筆を取り出して僕に手渡してくれた。
「どうぞ、これを使ってください」
革の手帳に金メッキか本物の金の万年筆だろうか。どちらにしろ、僕からしたら高級そうな一品だ。つくづく僕と彼女は住む世界が違うらしい。
僕は万年筆を手に持ち、先程解いた暗号を手帳に書き示してみせた。
◆△ ▽ とけいとう ○ ④⑤う③◎。
♡⑩② ◆△ ⑥ ▲うい◎ ③⑦。
◆△ ⑧■ ⑪③け⑨▽■ とけいとう ② ○⑪■⑨。
♡③⑫ とけい ⑧■ ⑬⑯■⑮ ③■⑩⑭ ⑥ と①△⑤。
⑰⑱⑨▽■ ◆△ ○ ▲うい◎ ▽ と⑧⑨。
◆△ ▽ ◆△ ○ ▲うい◎ ⑥ とい⑦ ⑳○ ○
⑳○ と ①⑲。
それで、ここで〈うみ〉の〈う〉を〈とけいとう〉の〈う〉で使ってしまったことにより、今回の仮説では〈うみ〉は使えず〈つえ〉を採用せざるおえなくなる。
となると、更に暗号はここまで解ける。
続け様に手帳に書き込んでみせる。
つえ ▽ とけいとう ○ ④⑤う③◎。
♡⑩② つえ ⑥ ▲うい◎ ③⑦。
つえ ⑧■ ⑪③け⑨▽■ とけいとう ② ○⑪■⑨。
♡③⑫ とけい ⑧■ ⑬⑯■⑮ ③■⑩⑭ ⑥ と①え⑤。
⑰⑱⑨▽■ つえ ○ ▲うい◎ ▽ と⑧⑨。
つえ ▽ つえ ○ ▲うい◎ ⑥ とい⑦ ⑳○ ○
⑳○ と ①⑲。
よし当てずっぽうだけれども。一気に解けたな。
ふと、彼女の方を見ると彼女は目を丸くして僕を見つめていた。そして、一言「すごい」と呟いた。
なんにもすごくない。これはただの当てずっぽうなんだ。
本番はこれからだ。しかも、これからずっと当てずっぽうを当て続けなければいけないんだ。
だが、下手な鉄砲も数撃てば当たるように当たるまで撃てば、いつか必ずこの暗号は解けるはずだ。
いや、僕が必ずこの暗号を解いてみせるんだ。