17.同窓会(下)
「――花夜子」
耳に馴染んだ声に、花夜子は弾かれたように顔を上げた。声の主はスウだった。
「……佐々木」
「久しぶりだな。須藤だよな? ずいぶん雰囲気が変わったけど」
スウはそう言って、人好きのする笑顔を浮かべた。
「あ、――ああ。今日は来ないって聞いてたんだけど」
スウは須藤くんと花夜子との間に入り、花夜子の左手にそっと触れてほほ笑む。
「俺も後から行くから、先に行ってて」
須藤くんの言葉の続きが気になったけれど、花夜子はぺこりと頭を下げ、そのまま会場に戻ることにした。
「ねえ、麻生さんって、前からあんなだった?」
「――変わったよね。なんていうか子どもっぽいよね。もしかしてわざと?」
「卒業してすぐ結婚したらしいからね。そのまま専業主婦じゃあ、……ねえ。いろいろ経験も足りてないだろうし。うちらがおとなになったんじゃない?」
「大人っぽい人だと思ってたんだけどなあ」
「いくら美人でも、あれじゃあ佐々木くんには合わないよね」
喧騒の中に自分の名を耳にして、花夜子はびくりと足を止めた。麻生というのは、花夜子の旧姓だった。
話している子たちは、さっきいろいろと親切にしてくれていた。だからこそ、綺麗な微笑みを浮かべたまま、棘のある言葉を吐く彼女たちが奇妙なものに思えた。傷つくというよりも、不気味さのほうが先立った。
「みんな、久しぶり」
後ろからスウの声がする。
「あ、佐々木くんだ! 今日来ないって聞いてたのに」
ぱっと弾かれたように彼女たちがこちらを振り返る。そして花夜子を目に留め、皆目を見開いた。ある人はばつが悪そうに顔をそらし、またある人は意地悪な笑みをくちびるに乗せた。そうして花夜子の前をすっと抜けて、スウのほうへと駆け寄っていく。
「花夜子?」
声をかけてくれたのはエリカちゃんだった。花夜子は、いろいろな感情がないまぜになっていて、とりあえず、へにゃりと笑みの形をつくった。彼女は細く整った眉を寄せ「なにかあった?」と囁いた。花夜子は首を振る。
それからのことはあまり覚えていない。
いつの間にか隣にはスウがいて、花夜子を支えるように、ずっとそばにいた。エリカちゃんは何かににらみを聞かせていた。須藤くんは遠くからこちらを見ていて、彼女たちは口をとがらせ不快なものを見るような目で花夜子に視線を向けていた。
仕事を抜けてきただけだから、とスウはエリカちゃんに花夜子を託して、帰っていった。
ひっそりと連載・完結した作品あります。家事要素は少し少なめ。
『翡翠の泉を目指して』
不吉な予知夢を見た主人公の選択と恋。