第二十話「強制電子介入(インターセプター)」①
「さすが、諜報界のビッグネーム、クスノキ・タイゾウさんの娘だけはあるね。詳しいねぇ……時々、極秘ミッションに動員されたとか言って、居なくなってたけど、そんな事してたんだ……」
あれ? アキちゃんたちには、そんな風に伝わってたんだ。
どうなんだろ……確かに、極秘の潜入ミッションじゃあるんだけど……。
そんな雰囲気じゃなかったなぁ……。
「極秘食べ歩きミッションなのです。お父さん割とグルメだから、色んな所のジャンクフードから高級料理まで、美味しかったのです!」
「ユリちゃんって、なんだか食べ物の話ばっかりしてるよね……私もお腹空いてきちゃう」
「リアルのユリも腹ペコなのです……でも、ご存知のように、施術後24時間は飲食禁止なのです……。せめて、VRで気持ちだけでも……アキちゃん、最近美味しいの食べなかった? ……気持ちだけでいいから、腹ペコユリに、お裾分けしてよー」
「ホントに、食べたり飲んだりした気になるだけだからね……VRご飯って……。でもそう言う事なら、ほら……懐かしの塹壕ご飯でも召し上がれっ!」
テーブルの上に、軍用レーション缶のセットと、合成粉末オレンジジュースとお饅頭の三点セットが並べられる。
タイプC……クラッカーとチョコソース、乾燥謎肉シートとお野菜シートの詰め合わせ。
何故か塹壕飯とか呼ばれてた不人気メニュー。
ちなみに、合成ジュースのバリエーションは豊富だったけど、何が出るかな状態だった。
おやつは……何故か、いつも和菓子メインで、お饅頭以外にも羊羹とか、おせんべも出た。
こしあん派とつぶあん派で喧嘩になったりとか、別の隊の人達とおやつ交換会が開かれるとかもあったなぁ……。
ちなみに、つぶあんのつぶは、小豆風味のゼリービーンズみたいなの。
ユリは……どっちみち合成品なんだから、シンプルにこしあんでいいじゃんって思ってた派なのです。
ちなみに、タイプAは、ラベル剥がすだけでほかほかになるご飯とお味噌汁と合成お魚ミートの和食セットで、一番人気!
選択性にすると、真っ先に消えて、争奪戦になると言う恐るべきメニューだった。
タイプBは細かく刻んだ麺のような何かに、付属のソースをかけて食べるつけ麺と称するモノ。
濃厚な味で、むしろご飯が食べたくなるけど、カチカチパンとか一緒に食べると、意外と美味しい。
どっちも見た目は微妙だけど、温められるので、人気はあった。
温かいご飯って重要。
エスクロンの地上世界でも、演習場近くに人家がある場合もあって、炊き出しとかしてもらえることもあったりしたから、大鍋囲んで皆で、カレー食べたりとかしたもんだ……懐かしいね。
軍隊ってのは、ご飯重要なのですよ……。
「タイプCって、なんか喉乾くんだよね……これ。でも、こんなでも研究所の貧相なご飯よりも、全然マシだったから、妙に美味しかったなぁ……懐かしい。そういや、お饅頭争奪戦とかも楽しかったね」
「地上戦演習は、ご飯タイムが一番の楽しみだったからねぇ……。シャワータイムもちゃんと男女分けて毎日だったから、むしろ収容所より、待遇良かったよね……地面の上で寝たり、塹壕掘りで泥だらけになったりとか、しんどかったけど。なんか、そう言うのもあったから、地上演習のハードさよりも、楽しかったって、印象のほうが強いよね……」
まぁ、そんな話を教官や別の隊の一般人の人達にしたら、同情されたりしたけどね。
ユリも教官さんに、お饅頭もらっちゃいました!
