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第二十二話「スイーツな提督さんなのです」②

「うわうわ……だ、大丈夫なのです?」

 

 なんだか、ボロボロな感じの永友提督。

 けれども、その表情はどこかスッキリしたような感じで、穏やかな笑みすら浮かべてる。

 

「やぁやぁ、はじめまして! こんなみっともない姿で失礼っ! 君がエリコさんの妹さんのユリコちゃんかい? エスクロンの秘密兵器だとかなんとか聞いてたんだが、なんとも可愛らしい子じゃないか……現役女子高生とか、いいねっ! 実に良いよっ!」


 ぐっと、握りこぶしを握りしめて、なんともキラキラした目で乗り出すように近づく永友提督さん。


「そ、そうなのです……。ユリはユリなのですよ! えっと、スイーツ提督……さん?」


「はっはっは! なんだい、その呼び名は……? でも、民間人の間では、私はそんな風に呼ばれてるらしいね……。こう見えてもクールで頼りがいのあるナイスミドルな提督を目指してるんだけど、実際はそんな軟派な癒し系みたいなイメージだなんて、なんとも困った話だよ……」


「あはは……そうなんですか? でも、提督さんって、女の子にも人気あるって聞いてますよ? 常勝無敗の英雄とか言われてたり、永友提督が絶賛したスイーツとか、提督プロデュースのスイーツが爆売れして、メーカーが悲鳴をあげたりしてるって話も聞いてますよ」


 実際、この永友提督って、ここ一年くらいで一少佐からあっと言う間に少将まで昇格して、銀河連合を代表する将帥の一人になったと言う事で、民間人からも銀河を救う英雄なんて言われる位には名声が高い。

 

 その割には、メディアにも頻繁に登場して、企業とタイアップしたりと、やたらと顔が知られてる……。


「はっはっは……参ったね! そうか……確かに、そんな話もあったなぁ……。銀河連合軍からもイメージアップに協力をとか言って、TVに呼ばれたりとかしてたんだけどね。そうすると、何かな? 私も案外、女子高生に大人気……とかだったりするのかな?」


「……たまに、うちの学校でも、話題になってたりするのですよ? 永友ブランドのアイスとかプリンとか、良くコンビニで買うのですよ!」


 永友提督ブランドのスイーツとか実際に、コンビニに売ってたりするのですよ。

 割とハズレがない上に、お値段もカロリーも控えめで、女子ウケしそうな見た目やパッケージで、女子高生のみならず、世の女性からの評価はとっても高いのです。


「そうか……女子高生に話題のスイーツ提督……か。なんと言うか、パティシエ冥利に尽きるな! はっはっはっ! 今のうちにサインの練習でもしておこうかな……。むふふ……」


「ご、ご機嫌なのです?」


 なんだか、とっても嬉しそう。

 でも、普通の男の人みたいにギラギラした感じもしないし……別にエッチな目線とかも送って来ないし、なんと言うか……いい人なのですよ。


「あ、いやいや! わ、私は女の子に対しては常に紳士でいると誓ってるからね! 別に、生の女子高生と話をして、テンション上がったりとかはしてないよ? これが私の平常運転っ! と、とにかく、君が上手くやってくれて、謎の潜行艦を追い払ってくれたんだってね。……敵を沈めずに恐怖と教訓を与えて、見逃す……か。実に良い対応だった! 私から見ても見事だったと称賛させていただく! もっとも、それに引き換えこっちは、酷いもんだったけどね」


 提督は、中継港の桟橋に立ってるっぽいんだけど、その後ろでは手錠をかけられて、転がされてる人達がいっぱい見える。

 

 ずぶ濡れだったり、ボロボロだったり……なんと言うか、大惨事……。

 

 治安維持局のパトロイドや職員が次々と転がってる人々に治療を施したり、担ぎ上げて、護送車へと積み込んで行ってる様子から、結局、治安維持局による強制排除が行われたようだった。

 

 と言うか……この様子から、乱闘でもあったような……そんな感じに見える。

 

「な……なにがどうなったのです?」

 

「そうだねぇ……連中と少し平和主義について、話し合いをしてたんだけどね。思いっきり、彼らの主張を全否定して論破しちゃったら、向こうがついカッとなったらしく、いきなり私に殴りかかってきてね……。私もこう見えて、強化サイボーグだし、これでも少しは腕っぷしにも自信があるからね。民間人のへなちょこパンチなんぞ、撫でられた程度だったんだがね……」


「……論破されて、殴りかかってくるって……平和主義の人達じゃなかったのです?」


「あーうん、平和主義者の暴力は、暴力じゃないとか、訳の解らないことを言ってたね……。まぁ、座り込みで港湾機能を麻痺させるとかやってる時点で、立派な暴力だと思うんだけどね……。とにかく、直接話し合って良く解ったよ……遥くんの言う通り、彼らはただのテロリスト集団に他ならない……。まさか、ここまで、話にならないなんて、思わなかったよ……」


「あの……もしかして、やり返しちゃったのです?」


 再現体の規格自体は、詳細は非公開なんだけど……ユリと同等レベルだと、考えると、軽く人並みレベルを凌駕してるはず。

 

 強化人間の強度って、割と半端ない。

 車にはねられたり、手榴弾なんかでふっとばされても、割と平気で動けるくらいには丈夫に出来てるのですよ。

 

