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第十四話「秒速三〇〇〇km」②

 ここは、ユリの持つチート機能の使い所。

 惑星クオン上空に設置された超空間通信ステーション経由で、エスクロン本国あてに、現在の状況と「解析機関」の使用承認要請を一斉送信。

 

 宛先は、12名のユリの運用管理責任者達。

 

 ユリがフルスペックで稼働するには、彼らの承認が必要なのです。

 あらゆる業務に優先するコードSS……緊急非常事態対応要請タグを付与。

 

 この場合、承認要請が届いてから状況把握、決断まで5分以内に承認か否決かを決める……そう言う決まりになっている。

 

 向こうも緊急事態だと把握したようで、対応は早かった……一分後には、回答が来た。


 ……即決承認6、条件付き承認2、欠席2、回答保留2。

 

 承認者過半数超えにつき、承認可決。

 

 システム封印解除コード入力……。

 解析機関プログラムリリース、アンロック……プライマリーメモリー領域へ展開。

 

 感覚域拡張モード無制限解放、封印設定解除。


 超空間通信ステーションに割り込み、帯域確保。


 クオン星系航宙管制センターへ、周辺環境情報収集要請。

 ……拒否回答。


「いいから、手伝え! このっ! ……問答無用、アクセス!」


 電子制圧の上で、航宙管制センターの強制収容実施、完了。

 

『ほほぅ、やりますなぁ……。単独での電子制圧、それも一瞬で……ですか』


「蛇の道は蛇なのです。次々行きますよ……バックアップ……来ますよ? 受け入れ準備っ!」


 エスクロン本国演算サーバー群、仮想演算領域確保……バックアップシステム、オンライン連結完了。

 

『……了解。これは……凄まじい情報量ですな。おや、これはまた懐かしい面々も……いいでしょう、リンクオンライン、システム同期……』


 プログラムドライブ……精密未来予測システム「解析機関」展開。


『「解析機関」をクスノキ・ユリコの「超感応能力」と統合、最適化を実施……「超級索敵」へのアップグレードを実行しますか?』

 

 本国AI群からの実行確認が来る。

 なに……これ? ……現場対応での最適化結合? ……いいねっ! やっちゃえっ!


 未来予測シミュレーション実施……現実誤差キャリブレーション実施。

 精度、ファイブナイン確保……60秒後の未来予測確度、99.999%確保。


 来た来た来た!

 元々のユリの殺気検知能力に、亜光速領域戦闘に対応出来る、超精密未来予測を組み合わせた新能力「超光速索敵」が完成っ!


 亜光速の世界では、目に見えた時点で、それはもう過去の姿……そこには、敵はいないのですよ。


 極めて近距離にでも近づかない限り、今、リアルタイムの敵影を観測する術はこの世には存在しない。

 だからこそ、亜光速の世界では戦闘そのものが成立しない。

 

 双方目を瞑って、暗闇の中で手探りで戦うようなもの……。

 

 けれど、正確な敵の位置を感知した上で、敵の未来位置を正確に予想出来たとしたら?

 それは、暗闇に光が差すように、亜光速領域の戦いに革命をもたらし、戦場すらも変えうる力となりうる……。

 

 未完成でそのままになってたシステムだけど、ぶっつけ本番で完成に至ったよ?


「超光速索敵」完全起動準備よしっ! これがユリの本気……やっちゃうのですっ!

 

『ユ、ユリコ様……これは一体? 未知のプラグインのようですが……外部システムとの接続状態……何という桁外れのマシンパワー……! くっ、この私が取り込まれつつあるとはっ! いいでしょう……この私の力……存分にお使いください!』


 エルトランには悪いけど、問答無用で艦の全システムを掌握させてもらった。

 ……後方サーバー群との同期実施。


 エスクロン本国からの本気バックアップ!

 ユリは一人じゃないのです……こうやってる今も、続々と味方が集まって、力を貸してくれている!


「アクセレーションシステム、ドライブッ! 「超光速索敵」実行っ!」


 規定現実の時間感覚が引き伸ばされる……意識が100倍以上まで加速される。

 感覚領域が果てどもなく広がっていく。


 そして、瞬間、私は……未来を垣間見る。

 

『演算加速システム? こんなものまで……このシステム規模……大型宇宙戦艦並みのものではありませんか……何を始めるつもりなのですか? ご説明を願います』

 

「エルトラン……説明は省くのです。オールシステム同期……。エスクロン流の最新鋭宇宙空間戦術の粋を披露するのですよ! 私の……いえ、エスクロンの力! 今こそ!」


 この瞬間、惑星クオンの衛星軌道上空のすべての事象を私は把握していた。

 

 時が……見える!