「でも、地上キャンプって、あんな感じなんだよ。地上戦演習から、塹壕掘りとか、軍事教練なくした感じ、露天風呂とか最高だったよー」
「……ちょっと待って、それじゃホントに御飯作って食べて寝るとか、そんなにならない? それって、むしろ、やる事なくって超暇なんじゃない?」
「本当に、そんななのですよ……でも、お友達と一緒なら、暇でも割と楽しいのです……温泉の裸の付き合いも……。って、チョット待って! これ……温泉のデータが再現されちゃってる! ……あ、あはは、ユリは別に今更、気にしないけど、他の子の裸とか……あんまじっくり見ちゃ駄目だよ」
ユリの記憶データからのVR再現……温泉入った事を思い出してたら、うっかりそのまま、皆の入浴シーンがVRで展開されちゃってるし! あわわわわっ!
こうやって見ると、フルオープンなお外にいるのに、皆、すっごい大胆……。
エリーさんが石鹸踏んで、ずっこけて、お尻打ったとこまで記録しちゃってた……派手に脚広げて……うわぁ……。
改めて見ると、色々恥ずかしいよ……これ。
アヤメ先輩がタオルお湯に浸けるのは、マナー違反とか言いだして、タオルで身体隠せなかったし、段々慣れてくると、皆、一緒だし、別に隠さなくたっていいやって思えてくるから、後半になるつれて、ユリ含めて、超大胆な感じになってる!
スナダさんとマリネさんとかも、裸で抱き合ってたり……。
こ、こんなのアキちゃんに見せてよかったのかな? 記憶データを片っ端から、VR化して再現してるから、何かのきっかけで連想ゲームみたいに表層意識に浮かんだ記憶も、がっつり再生されちゃうみたい。
これ……普通にVRサーバー使ってたら、AIが不健全判定出して、強制シャットアウトとかされてそう……。
もちろん、男の人には絶対見せられない……もし見られたら、ユリ、セルフシャットダウンかけます!
「こ、これが露天風呂……うわぁ、ホントに皆、お外なのに裸で堂々としてるし……」
アキちゃんめっちゃ見てる……。
ううっ、自分の裸なら、アキちゃんにはしょっちゅう見せてたから、抵抗感もないけど……。
知り合いや友達のを問答無用で見せるとか……なんだか、とってもイケない事してるような。
でもでもぉっ! 止め方とか解んないし、どっちみちこの記憶映像データはアキちゃんと共有しちゃってる……うん、もう開き直ろうっ!
「あはは……。ユリも凄く恥ずかしかったんだけどね……。このエスクロンとは違う星空……それにこの広い地上で、遮るものもないって……凄く気持ちよかったのですよ。あ、ちなみに外から見たら、ちゃんと偏光ミラーシールドが張ってあるので、全然見えないから、外から覗かれたりとかはしないんだって!」
「あ、なんだ……そう言うことか。てっきり、ホントにお外で裸でーなのかと思ったよ。確かによく見たら、これ……光度補正とかかけてるね。これなら、安心安全だね! ……で、でも、私も露天風呂とか入ってみたいな……皆、すっごい楽しそう。今度、その地上キャンプ誘ってよ……私も第三課の人に相談して見るから、ユリちゃんばっかりずるーいっ!」
良かった……アキちゃんには好評だったらしい……。
あ、でも……アキちゃんと地上キャンプ……いいかもっ!
地上キャンプもだけど、一般人の皆との交流なんかもきっと、アキちゃんにとってもプラスになると思うのです!
