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15.手紙の束ときらきらした時間

「――まあ」


 出勤してきた紫鶴子さんは、呆れたようにつぶやいた。色とりどりの紙切れに囲まれ、身動きできなくなっていた花夜子は、ばつが悪くて、へにゃりと笑った。発端は年賀状をしまおうと思ったことだった。当選番号の確認も、交換も終わったので、片づけようとした。


 手紙類は決まった場所にしまっている。とはいえ、何の変哲もないダンボールだ。これまでにもらった手紙や年賀状の類いは1枚も捨てられなくて、ダンボール2箱分にもなっていた。


 手紙や年賀状だけじゃない、小学生のときの、ノートの切れ端に書かれた手紙までしっかりと残っている。授業中に手紙を回すのは少しスリルがあって、特別なことっていう感じがして、大好きだった。――そういえばエリカちゃんと出会ったのもそのころだなあと、手紙の束を漁る。


 エリカちゃんらしい、端正に整った文字で書かれた手紙も、もちろん箱のなかに入っていた。みんなはノートの切れ端に書いていたけれど、エリカちゃんだけは、いつも便せんやかわいいメモを使っていて、そういうところも素敵だと思ったものだった。





「それで、読んでいるうちにこんな惨状になったのですね」


 花夜子はうなずく。朝からずっと手紙を読み返し、思い出に浸って終わってしまった。


「でも、わたくしもこればかりは力になれません。手紙の類いは捨てたことがないのです。いただいたものだから、どうしても手放すことができなくて。整理しようと思うと、いつも読み込んでしまうのです。

 だから、花夜子さんの気持ちが少しわかりますよ」


 それから花夜子はひと晩考えた。

 無理して捨てる必要があるのかな? と。確かに、あってもめったに読み返さないものかもしれない。でも、10年に1度くらいの頻度でも、こうして手紙の束を解いて、思い出に浸ったり、誰かに会いたくなったり、そういう感情が呼び起こされるのだったら、意味があるんじゃないか。


 少なくとも花夜子はそう思う。この手紙の束は大切なもの。花夜子の時間が止まる前、少女時代の、きらきら光るかけら。――あれ、時間が止まるって、なんだっけ? 考えたけれど、脳裏にふと浮かんだその言葉の意味はよくわからなかった。

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