第二十一話「ユリちゃんの本気と書いてマジと読む」⑥
「み、民間機? 街中とかで、CMとか流してるようなのと同じに見えるのですよ? アキちゃん、ジャミングの発信源は……これ、なのですよね? たまたま、漂流してるアドバルーンとかじゃないですよね?」
「うん、これがジャミングの発生源で、間違いないんだけど……。どう見ても宣伝用アドバルーン? え、こんなのに偽装してたの? しかも、一応民間船登録されてるみたい……船名「カタロス11号」クリーヴァ社所有の無人観測船だって……どうしよう、これ!」
うーん、よく解んないけど……これはもう撃ち落とそう。
多分、民間船に偽装して、撃てるものなら撃ってみろって、そう言う事なんだと思う。
なら、迷う道理もないのですよ。
電子妨害に弾道予測……戦場監視と、うっとおしいことこの上ない。
おそらく、コレが敵の要……最優先で排除すべく敵!
横長の風船にレドームみたいなカーゴとプロペラによる推進機。
良くも悪くも古典的な柔構造飛行船……多分、レーザーライフルのバーストモードでなぎ払うだけで、簡単に撃ち落とせる……こんなものに、戦場のもっとも重要な役割を担わせる。
おまけに、広域ECMバラージともなれば、十中八九所在がバレる。
敵の戦術もなんとも稚拙……お粗末なものなのですよ!
「ロンギヌス火器管制……指定座標に、レールガン機銃斉射実施……。弾種は炸裂焼夷弾、誤射を装うので、欺瞞の弾幕を生成するよう要請する。上空各機には、流れ弾注意の警報発令! これより、各対空銃座試射を開始すると」
「了解、これより、警報発令……60秒後、5秒間各砲座より、レールガン機銃による弾幕射撃を実施します」
飛行船を戦場に飛ばす……確かに、長時間居座る定点監視用としては、飛行船は向いてるんだけど。
見つかったら最後、機銃掃射を受けたくらいであっさり落ちる程度には脆弱なので、そもそも戦闘用には向いてない。
この手の上空監視アドバルーンも、銀河連合軍は少なからず運用してはいるのだけど……。
黒船は未知の能力による高い索敵能力を持つ上に、単独行動する長距離飛行タイプの飛翔種などの存在で、長期生存性は極めて低く、エーテル空間では、飛行船の運用は無理があると言われてるのですよ。
その用途は、早期警戒の使い捨て兵器として使われる程度で、こんな戦場監視や電子戦機として運用なんてしてない。
……やっぱり、銀河連合軍とは全く違うドクトリン……としか思えない。
クリーヴァ社も独自性が強いと言え、機材の運用環境は同じだから、リスクが大きすぎて使えないってのは、同じだと思うんだけどなぁ。
ロンギヌス対空レールガンの一斉斉射……5秒にも満たない程度の射撃を実施。
目くらましをかけられたから、やけっぱちで弾幕放ってる……とでも、見えればそれでいい。
けれどもやがて、祥鳳のゼロスナイパー隊から、飛行船が炎上、墜落したとの報告。
デタラメにバラ撒くランダム弾幕射撃に見せかけて、数発だけ超長距離精密射撃を混ぜ込んどいたから、当然の結果。
「ジャマー消失したよ! やっぱり、当たりだったみたい……でも、これで、スッキリしたね!」
多分、これが敵の要、電子妨害と上空索敵による情報支援機。
潜行艦とセットで運用することで、弾道解析やレーダー、連絡を阻害する……。
けど、これを落とした事で、もはや流れは決定的なものになったのですよ。
高出力ジャマーで味方の支援をしたつもりだったんだろうけど、そんなの居場所を教えてるようなもの。
さすがに、民間船登録されてるような飛行船を落としたりはしない……そんな風に考えたんだろうけど。
そんな甘い相手だと、侮られてたなら、心外もいいところ……。
ここは戦場、流れ弾だって飛んでくるのですよ!
敵の指揮官は明らかにミスをした……ここは、一気に畳み掛けるのですよ!