「アキちゃんなら、きっと宇宙活動部の皆も歓迎してくれるのですよ!」
「……そうかな? うん、楽しみーっ! うふふ……ユリちゃんっ!」
「アキちゃんっ!」
そう言って、再び二人して熱い抱擁を交わし合う。
とまぁ……そんな感じで、アキちゃんとの話がとりとめなく続いていく……。
よく二人共こんな話のネタがあるもんだと、感心しちゃう。
クオンに来た頃から、クオンのコロニーとエスクロンの通信の機密保持には、問題があるとは言われてて、クオンにいる間は、アキちゃん達強化人間との連絡は、避けるようにしてたから、色々募る話ってのがあるんだよね……。
「……あ、まただ」
話を続けてたら、アキちゃんが不意にいぶかしそうにする。
「何かあったのです?」
「ユリちゃんは、気にしなくていいと思うんだけど。一瞬、ロンギヌスの艦内と防衛システム群が警戒態勢にシフトして、すぐに平常モード戻したみたい……。さっきから、こんな調子なんだよね……何だと思う? ホントに瞬間的にだから、私くらいしか気付いてないと思うけど」
どうも、時折、警報みたいなのが鳴ってるらしい。
さすがにこの部屋で、赤ランプとサイレン鳴らすような事はしないみたいで、現実側に感覚を戻しても、部屋の様子は至って静かなもの。
でも、ここは、戦争状態にあるエーテル空間……それも洋上停泊とか、本来あまり推奨されない状況。
コードイエローだから、すでに准戦闘体制の一歩手前……警戒態勢。
そこでアラート直前ともなると、敵影感知とかそんなかなぁ……ちょっと気になる。
さすがに、エーテル空間戦闘機に乗ったことがあると言っても、エーテル空間の人類の敵……黒船と直に相対したなんて経験はない。
VR環境での空戦演習でなら、1対100みたいな状況で空戦無双したりとかしたけど……実戦とVR環境は、全然別物……それくらいはユリだって、弁えてる。
「……警戒シフトとか、穏やかじゃないのですよ……詳細、解らないかなぁ?」
「私もさすがに、このロンギヌスでは、ゲスト権限しか持ってないんで、良く解らないんだよ……ごめんね」
良くも悪くもユリ達はお客さん……周辺状況の詳細情報とか、教える必要もないってことかな。
ユリ達にも解るように、警報流すとしたらそれはもう、いよいよの時。
脱出艇も兼ねたシェルタールームへ避難誘導されて……とか、そんな感じになると思う。
でも、暇だし、なんか気になるなぁ……こんな身動きもままならない状況で、戦闘とか始まったら、さすがに嫌過ぎるのですよ。
それに……なんだか、無性に落ち着かない。
この背筋がゾワゾワするような感覚……VR戦場でヤバイのと出くわす時とか、そんなのに似てる。
実際、いるからね……めっちゃ手強い空戦パイロット……H・ルルカさん。
あの人とカチ合うときって、もうログインする前から、なんか解るんだよね……ああ、今日は来てるなって。
でも、考えてみたら、最近似たような感覚を経験してる……あのステルス艦が背後に迫った時のだ……コレ。
それも、出港前、エトランゼのコクピットに収まった時点での、なんとなく落ち着かない感覚。
あ、解ってきた……これって、嫌な予感って奴だね。
うん……このまま、じっとしてるとか無理なのです。
「アキちゃんって、強制電子介入システム持ちだったよね? ロンギヌスの情報システムに、シークレットアクセスしてみれば?」
……ユリに出来ないことでも、アキちゃんなら出来る……アキちゃんは電子戦闘特化型の強化人間。
こう言う時は、素直に他人に頼る……アキちゃん達、第三世代の仲間達はこう言う時は、もう問答無用で頼りになるのですよ。
「ああ、そっか……出来なくもないのか。でも、インターセプトシステムなんて、勝手に使って怒られないかなぁ……」
「エスクロンでは、ハッキングを防げないほうが悪いんだから、バレても大目に見てもらえると思うのです。そもそも、バレなきゃ問題ないのですよ……。それに、なんか嫌な感じがする……こう言うときって、大抵何かあるんだよね」
酷い論理だけど、実際そんなもん……最先端を走り続けるには、試練が必要って事で、本当にそんな例が多数存在してるのが、エスクロンと言う国のお国柄なのですよ。
ユリにはそこまでの真似は出来ないけど、アキちゃんなら可能。
ちょっと申し訳ないけど、この感覚は多分良くない事が起きる……。
こんな時に、座して見てるだけとか、あり得ない。
せめて、情報が欲しいのです。
ここは、アキちゃんに動いてもらう……アキちゃんも、ユリの抱いてる漠然とした危機感については理解したようで、真剣な面持ちになってる。
「解った。そう言う事なら、アキにお任せだよ!」