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第十四話「秒速三〇〇〇km」③

 亜光速ドライブは、恒星の重力や、スイングバイ減速なんかも考慮に入れた緻密な計画に基づく航行法。

 けれども、デブリ一つの直撃で、宇宙の迷子になったり、最悪、致命的損傷を受けて爆沈する場合だってある。

 

 亜光速航行ってのは、1mmのデブリですら、秒速数千kmの凶悪な運動エネルギーを持つ障害物となる……そう言う世界。

 

 けれど、それだけに対策は何重にも施されている。

 

 徹底した星系規模の空間索敵網に、一万km単位の彼方から、1mm単位のデブリを判別する強力な空間探査システム。

 そして、秒間数千発もの正確な斉射で、進路上のデブリを蒸発させるレーザーデブリ除去システム。


 荷電粒子を傘のように艦体にまとった上で、触れるすべてを蒸発させるプラズマフィールド。

 ナノマシンを集積させ、瞬間的に脅威に最適化された分厚い装甲を形成するナノマシン装甲。

 

 これら幾重もの完璧に近い防御システムがある上に、光学観測すらままならない、亜光速の世界での砲戦なんて、もはや現実的ではない……そう言われてたのだけど。

 

 その常識を覆す……そんな画期的な戦闘支援システムが開発されていたのですよ。

 

 百年単位に渡る長い年月に渡り、各地で繰り広げられてきた宇宙の戦い……様々な兵器が開発されては、対抗策が生み出され……今の宇宙戦闘は、決め手が欠けるような状況になっている。

 

 現代の宇宙戦闘は、言ってみれば消耗戦のようなもの。

 優位なポジションを占有した上で、お互いの防御リソースを削り合って、削り切った側が勝つ。

 

 こうなってくると、シンプルに単純に大きいほうが勝つ。

 

 小型艦の勝つ道としては、ステルス性能を引き上げて、出来る限り接近し、優位なポジションと距離を保った上で、重力爆弾のような超火力や、数の暴力での火力集中で勝機を見出す。

 

 それがこれまでの戦争の常識と言えた。 

 でも、そんなある意味行き詰まってる宇宙戦争の常識を打ち破る、一つの可能性が取り沙汰されていた。


 ……超精密未来予測。

 常識外の長距離攻撃を正確に着弾させ、打たれる前の段階で回避することで光速のレーザーすらも回避する……そんな軍事的常識を覆す芸当を可能とする技術。


 コレ自体は、コンピューター技術の発展と共にある程度は完成されていたのだけど。

 あくまで、「予想」程度に留まっていた……。


 5秒後80%の確度での予想くらいならば、今の技術でも出来るのだけど、そこから先が困難を極め、これ以上はコンピューター技術のパラダイムシフトを待たないとダメ……そんな風に言われて、数百年と言う随分な年月が過ぎた。

 

 その間、コンピューターのハードウェア技術の進化自体は、完全に停滞し、ソフトウェアの効率化や並列巨大化させることで、発展を遂げてきた。


 この辺りは、そのコンピューターの主とも言えるAIが、ハードウェアの進化に熱心ではなかったのが理由とも言われていたけれど……。

 

 とにかく、亜光速戦闘を可能とする、未来予測……それには分単位99%台の精密予測と言うのが、その要求数値だった。


 そして、その実現には非現実的なほど巨大なハードウェアを要求すると解り、不可能……そんな結論が出ていた。


 けれども、そんな不可能レベルの条理を超えた未来予測。

 出来るわけがないと言われていた中、それを実現するシステムが思いもよらぬところからもたらされた。


『解析機関』


 ……そう呼ばれる全く新しい概念の近未来予想シミュレーションシステム。

 

 とあるエーテル空間戦闘艦の頭脳体がその基礎概念をもたらし、実際に使いこなすことで常識外の戦果を挙げた事で、人類はその可能性に触れることになった。

 

 エスクロンは、それを模倣し限定的ながら再現し、宇宙空間戦闘へ応用する研究を行っていたのですよ。

 もちろん、本来は膨大な環境同時観測システムと、強力な演算力を持つ専用のシミュレーションシステムが必要なのですけど。


 ユリは、自分自身を観測、演算ユニットとし、本社側の支援システムとエーテル空間経由の超空間通信でオンライン接続することで、限定的ながら『解析機関』のエミュレーションを単独で可能としているのですよ。

