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第二十一話「ユリちゃんの本気と書いてマジと読む」④

 状況……アンノウンはやはり、下流側から色々ちょっかいを出してきてる。

 ワザとソナーに引っかかって見せて、こっちを振り回して……完全に遊んでる感じもする。

 

 上流側にも何隻か居るみたいなんだけど、そっちは軽巡ハーマイオニーが率いる分艦隊が網を張ってるし、割と容赦ない牽制をかけてるようで、敵も遠巻きにして、時々、思い出したように近寄ってくる程度で、積極的に仕掛けてくる様子もない。

 

 祥鳳の話だと、ハーマイオニー隊の主力、J級駆逐艦ってのは、割と好戦的で暴走しがちなんだとか。

 敵にもその情報が伝わってるから、迂闊に近づくと噛みつかれかねない……そう判断してる可能性はある。

 

 敵さんも、きっちりリスクマネジメントの上で、仕掛けてきてる……頭のいい敵なのですよ。


 とはいえ、実際問題、遠巻きにプレッシャーをかけてるから、ハーマイオニー隊もすっかり拘束されてしまっている。


 戦術的には、事実上ハーマイオニー隊が戦力外化されてしまっており、この時点で十分な戦果と言える。


 やっぱり、猪突猛進あるのみで数で押してくる黒船と、色々考えながら、戦略目標を定めて挑んでくる相手とでは、勝手が違って戸惑ってるらしい。

 

 ひとまず……現状としては、むしろ二正面とかめんどくさい事になってないから、よしとするべき。

 あくまで、主体は夕凪と朝凪……この二隻による殲滅作戦を仕掛ける……これなのですよ。

 

「まったく、陽動による戦力拘束……手際が良いのですよ。上流側の敵はハーマイオニー隊と祥鳳の艦載機に任せて、ひとまず、下流側の敵のあぶり出しに集中します。……ソノブイの18番から63番まで、一斉アクティブ探査実施の上で、浮遊爆雷を散布して、敵の行動の自由を奪います」


 敵の数は、そう多くはない……なら、こっちは物量で対抗する。

 ソノブイの総数は100を超えてるので、一部をパッシブからアクティブに切り替えて、集中探査を実施する。


「こちら火器管制AI、本艦からも牽制射を放つべきだと、意見具申する」


 ロンギヌスの火器管制AIからの意見具申。

 要するに、一発撃たせろと……うーん、ちょっとまだ早いかな。


「無用、敵に本艦の余計なデータを与える必要はない。攻撃役は、あくまで夕凪達に任せる……むしろ、あの子達のお手並みをよく見ておくのですよ。君達は、まだまだ新兵のようなもの……ここは古参兵の戦いぶりを見て、学ぶべき」


「了解、コマンダー……これは、貴重な実戦データ所得のチャンスだと理解した。コマンダーの判断を支持する」


 首筋にゴツいアダプター付けて、ゴン太の超電導ケーブルを接続した状態で、ウォーターベッドを椅子みたいな形に変えて座り込んでるんだけど、座り心地は悪くない。

 

 ロンギヌスの基幹AIに直結接続してるので、ダイレクト操艦も可能らしいんだけど……。

 

 ここまでの巨艦でダイレクト操艦やっても、ドン臭すぎてさしたるメリットもないし、各種艦体艤装もとんでもない数になってるので、とても個人で処理できるような情報量じゃないので、ほぼほぼ自動制御任せ。

 

 ただし、センシティブ系情報はなるべく、生データを処理できるようにしてもらってる。

 それらの情報精査は、アキちゃんがやってくれてる。

 

 感覚を切り替えると、まるで船外に立っているかのような錯覚を覚えるくらいの高精度情報が入ってくる。

 

 ユリの役目は……要するに、監督役とかそんな程度。

 細かいことは各部署に丸投げで、全体の統制指揮を執る……これが今日日の艦長ってもんなのですよ。


 でも……なんだか、やたら気が大きくなってる気もするけど……なんだろ?

