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第十九話「電脳妖精秋葉ちゃん」①

 そんな訳で……。

 お姉さまのお目付け付きで、第七課職員による定期メンテが実施される事になった。

 

 いつもは、凄く事務的で機械相手にしてるような態度の研究員も、エリコお姉さまの目があるせいか、今日は何時になく優しい感じで、「痛くないかい?」とか「脚部コントロールアウト……準備良い?」とか、細々と声掛けまでしてくれてる。


 いきなり、首から下の身体接続をシャットアウトとか乱暴なこともしないし、問答無用で全裸にされたりとかもない。

 

 いつも研究員の人達は、効率優先だから、頸部シャットアウトをまっさきにやるんだけど、こっちとしてはいきなり、身体が無くなるようなもので、かなり怖い……。

 

 実際、あれって被施術者の精神的負担が大きくて、精神に異常をきたしたような事例だってあるくらいには、危険だって言われてたんだけどね。


 あれをやらないでくれるというのは、ちょっとありがたい……。

 正直、嫌だったんだよね……いきなり、生首にされるのって……。

 

 ギロチンにかけられるのって、こんなのかって思ったりもする……怖すぎるでしょ。

 

 それに、いきなり裸にされるのも……いくらそう言うの慣れてるからって、私だって女の子だから、恥ずかしい……。


 今回は、なんだか女性スタッフが付きっきりだし、お姉さまも別室でモニター監視付き……今も裸で施術台に乗せられてるけど、ちゃんとシーツで身体を隠してもらえてるから、そこまで恥ずかしくない。


 なんと言うか……ものすごーく気を使ってもらっちゃってる。

 

 ……と言うか、メンテナンス要員の人達、いつもの顔ぶれと違う感じ。

 そもそも、スタッフ数がめちゃくちゃ多い……。

 

 いつもは、2-3人くらいで事務的に無言で作業してたのに、今日は10人位いて、細かくチェックや確認しながら、慎重にやってるのが解る。

 

 第三世代強化人間自体の待遇がめちゃくちゃ良くなってるって話は本当らしい。

 その辺は、同期の強化人間の子から、時々メールで連絡が来てたから、聞いてはいたんだけど、ここまでとは思わなかった。

 

 と言うか、身体動かせなくて、暇だなぁって思ってたら、その同期の子がオンラインで接続してくれて、さっきから話し相手になってくれてる。

 

 なんでも、お姉さまと一緒に同行してきてたとかなんとか。

 

 今回は、頸部シャットアウト無しのペインオフだけで行くらしく、体の感覚自体は、あるんだけど、勝手に動かしたりは出来ないし、やることもないから、これはこれで暇だなーって思ってたら、そんなサプライズが起きた。

 

 色々世間話とか、近況報告とか他愛のない話だけど、向こうもメンテナンス中の心細さは解ってるから、嫌な顔もせずに付き合ってくれてる。

 

「……そんなに、待遇良くなってるんですか? アキちゃん達」


 非言語コミュニケーションモードで、交信中……私自身は、微動だにしてないし、声も出してないけど、相手も同じ強化人間なら、これが一番手っ取り早い。

 

 彼女は、秋葉あきはちゃんってコ……本来は、社員コード560018Aなんて、名前だったんだけどね。


 何となくそれじゃ呼びにくいから、同じ強化人間の子同士で名前を付けて、そう呼んでるうちに、定着した。

 

 この子は、完全に初めから強化人間にする前提で、遺伝子レベルでの強化が行われてるデザインチャイルドベース。

 機械系による身体強化メインで、直接戦闘や操艦ドライバー用途を想定された私とは、全く方向性が違う。

 

 確か、敵地への潜入情報収集工作が、想定主任務とか聞いてるんだけど、精巧に作られた人工臓器や人工生体パーツなどで、身体構成されてて、実質生身と変わり無いんで、戦闘力とかは控えめ。

 

 外観上はもちろん、スキャンしても、普通の人間と見分けなんて付かない。

 

 なんだけど、各種増強ハードを装備することで、身体能力を飛躍的に向上させることが出来る上に、ベースからして、反射神経とか動体視力、演算能力とかは一般人とは比較にならないくらい強力。

 

 対電子戦闘や電子侵入なんかもお手の物で、その手の事に関しては、同期トップクラスの逸材だった。

 

