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第二十一話「ユリちゃんの本気と書いてマジと読む」②

「やけにすんなり、行くとは思ってたのですよ……。でも、どうしても状況が気になったし、凄くヤな感じがしてたのですよ。ユリは自分の勘ってものを割と信じるタチなのですよ」


「そうね……。私には良く解らなかったけど、祥鳳からも事前に再三の警告があったのよね……。この流域はなんかヤバイとかなんとか……」


「そ、そう言うのは、ちゃんと聞いとくべきなのですよ! ユリもなんとなく、この辺イヤーな感じがして落ち着かなかったのですよ……」


 ……実を言うと、中継港から、エーテル空間に入った頃から、酷く落ち着かない感じがしていたのですよ……。

 けど、ロンギヌスでお姉さまが待ってるって話に思わず、舞い上がってしまったのと、エーテル空間が馴染みないから、必要以上に警戒してるって決めつけて、意識から追いやってしまったのです。

 

 もっとも、この辺はユリの経験不足……嫌な感じがコレって、上手く結びついてなかった。


「そうね……。そういえば、ユリちゃんも今日のエーテル空間は気持ち悪いとか言ってたわね。とはいえ、実際問題、その根拠が判然としなくて、こっちも対応に迷ってたんだけどね。乗員にも何人か空気がピリピリしてるとか言ってたのがいるから、後から調査でもしてみると面白いかもしれない……まったく、興味深いわね」


 ……やっぱ、お姉さまって大物なのです。

 戦場で敵に狙われてるのに、学術的な興味のほうが優先とか……。

 

「戦闘発生時の対応マニュアルとかはあるのです? ロンギヌスも武装はしてるんだから、戦えるのでは?」


「そうね……一応、対空砲やレールガンなんかは搭載してるけど。どれもAI任せで、VRシミュレーションくらいしかしてないから、実弾訓練も全然これからって状態なのよ。はっきり言って、本格的な戦闘に耐えられるかといえば微妙なんだけど、防御性能は相当高いはずだから、簡単には沈められないはずよ」


 やっぱり、そんなもんなのです……。

 多分、この分だと戦闘AIも圧倒的な経験不足だろうから、戦闘力に関しては期待しないほうがよさげ。


 こんな巨艦だと、回避も何もないから、魚雷でも撃たれたら、直撃は免れないのですよ……。

 

 と言うか、そもそも、エーテル空間戦闘のプロのはずのスターシスターズが、振り回されるようなステルス潜行艦が相手なんて、想定外……なのですよ。

 

 でも、そうは言っても、やっぱり頼みの綱は永友艦隊の護衛艦達……。

 ここは、自前の戦力で対応できるなんて思わずに、彼女達を頼るってのが最善だと思う。

 

「解りました。そうなると、やっぱり夕凪達に頑張ってもらうべきですね。お姉さま、これより強化人間クスノキ・ユリコ、並びにアキハちゃんの両名は永友艦隊の支援行動に入ります。よろしいですね?」


「うん、臨時指揮者権限で許可します。存分にやっちゃって!」


 ……こうなったら、好きにやっちゃえばいいのかな。

 アキちゃんからも了承の返答あり。

 

 体制としては、ユリがメイン作戦指揮ユニット……アキちゃんはフォロー、情報支援を担当する。

 指揮官と副官って感じなのですよ。

 

 ちなみに、ユリ達スペシャルズには、エスクロン宇宙軍少佐相当の権限があるのですよ。

 宇宙戦闘艦なら、200m級の駆逐艦クラスの指揮を任され、陸戦ユニットなら大隊規模を指揮できる……概ね、そんな感じ。


 そう考えると、結構偉いんだよね……えっへん!

