第二十話「強制電子介入(インターセプター)」③
夕凪とロンギヌス間の情報ラインが正式に接続されたのが解る。
情報量が格段に増えたのですよ。
裏口回線から、正面の広帯域回線に切り替わったらしい。
どうやら、私達の行動はロンギヌス側からも公認だったらしい。
「向こうさんと広帯域回線接続させておきましたっす! これで、回線も安定するんじゃないっすかね。まぁ、あっしらの戦いっぷりを特等席でご覧あれってとこっすな」
「おお、帯域確保までしてくれるなんて、助かるよー。不法侵入者なのに、なんだか悪いですね……」
「そこは気にするところじゃないっすね。どのみち、エーテル空間ではあっしらの権限ってかなり高いですからね。提督さん、もしくは提督から権限委譲を受けた頭脳体がオッケーっていや、大抵は問題なくなるんスよ」
実際、銀河連合軍の各艦隊の提督さんって、何気に国家元首クラスの権限を持ってるんだよね。
これは、特定国家の思惑で、銀河連合軍のエーテル空間での軍事行動が左右されてはいけないと言う理由からなんだけど。
問題は、そこまでの権限があるってことが、提督さん達にちゃんと伝わってない事なのですよ……。
実際、クオンの中継港のトラブルだって、永友提督が鶴の一声で、邪魔だから排除してって言ったら、クオン政府としては、大人しく従うしか無かったのですよ……。
それをやらなかったのは、よほどのお人良しなのか……或いは、自分の権限を解ってないか。
永友提督の人となりはよく分からないのだけど、両方かなーって気がするのですよ。
「ありがとなのですよ、夕凪ちゃんっ! ところで、何が起きてるのです? さっきから、警報が出たり止んだりしてるみたいなのですよ……ユリ達もさすがに気になって、現場の夕凪ちゃん達に、直接聞けばいいかなってなったのですよ」
「すまねっすなぁ……ロンギヌスにも注意喚起って事で、警報送ってたんすけど、やっぱり迷惑だったっすかね。かえって混乱させちまったようっすな」
まぁ……困惑って感じかも。
ロンギヌスのAIも戦闘経験が高いAIって訳でもなさそうだし、ロンギヌスも試験航行だから、多分艦長設定とかもされてない……確認した感じだと、一応最上級権限者はお姉さまになってるけど……。
お姉さまは、艦長免許とか持ってないから、AIから見たら、責任者不在って事になってるはず……。
「ん……。そ、そうなのです。ロンギヌスも指揮系統にちょっと問題あるのですよ……」
「なるほど……。一応、状況を説明させていただくと。現在、国籍不明の潜行艦が3隻くらいさっきからこの辺りをウロウロして、あっしらの輪形陣の内側に入り込もうとしてるみたいなんすよ。一応、警告として爆雷投下で追い払ってはいるんすけど、ステルス性能が意外と高くて、見失ってばっかりの上に、どうにもしつこくて……重ね重ね、お騒がせして、申し訳ないっす」
潜行艦……エーテル流体面下深くに沈み込んで、活動する戦闘艦艇。
ステルス性能が高く、発見も困難……ソナーによる音波検知以外では、まともな探知手段もない。
銀河連合軍では、どちらかと言うと補助艦艇扱いで、日陰者って感じらしいけど……。
さしたる実害が出てないから、脅威として認識されてないだけの話で、私に言わせれば、見えない敵ほどヤバイ敵はいないって断言できる。
逃げ撃ちスナイパーとか、待ち伏せスナイパー……。
ユリもVRFPSでは、常套手段なんだけど……認識範囲外からの攻撃には、どんなに強力な手練でもあっけなく倒されてしまう。
見えないことを良いことに、時に大胆に、しぶとく絡みつくように這い寄ってくる敵。
戦場では、もっとも恐れるべき敵。
もっとも、この様子だと、多分、厳重に警備してるからって、中身が気になって、様子を見に来たとかそんな感じ?
だからと言って、安心なんて出来ないんだけどね。
黒船とかって、行動原理は割と単純でエーテル空間航行艦を見たら、とにかく後先考えずに襲いかかって来るとか、中継港とかを目標にひたすら押し寄せるとかそんな調子なんだけど……。
こんな明確な目的意識を持って、行動してるとなると……むしろ、これ人類製の艦艇なんじゃないのかなぁ……。
敵は、どっかのライバル企業か星間国家クラス……今の情勢だと、クリーヴァ……としか考えられないのです。
夕凪の探知能力が低いかといえば、そんな事はない。
姉妹艦でもある、永友艦隊の疾風といえば、永友艦隊最古参クラスの歴戦の艦で、装備もドライバも最新鋭。
その姉妹艦の夕凪もしっかり、フィードバックを受けていて、おまけにエスクロン製の最新鋭装備に身を固めているので、銀河連合軍の駆逐艦の中でもかなりレベルが高い艦だと言う評価だった。
反対側を守ってるハーオマイオニー隊も、対潜能力に関してはトップクラスの艦揃い。
そんな銀河連合軍、最高精鋭クラスの駆逐艦達が厳重に網を張ってるのに、捉えきれないってなると、相手も相当な技術レベルなんじゃないかって気がする。
なんか、クリーヴァは、高度な科学技術を持つ異世界の軍勢だかなんだかをこっちに引き込んでて、異世界人達との戦いが人知れず始まってる……なんて話も聞くんだけど、まんざら与太話って訳でもないのかもしれないのですよ。
このステルスでこそこそ忍び寄るやり口……こないだの鉤十字軍団とかに通じるものがあるのです……。
あれと案外根っこは一緒とかだったりするのかなぁ……。
ううっ、あの下品な罵声が蘇ってくる……エルトランが聞かないほうがいいって言ってた訳なのですよ。
ユリ……男性不信になりそうなのです……いっそ、記憶メモリーから永久抹消すべきかなぁ……。
でも、脳の記憶情報だけは、簡単には抹消できないのですよ……それが強烈な内容なら尚更。
ユ、ユリにエッチなことをしていいのは、ユリの未来の旦那様だけなのですっ!
