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《第3部完》幽霊の花嫁修行  作者: 三條 凛花
第3部 - 弥生
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3.無言電話

 電話が鳴るたびに、ひゅっと息が止まるような緊張が走るようになった。


 このマンションに住んで何年も経つけれど、固定電話の着信音が鳴ったことはほとんどない。必要な連絡はたいていスマホで事足りるからだ。


 それがここのところ、日に何度も鳴っている。

 最初のうちは受話器を取っていたものの、電話の向こうは水を打ったように静まり返っている。いくら呼びかけても反応はない。しばらくしたら向こうから切られてしまう。それなのに、何度も何度もかかってくる。


 非通知の着信拒否手続きをしてみたものの、次は公衆電話からかかってくるようになった。気味が悪かった。――でも、自分でもどうしてなのかわからなかったけれど、スウには話せずにいた。





「洗濯ものって、たたまなくちゃだめ?」


 その朝、花夜子は弱々しく訊いた。

 乾いた衣類が、ランドリーバスケット3つ分も溜まっている。これらをすべて仕分けして畳んでいくのはどうにも億劫だった。


「たたまなくてもいいのではないですか」


 紫鶴子さんは穏やかに答える。


「え?」

「すべてハンガーにかけるようにすれば、たたまなくてもいいでしょう?」

「なるほど……。でもタオルとかは?」

「洗面所にポールのようなものを設置してみては? そこにまとめてかけていけば、たたまなくても済みますよ。さすがに靴下や下着といったものはたたまなければいけないかもしれませんね。わたくしは、こうしてたたむ作業が好きですが……。綺麗に整っていく過程が楽しいです。それに終わると達成感があるでしょう?」

「うーん……」

「タオルなら、楽しめるかもしれません」


 紫鶴子さんが言う。


「洋服は広げて、皺を伸ばして、形に合わせてたたんで……と、たたみにくいけれど、タオルはぱたぱたと折っていくだけでしょう? 何も気にしなくても綺麗に仕上がります。ふわふわのタオルを丁寧にたたむのは、とても気持ちがいいものですよ」


 そう言うと、紫鶴子さんはやり方を教えてくれた。


「まずは、タオルを横向きに置きましょう。そして3等分に折ります。上から真ん中に向かってひと折り、下から真ん中に向かってひと折り。……ああ、わたくしが隣で手本を見せられたらいいのですが……。次に、抱き合わせるように、右から中心に合わせて折り、左からも同じようにします。あとは真ん中でパタンとたためば完成です」


 普段、服をたたんでいるときに感じる、皺が伸びにくいとか、たたみにくいといった不快感は確かに無かった。手間をかけずに綺麗に仕上がる。


「紫鶴子さん、口だけでもじょうずに教えられるのね」

「子どもたちによく教えていました。隣に座って、手元が見えるようにして。最初は何も言わずにやってみせました。それから言葉でも説明して……。やり方を覚えた娘たちは、よく手伝ってくれていたのですよ。教師として教えるのとはまた違った、誇らしさやうれしさがありました」


 花夜子がほめると、彼女は表情を柔らかくした。

 幽霊であるからなのか、紫鶴子さんの記憶はところどころ欠けている。こうして思い出について話してくれることもあれば、まるでプログラミングされたロボットのように、想定内の回答だけをすることもあった。


 また、“定期試験”の途中で帰ってしまったことが、記憶からすこんと抜けていることも気になっていた。でも、花夜子はそれを指摘できずにいた。なにか、決定的なことが変わってしまいそうな気がしたのだ。


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