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第十七話「クローズドサンセット」②

「さて、すっかり日も暮れて、真っ暗になってもうたけど、これからどないしょうか」


「そうですわね……お風呂は予約取れたのが22時と遅めですからね。ご飯はお腹いっぱいだし、コレ以上食べたら、体重計が危険ですわ」


「……んじゃ、皆でお茶飲みながら、毛布にくるまって、TV見たり、お話でもするですよ」


 焚き火にヤカンをかけて、お湯を沸かす。

 前は、これだけでも一苦労だったけど、今回は無造作に出来る……準備と練習は大事、大事なのですよ。

 

 寒さも割と問題ない……ちなみに、ユリはパイロットスーツにこないだ買った防寒装備。

 足元はハーフ丈ダウンで、スカートは制服のまま。

 膝丈、モコモコ靴下あったかいです!

 

 まぁ、あれですよ……毛糸のパンツの凄いやつみたいなもんなのですよ。


「せやな。やっぱり、寒いと暖かいもんが恋しくなるなぁ……。今年から導入される冬季モードってのは、そう言うのが売れるようになるとか、そんなんも狙っとるんやろな」


「そうだね。と言うか、ガチな寒さって、こんなんだなんて知らなかった。ユリちゃんから聞いてたけど、これは実際に体験しないとわからないね……」


「そうね。ナマ足ヤバイ……間違って水風呂入った時みたいに、寒いっ! うわぁああ……風が吹くと、もうスカート地をダイレクトに風が吹いてって、お股がキュンってなるぅ……」


「マリネさんったら……。せめて、タイツくらい履いてくればよかったのに……」


「だって、ナマ足の方が可愛くない? そいや、ユリちゃんの住んでたエスクロンもこんな風に寒いとこなの? 地上ってもっと暖かいって思ってた!」


「エスクロンとか、高重力だけじゃなくて、そもそもの環境がもうむっちゃくちゃだって、お婆ちゃんから聞いてるよ……うーん、昼間はちょうどいいくらいだったけど、さすがにこれは寒いね」


 エスクロンは数ある有人惑星でも過酷度は群を抜いてると思う。

 

 人類の銀河進出後、かなり早い段階で入植が始まった惑星のひとつなのだけど、当時は今ほど、テラフォーム技術が確立されてなかった上に、割と恒星が荒ぶりがちだと言う……割と、どうしょうもない事情もあるのですよ。

 

 それでも、その遠目には青一色に見える外観の美しさは銀河有数と言われている。

 先史文明の遺跡が残されていた様子から、先史文明による惑星改造をされた惑星なのではないかとも、言われているけれど……。


 その先史文明の遺跡から発掘された数々の遺産。 

 それらの技術を吸収することで、エスクロンは他に類を見ないほどの科学技術の発展を遂げていた。

 

 何よりも、エスクロン人にとっては、惑星エスクロンは母なる星。

 その愛着は、計り知れないものがあるのです……。


「エスクロンは……寒暖差がめちゃくちゃなのですよ。三日で寒暖差70度って記録があるのですよ」


 エスクロン本社屋のある最大級の島。

 

 アイランドワンなんて、そっけない名前の付いた本島を襲った45度にも達した猛暑。

 6時間ほど恒星が荒ぶって、ハイパーな直射日光をバラ撒いたせいで、そんな事になったのですよ。

 

 その後の揺り返しが激しくて、全惑星規模での豪雪と極寒……-25度とか、無茶苦茶な寒波で数日間都市機能が麻痺すると言う大事に至った。

 

 他の惑星だったら、犠牲者多数の大惨事になっただろうけど、様々な試みや入念な準備で、その国難を犠牲者ゼロで乗り切ったのだから、誇っていいと思うのですよ。


「そ、それは酷いね……どれだけなんだか、私じゃもう想像もつかないよ。でも、そう言うのもあって、あの国は科学が発展してるし、ユリちゃんみたいに身体改造する人もいっぱい居るんだって聞いてる……まぁ、納得だわ。……お婆ちゃんとかは、そう言うのにうんざりして、クオンの植民計画に応募して移住してきたんだって言ってたけどね。実は地上に行くって話したら、凄く羨ましがられたよ」


 まぁ、そう言うのもあって、エスクロンはあちこちの星系開発に出資したり、植民者を送り込んだりと言った事に余念がない。


 おまけに、人口も多い……エスクロン人の血を引くエスクロン系住民と呼ばれる人々も、軽く100億人くらいなっているらしいから、もはや驚きの一大勢力だった。


 当然、あっちこっちでモメたり、紛争すらも発生してて、口が悪い人達からは、合法的侵略国家なんて呼ばれても居る。

 でも、私達には私達なりの譲れない理由ってのがあるのだから、仕方がないし、資本主義ってのはそんなもん。


「リオさんのところも色々あるんですのね。私のユハラ家は植民者を募集した側だったらしいんですけど。理想の惑星を作るって、皆張り切ってたそうですわ……けど、時間をかけすぎてしまったばかりに、皆、地上世界の事を忘れてしまったって、いつも嘆いてらしたわ」


