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第十八話「放課後うぉーず」②

 なんだか良く解らないけど、やたら敬意を抱かれてるらしく、それまでだらしない姿勢だったのに、ビシッと背筋を伸ばして、敬礼までされてる。

 

 後ろに居たやっぱり似たような顔した青いのと緑のも、同じように立ち上がってビシッと敬礼。

 

 んっと……緑の子が疾風と青い子が追風? どちらも所属は銀河連合軍、永友艦隊所属……。

 夕凪と朝凪は、二人とは姉妹みたいな関係らしい……艦自体も外観や装備も、ほとんど一緒。


 とりあえず、手を振ってみると、揃って振り返される。

 

 なんか、この子達、むやみに可愛いな。

 

「エリコお姉さま……この子達、何の話してるのです?」


「あ、そっか。言ってなかったっけ。ユリちゃんのVR戦闘データを、この子達のVR対空戦闘演習のアグレッサーファイターに試験導入してるのよ。そしたら、この子らネットワークにデータ出回しちゃって、スターシスターズの間で、全然勝てない難敵ってことで、凄く評判になってるのよ」


「そうなんすよ! 対艦戦闘アグレッサーでは、あの鬼強初霜ちゃんデータがあっしらの間では有名なんスけど。対空戦では白い鴉を攻略すべしってのが、最近のトレンドワードなんすよ!」


 どこのトレンドワードなんだか……どうにも、話が見えてこない。

 うにゅにゅにゅにゅー。


「……さっぱり、話が読めないのですよ?」


 ……以前やったバイト。

 

 新型エーテル空間戦闘機ゼロ・スナイパーのテストパイロット業務……確かに、仮想敵……アグレッサー役もやった。


 エーテル空間空母とその艦載機相手に、VR戦闘や実機での模擬戦とか、何度かやったのも確かなんだけど……白い鴉ってなに?

 

 話の流れ的に、どうもアレの延長線上で、戦闘データに色々盛られて、独り歩きしてるっぽかった。

 

「ユリちゃん、ごめんね! 勝手にデータ使って……けど、あのデータのおかげで、エーテル空間戦闘にブレイクスルーが起きるんじゃないかって、そんな事になってるのよ?」


「またまたぁ……。ユリの戦闘データとかあくまで、補助的なものだと思うのですよ。お姉さまの作った戦闘機が高性能なんですよ。さすがですよね! お姉さまっ!」

 

 ゼロスナイパー……エスクロン純正のエーテル空間戦闘機の決定版とも言える新型機!

 

 VRやら実機のテストパイロットとして、実際に乗せてもらって、エーテル空間でアクロバット飛行とかやったりして、色々アドバイスとか無茶ぶりしまくったせいで、先発のアドモス社製の戦闘機と比較しても、断然高性能な戦闘機となった。

 

 エーテル空間ってのは、とっても難儀な空間で、一般的な地球型惑星の大気と比較すると空気の粘性が高く、一言で言えば重たい……その為、エーテル空間飛翔体ともなると、もう素材レベルからの研究とかから始めなきゃいけなくて、モノすご~く苦労したらしい。

 

 おまけに、空気が帯電しまくってる関係で、一般的な大気圏内飛行用の水素ジェットエンジン系は、ほぼ使い物にならないのですよ。

 

 大抵、水素ガスが異常燃焼を起こして、あっさり吹っ飛ぶってのが通例。


 なので、ジェットエンジン系はとっくの昔に諦めて、レシプロ式の推進機関を使うようになってる。

 それも、ふるーい内燃機関エンジンとか、電動モーターを使ってって感じ。

 

 そう言う事情もあって、エーテル空間の戦闘機はプロペラ機が主流なのですよ……。

 

 プロペラ動力の飛行機って、コストが安いとか、電動オンリーでも使えるって事で、速度を重視しない用途……観測用とか民生用でなら、惑星上での運用実績もあるにはある。

 