 圧倒的な全能感……すごいっ!


 この能力は……今のみならず、その先すらも見据える。

 これは、予想を遥かに凌駕する能力ッ!


『……畏まりました。我が艦長の意のままに……エスクロン側のバックアップシステムとの同期完了いたしました。ご命令をどうぞ』


「コマンド、20mmレールガンポッドより、相対目標座標、10620.37393.1788663! 弾速12000m/sにて、10秒間連続斉射!!」


 エルトランは指示に忠実だった。

 

 超光速索敵で垣間見た未来。


 その未来の敵の位置から逆算、算出した数値をダイレクトインプット、超高精度の要求にも関わらず、エルトランはユリの意図した通りのタイミングで攻撃開始してくれる。

 

 ……まずは敵艦から見て、明後日の方向……エトランゼ上斜め後ろ方向にレールガンによるフルパワー射撃で弾幕形成。


 ほとんど、空振り同然の射撃なのだけど、指定座標に向かってほぼ誤差ゼロで計15000発もの弾丸を誤差20mの要求精度で、ランダム射線で投射……ノンイナーシャルキャンセラーでのバースト射撃にもかかわらず、ブレもなく安定した射撃精度……やるね。

 

『バースト射撃完了……銃身加熱状態に付き、強制冷却入ります。要求精度は20mとのことでしたが、目標座標着弾精度は10mまで狭めているはずです、よろしかったですか?』


「……上出来。問題ありません」

 

 ……弾速は秒速12kmに設定。

 亜光速で後ろ向きに弾丸を放つと、弾丸自体は秒速12kmでエトランゼから遠ざかっていくのだけど、その相対速度はエトランゼの速度が乗っているので、速度-弾速と言う速度計算式になる。

 

 エトランゼの速度を3000km/sと仮定すると、弾丸側は秒速2988kmで少し後ろでジリジリ離れながら、一緒に付いてきてるような感じになる。

 

 対して、敵艦の速度は3500km……。

 

 秒間500kmもの速さで、敵艦はエトランゼに迫りつつある。

 

 もしも、無対策で、この弾丸が直撃すれば、相対速度にして、秒速512kmで弾着する計算になる。

 

 20mm弾の重量は、せいぜい150g程度なのだけど、秒速500kmで着弾した際の推定運動エネルギーは、18750000000J……。


 古のTNT火薬換算だと凡そ50トン分に相当する。


 一見控えめな威力に見えるけど、TNT火薬50トンもあれば、ちょっとしたちょっとした地上都市ならば、軽く廃墟になるくらいの威力。


 たった一発の銃弾がそれだけの破壊力を持つ……。

 200m級の戦闘艦と言えど、一撃で爆沈しかねない……致命的なものとなる。

 

 なので、このように速度差がある状況では、むしろ実弾の一発でも当てれば一撃で勝負が決まるのだけど……。


 亜光速ドライブ搭載艦は、亜光速でデブリと衝突する可能性も想定してるので、そんなのに当たるなんて、ありえないと言っても良い。


 その程度には、今時の亜光速ドライブ対応艦の防御システムは強力なのですよ。


 もっともこれは、真っ当なやり方に対しては、と言う但し書きが付く。

 今、行ってるのは、真っ当なやり方じゃない。


 それ故に、敵艦の防御システムは対応しきれないだろう。


「コースそのまま、よーそろー」

 

 そのまま、何もせずに10分ほど、今の位置関係を維持する。

 敵艦との相対速度差はたった1秒で500kmの距離を詰める……一分もあれば3万キロも詰められる。

 

