第十六話「ランドバケーション」③
「じゃあ、あっちの皆も一緒に食べるのですよ! 皆で、御飯作って、皆で食べる! きっと美味しいのですよ」
そう言って、笑いかける。
向こうは向こうで、大勢でなんだか楽しそうだし、こうなるとむしろ、ユリ達が仲間はずれみたいなのですよ。
ダンさん達……何故か、涙を流しながら、感動と言った面持ちになる。
「ううっ! なんてこった……君は天使か? 本物の天使なのか!」
「俺はっ! 俺は今っ! モーレツに感動しているっ!」
「……うん、まさに天使の所業だ。私の目に狂いはなかった……そう言う事なら、私も手伝っていいかな? 女子高生と並んで食事を作る……なんと言うか、憧れのシチェーション! 最高じゃないかっ!」
三人共、嬉しそうなのです。
「ああ、俺……ちょっとあいつらに言ってくるわ。それと、食材も追加しよう! シュワ、お前ちょっと行って買ってこい! スナダさんは、ユリコちゃん達のお手伝い……メニュー何が良いかな? 外回りしてる奴らも入れたら、30人はいるからなぁ……ブルゾン号の連中も降りてくるみたいだから、追加でもう10人は来るはず」
「それだけ人数いるなら、カレーでも作って、あとはBBQってのが定番じゃないの。管理棟にイベント用の大鍋あったと思ったから、それも借りて来てよ……いやぁ、なんか楽しいね……こう言うの。いつも野営ソロキャンだけど、これはこれでいいね!」
スナダさんも嬉しそう。
「なら、ユリはチャーハン作るのですよ!」
「私、ピザでも焼こうかな。実は生地持ってきたんだ!」
「おお、リオちゃんだっけ? 良いね……あっちに石かまど職人なんてあだ名のヤツがいるから、そいつにかまど作らせるよ!」
「ほほー、そんな人が……実は一度、石組みかまどってので、パンとかピザ焼いてみたかったんだ。コロニーじゃ電気オーブンしか使えないからね。うちの父ちゃんも地上で直火焼きパン作りたいって言ってたから、自慢するんだっ!」
リオさん……なかなかどうして、本格派なのです。
なんだか、早速エプロン付けて、三角巾頭に巻いて、分厚い手袋みたいなのを引っ張り出してる。
でもちっこいリオさんがそんなカッコしてると、なんだか可愛いのです。
シュワさんに呼ばれて、向こうの人たちが、どやどやとこっちにやってくると、集まって色々相談して、手分けしてカレーの具材を用意し始める。
さらに、たくさんの飯盒を使って、あちこちで焚き火を起こしてご飯が炊かれ始めている。
なんだか、びっくりするほど統率が取れてる。
……こんな光景どっかでみたね。
あ、軍事演習だ……これ。
焚き火でレトルトパックを煮るとかやってて、班ごとに別れて、こんな感じのでご飯炊いたりしてた。
軍用レーションとかって、別に常温でも食べれるんだけど、温かいご飯ってのは、やっぱり体も温まるし、美味しい。
やがて、唐突に筋肉って感じのおじさんがやってきて、ユリが中華鍋見せたら、あっという間にジャストサイズのかまどを組んでくれた。
どうも、このオジサンがかまど職人さんらしい。
そのまま、リオさんとマリネさんの所に行って、ちょろっと話を聞いて、男の人達に指示出しすると、何処からともなく大きな石をもってきて、あっという間に本格的な石組みのかまどが作られていく。
「なんだか、凄いのですよ」
「あの人、クオンの地上に半ば住み着いてるような人でね。普段、ひとっことも喋らないような人なんだけど。気は優しい人だし、私達クオンキャンパーの間でも有名なんだよ。今回のイベントにも声かけたら、すぐ駆けつけてくれたんだ」
「イベントって……そんな事になってるのです?」
「あ、いや……その。うん、まぁ……イベントだよね……ここまで行くと。とにかく、君達に楽しんで欲しいって、皆思ってるからさ。そこら辺は汲んでやって欲しい」
……良く解らないけど、ユリ達はとっても歓迎されてるみたいなのです。
けど、こんな風に楽しくやってる中、さっきの海賊船の仲間とか来たら、困るのですよ。
あれどう見ても、どっかの軍隊みたい感じだった。
スナダさんとか、武装してる人も結構いるけど……本格的な軍隊とか来たら、さすがにちょっと厳しいかも知れないのです。
ちょっと、エルトランに確認取るのですよ。
「エルトラン……近辺の様子はどうなのです? さっきの海賊船はどうなったのです?」
チャーハンを焼き焼きしながら、無声コンタクトモードでエルトランと通話開始。
傍目には、通信してるように見えないけど、ユリは自前の通信モジュール持ってるので、それ位余裕なのですよ。
『こちらエルトラン、楽しんでいるようですな。先程の賊は、治安維持局の軌道警備艦隊が拿捕、拘束したようで現在回航中。船体はバイタルパートを残してほぼ全損でボロボロになったようですが、死者は出ていないようですね』
「人死にが出なかったのは、良かったのですよ。あんなお下品なおじさん達でも死んじゃったら、さすがに可哀相なのですよ」
『私はあのような輩、万死に値すると思いますけどね。もっとも何やら、賊共の処遇を巡って、色々と紛糾しているようです』
「なんでそんな揉めてるのです? 海賊行為なんて、普通は問答無用で逮捕ってなると思うのですよ」
大昔だと、海賊は降伏しても縛り首って相場だったとか。
今の世の中でも勝手に武力を揃えて、民間人を襲撃とか問答無用の国際条約違反。
むしろ、銀河広域警察とか出張ってくるような案件じゃないのかな……これ。
『なんでも、あの艦艇はクリーヴァ社の平和目的艦艇で、我々が進路妨害の挙げ句に発砲したと、向こうは主張しているようでして……。あろう事かクオン政府は、その主張をそのまま受け入れ、治安維持局に我々を逮捕するよう命令したそうです』
「はい? なんで、そんなデタラメが……この国、どっかおかしいのですよ?」
まさに、寝耳に水のまさかの展開!
なんで、襲われて、拿捕されそうになったユリ達が悪いってことになってるのです?
意味わかんないのですっ!
『はい、ですが……民間船のブルゾン号の撮影した記録映像が銀河共有ネットに公開され、スクランブルをかけていた無人軌道警備艦からの映像も治安維持局の判断で公開、その上で政府の逮捕命令を不当命令として拒否。地上にて、一部始終を目撃していた方々からも同様に記録映像が公開されたことで、クリーヴァ社の主張は完全に否定され、おまけにクオン星系府の与党幹部が、続々と汚職の疑いで緊急逮捕される騒ぎになってるようです。どうやら汚職の証拠がどこからかリークされたようですね』
……うーん。
なんだか、凄い騒ぎになってるのですよ?
クオンの治安維持局は結構まともなところみたいで、色々かばってくれたような感じだけど、やっぱクオンって、政府レベルで色々おかしくなってたみたい。
でも、この様子だと、エスクロンも一枚噛んでそう。
お父さんの第三課が動いてるのかも……第三課って普段から、他所の国に諜報員送り込んで、色々と弱みになりそうな情報をかき集めてたりもする。
けど、理不尽な事になりかけたのを、いろんな人が立ち向かってくれたのはきっと、事実なのですよ。
この様子だと、正しい方向に向かってる様子……。
「正義の味方は何処にでもいる」
お父さんが言ってたけど言葉だけど、頷けるのですよ。