1.浮き足立つ心
『雪室中の同窓会、行く?』
エリカちゃんから電話があったのは、夕飯したくをしているときだった。
ごま油に、チューブの生姜とにんにく、みじん切りして刻んでおいたネギを入れて弱火にかける。
紫鶴子さんが言うには、こうして薬味を炒めてからつくるだけでスープの味がぐっと変わるのだとか。もちろんフレッシュな、生の生姜やにんにくのほうがおいしいみたいだけど、面倒くさがり屋の花夜子だ。便利なチューブを使うのに限る。
いい香りがしてきたら、具材を炒める。今日は椎茸。しんなりしたら、鶏団子を煮たときのスープを加えて、崩した豆腐を入れて煮る。濃いめの味が好きなので、スープの素も加える。
「東京でやるんだよね。はがきが来てた。スウが仕事で行けないから迷ってるんだ。年始の雪室中の集まりにも顔を出したし……」
『そうなんだ……。私は花夜子が行くなら行こうと思ってるんだ。よかったら一緒に行かない? 夜に出かけることなんてなかったでしょ』
そういえば、大学を出てすぐに結婚したこともあり、スウ抜きで夜に外出した記憶がない。そもそも大学生のころもそうだったような気がする。
花夜子はふいにわくわくしてきた。
「スウに聞いてみるけど、一緒に行きたい」
『よかった! じゃあさ、同窓会の前に一緒に服も買いに行こうよ。月末だから、その時期だったら春服でもいいと思うんだ。可愛いのいっぱい出てると思うし、おろしたての服で出かけよう』
電話を切って、ごはんしたくに戻る。
くったりと豆腐が煮えた。醤油やら酒やらを適当に入れる。振りかけるだけでとろみがつく片栗粉をぱらぱら入れる。それから卵を溶いて、静かに入れる。最後に胡麻油をとろーり。
これでふわふわの中華スープのできあがり。――そう、ついに味噌汁以外も解禁になったのだ! 日々の汁物作りは花夜子にとって「当たり前」になりつつある。世の主婦たちが聞いたら、そんなこと……と思われてしまうかもしれないけれど、できなかったことができるようになった。それは、花夜子にとって、とても誇らしいことだった。
ひと口、味見をしてみる。塩加減もちょうどいい。卵もふわふわに仕上がった。
ふと電話のことを思い出す。これまでほとんど経験のない、夜のお出かけだとか、エリカちゃんとお買いものに行くことだとか。春色のワンピースがほしい。甘いカクテルを飲んでみたい。花夜子の心は浮足立っていた。