 

 もちろん、自前のみではとても無理なんだけど、パイロットスーツに内蔵されている外部補助演算ユニットとエスクロン本国の支援サーバー群の余剰領域を結集することによる膨大な演算力、クオン星系自体の宇宙環境監視システムを瞬間的に掌握することで、それは可能となった。

 

 と言うか……正直、ここまでものがぶっつけ本番で完成するとは。


 ユリ自身、元々殺気や気配を瞬時に感じ取り、敵の攻撃タイミングや次の動きを把握することで、常に先手を打てる超索敵能力とでも言うべきものを持っていたのだけど。


 それと開発中だった『解析機関』が現実の戦闘と言う極限状態で、統合され光速を超える索敵と言う相対性理論すら超越する化け物じみたものに進化してしてしまった。


 亜光速で飛ぶ航宙艦……これを撃破するとなると、相対速度差のある状態で実体弾や亜光速機雷による爆散球に巻き込むのが有効。

 

 亜光速戦闘は、そう言う発想で発展を遂げてきた……その集大成が亜光速機雷戦術なのだけど。


 けれど、その亜光速機雷戦術も今や、対抗策が確立され、あまり有効で無くなっていた。

 

 要するに、コストに見合わない……防御システム側との飽くなき競争の結果、大型化し、複雑化した宇宙機雷は、もはや宇宙戦闘機より高くつくハイコスト仕様のものしか、実戦では通用しなくなってしまった。


 おまけに、その大きさももはや20mと一昔前の航宙艦並となってしまい、50mもあるような巨大なものすらある有様。

 限りなく、ただの特攻艦……そんな特攻艦を投げつけ、ぶつけ合うと言うのが今の亜光速戦闘。

 

 ……思いっきり本末転倒と言える。


 ならば、相手の未来位置にレールガンによる実体弾の弾幕をばら撒いておいて、そこに突っ込ませる。

 そんな戦術が研究されてはいたのだけど、これがまた、全く現実的ではなかった。

 

 レールガンの秒速12000m/sの速度と言っても、亜光速の速度に比較すると止まっているようなもの。

 敵艦と一万キロの距離があるとすれば、仮に敵艦に向けて撃っても、弾着まで15分近くかかる計算になる。

 

 そこに到達するまで、様々な要因で弾丸はめいめいに好き勝手な方向へと散らばっていく。

 宇宙空間はなにもないのだけど、加速段階の時点で均一な電磁加速がかかるかと言えば、そうでもないので、微妙なベクトルがかかったりもする。

 

 おまけに、相手は回避行動もすれば、迎撃行動も起こす。


 これで、当てるのは無理がある……運動エネルギー弾自体は防御対策も難しいから、未だに有効とされてはいるけれど、結局当たらないのでは意味がない。

 

 光学兵器も対策が進み、非効率な武器となっており、荷電粒子砲も同様。

 

 そんな訳で、長距離亜光速戦闘なんて無駄なことはやめて、お互い牽制しつつポジション争いをする。

 それがもう常態化していた。


 艦艇の高度ステルス化ってのも、その回答の一つ。

 

 けれど、超光速索敵ならば、15分程度の未来予測シミュレーションですら、造作もない。

 実際にそれをやってのけてしまったのですよ! うーん、これはヤバい。


 本気でヤバいな……。

 自分でやっておきながら、とんでもない事をしでかしたかも知れないって解る。


 実際、後方支援群はさっきから静まり返ってる。

 多分、戦果確認の上で、状況分析とかやってるんだと思うんだけど。


 この異常な戦果に誰もがフリーズしてる……ような気がする。


 もっとも、課題はそれなりにある。

 問題になるファクターは、敵の行動予測……今だって、敵の抵抗力が思った以上で、予想していた戦果と違う結果になった。


 まぁ、原因は敵のスペックデータ不足。

 でも、それすらも、正確なスペックデータがあれば、予測は可能となるし、人間相手ならば心理誘導による無意識コントロールも不可能ではないし、実際、今も亜光速戦闘状態でも相手の動きが手にとるように解った。


 今やったのは、牽制射撃で相手の飛行コースをコントロールし、予め放っておいた弾幕に突っ込ませた。

 言ってみれば、それだけのことだったのですよ。

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