6.2人の休日(1)
今回は家事ネタ無しです。
「花夜子、どう?」
花夜子は慌ててボタンを留めて、試着室のカーテンを開けた。鏡に映る見慣れぬ自分を何度もちらちらと振り返りながら。
「似合うじゃない。――素材がいいと何でも似合って、逆にどうしたらいいか悩むなあ」
エリカちゃんはむずかしい顔をした。
同窓会に着ていく服を、エリカちゃんが見立ててくれている。
普段は試着なんかしないで買うことが多かったため、花夜子はずいぶんと緊張していた。お店のおしゃれなおねえさんに話しかけるというのが、そもそも、ハードルが高いのだ。
エリカちゃんは慣れた様子で店員さんと話をしていて、それを見ていると、花夜子は自分で自分が恥ずかしくなる。
いわゆる全身コーディネートなるものをお願いすることになったのは、スウとの会話がきっかけだった。エリカちゃんと出かけることをスウに話したら、服選びをお願いしてみたらどうかと、軍資金とエリカちゃん宛のメッセージが入った封筒を渡されたのだった。
封筒を開けたエリカちゃんは目を剥いた。
「こんなに使っていいんだったら、そこそこの値段の洋服でも2、3セットは買えるよ。――なんというか、笑っちゃうくらいのハイスペックさだよねえ、佐々木くんは」
結局、品のいいワンピースを2着とそれに合わせたこぶりの鞄、華奢なヒールのついた靴、アクセサリーを買った。それからお店を変えて、ワンマイルウェアというらしい、スーパーなど割と近所へ行くときのための服も何点か見繕ってもらった。
「これでもまだ残ってるから、コスメも買いに行こう。BAさんを予約してあるから、そこでメイクしてもらってから考えよう」
この年になって、自分でメイクのひとつやふたつできずにいる花夜子に、エリカちゃんは、言葉を選びながら提案してくれたのだと思う。おろしたての服に着替えてから百貨店に向かった。メイクをしてもらうと、別人のような自分が鏡の中にいた。花夜子はしばらく驚いて声もでなかった。そして同時に、やはり、自分の見た目に対する努力の低さも思い知らされたのだった。
ひと通り買いものを終えたあと、花夜子とエリカちゃんは、駅前のショッピングモールでカフェに入った。