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11.家事の定期試験(第1回・下)

9話の設問に答えてから読むのがおすすめです。

 花夜子が持ってきたのは、何年も前に友だちのエリカちゃんにもらった、小さなちいさなノートだった。海外旅行のお土産。花夜子が旅行に行くたびに外国のノートを集めていたのを覚えていてくれたのだ。もったいないような気がして使えずにいたけれど、自分を変えるためのノートとして、使ってみることにする。


――――――――――――――――――

問6:納豆に含まれる栄養素は?


(たんぱく質、ビタミンB2が多く含まれている)

――――――――――――――――――



「10点です。体をつくる『たんぱく質』や、肌の健康を保つ『ビタミンB2』が多く含まれています。そのほか、鉄分や食物繊維、ビタミンEなども含まれていますよ。

今はごはんを炊いて、汁物だけを作るようになったでしょう。納豆があれば、手軽にたんぱく質を摂ることができます。冷蔵庫に置いておくといいですよ。味に飽きるようだったら、薬味をいろいろ用意しておくのがおすすめです。たとえば揚げ玉だとか、刻んだ大葉だとか。大葉はきっと切るのが面倒でだめにしてしまうと思うので、とりあえずチューブで売っているものを買ってみるといいかもしれませんね」


 紫鶴子さんの解説を聞いて、花夜子はノートに「□納豆を食べる」と書いた。次の行には、1マス空けてから「□揚げ玉を買う」「□大葉のチューブ?を買う」と続けた。



――――――――――――――――――

問7:料理に調味料を入れる順番として知られている「料理のさしすせそ」をすべて書き出しなさい。


(さ:砂糖、し:塩、す:酢、せ:醤油、そ:味噌)

――――――――――――――――――


「10点です。ちょっとかんたんだったでしょうか。この順番で調味料を入れていくといいと言われています。

 このおうちのキッチンには、たくさんの調味料がありますね。スパイスもハーブも。――もし、花夜子さんが中心になって料理を作るようになったなら、あれ全部を使いこなせるようになるには時間がかかります。まずは、この5つの調味料に料理酒、みりん、ケチャップとマヨネーズ、中濃ソースを用意して、食事の傾向に合わせて増やしていくといいでしょうね。

 わたくしが他によく使っていたのは、オイスターソースです。中華料理に使ったり、カレーの隠し味にしたりといろいろ使えます。それからメープルシロップは、お砂糖の代用としていろいろ使えます」



――――――――――――――――――

問8:おいしいにんじんの選び方は?


(き:切り口の軸が小さい

 な:なめらかでくぼみがないもの

 い:色が濃い)

――――――――――――――――――


「正解です。この間学んだことをきちんと覚えていましたね。語呂合わせで覚えるなんて、子どもたちみたい、と思いましたが、案外いいのかもしれません。3つのポイントに気をつけながら、みずみずしいものを選びましょう」



――――――――――――――――――

問9:一汁三菜とは?


(汁もの、主菜、副菜、副菜からなる献立のこと)

――――――――――――――――――



「10点です。もし料理が好きならば、1日1回でもいいから、いつかは作れるようになるといいですね。優さんの料理は、一汁五菜くらいですが、お仕事をしながらあんなに手の込んだものを作るとなると、なかなか難しいことです。あなたはそれを当たり前に考えないようにしてくださいね。たぶん、彼は料理が好きで、得意なのです。息をするようにできるだけ。

高すぎる目標は、心をつぶします。――まずは料理はあとまわしです、部屋を片づけていきましょう」


 紫鶴子さんの言い方には、愛情を感じた。花夜子の胸がぽっと温かくなる。こんなふうに家族以外の人に優しくしてもらうなんて、一体いつぶりだろう? と思わずにはいられなかった。 目の縁が潤んだようになって、花夜子は気を逸らすようにノートに「□一汁三菜に挑戦する」と書き込み、周りを四角く囲んだ。


――――――――――――――――――

問10:今家にある手紙にまつわるものの数をかぞえなさい。


(切手:80円切手が5枚、便箋と封筒は大量にあったので捨てて3セット)

――――――――――――――――――


「10点です。今の時代は、お手紙を書く機会もあまりないかもしれませんね。だからこそ、必要なときに億劫にならないように、必要な数の封筒や便箋、切手などを用意しておくのが大切です。そして、もちろん使いやすく整理されていることも。仕切りのある入れ物を今度買いにいきましょうか」


 こうしてはじめての家事の定期試験は終わった。小さなノートには、たくさんのやることリストができた。


 書き出してみると、毎日やらなければいけない家事というのは、思っていたよりも少ないことに気がつく。無理していろいろ手を出して、どれも中途半端になっているのかもしれない。

 食材の選び方は、3つ教えてもらったなかから2つがテストに出た。覚えて見てみると、きらいだった買いものの時間もなんだか楽しい。いい食材を選ぶのは、ゲームみたいだ。



 「答案」はパンチで穴をあけて、ファイルにとじた。これがどんどん溜まっていったら、その分、花夜子の家事スキルも上がっていくということだ。目に見える形は安心する。


 今日もにんじんを買ってきた。この1ヵ月で、花夜子は階段を一段登っている。ごはんとお味噌汁を自分で用意するようになった。

 今日の味噌汁は、千切りにしたにんじんと、油揚げと、切り干し大根だ。花夜子はまだ汁物しか作っていないので、買ってきた1本の人参は千切りのものといちょう切りのものに分けて、まとめてカットして、冷凍庫に入れてある。


 一歩一歩、焦らない。他に目を向けない。今できることをゆっくり進めて、少しでも、みんなができている「当たり前のこと」を、花夜子もできるようにならなければ。

 でも、義務のように思っていても、なんだか不思議と楽しいのだった。


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