 もっとも、宇宙空間を亜光速で飛ぶ戦闘艦なんて代物が存在するにも関わらず、エーテル空間の戦闘機に関しては、はるか古代、600年前と同レベルというから、全然笑えない……。


 もう、そんなの技術継承もなにもないから、ホントにイチから研究し直し……それが実情。

 

 当然、プロペラ推進自体の限界が技術的な壁となっていて、エーテル空間戦闘機は、かろうじて音速ギリギリとかそんな調子。

 最近では黒船の空間飛翔体も音速で飛んで来たりするようになってるので、空の戦いにおける優位性が怪しくなってきてるって話も出て来てるのですよ……。

 

 一部では、ロケット推進の機体も作られてはいるのだけど、ロケット式はとにかく、燃費がよろしくないので、インターセプター機とか拠点防衛用くらいにしか使えてない。

 エスクロンの拠点防衛用ロケット迎撃機の「Kazakami」シリーズなんかも、ロケット機の一種。


 けど、「Kazakami」シリーズもエーテル空間内でのレールガンの有用性の証明と、スターシスターズに頼らない人類独自技術によるエーテル空間戦闘機の先駆けと言う意味では、立派に役目を果たしたと思うのですよ。

 

 一方、ゼロ・スナイパーは、エスクロン自社開発の最新技術……プラズマジェット推進機関を使った……言わば、宇宙戦闘機の大気圏内仕様機のようなものとなっているのです。

 

 ちなみに、これは……荷電粒子砲を後ろ向きに放ちながら、推進力にする……そんな例え方をされるような代物。


 エーテル空間内でのプラズマ流体制御に色々問題があって開発が難航してたのだけど。

 アドモス社からの技術提供で、エーテル空間仕様の荷電粒子砲の独自開発に成功したことで、副産物的にプラズマジェットエンジンの開発にも成功し、それらを応用したエーテル空間空母艦載機として開発された……そんな経緯があったのです。

 

 要するに、エーテル空間戦闘機としては、破格の超高性能機なのですよ。 

 そりゃ、今までのプロペラ機を相手にする感覚では、歯が立たないのも当然だと思う。

 

 ただし、ガワについて、言わせてもらえば、物凄く古臭い……びっくりの骨董品、それ以外の何物でもない。


 ……なんでも、はるか古代の戦争で使われたゼロ戦って飛行機の形をしてるんだそうな。

 

 この子達頭脳体って、大昔の水上艦艇をベースにしてる関係で、外観も古臭くて非効率的な当時の外観に拘る傾向があって、搭載する艦載機も同時代のゼロ戦がベスト・オブ・ベストとか、ワガママ言ってて、そのリクエストに合わせてる感じで、こうなったんだとか。

 

 一応、プロペラも付いてるんだけど、むしろ飾り……。


 空力学的にも問題があって、単なるデッドウェイト……。

 こんなの要らなくない? って当然のツッコミを入れて、一度は撤去されたんだけど……。

 

 プロペラのない飛行機だと、何故か、墜落事故が多発したとかで戻したらしい。

 

 飛行機を遠隔操縦してる空母頭脳体の子とも話した事もあるんだけど、プロペラがない飛行機が飛ぶほうが不思議ーとか、意味の解らないことを言ってた。

 

 そんな感じで、半信半疑で無理くり制御しようとするから、うっかり制御ミスって着艦に失敗して、空母の甲板に大穴開けちゃったり、後ろ飛んでた機体にプラズマジェット直撃させて、フレンドリーファイアとか、そんな調子で割とグダグダ。

 

 そのくせ、飾りのプロペラ付けただけで、別に機能して無くても、事故率が劇的に下がったって言うから、もはやおまじないの領域……。

 

 けどまぁ、AI特有の変なコダワリって奴だろうから、あまり言っても詮無きこと。

 ユリはそう思うようにしたのですよ。

 

