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犬で僕な僕と魔術師の事件簿  作者: ふたばみつき
失われた灰色 ロスト・グレース
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暗号

「どうですか、わかりそうですか?」


 彼女が期待を込めたような、そんな眼差しでこちらを見てくる。そして、僕は困惑する。


 どうしよう、全くわからない。僕はもう一度、紙切れに視線を移して見せた。


◆△ ▽ ●□◇●▼ ○ ④⑤▼③◎☆

♡⑩② ◆△ ⑥ ▲▼◇◎③⑦☆

◆△ ⑧■ ⑪③□⑨▽■ ●□◇●▼ ② ○⑪■⑨☆

♡③⑫ ●□◇ ⑧■ ⑬⑯■⑮ ③■⑩⑭ ⑥ ●①△⑤☆

⑰⑱⑨▽■ ◆△ ○ ▲▼◇◎ ▽ ●⑧⑨☆

◆△ ▽ ◆△ ○ ▲▼◇◎ ⑥ ●◇⑦ ⑳○ ○ ⑳○ ● ①⑲☆


 これは一体、なんなんだ?


 もし、この記号のひとつひとつに文字がひとつ入るとしても、全くわからない。な、なんなんだこれは? 


「な、なにか法則の様な物はないんですか?」


 思わず、藁をも掴む様に疑惑の声が口から飛び出すが、彼女は小さく首を横に振った。


「わかりません。今のところはないと思います……」


 彼女が申し訳なさそうな表情で返答を返してくる。


 やっぱり。僕なんかじゃ駄目なんだ。僕がでしゃばったばっかりに彼女にいらぬ期待を抱かせてしまった。こんなことするんじゃなかった……


 そう後悔の想いがつのる。


 ……いや、まだ諦めるなよ。なんとか策を引きずり出すんだ。そう、確か彼女のお父さんが言ってヒントがあったじゃないか。それは、確か……


「確か、お父さんは“その街に行ったら絶対に目に入る場所に杖を隠した”って言ったんでしたよね」


 僕の言葉に少女は勢いよく頷いてみせた。


「ええ、お父さんはそう言ってました。だから、先ずはここは港街ですから埠頭に行って、船とか色々と探したんです。あとはこの街の時計塔とかにも登って探してみたんです。それで最後に海は私の家の人達が探してますが今のところは何も見つかってません」


 な、なるほど。一家総出で探しているのか……


 確かにこの街と言ったら港街だから、埠頭とかを探すのは間違ってないよな。それに街には時計塔があるのは大体普通だし、それに時刻を確認する為に絶対に目に入るからそれも間違ってない。海だって絶対に目に入る。これも正しい。


 でも、杖は見つかっていない。暗号を解かないと絶対に見つからないようになってるのかな? それか探してるところが間違ってるか……


 やっぱり、暗号の意図は全くもってわからない。でも、間違ってはいないようにも思える。いや、でもそれなら、なんとなくこの暗号の内容の方向性はわかってきた。


「本当にお父さんは“その街に行ったら絶対に目に入る所に杖を隠した”って言ってたんですか?」


 僕のその言葉に彼女は怪訝そうな表情でこちらを眺めながら答えた。


「ええ、間違いありません。さっきも言いましたけど。それがどうしたんですか?」


 よし、自分の頭の中を整理する為にも彼女に説明しながらの方がいいか。


「いやですね、その言い方だとその場所に杖があると言ってしまっているんですよ。その場所に何かしらの暗号のヒントがある、とかではなく、すでにその場所に杖があると言ってしまってるんです。これは明らかに暗号の作り手としては異常な態度なんです」


 そんなことを言ってしまえば、しらみっ潰しに探していけばいつかは見つけられてしまう。それじゃあ、もう暗号の意味がない。そうなってしまったら、もうただの宝探しになってしまう。


「多分ですが。その強気なヒントはその場所に行ったから杖が手には入るとは限らないことを暗示していて、その場所で何かしらをしないと杖が手に入らないと遠回しに言ってるんだと思います」

 