それは、ともかく……。
潜行艦なんて、民生用もあるにはあるけど、エーテル空間流体面下の深部調査とか、デブリ回収とかそれくらいしか使われてない。
無音航行なんてやっても、危なっかしいだけなんで、その手の民生用潜行艦は派手に音を出すし、電波ビーコンでここにいるよーと全力でアピールするようになってるから、ステルス化して、コソコソしてて、銀河連合が把握してない艦なんてなると、まぁ……100%敵性艦だよね。
お目当ては……このロンギヌスって考えるべき。
さすがにこんな巨艦じゃあ、思いっきり目立つし、潜行艦なんかに張り付かれたら、対抗は難しい。
簡単に沈められたりはしないだろうけど、エスクロンとしても、色々機密情報てんこ盛りだろうし……この夕凪のラインで、食い止めないと面倒なことになりそうなのですよ。
「……夕凪ちゃん、追い払うとか、中途半端な事やってないで、しれっと沈めちゃえばいいんじゃないのです?」
国籍不明、敵性艦なら、もう対応としては、それでいいような気もするのですよ……。
エーテル空間戦闘艦って、この夕凪を見れば解る通り、基本的に人間なんて乗せて戦うことなんて想定してないし、警告は十分したんだから、それでも付き纏ってくるようなら、もう遠慮なんてしなくていいんじゃないかなぁ。
「撃沈っすか……。あっしもいっそヤっちまうべきだと思うんすけど。指揮艦の祥鳳からは、沈めずに警告程度で済ませるように言われてるんすよ……なんせ、反戦デモなんてやってる沖合で、実戦おっぱじめて、国籍不明の潜行艦を撃沈とか……反戦団体に喧嘩売ってるようなもんすよね」
うーん、むしろ、案外グルだったりするんじゃないかなぁ。
なんと言うか、タイミングが良すぎるのですよ。
そもそも、今回のロンギヌスのクオン寄港なんて、お姉さまの話だと、今日の明け方に決まって、巡察航行に出向こうとしてた永友艦隊に便乗する形でのドタバタでの緊急出港。
ノンストップでクオンに寄港するつもりで動いたにも関わらず、反戦団体に先回りされてたって話……。
そこで、足止めされてる間に、今度は国籍不明の潜行艦が湧いてくるとか……あまりに、都合が良すぎる。
「向こうもそう言うヌルい対応だから、調子に乗ってるんだと思うのですよ。威嚇のつもりが当たっちゃったって事にして、うっかりドーンって当てて、しーらないってやってれば、いいんじゃないかって思うのですよ。何より、この流域には公式には、ロンギヌスと永友艦隊しかいないって事になってるんですから。うっかり国籍不明艦沈めたって、国際法上問題はないのですよ」
我ながら、物騒な話だけど。
なんと言うか、完全にこっちを舐めてかかってる……そんな感じがするのですよ。
クリーヴァ社が調子に乗ってるのも、銀河連合がヌルい対応ばっかりしてるからだし、クオンでの一件もクオン政府が事なかれ主義で対応しようとしてるから、星系内に武装船が出てきたり、惑星上が無法地帯みたいになったりするんじゃないかなーって思う。
ダンさん達から、聞いた感じだと、クオンの地上ってホントに物騒で、惑星キャンパーは皆武装して、周囲に警戒ドローンやらを展開して、銃撃戦なんかもしょっちゅう起こってて、少なからぬ怪我人とかも出てるって話。
……エスクロンの管理区域外地域も原生生物だらけで、とっても物騒だけど。
まさか、ロボット兵団なんてのまでいたのは、驚きを通り越して、呆れた話なのですよ……。
そんなのを放置してるとか、いくら政府レベルでは推奨してないからって、どう考えてもおかしい。
今、自分でも気付いた。
ユリは怒ってるのです! そろそろ、クリーヴァいい加減にしやがれーなのですーっ!
……そう。
何気に、ユリちゃん、激おこだったりします。
彼女の行動がやけに、アグレッシブかつ、過激なのは、自分でも言ってるように、
いい加減、クリーヴァに対して、頭にきてるからです。(笑)