 要するに、基礎身体能力は低めに抑えて、ソフトウェアを強化した上で、外部ハードウェアアプローチで能力増強するタイプの強化人間。

 

 パワードスキンや外部装甲などによる強化歩兵とかと同じなんだけど、各種ハードウェアとの親和性を高めてあるので、その気になれば戦闘艦の操艦とかだって出来る。

 

 もっとも、そっち方面になると、むしろユリには及ばない感じなんだけど……。

 

 機械ベースで出来るだけ、人間に近づけながら、個体戦闘力や生存性を追求したユリとは、アプローチ自体が違うから、向き不向きがあるのですよ。

 

 ユリは、外観の時点で目立ちすぎるから、潜入工作とかは無理があるし、対電子戦闘とかもそこまで得意じゃない。


 防壁や攻性ウイルス対策なんかも、基本は演算力の力技で対抗するって感じ……エレガントさには欠けるね。

 

 ……こんな感じで、第3世代強化人間と言っても、個体差はかなり強いし、様々なアプローチが試みられている段階でもあるのですよ。

 

 秋葉ちゃんは、ショートカットで、割と大人しい感じのコで、同室だったから、戦闘訓練とかだといつも同じ班になって、年も近い女の子同士って事で、割と仲良かった。

 

 なんでも、わざわざ私に会うために、同乗してきたんだとか。

 

 なお、完全にむこうのワガママだったんだけど。

 お姉さまの計らいもあって、許可が降りたって話なんだけど、そんな個人のわがままがさらっと実現出来たって辺り、ずいぶんな待遇改善と言えた。


「そうだよぉ……。私達って、モルモットとかと同じような扱いだったのに、急に普通に人間扱いされるようになってね。ユリちゃんがクオンに行っちゃった頃くらいからかな。ご飯も栄養凝縮剤とか味気ないのじゃなくて、普通に美味しいのが出るようになったし、宿舎も移されて、個室になって、トイレやお風呂は共同なんだけど、お風呂もホテルとか旅館みたいな大きいのになって、皆、びっくり! ユリちゃんがすごい実績でも打ち立てて、そのおこぼれなんじゃないかって、皆言ってるんだけど、そうなの?」


 そんなになってるんだ……普通に驚いた。

 

 ちなみに、ユリ達強化人間の収容施設は、自由に外出もままならないし、男女一緒で四人一部屋とかそんな感じだった。

 

 その辺は機密レベルが高いから、ある程度はしょうがないんだけど……男女一緒ってのは、さすがにちょっと困った。


 着替えとかの時は、男の子たちが気を使ってくれたりとかしたけど、女の子には女の子なりのプライバシーとかある訳で……。

 

 自分達でカーテンとかで仕切り作ったり、色々工夫して、共同生活が成り立ってたって感じだった。

 

 お風呂とかも……汗とかあんまりかかないし、ナノマシンによるメンテナンス機能で、着たきりスズメでもそんなに汚くなったりはしないからって、たまにシャワーが許されるとか、そんな感じで……しかも、男女纏めてとか、酷いセクハラ環境だった! 


 服なんかも普段は病院の患者服みたいな感じで、オシャレなんて許されてなかったし……。

 

 おまけに、ご飯と言えば、基本、栄養凝縮剤や高カロリー補液剤……錠剤やゼリー飲料を水で流し込むとか、戦場ご飯のほうがマシな有様だった。

 

 この辺は、普通の食事をすると消化器系に余計な負担がかかるからって、もっともな理由もあるんだけど、やっぱり味気ないご飯ってのは、辛いのですよ……私達、強化人間はロボットじゃないのです……。

 

 もっとも、ユリの場合、途中から普段は、実家で生活することが許可されるようになったから、そこら辺は随分マシだったんだけど……。

 

 この辺は、ユリの扱いの酷さを聞きつけたお父さん達がブチ切れて、クスノキ家の重鎮や第三課の若い衆やらをゾロゾロ引き連れて、第七課に殴り込みに行ったからとかなんとか……第七課の課長と第三課課長のお父さんの間でどんな話し合いがあったのか知らないけど。


 そこら辺から、実家から研究施設へ通う用な感じになったし、強化人間の待遇改善について、真剣に議論されるようになったって話は聞いてた。 

 どうも、アキちゃんの話だと、あれから、他の子達も随分と待遇が良くなったようだった。

 

 実際、アキちゃんも可愛らしい服で来てるらしくて、めっちゃ嬉しそうに外観イメージを見せてくれた。

 フリフリのワンピースに、猫耳の帽子……すっごく可愛い。

 リアルで会ったら、真っ先にむぎゅーしちゃおうっと!