 そう、例えるなら金庫の場所は教えるけれど、金庫の暗証番号は教えないぞ。と言った感じだろうか。


「え? じゃあ、私の家の人達がやってることは無駄ってことですか?」


 不意に彼女の天使のような顔が悲しげな表情に変化した。僕は直ぐ様取り繕うように言葉を付け加えた。


「い、いえ。完全に無駄とは限りません。もしかした、何かしらの偶然で条件が揃って杖が見つかるかもしれませんから……」


 だけども、その可能性は非常に少ないと思う。

 金庫の暗証番号を適当に回して、ピタリと当てるなんてことは先ず無いのと同じ様に……

 しかし、僕の感情とは裏腹に彼女は笑顔をみせる。


「ああ!! 確かにそうですね!!」


 そう言うと。彼女は元気を取り戻し、明るい笑顔をその顔に浮かべた。なんて、感情の切り替えが激しいんだ。それとも、細かいことには気が向かないだけなのか……


 ああ、違う違う。危うく話が脱線しかけた……


「つまり、この暗号はその場所がどこで、そこで何をすればいいかが書いてあるんじゃないですかね?」


 つまり、金庫で言うところの暗証番号だ。


「おお、なるほど!!」


 彼女が納得したように頷いてみせた。


 うん、恐らくそんな感じだとは思う。それならなんとなく強気なヒントの理由も頷ける。だって暗号が解けなかったら、そこに行っても、なんの意味もないんだから。


「そ、それでそのどこで何をすればいいんですか?」


 それがわかれば苦労はしない。


「それはわかりません」


 見ると、彼女が落胆仕切った顔をしている。

 正直、これに関しては仕方がない。

 それには、なんとなくだけど理由がある。


「その理由なんですが、この暗号は恐らく解く為に作られていないと思うんです。これは本人が忘れないように程度の感覚で“てきとう”に文字を記号に変えて行って作った“てきとうな”暗号だと思います」

 

 そう、それはまるで金庫の番号を忘れないようにメモをしておいた程度の感覚で。


「ふえぇ!?」


 僕の言葉を聞いて、彼女がすっとんきょうな声を上げる。


 そうじゃないと、こんなひとつの文字ごとに適当に行き当たりばったりで記号と数字を振ってったような暗号が出来る訳ない。意味がわからな過ぎる。

 

「つまり、この暗号は普通には解けません」

「そ、そんなぁ……」


 そう言うと彼女は項垂れてしまった。そして、終いには大粒の涙を溢しながら泣き出してしまった。その可愛らしい顔をくしゃくしゃに歪めながら。


「うぐ…… うぐ…… お父さんの杖がないと…… 私は…… 私は…… うわぁぁぁん!!」

  

 彼女は突如、今までの冷静な様子を覆すように取り乱した。

 その余りの落差に思わず僕は驚きの声が漏れてしまった。


「な…… と、突然どうしたんですか!!」


 すると、彼女は次から次へと溢れでる涙を拭いながら、目の周りを既に真っ赤にして叫び声にも似た声を漏らした。


「わぁ、私が杖を見つけないと。家がぁ!! うちがぁ!!」


 全く持って意味はわからないが、彼女がそう言うと言うことはそう言うことなのだろう。意味はわからないが、取り敢えず落ち着いてもらう他ない。


「取り敢えず落ち着いて下さい。どうしたんですか? 説明してください。それか落ち着いて下さい!!」


 ああ、どうすればいいんだ。女の子を泣かせてしまった。

 でも、僕もさっきまで泣いてたし、これでイーブンなんじゃないかな。

 いや、今はそんな下らないことを考えてる場合じゃないか。


「うちは、お、お母さんは普通の人なんです。魔力も、魔術の心得も何にもないんです。だから、だから、私がなんとしてでも強い当主になって、家を守れるだけの力を持たないと。きっと、きっと、家は他の魔術師達の食い物にされてしまう!! 抗争の道具にされてしまう!! それだけは、それだけは…… 絶対に…… だから、絶対につえが……」


 そう言って、彼女は肩を小さく振るわせながら力無く項垂れてしまった。


 恐らく、ご主人様の言った通り、彼女と僕の歳は大して違わないだろう。でも、よくわからないが。彼女の話を聞く限りではその幼い身に家の威信が一手に掛かっているようだ。


 だけど、それにしても彼女のその身は幼くて小さ過ぎる。今ままでは溢れでる感情を抑えに抑えていたんだろう。そして、それが今、僕の目の前で溢れでてしまったのだろう。


「……だ、大丈夫!」

 

 僕は思わず、そう言葉に出していた。


「……ぐすん。 え? な、何が、大丈夫なんですか?」


 やっぱり、やるしかない。

 もう、やってやるしかない。


 唇を固く結び、思考を巡らす。普通の方法ではこの暗号は恐らく解けない。だけど、それは逆に言えば、普通ではない方法を使えば解けるかもしれないと言うことだ。


 そうだ。よし。

 大丈夫、行ける。


「この暗号、僕が必ず解いてみせます」

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