 口調も意識してないんだけど、AIみたいな無機質な口調になってる気がする。


 なんとなくだけど、マインドセットが戦闘モードに切り替わってる気がするのですよ……。


 クオンでの日常から離れて、戦場の空気に触れるうちに、自然に切り替わったんじゃないって気がするのです……けど、今はこれでいいのですよ。


 敵は潜行艦……永友艦隊側にも、人類製の対潜行艦戦闘の戦術マニュアルなんてないみたいなんけど……。

 

 色々探ってたら、ロンギヌスのデータベースから21世紀初頭の日本の海上自衛隊って軍隊もどきの、ヘリ空母と対潜ヘリを組み合わせた対潜水艦防御戦術のデータが出てきた。

 

 それを参考にして、ロンギヌスのゼロスナイパーからソナー付きブイ……ソノブイと浮遊機雷をバラ撒いて、対潜警戒網を構築している。

 

 広域高出力ジャミングによる電子妨害で、この手の小物の遠隔操作もままならない状況だったのだけど、近距離なら時々つながるような感じなので、データリンクを小容量パケット化して、冗長性を高めたジャミング環境下に最適化したプロトコルを即席ででっち上げて、対応済み。


 電子戦ってのは、概ねこんな感じで妨害されたら、それを潜り抜ける対策を実施、それに対策されたら、更に対策……こんなイタチごっこを戦場の裏でやる……そんな感じなのです。


 エーテル空間戦闘では、相手が電子戦を仕掛けて来なかったから、そこまでやってなかったけど、宇宙戦闘ではこの程度のレベルの電子戦は当たり前のようにやってるので、要は応用……なのですよ。

 

 もっとも、この辺は、アキちゃんとロンギヌスのマザーが色々やりあって、仕立て上げてくれたので、ユリは概要の提案をしただけ。

 

 アキちゃん地味に大活躍中……敵のジャミングも着々と解析が進み、無力化も時間の問題だし、電子戦機そのものの居場所も時間の問題で判明しそうだった。

 

 現状、どうも流体面上の電子作戦艦か、上空を飛ぶ電子戦機あたりがいるんじゃないかと、思われるんだけど……。


 上空視界は、濃いめのプラズマ雲が出てるので、あまり良くない……祥鳳からも、警戒機を出してもらって、捜索してもらってるところ。

 

 向こうは、電子妨害下でも問題なく航空機の連携が可能だから、この状況では適任。

 ココらへんは、適材適所でやるのみ。

 

 とにかく、即席で作り上げた対電子戦システムを使って得られるようになった膨大なエーテル流体面下の音響情報を精査。

 データ分析もロンギヌスのAIの演算力の力技とアキちゃんのサポートで、効率よく解析が進んでる。

 

 あからさまに、ノイズを出してるデコイが多数……3-40くらいと派手にばら撒いてる様子。

 なるほど……これじゃ、振り回されるよね。


 黒船はこんなデコイなんて使ってない……対黒船に特化してるスターシスターズでは、この時点でふりまわされても、仕方ない。

 

 デコイ自体は、潜行艦のスクリュー音や発電システムの稼働音を偽装してるっぽいけど、同一パターンの繰り返しなので、割とバレバレ。

 

 ソノブイ群が捉えた音紋としては、そのデコイ由来のが大半なんだけど。


 時折、隠蔽しきれなくてひっかけた本体側と思わしき反応が断片的に出て来てるし、挑発のために隠蔽解除した際のデータもいくつか捕らえられていた。

 

 ほとんど点と点の情報なんだけど、本体側の音響データのサンプルは十分集まったので、過去データと照合、敵艦の行動パターン予測……そろそろ、ドラフトの解析結果が出るんじゃないかなぁ。

 

「アキちゃん、敵の本体側のノイズパターン識別は出来そう?」


「ロンギヌスの基幹AI側で、データ精査とフィルタリングを実施……点々つないで無理くりって感じだけど、敵艦の行動パターン予測自体は割り出せたみたいね。さすが、ティア2クラスでAAA級の大型ブレインだけに、スゴイ演算力だねー」