 この永友提督もビルごと砲撃されて、ほとんど全身バラバラになったらしいけど、祥鳳さん達が捨て身で守ってくれたおかげで、割とすんなり修復されて、現場復帰したばかりだって、聞いてる。


 この人……見た目の割に、精神的にもタフな人なのですよ。

 

 ユリみたいなフルボディの強化人間ともなると、大の男の人を素手でまとめて制圧とかやろうと思えば余裕だし、殴られたってソフトスキンは瞬時に銃弾を跳ね返すくらいの強度になるので、殴ったほうの骨が砕ける。

 

 ……とにかく、生身の人間が強化人間に喧嘩売っちゃ駄目なのですよ。


「いや、結局、私は殴られたけど、最後まで無抵抗、非暴力を貫き通したんだけどねぇ……。それを見た初霜が激怒しちゃって、もう大暴れ。連中、平和団体とか言っときながら、武器を隠し持ってたり、戦闘用サイボーグなんてのまで混ざってて、大乱闘になっちゃってさ! このままじゃ死人が出るからって、クオンの治安維持局が平和団体の人達を保護……と称して、まとめて制圧しちゃってね。なんとも、後味の悪い結果になってしまった」


 うん? スターシスターズの頭脳体って、強力な心理プロテクトがかかってて、人間相手に攻撃行動を起こせないって聞いてるのに……。


 ついカッとなって大暴れって……どうなってるんだろ。

 それって、限りなくAIの暴走事故に近いような……?

 

「頭脳体なのに、提督の静止を振り切ったってことなのです?」


「ん……ああ、ここだけの話。彼女は、こっちのスターシスターズとは少し規格が違ってね。心理プロテクトが一切かかってないんだ。ただ、彼女にはちゃんと良心ってものがあるからね。実際、殺さない程度には手加減はしてくれた……だから、怪我人は出たけど、死者は出てない……」


「それ……公になったら、色々問題になりそうな話なのですよ……? マスコミ対策とかちゃんとした方が良いのですよ?」


 AIは、明確な命令がない限り、決して自己判断で人に危害を加えない。

 これは、ある種の大原則なようなもので、どんなAIもこのAI規範を頑なに厳守する。


 それは、スターシスターズすらも例外でないはずなのだけど……。

 

 いずれにせよ、これが公になったり、被害者側のブルースターの人達が訴えたりしたら、ちょっとマズいことになる……。


「そこら辺は、大丈夫さ……。私にも、その手の情報戦に長けた心強い味方がいるからね。彼女の手は早い上に長い……ニュースサイトでもチェックしてみると良いよ? そろそろ、速報が発表される頃合いだと思う」


 言われて、銀河共用ネットワークのニュースサイトの緊急速報をチェックすると、クオン中継港にて、テロリストに扇動された大規模暴動が発生し、港湾閉鎖中……とかやってる……。

 

 広域ジャミングによる電子テロに始まり、中継港にて暴動が起きて……たまたま、上陸中だった銀河連合軍永友少将より、テロリストの制圧命令が発令。

 

 銀河連合軍に徴用されたクオン治安維持局の手により、100名ほどのテロ集団が拘束され、クオン中継港は銀河連合軍により、臨時接収され、テロ警戒態勢にある……。

 

 テロ集団は、平和主義団体「ブルーアース」を名乗っているものの、当該団体からは「そんな奴らは知らない。当局による自作自演により、当団体を貶める為の謀略である」との公式声明が発表……。

 

 なにこれ? 速報の時点で、色々永友提督に都合がいい内容になっちゃってる。


「……な、なんです? これ! なんだか、スイーツ提督さんがテロリストの鎮圧命令出したことになってるみたいなのですよ?」


「ああ、それか……。治安維持局の担当者から、そう言うことにしてくれたら、丸く収まるって言われてね……。向こうの提案に乗ることにしたんだけど。この分だと、案の定、遥くん達も動いてくれてるようだね。どのみち、ここで起きた出来事は我々にとっては、都合のいい内容として、公表される事になる。逆を言えば、ブルーアースに取っては、もはや最悪の結果と言えるだろう。君もこのブルーアースって団体が真っ黒だって事は知ってるんだろ?」


 悪名高いって枕詞が付く程度には、この「ブルーアース」って団体は有名。


 地球を聖地として崇めて、世界から武器と争いを無くし、平和を愛する選ばれし民だけで、地球へ帰還することを目指す……とかなんとか言ってる夢見がちな人達。

 

 平和主義と言っておきながら、閉鎖されてる太陽系接続ゲートを強行突破して、容赦無さに定評ある太陽系防衛艦隊に喧嘩売って、軽く返り討ちにされたとか……。


 銀河連合軍の艦艇に爆弾テロ仕掛けるだの……エスクロンともあっちこっちで衝突してるような暴力的なテロ団体……と言うのが、軍関係者の評価。 

 

 一般的には、彼らの唱えてる非武装平和主義の方が有名で、偏向のかかったマスコミとかで、もてはやされたりもしてるけど。


 銀河共用ネットワークとかだと、どこらへんが平和主義なんだと、冷静なツッコミにさらされてるような有様だったりするのですよ。

 

「……自称平和主義……の人達なのですよ……」


 控えめに言っても、それ以上の評価はない……なんとも残念な人達なのですよ。

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