第十九話「電脳妖精秋葉ちゃん」②
「ユリは……クオンで、遊んでるようなものなのですよ? 多分、クスノキ家自体の社内の格が上がったからとか、そんな理由かも? それか……皆が頑張ったから、価値が認められたとか……」
第2世代強化人間も軍関係に随分進出して、数多くの実績を打ち立てているようだけど、第3世代は更にその上を行くスペックを備えている……実はなにげにあっちこっちの部署から、先行スカウトみたいな感じで、接触があるって話も聞いてるし、極秘ミッションへの投入実績もすでにあるって噂も聞いてる。
アキちゃんなんかも、第三課……諜報部門へ配属されることが内定してるんだとか……。
もっともまだ、皆未成年だから、実戦投入されたのは……ユリくらい。
未成年の戦場での戦闘行為は、銀河連合条約で明確に禁止されてるから、ホントはバレたら一騒ぎになりそうなものだけど、非公式扱いで内々で処理するから、あんまり公言とかしないように言われてる。
公式には、ユリはあの場に居たけど、何もやってないってことになってる。
表向きには、エルトランが苦し紛れにレールガンバラ撒いたら、たまたま運良く流れ弾が当たったって話になってるんだとか……。
そんなのはっきり言って、天文学的確率なんだけど……もう、それで押し通すらしい。
実際の所、戦果と言っても、そこまで御大層なもんじゃないと思うな。
未来予想システムとか、全然実戦レベルじゃないのを、無理やり使わせてもらったけど。
それもあれが最善だったから……。
皆に気付かれずに、一方的にバックマウントポジションを取られた状態で、敵艦を撃退するとか。
他の方法は、思いつかなかった……。
他に堅実な方法があったとは思うんだけど、一応、最終的にあれが最善かつ、最適な行動だったと評価されているみたい……。
とは言え、ユリとしてはちょっと微妙だったかなって思わなくもない。
ユリが独断で決めて、上層部の後追い承認みたいになっちゃったけど、アレは本来、ユリから上層部に行動指示を仰ぐべきだったのですよ……。
もちろん、遥か遠くの宇宙の彼方で、後方の上層部が現場の状況を正しく把握して、最適な判断が出来たかとなると、あの状況では甚だ疑問なのだけど……。
一応、行動マニュアルでは、宇宙空間での戦闘時は後方の指示を待っていたら手遅れになるから、独断専行で構わないって規定されてるし、結果的にベスト対応って事で大目に見てもらえたんだけど……今後は、気をつけようっと。
「こっちも、そんな御大層な事やってないよぉ。皆、基本的に座学やVR訓練、演習参加とかそんなのばっかりだし、私なんか、ようやっと第三課……ユリちゃんのお父さんのとこでの仕事に向けて、訓練……じゃなくて、業務研修が始まったとこなんだよ。今はむしろ、普通の一般人に紛れ込む訓練とか言われて、手始めにVRゲームの世界に紛れ込んで、街の人役やったり、福利厚生部に出向してコンビニでアルバイトさせられたりとか、そんな調子。むしろちょっと楽しくて、こんな事やってていいのかなって思うんだけど……」
ああ、第三課の潜入工作VR訓練……ホントに導入したんだ。
ちょっと前に、お父さんが珍しく一緒にゲームやろうとか言い出して、一緒にやってみたんだけど。
モンスターとの戦闘とかよりも、町中歩いたり、NPCとかPCとお喋りしたりとか、そんなことばっかり、熱心にやってて、これは使えるとか何とか言ってたけど……そう言う事だったんだねー。
でも、コンビニのアルバイト! いらっしゃいませーってやるんだよね。
ユリもちょっとやってみたいかも……? 確か、新製品とかお弁当の売れ残り貰えたりするんだよね……。
「アキちゃん、楽しそうなのですよ。でも、皆の待遇が良くなったんであれば、良かったのですよ」
「うふふ、そうだね! でも、ユリちゃん……宇宙空間戦闘やって、宇宙海賊を返り討ちにしたって聞いてるよ? それも最新鋭の未来予測システムまで、使いこなしたって……。これまでシミュレーション上でしか試してなかったのに、いきなり実戦でそれも完璧に使いこなしたって……やっぱ、その辺が認められて、第三世代ってスゴイってなったんじゃないかなぁ?」
「またまたぁ……さすがに、それはないのですよ。そもそも、一昨日の話なんだから、それはないない。ユリはお友達を守りたかっただけ。あの時、誰が頑張ったかってなると、管理者の人達があそこで迷わず即決してくれて、速攻でバックアップシステムを構築してくれたから、だと思うのですよ。ユリは後方システムとの連携とエルトランへの指示をしただけなのです……」
……実際にあの場で戦ってくれたのは、エルトランなのは間違いない。
複雑極まりない未来予測シミュレーションによる、未来の敵との戦いとも言えるあの状況で、極めて低い誤差での正確な攻撃を実施してくれた。
さすが、老練なティア2クラスAIだけのことはあるのです。
……並のAIじゃ、あそこまでハードなリクエストにはとても、応えられない。
それに、システム自体の完成度も試作段階よりも、数段上の完成度になっていた。
以前の未来予想精度なんて、50%程度だったのに……ほぼ確定なんてレベルまで引き上げられていたのだから、すごい話なのですよ。
なにか画期的な技術ブレイクスルーでも起きたのではないかと思われるのだけど、そこら辺は追求するようなものじゃないって、ユリだって弁えてる。
エリコお姉さまが中心となって、未来予測システムの開発を進めてたって話は聞いてたけど。
あそこまでの完成度を実現させていたってのは、ユリもびっくり!