 

 もっとも、ユリの件があってからも、第七課側は費用対効果がどうのと言って、抵抗してたって話も聞いてる。

 曰くユリ達は、あくまで兵器システムの一環であり、過酷な生活環境に普段から慣れておく必要があるとか何とか。

 

 そう、二言目にはコスト、コスト……強化人間の維持には莫大な資金がかかるのは解るんだけど……まともに人間扱いして欲しいってのは、皆共通の要望で、社の第一線で活躍してる第一世代や第二世代の先輩方からも、要望として何度と無く言われてはいた事だったんだけど……。

 

 第七課の人達は社運をかけたプロジェクトに、外野が口出しをするなとか何とか言って、全然、聞いてくれなかった。

 実際、男の子達なんかは、何人かで反乱でも起こすかとか言って、物騒な計画したりもしてたんだよね……。

 

 実際問題、強化人間……それも直接戦闘タイプなんてなると、生身で戦車と戦えるような仕様の子だっていたから、反乱だってやろうと思えば、不可能じゃなかったんだけど。

 

 それやったら、私達強化人間の居場所がなくなってしまうからって言って、何とか説得出来たんだけど……ほんと、洒落になってなかった。

 

 けど、そんな調子だったのが、手のひら返したように、こんな風に第3世代をまとめて、厚遇してくれるようになったとなると……。 

 ……やっぱり、クスノキ家の圧力もあったんだろうけど、エリコお姉さまが出世した影響なのかなって思ったりもする。

 

 エスクロンって、血縁をすごく重んじる傾向があって、社に多大な貢献をしたものは、一族レベルで優遇されるようになるってのが、伝統だったりする。


 と言うか、一方的に各部署から忖度されて、一族まとめて待遇が良くなったり、発言力が急増するのですよ。

 

 なんせ、私のメンテのためだけに、社にとって、超重要であろう最新鋭拠点艦「ロンギヌス」が出張ってくる。

 この時点で、破格の待遇……実際、最初冗談かと思ったくらい。


 なにせ、お姉さまの実績は普通にスゴイ。

 ……スターシスターズと再現体任せだった、エーテル空間の戦いに、史上初の本格的な人類製兵器の投入と言う形で参入し、大成功を収めた。

 

 ……相応の戦果を上げたことで、エーテル空間の戦争へエスクロンが介入する大きなきっかけを作り、その後も数々の技術支援と言う形で、エーテル空間戦闘艦の戦闘力の向上に大きく貢献し、エーテル空間戦闘兵器開発の第一人者と呼ばれるほどになった。

 

 その身内が冷遇されているとなれば、色んな部署から圧力がかかっても何ら不思議じゃない。

 

 一人だけ厚遇とかそんなの逆効果だから、強化人間の将来性も鑑みて、第三世代全員の待遇改善の上で、懐柔策に出た……そんな感じなのかも。

 

 もちろん、単純にクスノキ家や上の方から、第七課に資金援助が行われたとか、そんな理由かもしれないけど。

 いずれにせよ、少なくとも私が何かやらかしてとか……そんなじゃないと思うな。


 ちなみに、この「ロンギヌス」って、なんでもエリコお姉さまの専用ラボやら、建造ドッグやら製造プラントまであって、限りなくエリコお姉さまが率いるエーテル空間兵器会開発局の移動拠点みたいな感じなんだって! さすがお姉さま……。

宇宙駆け本編でも少し触れてますが。

ユリコは、演習で大佐を落とすとか、化物っぷりをすでに発揮してます。

彼女の適正は、先読みの鬼……まさにニュータイプ。


その辺もあって、エスクロンの上層部が、他の第三世代強化人間の実態調査をしたら、どいつもこいつも化物だらけって事に上層部も気付いて、大慌てて待遇改善を図った……なんて裏事情があります。


当然、この秋葉ちゃんも、宇宙駆け世界でも有数のおばけハッカーです。

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