17.家事の定期試験(第1回・上)
毎月の最終日は定期テストの日だと決めた。今月はまだまだ先だけれど、思い立ったが吉日というものだ。はじめての試験日にしてもらった。紫鶴子さんも花夜子も、そのごっこ遊びを面白がっていて、少し本格的にしよう決めた。テーブルの上にはコピー用紙が1枚と、鉛筆と、消しゴムだけを用意することにした。
テストは印刷されたものではない。真っ白なコピー用紙のままだ。紫鶴子さんはものに触れられない。だから、作ってもらうことはできなかった。
「もし、わたくしがものに触れるなら、自分で作りたかったです」と紫鶴子さんは悔しそうに言う。
「文字を書くのが好きなのです。生徒たちに小テストの問題を作るのも、1枚1枚添削するのも、わたくしにとってはとても楽しく、やりがいのある時間でした」
そのため、テスト開始から数分は、口頭で言われた問題を書き出す時間に充てる。そのとき、解答欄として余白を4行分くらい空けておくように言われた。
はじめてのテストは、こんなふうだった。
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問1:あなたが毎日、朝にする家事を書きなさい。
問2:あなたが毎日、夜にする家事を書きなさい。
問3:あなたが毎日、時間は問わないけれど、必ずやっておきたい家事を書きなさい。
問4:おいしいいちごの選び方は?
問5:七草の種類を全て書き出しなさい。
問6:納豆に含まれる栄養素は?
問7:料理に調味料を入れる順番として知られている「料理のさしすせそ」をすべて書き出しなさい。
問8:おいしいにんじんの選び方は?
問9:一汁三菜とは?
問10:今家にある手紙にまつわるものの数をかぞえなさい。
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「設問は書けましたか?」
紫鶴子さんが尋ねる。花夜子はうなずく。久しぶりにわくわくしていた。変なやつだと思われるからスウにしか教えていないけれど、花夜子は、テストを解き始める瞬間が好きだ。鉛筆で1問目の問題文をそっとなぞっていく。なによりもわくわくする瞬間だ。
花夜子は、自分にはなにもないと思っていたけれど、どうやら「学ぶ」ことは、人並み以上に好きで、得意らしい。それに気づけて、花夜子は少しだけ嬉しくなった。
制限時間は15分。まずは、確実に答えのあるものから埋めていく。なるべく50文字以内に収める。簡潔に、わかりやすく書くのが覚えるこつ。家事のテストの最終目標は、実際にその家事をするときに、ぱっと頭の引き出しを開けられるようにすること。だから、本来は点数はあまり関係ない。頭を整理することが目的。
――さて、問題を解きはじめよう。
家事の定期試験、第1回です。よかったらみなさんもどうぞ。明日が回答編です。