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13.失敗は成功の母

 今日はいわゆるブルー・デーで、お腹が痛かったので、動かずに片づけることにした。それは、録画しておいた番組の整理だ。


「花夜子さんはずいぶんたくさんの料理番組を録画しているんですね」


 ポチポチと一つずつ消していく様子を見て、紫鶴子さんは少し意外そうに言う。


「じょうずにはできないけれど、好きなの、料理」


 録画した番組が溜まりすぎているのは、今の生活にも理由がある。紫鶴子さんが来るようになってから、だらだらとテレビに見入ることがなくなった。


「それにしても、多すぎやしませんか」


 紫鶴子さんの口から次に出てくる言葉は予想がついている。


「一段とばし、ね」


 ボタンを押すと、料理番組がまとめて消えた。


「あら、なにもすべて消さなくたっていいじゃないですか」

「でも、溜まっていく一方だもの」


 花夜子が口をとがらせると、紫鶴子さんは、「テレビではなく、本の話ですけれどね」と切り出した。


「わたくしも、ついたくさんの料理本を買ってしまいますから、わかりますよ」

「紫鶴子さん、食べものやお料理の話になると目を輝かせるものね」


 紫鶴子さんは、ちょっと照れくさそうな顔をして、「でも、どんなに気に入った料理家さんの料理でも、すべての料理を作ることってないでしょう?」と続けた。


「自分がきらいなものだったり、家族の苦手な食材が入っていたり、手に入りにくい食材を使っていたりすると、毎日の炊事には向かないですもの。

だからわたくしは、まずは『好きか』『嫌いか』でそのページや本そのものを残すかどうかしぼっていくんです。

それから調味料です。料理家さんによって、よく出てくる調味料は変わります。たとえば出汁ひとつとっても、素材からとる料理家さんもいれば、顆粒だしの方もいらっしゃるし、液体だしの場合もあります。自分がストックしているものじゃないと、余計に買ったり、あるいはそこだけレシピを変えて考えなければいけないでしょう? そういう部分に着目しています」


 花夜子がじっと黙っているので、紫鶴子さんは「どうしたんですか」と怪訝そうに言った。


「紫鶴子さんでも、たくさん買いすぎたりすることがあるんだなあって」


「まあ。わたくしだって人間ですもの。小さな失敗はたくさんしていますよ。でも、そういうところから便利なものが生まれるんです。失敗は成功の母と言いますが、ほんとうにそうなんですよ」


 紫鶴子さんは、この上なく優しい笑顔をして「だから、花夜子さんの失敗は必ず役に立ちます」と言った。


 花夜子はほうじ茶をひと口すすった。より手軽なティーバッグのものだけれど、昨日から新しい習慣として取り入れたのだ。のどの奥のほうがぽっと温かくなったのはたぶん、ほうじ茶のせいだけではない。

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