 

「では、早速……アキちゃん……夕凪達の様子はどうなのです? 接続ラインはそのままなんだよね?」


「当然、繋ぎっぱなしだよ……。でも、駄目だねぇ……皆、完全に浮足立っちゃってるよ。敵がデコイとか使ってるみたいで、完全に振り回されてる……今も、対潜砲撃をやってるみたいだけど……芳しくないね。戦闘ログでも見てみる? 私はこんな潜行艦との戦いとかよく解んないんだけど……」


 アキちゃんから、夕凪の所得した戦闘ログデータを受領。


 本来、戦闘ログとか外部の人間は見ちゃいけないんだろうけど、この辺の情報はスカスカ抜いてこれるみたい。

 アキちゃん、相当深くまで侵食してるっぽいな……。


 戦闘ログ情報をロンギヌスの基幹AIの助けを借りて、グラフィカル化して、戦術マップと呼ばれる俯瞰視点マップに情報を反映する。

 

 マップの中心にロンギヌス……上流側には永友艦隊のハーマイオニー分艦隊の5隻が警戒線を張ってる。

 下流側には疾風、追風、朝凪、夕凪の4隻が展開し、同様に警戒線を構築。

 

 ぐるりと歪な形の円周を描くように配置されてる……輪形陣と呼ばれる防御陣形。

 

 なお、空母祥鳳は、ロンギヌスの下流側に回ってかなり近い位置に定位してる。

 

 艦隊周辺には、デコイと思わしき、反応多数。

 敵の本体は完全に見失ってる……たまに引っかかってもすぐに逃げられてる。

 

 この様子だと、多分アクティブソナーを受けると、即座に周波数分析をして逆位相音波シールドで打ち消す……そんな小細工をやってるっぽい。

 

 対策としては、ソナーの発振周波数をリアルタイムで変動させながら、複数ポイントからの照射。

 要するに、向こうの対応能力を超えてしまえば、済む話。

 

 コレ自体は、既知の戦術のようなんだけど……。

 

 どうも、てんでバラバラで動いちゃってるせいで、味方同士の連携がうまく行ってないらしい。


 なんと言うか、全然まとまりがない……動き見てるだけでも、なんと言うか……素人サッカーでも見てるようなぐだぐだ感でいっぱいだってのが解る。

 

 うーん、永友艦隊って実戦慣れした精鋭のはずなんじゃ……どうなってるの、これ?

 

 でも、考えてみれば、スターシスターズって想定敵が黒船限定って感じだから、人間相手の戦闘となると、全然経験が少ない。


 近年、もうひとつのエーテルロードの存在が確認されて、異世界人だかが攻め込んできてる……なんて話もあって、ようやっと同類を想定敵とした対艦戦術研究とか、兵器開発に着手した段階だって聞いてる。

 

 そう言うのもあって、宇宙戦闘兵器や戦術開発に余念がなく、あちこちの星系でガチ戦闘を仕掛けたり、仕掛けられてて、人間相手の戦闘に手慣れてるエスクロンのノウハウを欲しがってるって、まことしやかに言われてたりもする。


 この辺の情報は、ユリレベルでは、なんともあやふやな情報しか与えられていないんだけど……。

 

 要するに、スターシスターズは、人間や同類相手に全然戦い慣れてないのは、確実なようだった。

 その上で、この隠蔽性能に優れた潜行艦が相手……確かに、これは厳しいかもしれない。


 何より、敵も巧妙……姿なき、見えない敵なんてのは、敵に回すと最悪に近い相手。

 戦場における極めて重大な要素……イニシアチブを完全に奪われた状況を強いられることになるのですよ……。


 ……考える。

 黒船はシンプルな理由で戦いを挑んでくるけど、人間の軍隊ってのは、戦略目標を制定し、それに基づいて戦いを挑んでくるはずだった。


 この辺は、未知の宇宙人とか、AIなんかでも同じはずなのです。

 意味もなく戦いを仕掛けてくるとか、動物レベルの知性しか無い相手ならともなく、ある程度の知性があるなら、その戦いには必ず意味がある。


 基本的に、損得勘定に基づいて、合理的な理由でふっかけてくる……そんなもんなのですよ。

 

