20.ふたり(2)
「とりあえず、無言電話については、固定電話をやめることにしよう。もともと使っていなかったし。須藤については俺のほうから話をしておく」
「でも……」
花夜子は言い淀んだ。
「花夜子、佐々木くんに任せておいたほうが良いと私も思う。1週間くらい会わなかっただけなのに、少しやつれてるよ。夜も眠れてないんでしょ? いつもならもっと素直に佐々木くんに頼るのに――。須藤となにかあった?」
答えられずにうつむいていると「花夜子、言いにくいなら、あとで二人のときに話そう」とスウが言った。スウにこそどう話していいかわからなかったので、花夜子は目線をあげなかった。
エリカちゃんが帰ったあと、花夜子は気まずい雰囲気のまま、身を固くして座っていた。冬の低い陽射しが窓から燦々と降り注ぐ。
「桜原さん、このごろベランダガーデンに凝ってるらしいよ。寄せ植えの花で作ったんだって」
スウは、細口の壜を持ってきてダイニングテーブルに置いた。
エリカちゃんが手土産に持ってきてくれた小さなブーケの花がていねいに生けられていて、ぱっとテーブルが華やいだ。
中心が濃い色の小さな毬のようになっている青紫の花。それからこれはラベンダーなのだろうか。花夜子が知っているものとは違う。道端に生えている草のような穂があって、その先に小さな紫の花がついている。それから銀色がかった葉っぱや、青々とした葉っぱ、白くて可憐な花が添えられている。
こういうのはふつう、花夜子がするのではないだろうか、と思いつつ、改めて彼の器用さに微笑ましくなる。同時に、身のうちにぐちゃぐちゃした気持ちがいっぱいに広がっていくのを感じた。
花夜子が知っているスウは、このスウだけだ。優しくて、何でもできて、頼れる、そんな人。でも、花夜子の知らない顔があったとしたら? 本当は離れていきたいと思っていたとしたら――?
どうしてだかわからないけれど、目頭にぽちりと涙が浮かび、みるみるうちに熱く、盛り上がっていく。
スウは困ったようにほほ笑むと、立ち上がった。
「――紅茶を淹れてくるよ」
小学生のころ、毎日1時間半近い時間を一緒に学校まで歩いていた。歩道のない狭い道では、いつもスウが先に立ってくれて、花夜子はその後を何も考えずに進めばいいだけだった。彼はいつだって花夜子の道標だった。
子どものようにただついていくだけの自分ではいたくない。でも、――スウがどこかに行ってしまうのは耐えられない。
そう思うと、立ち上がり、スウの背中にしがみついていた。
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