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《第3部完》幽霊の花嫁修行  作者: 三條 凛花
第3部 - 弥生
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序章.お告げ(2)

 宵闇に雪がちらついている。都内では珍しい。

 窓の向こうへと静かに視線を落としていた羽鳥影雪は、それに気がつくと、思わず口元を緩ませた。雨まじりではあるが、――これもまた僥倖なのではと。


 雪は積もるほどではなく、地面をびちゃびちゃと濡らすだけ。そんな中、影を縫うように歩いてきたのは、赤い傘を差した女だ。女は影雪のいる喫茶店の前で足を止め、こちらに目をやった。待ち人を見つけた影雪は、口の端を上げて、ひらひらと手を振る。しかし、女が喫茶店の扉をくぐり視界から消えた瞬間、貼りつけられた笑顔はすこんと抜け落ちた。


 影雪は、無表情のまま、すっかりぬるくなったブラックコーヒーを口元へ運んだ。やがて、コツコツと階段を上る音が響いた。女が顔を覗かせると、影雪は再び、その口元に笑みを浮かべた。


「この店は初めて?」


 影雪は尋ねる。女はためらいがちにこちらを見て、落ち着かない様子でその黒髪を耳にかけた。


「おすすめはこれ。ココア。この店のは変わっていてね。ほろ苦いココアに、ぴりっと胡椒が効いてるんだ。今日みたいな雪の日にぴったりだよ」

「――じゃあ、私もそれで」

「お揃いだね」


 影雪が軽い調子でそう言うと、女は頬を染めた。


「今日は、どうして私に声をかけてくれたんですか」


 この店は決して不人気なわけではない。それなのに、影雪たち以外の客がいないのは、貸し切りにしてあるからだ。仲間たちだけで借りてある。


「ある女を探しているんだ」


 女の無表情が一瞬だけ苦しそうに歪んだのを、彼は見逃さなかった。だが、それからしばらくして彼女は思い直したように言った。


「例の、お告げのことですか」

「――そう」


 影雪が言うと、女は安堵したようだった。あまりにも分かりやすい。笑ってしまいそうだ。


「まさか、あの女って――」


 彼女は影雪の言わんとすることに思い当たったようだった。


「恐らく君の考えている通りだ。ただ、僕には伝手がなくてね。不自然じゃなく知り合えるように、君に手伝ってほしい。差し出すことができれば、僕たちの手柄だ」


 影雪はあえて最後を強調した。途端に、女の目に喜びが宿る。彼女は大人げなく何度も首肯した。


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