18. 家事の定期試験(上)
「今日は、定期試験ですね」
紫鶴子さんは、心なしかうきうきとした表情で言った。一見すると厳しそうに見える彼女だが、振れ幅が小さいだけで感情豊かな人だということをすでに花夜子は知っている。
「では、はじめましょうか。設問一……」
紫鶴子さんが問題文を読み上げるのに気がつき、花夜子は慌ててペンを取った。
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問1:毎回買うのにおすすめの野菜3つを書きなさい。
問2:和え物「7種の神器」について書きなさい。
問3:ぱっと思いつくスープの具材の組み合わせを3つ以上書きなさい。
問4:青菜の種類を3つ以上書きなさい。
問5:家事が「面倒だな」と思う原因を3つ以上書きなさい。
問6:ストックしておくと便利な具材を3つ以上書きなさい。
問7:掃除の順番について書きなさい。
問8:おいしい青菜の選び方は?
問9:たんぱく質源となる食材を3つ以上書きなさい。
問10:ものを増やさないために大切なことを書きなさい。
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花夜子は、なかなか集中できずにいた。読み上げられた文字を書くだけなら問題なかった。でも、頭をうまく働かせることができない。頭の中には色々なことがぐるぐる渦巻いていて、集中して文字を読み、考えるということが機能していなかった。
エリカちゃんとのお泊まり会は楽しかった。夜通し恋の話をした。友だちが泊まりにくるなんて人生ではじめてでわくわくしたし、料理上手なエリカちゃんがコンビニで買ったものだけでさっと用意してくれたおつまみもおいしかった。
たとえば、スライスチーズをレンジで加熱しただけのもの。たったそれだけなのに、サクサクしたスナックのようになった。ポテトチップスにツナ缶にコーン缶、それからゆで卵を入れ、マヨネーズで和え、黒胡椒を効かせたポテトサラダ風もおいしい。クロワッサンをトースターでさくさくにして、ピーナツバターを塗ったものも、夜に食べてはいけない、魔性の味だった。
花夜子は要領が悪くて、エリカちゃんのようにあるものでぱっと作るものを組み立てていくことができない。それが羨ましいというと、彼女は少し照れたように笑った。
「――花夜子さん、――花夜子さん?」
はっと顔を上げる。紫鶴子さんは、少し怒っているような、それでいて心配そうな、不思議な表情をしていた。そして「今日はやめておきましょう」とだけいうと、すっと扉を抜けていってしまった。