「理想って割には……殺風景だし、寒すぎじゃない? あー、ユリちゃんの言う事ちゃんと聞いてればよかった……さっきよりはマシだけど、これじゃブランケット様が手放せないよ」


 膝を抱えて、ブランケットに包まったマリネさんがボヤく。


「まだまだ未完成の惑星だし、これでもここの周囲には、ナノマシン環境保護フィールドが張られてるから、風や寒さはかなり軽減されてるのですよ。こう言うのは、人間側が創意工夫して、寒さに耐えるしかないのですよ。焚き火にもっと寄るといい感じなのです。それかもっとお互い、くっつくと良いのですよ」


 そう言って、椅子が足りないからって用意したベンチみたいな横長椅子に座ると、隣をポンポンと叩く。


「そんな事言ってると、ホントに行っちゃうわよ? えいっ!」


 マリネさんが、隣に座り込んでグイグイとお尻を寄せて、もたれ掛かってくる。

 実際、結構暖かい。

 

「あ、私もくっつかせて! おーこりゃ、たまらんですなー」


 リオさんが隣に半ば無理やり飛び込んで来て、抱きついてくる。

 

「なんで、リオっちまで来るのよー! せっかく、ユリちゃんとラブラブだったのにっ!」


「後生だよっ! 私も寒いんだよー! ユリちゃん、あったかー!」

 

 ……もこもこな二人に挟まれて、こうなると、むしろ暑いのです。

 むむむ……放熱量、アップ!


「まだまだ、序の口なのですよ?」


「マジですかー! ぎゃわわーっ!」


「あ、でも……なんか、ユリちゃんの暖かさアップしてない? 熱あるんじゃない? 大丈夫?」


 そう言って、マリネさんがおでこに手を当てて、自分と比べてる。


「ユリは放熱量調節位できるのですよ? 食べすぎた時とか、放熱して座ったままで、カロリー消費とか出来るのです。今のユリの体温は40度近くになってるので、お風呂に入ってるくらい?」


「なにそれ! ズルいっ! チートだ! チート! でも、めっちゃあったか!」


「そうだよ……それって、ジッとしたままダイエット出来るって事じゃん! でも、暖かい……ユリちゃん、チョコでも食べる? 燃料補給!」


「私にもよこせーっ! 寒い時は甘くてカロリー高いの食べるといいって聞いてるし!」


 そんな感じで、ギューギューやってる私達を冴さんが羨ましそうな感じで見てる。

 

「冴さんも来るのですよ! と言うか、ユリの方から行っちゃおっ!」


 そう言って、一人ぽつんと椅子に座ってた冴さんの所に行くとむりやり、お尻をねじ込む。

 

「わたたっ! ユリちゃん、ちょっ! 狭いってばっ!」


 ちょっと無茶しすぎた。

 勢い余って、椅子がひっくり返って、二人揃って地面に転がる。

 

 うん、冴さんが下になって、ユリが完全に押したような有様に……。

 

 ほっぺたがくっつくくらいのめっちゃ近くで、目線が合う。

 

「あはは……ごめん、なのですよ」


 冴さんがじっと見つめると、唐突に抱き着いてくる。

 

「あ、あわわわわっ! 冴さん、動けないのですよっ!」


「あー、その……なんや。二人共、色々見えとるし、あれや……ユリちゃんが冴ちゃん、押し倒しとるようにしか見えんでー。まぁ、あれやな……別にあたしは止めんけど、サカルんやったら、テントの中で……ってとこやな」


 アヤメ先輩の直球表現に思わず、顔がボンって熱くなる。

 冴さんも気づいたらしく、同じように真っ赤な顔してる。

 

 とりあえず……押し倒し状態は解除して、冴さんの隣にごろりと寝っ転がる。

 空を見上げると、いくつもの流星。

 

 満天の星空。

 いくつもの流星……まぁ、あれだけ派手に吹っ飛んでったからには、盛大に残骸とかバラ撒いてた訳で……。

 理由を知ってる側としては、何とも複雑だった。

 

 そんな中、長い光の尾を伸ばしながら、一際高速で横切っていく……流れ星。

 

「ユ、ユリコさん! 今のすごかったですよ! なんなのかしら……でも素敵!」


 冴さんが呟く。

 

 確かに綺麗だったけど……あれって思いっきり、戦闘機動中の航宙艦。

  

(エルトラン……上で、なんかやってない?)


 慌てて、エルトランとコンタクト。

 ……こんな事になってて、ダンマリとか何考えてるのですよーっ!

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