16.料理はだれのもの?
「朝ごはんは、俺が作ってもいいかな」
スウにそう言われたのは、1月も終わりに差し掛かってきたところだった。少しずつ早起きにも慣れてきて、拙いながらもなんとか朝食の形を作れるようになってきた矢先だったので、花夜子は少なからずショックを受けた。
「ごめん、もっと練習して、ちゃんと朝ごはんっぽい朝ごはんにするから……」
花夜子はうつむいて、トーストの乗ったお皿を食卓に置いた。
紫鶴子さんのアイディアで、まずは具の乗ったトーストと、カット済み野菜と、市販の粉末スープというかんたんな朝食からはじめていた。今朝は、ツナとめんつゆとマヨネーズを混ぜたものを食パンに塗って、ピザ用チーズを乗せて、焼いたものだ。最後にのりをぱらりとかけてある。昨日、ドレッシングだけでも手作りしたいと話したら、紫鶴子さんからはお決まりの台詞をもらった。
「違う違う、料理に不満があるとかじゃないんだ」
花夜子の様子に気がついたらしいスウは、慌てて首を横に振る。
「単に、俺の中では朝のルーティンになっていて、これをしないと朝が始まらないっていうのもある。別に料理は女の人のものってわけじゃないだろ? 俺の中では気分転換というか、趣味というか、そういう側面もある。それに、――俺、花夜子に料理を作るのが好きなんだ。おいしそうに食べてくれるから」
なるほど、と花夜子は思った。
そういう考え方はなかった。家事っていうのは、女の人の義務だとずっと思いこんでいたからだ。親戚の女性たちのてきぱきと動き回る様子を思い出す。花夜子にとって、女性のロールモデルは彼女たちだった。いつでも自分とそこを比べていたのだ。
でも、スウの話が本当ならば、花夜子は彼の趣味の時間を壊していることになる。
「わかった。でもね、朝ごはんをつくる練習もしたいんだ。だから週に1日だけ、花夜子が作ってもいい? いまさらだけど、料理とか家事とかを勉強してて、花夜子にとっても楽しくなってきてるの。今はまだヘタだけど、ちょっとずつ上手になっていく感覚にすごく達成感がある」
花夜子は自分の中から出てきた言葉に驚いた。
最初はスウのためだけにはじめたことだった。彼の重荷になりたくないと思ってがんばってきた。でも、自分の中にはそうした気持ちもあったらしい。会話の中ではじめて気がついたことだった。
スウはにこやかにうなずいた。
「じゃあさ、平日の朝食は俺が作る。で、土曜日の朝は花夜子。それでさ、日曜の朝は、一緒に料理をするのはどうだろう? ちょっと遅めに起きてさ、ブランチを作るんだ」
二人で一緒にキッチンに立つ。それはわくわくする計画だった。
朝食のあと、紫鶴子さんが来るまでの間、花夜子はネットでいろいろな朝食メニューを見て過ごした。調べてみると作ってみたいものはたくさんあった。ホテルのような朝食、旅館のような朝御前。クロックムッシュにエッグベネディクト、自家製パンケーキにガレット。たっぷりの野菜を使ったクリーミーなポタージュに、麺類の朝食もいいかもしれない。
夢中になりすぎて、朝にやるべき家事のことが頭からすこんと抜けていた花夜子は、紫鶴子さんにすっかり呆れられたのだった。




