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第二十二話「スイーツな提督さんなのです」①

「……向こうはどうせ本気で撃ってこない……なんて、高をくくってたから、調子に乗ってたけど。やる気満々で攻められたら、それだけでビビって、泡食って逃げた……そう言うことなのですよ。それに敵もこの様子だと偵察特化型の潜行艦だったみたいなのです。戦闘になったら、逃げるが勝ち……多分、そんな設計思想で作られてるんだと思うのですよ」


 情報の重要性、お父さんからキャンプの合間の与太話でお仕事の話とか、聞かせてもらってたから、そこらへんは、人より分かってると思う。


 その観点から見ると、この敵は情報の重要性を深く理解しているということに他ならない。

 そうなると、かなり厄介な敵……黒船なんかより余程、脅威。


 イマイチ、情報が錯綜してて、敵の正体は判然としないのだけど……搦手を交えて、巧妙に侵略を進めてるような気がする……この辺は、お父さんからも聞いたことがあったんだけど。


 その片鱗に触れた……そんな感じがする。

 

 敵もこちらの体制と手強さを理解して、それが抑止力になってくれれば良いんだろうけど。

 こうなると、こっちの弱みや脆弱性を探って、そこを突いてくるようなやり方になるかもしれない。


 なんと言うか……今は、戦争の時代なんだなって痛感する。


「ユリちゃん、クール! って思ってたけど、結果的に敵を見逃して、なんだかんだで優しい所があるんだね! いやはや、お疲れさん! ごめんね……盾になるとか偉そうに言っときながら、まんまと鼻っ面を抜かれる始末……今回は、さすがに役立たず呼ばわりされても、反論できないわ」


 祥鳳から入電。

 向こうもすっかり、戦闘態勢を解除した様子だった。

 

 それでも、長時間稼働が売りの偵察機を何機も飛ばして、積極的に索敵網を広げてくれている。

 ここで全機収容とかしない辺り、やっぱり実戦慣れしてるね。


「いやいや、祥鳳さん達のおかげで、敵の飛行船の居場所も特定できたし、撃ち合うだけが戦いじゃないのですよ」


「そう言ってくれると、いくらか気楽なんだけど……。でも、結局、潜行艦は全部見逃しちゃって……アレで良かったの?」


「そうですね……実際の所、今みたいな状況だと敵を全滅させて、一切の情報を持ち帰らせないってのが理想なのですけど……。もっとも、同型艦が全部で6隻もいた……。さすがに、コレだと半端に沈めるよりも、やろうと思えばいつでも沈められる。今後、同じことをしたら、次はない……そんな断固たる意志を示すってのが、次善の対応なのですよ……向こうは、わざと見逃されたってのは解ってるはずで、こっちは全滅させるだけの能力も気概もあったって解ったはずなのですよ。そもそも、ユリ達は敵を倒すのが目的じゃないのです……」


 改めて、データを精査すると都合6隻、うち2隻がハーマイオニー隊の牽制を行い4隻がかりで掻き回しに来てた……そんな感じだったのが浮き彫りになってくる。

 

 見つけない限り、為す術がない……20世紀ごろの潜水艦も厄介だったみたいだけど、この時代のエーテル空間戦闘にこんなのが出てくるなんて……。

 

 おまけに、超高速魚雷とか……戦闘艦にとっては、コースも読みやすいし、やかましいから対処は簡単だけど、至近距離から撃たれたら、十分脅威だし、大型艦では砲撃や爆雷で迎撃するしか対処法が無い。

 

 あんなの民間船じゃ、対処もなにもって感じ……そう言う意味では、あれとっても厄介な兵器。

 あれが各所で流域封鎖とか仕掛けてきたら、一体どれだけ犠牲が出るのやら……。

 

 対処としては、高精度ソナーと迎撃魚雷を組み合わせたウェポンパッケージみたいなのを用意して、民間船も武装する……とか、銀河連合軍の小型艦クラスを総動員して、護衛に張り付けるとか。

 

 民間船用の武装っても、そんなの誰も作ってないし……ああ、でもエスクロンで作れば良いのか。


 無人戦闘艦艇の生産ノウハウは、きっちりあるし……今もいろいろ作ってるんだから、それをもうちょいアップグレードしたり、簡易化して大量生産向きにする。


 これはお姉さまに、意見具申して、レポートでも提出してみようかな……お姉さまなら、耳を傾けてくれそうな気がする。


「なるほど……確かに、うっとおしいから帰れってやって、相手をビビらせて、追い払った時点でこっちの戦略目標はクリアよね! おまけになるべく武力行使は控えろって、銀河連合上層部からのお達しにも沿ってるから、お咎めの心配も要らないと……。いいね! こっちもそこら辺は見習わないと……。エリコさんも今回ので、割と色々戦訓とかデータ集まったんじゃないの?」


「あはは……おっしゃる通り、うちで作った機動爆雷の実戦データ取れたのは、中々美味しかったわ。でも、あの距離でほぼ直撃だったのに沈められないってのは、ちょっとショックね。エーテル流体面下での爆圧拡散効率が想定より低かったみたいなのよね……こりゃ、もうちょっと研究が必要……。これじゃ、粗悪コピーのそしりは免れないわ」


「お願いしますわー! あんな敵を相手にするなんて、今の装備や体制じゃキッツイ。私もエスクロンさんに全力で協力するんで、がんばりましょう! 今回は……むしろ、迫力勝ち?」


「なのですよ。国家間闘争って、基本的にビビった方が負け……なのですよ。だから、この戦いはユリ達エスクロンの完全勝利なのです! おとといきやがれー! なのですよ!」


