表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/69

1.浮き足立つ心

『雪室中の同窓会、行く?』


 エリカちゃんから電話があったのは、夕飯したくをしているときだった。



 ごま油に、チューブの生姜とにんにく、みじん切りして刻んでおいたネギを入れて弱火にかける。

 紫鶴子さんが言うには、こうして薬味を炒めてからつくるだけでスープの味がぐっと変わるのだとか。もちろんフレッシュな、生の生姜やにんにくのほうがおいしいみたいだけど、面倒くさがり屋の花夜子だ。便利なチューブを使うのに限る。


 いい香りがしてきたら、具材を炒める。今日は椎茸。しんなりしたら、鶏団子を煮たときのスープを加えて、崩した豆腐を入れて煮る。濃いめの味が好きなので、スープの素も加える。


「東京でやるんだよね。はがきが来てた。スウが仕事で行けないから迷ってるんだ。年始の雪室中の集まりにも顔を出したし……」


『そうなんだ……。私は花夜子が行くなら行こうと思ってるんだ。よかったら一緒に行かない? 夜に出かけることなんてなかったでしょ』


 そういえば、大学を出てすぐに結婚したこともあり、スウ抜きで夜に外出した記憶がない。そもそも大学生のころもそうだったような気がする。

 花夜子はふいにわくわくしてきた。


「スウに聞いてみるけど、一緒に行きたい」


『よかった! じゃあさ、同窓会の前に一緒に服も買いに行こうよ。月末だから、その時期だったら春服でもいいと思うんだ。可愛いのいっぱい出てると思うし、おろしたての服で出かけよう』




 電話を切って、ごはんしたくに戻る。

 くったりと豆腐が煮えた。醤油やら酒やらを適当に入れる。振りかけるだけでとろみがつく片栗粉をぱらぱら入れる。それから卵を溶いて、静かに入れる。最後に胡麻油をとろーり。


 これでふわふわの中華スープのできあがり。――そう、ついに味噌汁以外も解禁になったのだ! 日々の汁物作りは花夜子にとって「当たり前」になりつつある。世の主婦たちが聞いたら、そんなこと……と思われてしまうかもしれないけれど、できなかったことができるようになった。それは、花夜子にとって、とても誇らしいことだった。


 ひと口、味見をしてみる。塩加減もちょうどいい。卵もふわふわに仕上がった。


 ふと電話のことを思い出す。これまでほとんど経験のない、夜のお出かけだとか、エリカちゃんとお買いものに行くことだとか。春色のワンピースがほしい。甘いカクテルを飲んでみたい。花夜子の心は浮足立っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