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12. 卵があれば

「花夜子、――起きて」


 額に柔らかいものが押し当てられて目を覚ます。スウの顔が間近にあった。テーブルの上でノートにいろいろと書きながら、突っ伏して寝てしまったらしい。変な寝方をしたからだろう。右側の首筋が鈍く痛んだ。


「スウ、おかえりなさい」


 花夜子がへにゃりと笑うと、スウは幸せそうに目を細め、花夜子の両頬をまるで宝石でも扱うかのようにていねいに包んだ。それからぐしゃっとつぶして「はは、アヒルみたい」と笑う。口を尖らせた花夜子は、ふと夕飯用のメインのお惣菜を買っていないことを思い出した。


「スウ、ごめん。今からちょっと買いものに行ってくる。おかず買ってないの」


「冷蔵庫に野菜のおかずは入ってたけど」


「でも、お肉とかお魚がないもの」


「別に作らなくたって、あるものでいいんだよ。ちょっと待ってな」


「――じゃあ、花夜子も行く」


 そう言って立ち上がろうとしたけれど、力が入らない。


「もしかして、また頭痛?」


 花夜子はうなずく。

 子どものころから偏頭痛に悩まされてきたのだった。特にこうして夕方にうたた寝などすると頭が重くなる。今日は特に良くないようで、リビングの灯りが眩しいくらいチカチカして見えた。


「ちょっとソファに横になってな」


 スウはそう言うと花夜子を支えてソファに寝かせ、ブランケットをふわりとかけてくれた。


「おかゆとかのほうがいい? 気持ち悪くて食べれないならそうするけど」


 花夜子は首を横に振る。

 いくらもしないうちにスウはお盆を持って戻ってきた。


 花夜子が作っておいた小松菜のオイル蒸しには鰹節が乗っていて、ポン酢が添えられている。さつまいもと玉ねぎの味噌汁も温めて盛りつけてあった。

 少し大きめの丼に盛りつけられたのは天津飯だ。カニカマの赤色がおいしそうなふわふわの半熟卵には、とろりとした黄金色の餡がかかっていて、そこにグリーンピースが翡翠のように浮いている。ひとくち含むとやさしい塩気が口いっぱいに広がった。


「卵があればいろいろ作れるんだよ。気負わなくたっていい。買い忘れたら別に卵かけごはんだっていいし、目玉焼きでもなんでもいいよ。夕飯っぽくないとか和洋折衷だとか、俺は別に気にしないからさ」


「でも、スウだったらそういうふうにはつくらないでしょう。見た目もバランスも全部計算されてるもの」


「――まあな。俺は、そういう計算まで含めて半分趣味みたいなものだし。でも、花夜子がそういうのを考えるのは、もっと気楽に料理ができるようになってからだと思うんだ」


 スウの言葉にうなだれていると、彼は珍しく少し焦った声で「責めてないからな」と言った。


「食事を用意するっていうのは地味に大変なんだよ。献立を決めたり、材料を管理したり。料理そのものよりも、考えたり雑務に追われるほうが多いだろう。それに慣れないうちに背伸びや無理をすると疲れてしまう。作り続けるのがしんどくなるんだと俺は思ってる。母さんとかそうだろ。凝ったものをしばらく出し続けたかと思うと、ある日ぷっつり糸が切れたみたいになってレトルトとか冷凍食品が続く」


 だから、とスウは言った。


「花夜子は花夜子のペースでいいんだよ」




卵だけで作れる料理のレパートリーがたくさんあると便利だなあと痛感しています。


よく作るのは、卵、コンソメ、木綿豆腐を混ぜてチーズを乗せてレンジ加熱したもの(ゆうやさんという方のレシピ)溶き卵にめんつゆと水を加えてレンジ加熱するだけでできる玉子丼や、ざく切りトマトと卵とオイスターソースを混ぜてレンチンで完成のトマトと卵の炒めものなど。後半2つはいずれも河瀬璃菜さんのレシピです。


上の子が食事を残して食べてくれなかったときなどのために市販のミートボールを用意しています。これをソースごと卵と混ぜてレンチンしたらミートボールオムレツになっておいしい。ほかにもいろいろ。

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