19.続・ものぐさ味噌汁
味噌汁作りが習慣になった。とはいえ、――億劫に感じることがある。寝起きの働かない頭でキッチンに立ったときや、ちょっと頭が痛いときなどだ。味噌の入った容器から計量スプーンで味噌の分量を計ること、そして、こし器を使って味噌を溶くこと。また、それぞれ洗いものが増えるのも面倒に感じてしまう。
「まあ、なんてものぐさな!」
紫鶴子さんは、花夜子の告白にすっかり呆れている。それでも少し考えて「あらかじめ、味噌を計量しておいてはどうですか?」と提案した。
「味噌によって味が変わってくるので、一度作って、それを確かめておく必要はありますが……。確か、今使っている味噌だと、2人分で大さじ1.5の味噌を使うと言っていたでしょう。あらかじめ味噌を大さじ1.5ずつすくい、1つずつ丸めて、ラップに包んで冷凍したらどうでしょうか。それなら、毎回すくう手間がありません。味噌玉を作るというのもひとつの方法ですが、花夜子さんの性格を考えると、こちらのほうが合っているように思います」
冷凍しておいた味噌は、使うときに1つ取り出して、こし器に入れる。そうすると、計量の手間がない分、ずいぶんかんたんに感じられるようになった。
今日は鶏だんごとえのきときゃべつの味噌汁だ。
鶏だんごは、ここのところ、冷凍庫に常備しているもの。鶏ひき肉は、買ってきたときに酒と生姜と片栗粉を加えて練って、鶏団子にしておく。そして、ゆでる。このスープはそのまま汁物に使える。ゆでた鶏だんごは、やはり冷凍して汁物用の在庫にしてある。
すでに火が通っているので気軽に使える。今日は出汁を取らずに、鶏だんごと、冷凍してあったえのきと、ちぎってあったきゃべつをそのままぽいぽい放り込んで煮た。そして味噌を溶く。
ひとくち食べたら少し風味が足りない気がした。そこで、チューブの生姜を少しだけ絞って加えてみる。こういうふうに味噌汁に風味や香りを足すためのものを吸口というらしい。手軽に味を変えられるので気に入っている。
紫鶴子さんが帰ったあと、食卓に夕食を並べる。スウは今晩遅くなるので、自分の分だけだ。これまではそういうとき、彼が朝に作っておいてくれた食事を食べていた。出張が続くときなどは出前をとったり、コンビニで買ってきたりすることがほとんどだった。
だから、こうして、自分で自分のために作った夕食というのははじめてに近いかもしれない。
なんとなく流したままにしていたテレビを消す。部屋を見渡してみると、すっきりと片づいている。スウがいないのに。テーブルに並ぶのは、炊きたてのごはんと、味噌汁と、スーパーで買ってきたお惣菜たち。――来月になったら今度は副菜のつくりかたを教えてもらおう。そして、テーブルの端に置かれたふきんに目が止まり、頬がゆるむ。月の頭にはじめた刺繍は、日々こつこつと続いていて、ついに今朝方、完成した。七宝つなぎの花ふきんは、使うのがもったいないくらい気に入っている。
自分の成長を感じて胸が熱くなった。勉強をしてテストでいい点数を取れたときの喜びや、運動会で1等賞を取れたときのうれしさにその感情は似ていた。