「……なんか、それって……仁義なき闘争って感じよね……。けど、こんなもんなんだ……人間同士の争いって……。黒船みたいに半分沈めても、まだ攻めてくるとか、あれはあれでウンザリだけど、こんな風に巧妙に立ち回って、ハッタリ攻撃とか電子戦仕掛けてきたり……ホント厄介な相手なのね……。こうなると私達も装備やドクトリンから色々と変える必要がありそうね……もう、課題山盛りね」


 そう言って、遠い目をする祥鳳さん。

 スターシスターズも大変みたいなのですよ……。


「……今のも、言ってみれば、ある種の交渉みたいなものだったのですよ。国家間の抗争で武力行使は、交渉オプションのひとつとも言われてるのですよ。祥鳳さん達も今後は提督さんともよく話し合って、戦略的な見地とかも身に着けないと……なのですよ」


「な、なるほど……ユリちゃんって、女子高生の割にはなんだかスゴイのね……まるで、どっかの提督みたい」


「ユリは、これでも正式な軍人として、士官教育も受けてるのですよ。明日戦争が起こっても、即座に対応できるそんな風にマインドセットされてるのですよ」


「そっか……でもまぁ、幾多の戦場を戦った立場から言うと、そう気張らなくてもいいよってところかな……本来、君達みたいな子供が戦場でなんて、良くないんだからさ。とにかく、お疲れ様。まったくもって、お見事な手並みだったわ。ハーマイオニーからも、敵は去ったって報告きてるし……。各種ジャミングの源だった敵の飛行船が落ちたから、電子的孤立状況からも回復したみたいよ」


「そのようです。結局の所、アレの存在が状況をややこしくしてたのですよ……むしろ、まっさきに撃ち落とすべきでしたね……」


「……と言うか、ジャミング飛行船ってあれなに? ユリちゃん達はあっさり対応してたし、私らは元々別の通信ライン持ってるから、そこまで影響なかったけど……あれかなぁ、天霧みたいなヤツかなぁ……」


 駆逐艦天霧? データ照会……良く解んないけど、特務艦扱いになってて、詳細データが艦種と艦名以外、一切公開されてない。


 一応、データは見つかったけど、タイムスタンプが随分前……なにせ、火薬式のデフォルト装備のデータ……。

 これ絶対、嘘データだ……。

 

 祥鳳の話だと、電子戦対応艦っぽいけど……なんで、銀河連合軍の艦なのにそんな装備してるんだろう?

 おまけに、最新データをデータベースに載せずに、欺瞞情報だけ残してるとか銀河連合軍のやることにしては随分と手際がいい……。

 

 まさか、内乱鎮圧とかそう言うのを想定してるとか……?

 いずれにせよ、この駆逐艦天霧に関しては、深入りしちゃいけないっぽい。


「天霧……電子戦戦闘艦艇なんですかね?」


「一応、そんなところかしらね。詳細は……あ、シークレット化したんだ、結局。……んー、ゴメンね。これちょっと民間人には言えない系のネタっぽいわ……でも、電子戦とかってむしろ、そっちの方が詳しい感じだよね? なんか、戦ってる間に見る間にクリアになってた感じだったし……あれって、リアルタイムで対応してたんだよね?」


「なのですよ。宇宙戦闘じゃ、ジャミングとかECMって割と普通なんで、このロンギヌスもその手の装備は充実してますし、アキちゃんと言うスペシャリストもいましたからね……。なので、電子戦もこちらの圧勝でした。祥鳳さんも、その辺はもう少し考慮すべきじゃないでしょうか? なんとなく、これからの戦いには必要になりそうな気がしますよ……その天霧って駆逐艦については、色々察しましたんでお気遣いなく」


 まぁ、間違いなくその天霧といくつかの同級艦は、内乱想定の鎮圧部隊とか、そんなところだと思うのですよ。


 ちなみに、ロンギヌスの電子戦装備は……スターシスターズや星間国家製のエーテル空間戦闘艦や、各星系の中継港の防衛戦力が敵に回ることを想定して、搭載されている。

 

 要するに、エスクロンは随分前から、銀河連合内での内輪もめや、同等レベルのテクノロジーを持つ、外部の侵略者との戦いを想定してたって事なのですよ。


 そして、その予想はガッツリ当ててきてる……今の状況は、エスクロンの情報部、お父さんが予言してた通りの状況になりつつある……。

 

 それに加えて、ユリ達強化人間は、エーテル空間の戦いでも十分にその能力を発揮することを証明してしまった。


 これからは、ユリにも様々な試練が課せられるかもしれない……でも、別に後悔はない。

 それは、ユリ自身がどこかで望んでいた事なのだから。

 

「そうね……天霧って提督の意向で、訳の解らない装備を満載してるし、どうも裏の特務部隊……みたいな扱いなのよね。電子戦装備にしたって、あれって黒船には全然効果なくって、なんでそんな装備をって思ってたけど……実際問題、提督との連絡が阻害されるような真似をされただけで、こっちはグダグダ……さすがにこれは脅威よね。あの電子戦機にしたって、こっちは偵察機での目視観測でしか、その居場所がわからなかった……。電子戦って侮れないね」


「なのですよ。詳しくは、宇宙戦闘の戦術ライブラリとか、古代地球の海上戦闘とかも参考になるのですよ」


「なるほど、なるほど。今度、天霧本人にも直接、色々聞いてみるとするわ……つい、こないだまで一緒に行動してたから、満更知らない間柄じゃないし。あ、永友提督から通信……是非、ユリちゃんに直接お礼をしたいって! つなげるね!」


 祥鳳との通信が切り替わって、ちょっぴり太めの中年おじさんが顔を見せる。

 でも、目の周りに青あざが出来てて……銀河連合軍の将官服の袖も取れかけてるような見るも無残な有様。

 

 ……どうも、なんかあったらしい。

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