ユリ本人は……中継役程度の役目しか果たしてないのですよ……。
「……けどさ。ユリちゃん、前もエーテル空間戦闘機の開発に色々協力したりしてたし、クスノキ家の人達も色々ロビー活動とかして、私達、強化人間の価値を高めてくれたってのは、確かじゃないかな? 他の皆のところにも色んな部署から、成人したらうちの部署に来ない? なんてスカウトが連日押し寄せてきてるみたいなんだよね……前はその辺、第七課が取り仕切ってたけど、CEO直々の命が下って、情報も社内へバンバン開示されてるし、私達本人の自由意志ってのを、汲んでくれるようになってるんだよね」
さすがに、それは初耳だったのです……。
以前は、強化人間本人の希望とか適正とか、そんなのは無視して、当初の設計仕様に基づき、強化改造が進められていって、最終配属先が決定していたのだけど。
ユリなんかは、最前線の戦闘コマンドや、戦闘艦艇中枢ユニット……のはずだったんだけど、どうなるんだろうね。
エリコお姉さまのお手伝いとかなら、それはそれで悪くないけど……。
けどなんで、CEOなんて、大物中の大物が動いてるんだろう?
確かに、あの時もCEOの声掛けで、割と無茶振りだったのに、未来予測システムの使用承認が降りたようなもんだし……。
ちなみに、名前も知らないし、顔も知らない。
君臨すれど、統治せずを地で行ってるって話は聞いたことあるけど……。
けど、明らかにユリ達強化人間に、肩入れしてくれるような感じだから、不憫に思って味方になってくれたのかもしれない。
もしそうなら、ユリ達強化人間の未来もそう悪くないかもしれない……。
機会があれば、第3世代強化人間の連名でお礼の一つくらい言ってもいいかもしれないな。
アキちゃんとそんな話をしたりしているうちに、とりあえず、改修作業も無事終わったようだった……。
本当に、痛いのも恥ずかしいのも無かった……施術時間も半日はかかると思ってたら、設備も充実してて、腕利きの技術者を揃えてたみたいで、びっくりするほど、早く終わった。
……なんとたったの三時間! いつものは何だったのって言いたくなるほどの、スピード対応!
と言うか、いつもは素っ裸で体の中むき出し状態で放ったらかしにされたりとかザラだったんだけど、そう言うのもなかった。
いつも、こうだったら、メンテが近づいても憂鬱にはならないんだけどね……。
続いて、ラボのウォーターベッドで寝っ転がりながら、最終調整プロセスに入る。
と言っても、別にユリは何もしなくてもいいし、技術者が付きっきりで監視とかそんなこともない。
身体システムと、集中投与されたナノマシン処置による完全自動化によるキャリブレーションと言われる工程なので、時折ちょっと右手上げて、下げてーとか、そこら辺ぐるりと歩いてーとか指示されるので、大人しく言うとおりにする感じ。
さすがに、キャリブレーションが不十分だから、クラクラしたり、ヨタ付いたりもするけど、介助ロボットが付きっきりだから、転びそうになっても支えてくれたりもする。
けど、基本的には暇……あんまり、動き回ったりもしちゃいけないし、飲食なんかも消化器官システムへの余計な負荷をかけないために、最終調整が終わるまでは禁止……点滴チューブ経由で、カロリーや水分補給はされてるので、お腹は減らないんだけど、口さみしいのと暇なのはどうしょうもない……。
ボケーとしながら、TVとか眺めたり、電子コミックのデータを取り寄せて、読んだりとか出来るから、暇つぶしには困らないんだけど……やっぱり、これはこれで辛いなぁ……。
昔は平気だったんだけど……なんだかんだで、一人でいる時間が無くなったから、いざ一人になると暇とか思うようになってしまったのですよ……誰かとお喋りしたいな……。
「ユリちゃん、お邪魔するよー。いやぁ、やっと面会許可が降りたよー! お疲れ様! 最終調整中だから、暇だったでしょ」
……そんな感じで暇を持て余してたら、アキちゃんがナイスタイミングって感じで、直接会いに来てくれた。
猫耳帽子とゆるふわワンピース、靴もおしゃれでとっても可愛い!
なんか、わざわざくるくる回って、ポーズまでキメてくれる。
思わず拍手!