「こちら、追風……敵の潜行艦群は一斉に撤退を開始した模様。ハーマイオニー隊からも、敵のプレッシャーが消失したとの報告っす!」
電子支援機が潰されたことで、敵はもはや総崩れの様子。
あとは、一隻くらい沈めるか、鹵獲……さすがに、それは欲張り過ぎかな?
ここから先は、追い打ち……戦果拡大の時間!
「了解した……これから先は狩りの時間だ……存分にやってやれ」
「了解! ……こちら夕凪っす! 朝凪の誘導爆雷が撤退中の敵艦至近で起爆……爆散円に巻き込んだみたいっすけど、意外と頑丈みたいで、まだ生きてるみたいっす! でも、もう盛大にノイズ撒き散らして、ヘロヘロになりながら、逃げていってるみたいっす! もう一発撃って……トドメさすっすか? 手負いに追い討ちって気が進まないんすけど」
夕凪から報告……追撃するかどうか。
敵は死に体……もはや、敵の生殺与奪は、ユリの手中にある……戦場じゃ、普通にあること。
けど……うん、ここまでやれば十分か。
他の敵の潜行艦も蜘蛛の子を散らすように逃げていったし、やりすぎると色々外交上とかイメージ上の問題になるし……どうやら、夕凪もここで追い討ちをかけるのは、気がすすまないようだった。
合理性を追求するAIなら、ここは容赦なく追撃をかけるところだけど、彼女達は情緒的な判断で言外にやりたくないと言ってきてる。
やっぱり、従来のAIとは異質な思考をしてるってのがよく解る。
こっちの目的は、敵を追い払うことで、撃沈は手段であって、目的じゃないのです。
敵を無力化した上でデータも取れて、新型兵器の実戦データも取れた。
敵との電子戦もアキちゃんが直接やりあって、アキちゃんに及ばない程度だと判明した。
電子戦機の撃墜で、こっちはやる時は容赦なくやると、明確なメッセージを突きつけた。
……敵を沈められなくても、別に問題はない……。
生き残り、その恐怖を喧伝してもらった方が、こちらの強さを思い知ってもらうには、かえって都合がいいのですよ。
……それに何より、相手も夕凪達と同じ頭脳体なのかもしれないし、この要素だと人間の指揮官も同情していた可能性が高い……敵の戦術はあまりにも人間的だった。
そう思うと、ここで追い討ちの命令を下すのは無いなって思う。
「敵に教訓を与えたってことで、もう十分なのですよ……ここは敢えて、見逃すのです。次は、問答無用で沈める……そう思ってくれたら、上出来なのですよ……。再度、周辺スキャンを実施、反応なければ、順次、戦闘態勢を解除、警戒態勢に移行するのですよ」
差し入れってことで、肉まんとお饅頭をもらっちゃったので、齧りながら、夕凪へ返信。
向こうも我が意を得たりって感じで、嬉しそうに頷く。
「了解っす! さすがユリコさん……綺麗にまとめてくれやしたね。血気にはやらず、想定外にも動揺せずに冷静に対応。初陣でここまですんなり、事態を収拾できる……なかなか、どうしてやりますな……! 初陣って聞いた時はどうなるかと思いましたけど、まるで歴戦の再現体提督のようでしたよ! お見事っ!」
別に殺伐とした殺し合いとか、好き好んでしたいとも思わない。
けど、機動爆雷のほぼ直撃でも沈まないなんて、正体が判然としないものの敵のテクノロジーも相当なレベル。
まぁ、その辺の技術的な事はお姉さまに、お任せなんだけどね。
「いやはや、なんと言うかあっさり追い散らしちまいましたなぁ……。あっしらが散々吠え立てても、あいつらちょっかい止めようとしなかったのに……。やってることは大差なかったと思うんすけどね……」
疾風からも入電。
他の艦艇からも続々と、ねぎらいと称賛のコメントが届いてる。
ほんの短い間にユリも彼女達に戦友として、いっぱしの指揮官として認められたようなのですよ。
これも得難い収穫のひとつ……かな?