 戦術マップにアキちゃんと基幹AIの分析が反映。

 

 と言うか、ナチュラルにアキちゃんが凄い。


 さすが、専門家だけにこの手の情報処理は抜群に上手い……AIに一任しつつ、要所要所で勘所を抑えて、介入することで、情報処理精度を爆上げしてくれた。

 

 この辺は、人間にしか出来ない芸当で、AI監督官って言う銀河共通資格があって、アキちゃんはその所持者でもあるのだけど、その辺やっぱり、さすがなのですよ。

 

 所得情報を時系列順に並べていくと、敵の動きや意図がなんとなく読めてくる。


 この辺は、むしろ根拠とか理屈は抜きにして、なんとなく……勘の世界なんだけど、自分が攻め手ならどう動くかとか、心理的なものも考慮していくと、見えてくるものがあるのですよ。


 最初は、近づいて、隠蔽解除して……夕凪達を牽制、急行した夕凪達を振り回してる程度だったんだけど、段々と警戒網の内側へと入り込んでる。

 

 さすがに、夕凪達も此処から先へは行かせないっていう最終防衛ラインを制定してて、そこを突破しそうな動きを見せると、威嚇射撃したりしてるんだけど。


 デコイに振り回されてて、いまいち有効打を与えられないでいる……その上で、隙を突かれて振り回されるうちに、いよいよ最終防衛ラインに食い込まれつつあった。

 

 やっぱり、こっちの警戒態勢を見極めながら、徐々に行動が大胆になってきてる。

 たぶん次の段階は、ロンギヌスにロックオンした上での威嚇射撃? その対応いかんによっては、本気で仕掛けてくる可能性も……!


 たぶん、ここが勝負どころなのですよ……これは、もう本気でかからないと!

 

「やっぱり、すでに夕凪達の対応パターンは読まれてる……そう思うべきなのですよ。夕凪達に輪形陣の縮小と迎撃パターンの変更を通達の上で、全兵装オンライン……命令あり次第即座に指定座標に撃てる状態にするのです! 敵はすでにこっちに狙いを定めてるのですよ……個艦による個別砲撃ではなく、こちらからの統制射撃で対応するのです!」


 疾風と追風は……警戒網の一角を為すことと、牽制に徹して、絶対に手を出さないって事で合意してる。

 

 祥鳳も別に下がっててもらっても良かったんだけど、せめて弾除けになるって言ってて、聞いてくれない。


 ロンギヌスの右斜め後方に、さぁ、撃ってみろと言わんばかりに、下流側に横っ腹を向けた状態で待機してる。

 

 でも、祥鳳って装甲紙で機動力ガン振り仕様だから、魚雷なんてもらったら、結構ヤバそうなんだけどなぁ……。

 

 とはいえ、敵の立場からすると祥鳳に当てるってのはやらないと思う。

 なにせ、別に祥鳳を大破させたり、沈めても、さしたるデータは取れないし、メリットもない。


 とにかく、この空母……割としょっちゅうやられてるんで、その手の情報は銀河連合の公開データベースにでもアクセスしたら、いくらでも取れる。


 もっとも、しょっちゅう爆弾直撃とか大破炎上とかやられてるんだけど、ここぞと言うところでやたらとしぶといので、永友提督もしれっと生き延びてるし、実は永友提督座乗以来、一度も沈まず、不沈艦の一角を為してる。

 

 それはともかく、相手がしぶとく付き纏って、一向に引き上げないのは、ロンギヌスが気になるのと、向こうもこちらがまともに反撃してこないのを良いことに、体のいい実戦訓練だとでも思ってるのかもしれない。

 

 ……でも、付き合わされる方はいい迷惑だし、なめんなって感じなのですよー。

 

 とりあえず、作戦概要としては、当てる気のなさそうな牽制射で油断させたところをボカンと流れ弾の一撃を当ててガッツリ沈める。

 一隻でも沈めれば、あとは全滅させたって構いやしないのですよ。


 ここは、初手であっさりうっかり撃沈ってのが一番楽なんだけど……上手くいくかなぁ?

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