16.同窓会(中)
夕方、エリカちゃんと一緒に家を出た。自分じゃないみたいにメイクをしてもらったし、隣にエリカちゃんもいる。堂々と行こう。――そう思えたのは、彼女の目を見るまでだった。
エレベーターのドアが開き、梅室さんの、ぴんと伸ばした背中が見えた。いつものように、黒髪を後ろできちんと1つに束ねている、清潔感のある姿だ。彼女がこちらに向き直る。ひゅっと息を吸い込みながら、まっすぐ顔を上げる。彼女と確かに目があった。そして、次の瞬間。――彼女は花のような笑顔を見せた。
「佐々木さま、行ってらっしゃいませ!」
柔らかく明るい声。以前のような姿だ。花夜子はあっけに取られつつ、うつむいて会釈をした。――もしかして、すべて、花夜子の勘違いだったのだろうか。
同窓会は楽しかった。
実は花夜子には、エリカちゃん以外の友だちがあまりいない。中学時代はそれなりに話していたような気がする友だちも、卒業後に顔をあわせる機会はなかった。女子も男子も、名乗られるまでわからないくらいにみんな変化していた。
お手洗いに立つ。鏡の中の自分を見つめながら、ラズベリー色のリップを塗り直した。自分ではない女のくちびるをなぞっているような感覚だった。この顔は、エリカちゃんが仕上げてくれた。いわば借りものだ。15年近い時を経て、みんなにそれぞれ馴染んでいったものとは違う、急ごしらえの、不釣り合いな感じがある。花夜子には、自分だけが取り残されたような、ちょっとした気恥ずかしさがあった。
それでいて、スウの陰に隠れるのではなく、自分が主体となっていろいろな人たちとたくさん話すという楽しさと高揚感もあった。
「花夜子ちゃん」
会場に戻ろうとしたら、後ろから声をかけられた。背が高く、華奢で色白なその人に、見覚えはない。花夜子がきょとんとしていると、彼は眉毛を下げて笑った。
「俺だよ俺。須藤龍明。同じクラスだったんだけど覚えてないかな? 悲しいなあ」
そのとき、脳裏に坊主頭で背が低く、眉毛が印象的な男の子が浮かんだ。
「須藤くん。――ずいぶん変わったね。大人の男の人って感じ」
須藤くんは苦笑した。
「花夜子ちゃんは変わらないね。美人なのも、おっとりしてるのも、あのころのままだ。隣に座っても?」
花夜子はうなずき、明るい会場のほうに向かう。須藤くんは花夜子のとなり、やや後ろのほうについて歩き出した。彼は高校を出たあと、親戚の伝手で関東で就職したのだという。仕事が忙しく、同窓会に出るのは実は数年ぶりなのだとか。
「花夜子ちゃんはさ、佐々木と結婚したんだよな。――正直、驚いた」
「どうして?」
「だって、佐々木って――」
須藤くんの顔が耳元に近づいてきた。そのとき、後ろから声が落ちてきた。