3 連絡先の交換
鷹匠なんとかさんによる『ぱんつください騒動』から、一夜が明けた。
今になって振り返ると、俺も昨夜はかなり冷静さを欠いていた。
鷹匠がぱんつを欲しがる理由と、その理屈の穴を、指摘出来なかったのだ。
まず第一に、ぱんつはネットショップで買えばいい。
コンビニ等の店頭で買うのが恥ずかしいならば、ネットで買って届けてもらえばいい。
第二に、家の人に買って来てもらってもいい。
娘の下着が頻繁に盗まれるのなら、親御さんだって放っては置けないだろう。
なんならお母さんの下着も同様に盗まれているかもしれない。
俺だったらお母さんの下着の方……ゲフンゲフン。
と、とにかくだ。
どちらにしろ、防犯上の理由ならば親御さんに反対はされないだろう。
いや、そもそも下着を盗まれたコト自体を知られたくないのか。
だとすれば──
そんな愚考を繰り返していたら、学校に遅刻しそうになった。
さて、問題の放課後である。
クラスの連中は次々と教室を出て行くが、俺はまだ自分の席に座ったままだ。
なにしろこれから、人生初の体験が待っている。
ある程度の覚悟を決める時間は必要だった。
鷹匠さんに、ぱんつを渡す。
色々と疑問は尽きないが、約束は約束だ。
約束は、守られるべきもの。
それに鷹匠さんにはサイン本を譲ってもらった恩もある。
結局昨夜は頭の中が混乱してて、まだ1ページも読んでないけど。
そこでふと気がついた。
お互いに連絡先を知らないので、待ち合わせの時間と場所を決められない。
人が疎らになった教室を見渡すと、鷹匠さんも同じ考えなのか、まだ席に座っていた。
てか鷹匠さんの席って、一番後ろの窓際なのね。
ぼっちにとってはベストポジションだな。
待て待て。
まだ鷹匠さんがぼっちと決まった訳ではない。
明らかになっているのは、男友達がいないことだけだ。
まあ、これ以上明らかにする必要は無いだろうけれど。
鷹匠さんと俺は、サイン本とぱんつを取引するまでの関係だ。
つまり、ぱんつ譲渡という契約でのみ繋がるB to B。
業者間取引だ。
いや業者じゃなかった。どうも思考が混乱していて困る。
ふと、人の気配がした。
振り向くと、そこにはスマートフォンを握りしめた鷹匠さんが、真っ赤な顔で立っていた。
「れ、連絡、教えて……」
「あ、ああ」
たどたどしい口調で、鷹匠さんは呟いた。
やはり考えていた事は同じだったようだ。
俺もスマートフォンを出す。
慣れない作業に少々手間取ったものの、無事に連絡先を交換できた。
って鷹匠さん。
なぜそんなに嬉しそうなんだ。
解せぬ。
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では、また続きでお会いしましょう☆