10.家事の定期試験(第1回・中)
もしよければ、前回の設問に答えてからご覧ください。
今日の家事教室は、テスト後なので変則的なスケジュールになっている。いつもは片づけに充てている時間に、紫鶴子さんと向かい合って、テストについて話をした。赤いボールペンを用意して、紫鶴子さんに言われた「評価」と、コメントを書き加えていく。
学校の授業でノートを取るときは、要点だけをまとめて書いていたけれど、紫鶴子さんとの会話がおもしろかったので、そのまますべて書き込んだ。骨が折れるので、次回からはパソコンで入力したほうがいいか悩む。もし、幽霊の声が録音できるなら、ボイスレコーダーを使いたい。
答案は【家事の定期試験 第1回 ( 佐々木 花夜子 )】という見出しから始まっている。実は、今回のテストにあたって、事前に書き方のフォーマットも決めていた。この取り組みを続けて、答案を蓄積していったときに、そのほうが読みやすいと思ったからだ。
問題は全部で10問あるので、◯なら10点、△なら5点となり、100点満点だ。
――――――――――――
問1:あなたが毎日、朝にする家事を書きなさい。
(カーテンを開ける、朝食の用意、アイロンがけ、洗いもの、スウの見送り)
――――――――――――
「10点です。換気とベッドメイキングも入れると朝をすっきりと過ごせます。カーテンを開けるついでに、窓も開けていきましょう。新鮮な空気を吸いながら、ベッドをきれいに整える。これをまとめて習慣にすると無意識でできるようになります。
アイロンがけは、タイミングのこだわりがなければ朝ぎりぎりにせず、まとめてしてみては?
朝食の用意が課題ですね。いずれは花夜子さんがやるとして、いきなり優さんのような朝食を目指してはいけません。彼は『料理上手』です。
今の時代は若い男性でもこんなに本格的に料理をするのですね……。朝食の写真には驚かされました。まるで旅館の朝ごはんのようではありませんか。
花夜子さんは、とりあえず、用意を習慣化することから始めたほうがいいでしょう。毎日違う種類のパンを用意し、粉末スープを豆乳で作ればたんぱく質も取れます。そして他のおかずを優さんに作ってもらうようにして、一緒にキッチンに立つのがいいかもしれませんね」
――――――――――――
問2:あなたが毎日、夜にする家事を書きなさい。
(戸じまりの確認 )
――――――――――――
「これは、5点です。△。夜は、明日を作る大事な時間です。いろいろな準備をしておくと、朝に焦ることなく、ゆったりと過ごせます。
まずは、明日の朝に食べるものを決めておくところから始めましょう。そして、これは『階段』を1段登ってからになりますが、使う野菜を切ってバットなどにまとめておくといいですね。また、使うお皿をまとめて出しておくと、寝坊したときや、眠くて頭が働かないときでもスムーズです。
そうそう、忘れていました! 天気予報を見ること。一見すると家事には思えませんが、これこそが出発点です。前の晩のうちに明日の天気を確認しておけば、洗濯や窓掃除の予定も立てやすくなります。雨の日だったら、レインコートや折りたたみ傘などの用意も必要でしょう? 朝になってばたばたするのは大変ですから」
――――――――――――
問3:あなたが毎日、時間は問わないけれど、必ずやっておきたい家事を書きなさい。
(洗濯 )
――――――――――――
「これは……0点、ですね。
もう少し分解してみましょう。洗濯ものの仕分け、洗濯機をセットする、洗濯ものを取り出す、洗濯ものを干す、洗濯ものを取り込む、洗濯ものをたたむ、洗濯ものをしまい場所へ持っていく。……細かい部分ですが、こうして小さなことにしておけば、取りかかりやすくなるのです。
それに、それぞれ行う時間帯が違うでしょう? たとえば、洗濯ものの仕分けから干すことまでは朝のうちにして、取り込んで畳むのはそれが乾いてからなので午後になります。だから、小さく小さく分解しておくことが大切なのです。
あとは、毎日の掃除が入っていませんね。ホコリを取る、床にモップをかける。これだけは毎日しましょう。このおうちだったら10分もあれば終わるでしょう。汚れはたまればたまるほど、きれいにするのが大変になります」
――――――――――――
問4:おいしいいちごの選び方は?
(こ:色が濃いもの。ヘタの緑、実の赤色、どちらも濃いものを選ぶ。
ぶ:ぶつぶつがはっきりしているものを選ぶ。)
――――――――――――
「10点です。そうですね、へたが萎れているものは避けましょう。
この間、冷蔵庫の中でいちごが眠ったままになっていましたね。いちごは買ってきたら、アルミホイルで包んで、しっかりと口を閉じて保存します。そうすると日持ちします。
それと、花夜子さんは、ヘタを取るのが面倒そうに見えました。ヘタ取り専用の道具を買ってきたほうがいいと思いますよ。そのまま食べるのに飽きたら、とりあえずいちごと牛乳、それからお砂糖をミキサーにかけてフルーツジュースにするとおいしいのですよ。――食べものを無駄にしないようにしていきましょうね」
――――――――――――
問5:七草の種類を全て書き出しなさい。
(せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ)
――――――――――――
「10点です。いいですね。短歌のリズムに合わせて覚えるとかんたんです。――あなたは、こういう暗記をするものの方が得意なのでしょうね。今年は作りませんでしたが、来年は、七草がゆも作ってみましょう」
紫鶴子さんがここまで話し終えたとき、花夜子は一旦席を立った。
彼女の話を聞いていたら、これからやったほうがいいことや、やってみたいことがどんどん思い浮かんできたからだ。1ページだけ使って、そのまま本棚の奥に押し込められていたノートを出してくる。そして、その使った1ページを丁寧に切り取る。
ここに、花夜子なりのToDoリストを書いていくことにしたのだった。
長いので続きます。