 もっとも、ユリはそれなりに携わったけど、所詮は高校生アルバイト。

 主に担当したのは、自宅から接続した上での遠隔VRでのテストパイロット程度に留まったはずなのです。


 ユリの戦闘機動データを元に、無人戦闘ドライバを作成して、それをベースに空母頭脳体が自分用に最適化するって手法で戦力化して、いい感じに仕上がった……何て話を聞いてる。

 

 でも、そんな無敵アグレッサーとか、いくらなんでも大げさな話だった。

 

「お姉さま……。VRで無双したって、リアルじゃただの人……なんてのは普通じゃないですか。パラメーターの補正値次第で汎データがルナティック級になるとか、良くあると思います」


「……そりゃ、確かに、空母祥鳳が頑張って最適化してくれたのもあるんだけどね……。ユリちゃんのテストフライトデータや、色々してくれたアドバイスが凄く効いてるのは事実なのよ。もう、アドモスのカドワキさんとか知ったら、涙目でしょうね」


 アドモスのカドワキさん。

 ああ、あの騒がしい人だね……一応、知ってる人。

 

 ……なんでもお父さん共々、クリーヴァの人質にされてるって話も聞いてる。

 おかげで、アドモスは主幹技術者と、トップの不在で色々技術開発とかが滞ってるって聞いてる。

 

 その関係もあって、エスクロンはエーテル空間戦闘兵器開発のトップを走る企業として、今一番熱い視線を注がれるようになってるらしかった。


「ユリは、大したことしてないのですよ? お姉さまが天才だから……ユリはそう思うのですよ」


「まぁ、ユリちゃんは……昔から、そんなだしね。とにかく……その辺もあって、私達もわざわざロンギヌスまで引っ張り出して、クオンまで出張ってきたのよ。もっとも、クオンの人達ってイマイチ頭固くてね。私達エスクロン関係者は、上陸どころか、ロンギヌスの寄港許可すら降りなかった。なにせ、中継港でいきなり反戦デモなんか始まっちゃって、向こうも大変みたいでね……。うちって、反戦派の対局に位置する主戦派筆頭の企業国家だからね。こう言う扱いも珍しくないとは言え、流石にうんざりするわ」


「……エスクロン製の宇宙空間防衛兵器やエーテル空間兵器なんて、もうあっちこっちに配備されてますからね……。反戦平和主義者の人達にとっては、格好の標的……なんでしょうね」


 最近、銀河各地で広がりつつある非武装平和主義。


 武器を持つこと自体が戦う意志を示すこととなり、それが黒船に襲われる原因になっている……そんな感じの思想に基づいた平和主義運動……。


 もっとも、話し合いの通じない宇宙生物相手に、武器を捨てれば襲われないって理屈は、理解し難たい話なんだけど……。

 

 何事も、やってみなければ分からない……疑う心を持つ時点で、武器を持つのも同然……とか、なんとか言ってるけど。

 

 実際のところ、非武装平和主義の成功例なんて言われてたアルパーニア星系が新型の黒船に奇襲襲撃されかけて、今や一大軍港化してるなんて実例もあるし……。


 平和主義団体の非武装船団が黒船に襲われて、多数の犠牲者を出しながら、手近に居た銀河連合の駆逐艦隊が救援に駆けつけて、命からがら逃げ帰ったとかそんな話だってある。

 

 そんな非武装でエーテル空間を航行するなんて、自殺行為だって解ってないのか、想像力が欠けてるのか……。


 そう言う事例はいくつもあるにも関わらず、彼らは幻想に必死でしがみつくように、平和主義の看板を掲げながら、こう言う脅迫じみた、暴力行為だって平気でやってる。


 実際、平和な街のバザー会場でいきなり銃を乱射する……そんなテロを起こしておきながら、武器があるから、こう言う悲劇が起きる……なんて非難声明を出して、平然としていたりもする。


 ……ここまで来るともう意味が解らない。 


 いずれにせよ、相手にするだけ時間の無駄って事で、エスクロン社としては、一切相手にしないと言う方針なんだとか……。

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