 であるからには、まずは、敵の戦略目標の推定が第一。

 

 とにかく、敵はエスクロンと敵対関係にある星系なり、星間企業辺りだと推定。


 敵の立場から見ると、ロンギヌスは未知の大型艦……。

 この規模の艦艇ともなると、建造してる事自体を秘匿するのは不可能だから、前々からある程度の情報は流布してたはず。


 ロンギヌス自体は、エスクロン本国の玄関口とも言えるエスクロン中継港の造艦廠で建造されていた事はユリでも知ってる。


 エスクロン中継港は、銀河最大レベルと言われるような規模で、ハリネズミのように武装して、周辺には、独自開発した戦闘艇などがひしめく、超厳重な警戒体制が敷かれてて、その機密保護体制は完璧に近い。

 

 そんな厳重なところで建造されていた新造艦が、唐突にエーテル空間内に出て来たとなると……。

 その詳細データが欲しい……エスクロンの敵対関係にある企業や組織なら、そう考えるはず。

 

 さすがに、撃沈は無茶だとは、考えるだろうけど、あわよくば一発くらい当ててやるくらいのつもりでいるのかもしれない。

 

 一発でも当てれば、様々なデータが取れる……防御力、ダメコンの精度、迎撃システム、どれも実際に戦う際に極めて貴重なデータとなる。


 このロンギヌスは、移動拠点艦とでも言うべきもので、こんなのを何の情報もなしに相手にするなんて、無茶はどこもしたくないはずなのですよ。

 

 結論、敵の目的は……威力偵察ってところかなぁ。

 軽く喧嘩売ってみて、実力を図る……そんなところ。

 

 でも、ユリが居ることは……どうなんだろう?

 昨日の今日でユリがこんな所にいるなんて、多分敵は追えてない。

 

 この辺は、エルトランとクオンの治安維持局側で色々偽装工作をしてくれたので、ユリは、所在データ上では、エトランゼ号に泊まり込んでる事になってる。

 

 ホントは、こんな形でもちゃんと入出国手続きが必要なんだけど、ただでさえ突然湧いてきた平和団体への対処でリソース割いてるのに、そこで更にユリがエーテル空間なんかに出て来た……なんてなったら、もうややこしくなりすぎるって事で、治安維持局の担当者から、そんな提案があったので、乗ることにしたのですよ。


 実際、今もクオンの宇宙港の近辺では、治安維持局の警戒隊と宇宙港の警備隊がタッグを組んで、敵の監視部隊と水面下の凌ぎ合いを繰り広げてるらしい……。

 

 まぁ、ユリに関してはノーマーク……そう考えてよし。

 

 敵の目的は……ロンギヌスの実戦対応能力を測るのもあるだろうけど、指揮官不在の状況で、スターシスターズがどこまでやれるのかとかも、敵にとっても貴重な情報。

 

 この誰もが浮足立ってる状況を利用して……出来る限り多くの情報を得ようとしてる……とまぁ、そんなところだろうね。


 これは、正規軍と言うよりも、諜報系の不正規戦……だよね。

 

 対するエスクロン側は……なんとなくなんだけど、ユリ達の対応に期待してるって感じもする。

 なにか出来ることあるようなら、是非やってみてくれ……そんなメッセージを感じる。


 まぁ、色々派手なことしちゃったから、これはもうしょうがないか……。

 

 エスクロンに古くから伝わる格言……と言うか社訓。

 

「無茶やって転ぶのは、仕方ない。ただし、タダでは起きるな」


 失敗を承知で、無茶やらせて、色々教訓を得て次に活かす……前向きなんだか、無茶なんだかって感じなんだけど……そう言う考え方で、エスクロンは色々無茶やって、失敗も数多く経験しながら発展し、銀河連合の一大勢力となってきたのも事実なのですよ。


 これは、もう腹をくくるしかないのかな……。

 失敗したって、多目に見てくれる……そう思って良いような気がするのですよ。

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