第十八話「放課後うぉーず」①
ここから、少しばかり宇宙駆けの外伝色が強くなります。
時系列的には、遥編の少し前、利根編の少し後くらいの話になります。
基本、本編側に出て来た人達は、あまり出番はありません。
月曜日の放課後。
地上キャンプから帰って、最初の学校の日。
今日は、地上キャンプの反省会と、エトランゼ号のメンテナンスをやろうって話だったのだけど。
ユリは、エスクロン本国から、緊急呼び出しを受けて、クオンのコロニーからも離れて、エーテル空間の中継港に寄港している超大型社有工作艦……「ロンギヌス」に来ていたのです。
単なる定期メンテか何かだと思ってたのに、思った以上に大仰な事になってしまったのです。
残念ながら、今日中には帰れそうもない雰囲気……まぁ、色々騒ぎもあったから、しょうがないよね。
「そんな訳で、明日は学校もお休みみたいなのですよ……」
「そっかぁ……。なんや、えらい勢いで直帰しとったから、何かと思ったわ」
「色々、精密検査とか身体の調整とかが必要になって、急遽、社の工作艦に来てくれってお話になっちゃったんですよ……。強化人間ならではって感じなのです」
「まぁ、良く判らんけど、皆には伝えとくわ。学校の方はキリコ先生が知っとるなら、問題ないやろな。明日は……流石に無理か。そうなると明後日……遅くとも週末には来れるんかな。エルトランも心配しとったで」
「お姉ちゃんには、当然連絡行ってると思いますし、そうですね……どんなに遅くても週末には帰りたいですね。すみません、先輩、エルトランにはメッセージでも送っときます。あ、部長さんにもよろしくです!」
「はいなー! お大事になー」
中継港行きの最終便の関係で、部室に寄ってる時間すら無かったので、今しがたロンギヌスの通話室で回線借りて、アヤメ先輩に、電話連絡した所だった。
クオンの中継港や航宙艦からだと、クオンコロニーとの音声通話なんて論外で、テキストメッセージですら送って届くまで、2-3時間後とかそんな調子だったりするのですよ……。
宇宙では、光ですら届くのに、それなりに時間がかかるので、リアルタイム通信自体が、ままならない……本来、そんなもんなんだよね。
けれど、エーテル空間からだと、超空間通信を利用する事になるので、むしろ音声通話は限りなくリアルタイムで出来る……そんな奇妙な事が起きる。
星系間通信……超空間通信って、要するにナノ単位の微細な超空間ゲートを作り出して、エーテル空間と通常空間を接続して、電波を送信して、エーテル空間内に多数設置されている中継ブイを経由して、データをやりとりするって通信形態なので、こう言う事が起きる。
エーテル空間自体は、広いと言っても総面積は、地球の海くらいの広さなので、エーテル空間の通信網、レーザー通信を使えば、瞬時に届く程度の広さでしかない。
だから、エーテル空間経由での超空間通信は、たとえ物理的に一万光年離れてても瞬時に行える。
人類が銀河進出を果たした頃に、エーテル空間接続ゲート生成技術と共にもたらされた先史文明の残した技術のひとつでもあるのです。
もっとも、この超空間通信技術もその原理が解明されたのは、ほんの10年くらい前の事。
それまでは、言わば、ナノブラックホールを制御するなんて、トンデモ技術だって事自体が解って無くて、惑星上にも平気で中継施設をポンポン設置してて、車両に搭載する程度まで小型させたり、結構無茶な使い方をしてたのですよ……。
その正体が判明してからは、そんな物騒なもの、地上でポンポン使っちゃ駄目でしょって話になって、超空間通信中継機については、惑星の衛星軌道上とかに設置するようになって、国際条約も制定され、設置箇所や数も限定されるようになり、必然的に通信容量なんかも控えめにするようにしたらしいのです。
おかげで、データ圧縮技術の復権とか、通常宇宙空間での通信が昔ながらの時間単位のスーパーラグ通信になって、色々不便になってしまったらしい。
銀河共用ネットワーク上に、文字情報だけでやりとりする、巨大テキストベース掲示板なんかが復活したのも、その辺が理由なんだとか。
とは言え、ユリは、物心付いた頃から、こんな調子なんで、昔はもっと便利だったとか言われても、あんまりピンとこない……データ集積センターなんかもむしろ、エーテル空間に作られてたりするのが実情だったりもするのです。
なんだかんだで今の世の中って、エーテル空間を中心に回ってるってのは、紛れもない事実なんだよね……。
だからこそ、エスクロンは、このエーテル空間を守るために戦う銀河連合軍を直接バックアップする為に、社を挙げて、持てるリソースを惜しみ無く注ぎ込んでいるのですよ……。
ユリもその方針については、全面的に賛成……エーテル空間無くなっちゃったら、人類なんてあっさり滅亡するんだから、全力で守らないと駄目なんだよね……ホントは。
「ユリちゃん、わざわざごめんねぇ。こんな所まで来てもらって……色々、お友達との予定もあったんでしょ?」
連絡用ランチから降りるなり、お姉さまが出迎えてくれて、今は、二人でゲスト用の喫茶ルームで一緒にお茶をしてるところ。
……そう、なんとエリコお姉さまが直々に「ロンギヌス」に同乗して来てくれたのだった。
さすがに、ここまで手厚いとこっちも驚き。
ちなみに、ロンギヌスは、全長1kmもあるような超大型ドック艦。
似たような艦としては、星間軍事企業アドモス社が建造した「風林火山」って艦や、銀河連合軍中央軍の「花鳥風月」って艦があるって聞いてる。
100m単位の大きさのエーテル空間戦闘艦を丸ごと収容、オーバーホールすらも出来るような移動工廠と言える巨艦だった。
ちなみに、この手の巨艦自体は建造自体はそんなに難しくないのです。
エーテル流体上に浮かべて動かすだけなら、今の技術で結構余裕。
でも、エーテル流体上に浮かびながら、戦うとなると、それは全く別問題。
一応、この手の巨艦で回避行動とか考えずに、移動砲台的な運用ならなんとかなるかも……そんな感じで実験的に作られたのがこのロンギヌスでもあるのですよ。
「お姉さまこそ、大丈夫だったのです? エーテル空間って、今もあっちこっちで戦闘中って聞いてますよ」
「さすがに、このロンギヌス位になると、そう簡単にやられないし、うちと懇意にしてる永友艦隊ってトップクラスの艦隊が護衛に付いて来てくれたのよ。それと、この娘たちは夕凪と朝凪……エスクロンの企業支援艦って事で、うちで面倒見てるんだけど、いい子たちよ……二人共ちょっといい? 紹介したい子がいるの」
お姉さまの後ろのテーブルに居た、セーラー服着たちっちゃい子達にお姉さまが声を掛けると、二人がチマチマとやってきて、ペコリとお辞儀をする。
「こんにちわ。見かけない人っすね」
「エリコの知り合いなんすか? けど、めっちゃ機械化してる子みたいっすねー。ここまで派手にやってる子、さすがに初めてみたっすー」
……おかっぱ頭のオレンジ色と黄色いの……なんだけど、口調はなんだかお子様らしからぬ感じ。
でも、人間じゃないのはすぐ解る。
網膜IDスキャン……タイプ神風、デストロイヤー?
なるほど、エーテル空間戦闘艦……それの頭脳体、スターシスターズって子達だ。
オレンジ髪が夕凪、黄色いのは朝凪の頭脳体。
この子達凄いな……個体防御システムがこれでもかってくらい充実してる。
斥力シールドに、積層不可視ナノマシンフィールド、重力操作デバイスまで内蔵……。
外装もソフトスキンタイプなのに、防御力推定値は戦車の装甲並……。
パワー推定値もなんだか、とんでもない数値になってる。
エーテル空間で艦艇が沈んでも、独力で頭脳体だけでも帰還出来るようにって、自分達で改良しまくった結果、こんなになったって話を聞いてるけど……。
こんなのと白兵戦とか、絶対無理……戦車、最低でも重パワードスーツでも連れてこないと、対処なんてできないね。
以前会った、祥鳳って頭脳体の娘は空母用って話で、ここまでぶっ飛んだスペックじゃなかったんだけど……。
この子達、駆逐艦タイプは、上陸白兵戦も想定してるらしく、やたらとハイスペック……そんな話を聞いてたけど、推定値だけで十分、化物なのですよ……。
そりゃ、こんなの気安く地上には下ろせないよね。
……向こうから、電子的接触……個人情報開示要求。
まぁ、こっちから接触したんだから、そりゃ当然。
どうぞどうぞって感じで、全情報開示……エスクロン専属って事なら、身内みたいなものだよね。
「……うぇっ! 朝凪っ! この銀髪ガール! 最近話題の対空戦闘ベンチマークのルナティックモードに出て来る理不尽アタッカーのオリジナルっすよ! ええっ! マジっすか!」
「確認したっすよ、夕凪……。我々二人どころか、神風シスターズ総掛かりで、手も足も出ずに全艦撃沈判定食らったあの、とんでもファイター「白い鴉」のオリジナルっ! おおお、まさか実物に会えるとは……恐るべきぞなもし……」
……何それ、聞いてないんだけど。