 当然ながら、みるみるうちに差が詰まる。


『敵艦、接近警報……停船信号発信中、本艦制御マスターコードを要求しています。従いますか?』


 敵艦もこちらが観念したと思っているようで、若干速度を落とし、相対速度をこちらに合わせつつある。

 ……自前の重力機関で調整しているらしい。


「……ん、無視して構わない。敵艦兵装の熱反応に注意……念の為。艦体姿勢、コースそのまま、現状維持に務めるべし」


 この位置関係でうっかり追い抜いてしまったら、今度は立場が逆転する……さすがに、そこまでマヌケじゃないらしく、慎重に減速をかけているのが解る。


 一方、弾幕との距離は現時点で7000km後方……さすがにこの速度領域では、レールガンの弾速と言えど、話にならないくらいの速度だけど……弾着まであと240秒。


 慌てる必要など何も無い。


 未来はすでに確定している。


 ここに至るまですべてが「超光速索敵」により、算出された未来予測数値と寸分違わない。


 クオンの無人軌道警備艦から、スクランブルの上で救援に向っている旨の入電。

 でも、この様子だと間に合わないだろうから、期待はしない。


 むしろ、邪魔になるかもしれないので、ゆっくりでいいよと返信。

 

『ユリコ様、敵艦との距離、1万kmを切りました。敵艦照準レーザー検知……完全に捕捉されています。敵艦より座標指定が送られています……。従わないと撃つとの警告あり、誘導に従いますか?』


 敵艦のコース指定……外宇宙方面へ向かう軌道を取りつつ、彼らの手のものが設置した亜光速リニアドライバーまで誘導して……とか、そんな感じらしかった。

 

 もう勝ったつもりなのです?


 世の中そんなに甘くないって、教育して差し上げるのですっ!

 

「……断固拒否っ! エルトラン、今です! 全レーザーキャノン後方射撃シフト……指定座標へ一点集中バーストモード射撃……準備」


『……了解、バースト射撃準備よし……ですが、当たる確率は僅少です』


 艦後方へ指向させたレーザーキャノンを一点集中バースト射撃で狙い撃つ準備が完了した。

 

 相対距離はすでに1万キロを割るまで詰め寄られている、双方亜光速……この条件でも、光速のレーザーですら弾着まで0.03秒ほどかかる……この距離で初弾で当てるのは、本来困難。


 向こうも撃つとか言ってるけど、ただのハッタリ……普通はこの距離ではレーザーもまず当たらない。

 

 着弾円を広く取った上での、予備射撃を繰り返した上でのバースト射撃……基本的にそんなやり方でもないと、1万キロで直撃なんて望めない。


 向こうもそのつもりだったようで、照準レーザーを繰り返し照射して、ロックオン状態に持ち込もうとしてたみたいだけど……一向に照準レーザーが当たる様子もない。 


 当然ながら、予備射撃の段階でALスモークなどを展開されたら、それだけでレーザーなんて無力化されるし、向こうも警戒してる以上、こちらの反撃なんて無意味……当てられるとすれば、不意打ちの初撃のみ。


 けど、問題ない……この一撃は直撃する。

 その未来はすでに確定しているのだから。


「……構わない……撃てっ! 今っ!」


 レーザーキャノンバーストモード射撃……全弾一点集中着弾ッ!

 

『……直撃を確認。まさか……この距離で当たるとは……ですが、破壊には至らず!』


 まさかいきなり撃ってくると思ってなかった上に、本来は当てるのも難しいレーザーキャノンの集中直撃を受けた敵艦が、泡を食ったように相対軸で上に向かって、移動する。

 

 見た所、敵艦にほぼ損害はなし……船首部外装が一部溶解……艦隊姿勢が崩れ、急速に減速……。

 

 被害軽微……この程度では戦闘艦は沈まない。

 でも、これは、想定内。


 今日日の戦闘艦は、集中レーザー程度じゃ沈まないのは、解りきってた。

 ……でも、撃たれ続けたら、火達磨になって、熱飽和を起こし、艦内が蒸し風呂になる。

 

 その程度には脅威……だから、避けた。

 避けるにしても、相対高度を取る方向……上昇転舵での減速回避、これは正しい判断。


 でも、その動きは知っている……そして、この後どうなるかも。

 

 結果……敵艦は、先に放っていた置き弾幕にドンピシャのタイミングで突入していく。


『敵艦……弾幕へ突入っ! なんと……まるで自分から飛び込んでいったように見えますが……これを狙ったと?』


 向こうも気付いたようで、レーザーによる迎撃を行い、プラズマフィールドを展開しているのだけど、弾体を蒸発させても、発生した重金属ガスが船体に直撃することで相応の衝撃を受け、熱損傷も蓄積していく。


 プラズマフィールドだって100%の防御ではない……限界が……やがて訪れる。

 

 何より、初弾のレーザキャノンの一点集中バーストで、フィールドが過負荷になり、装甲が熱飽和状態になっていたのが致命的……。

 装甲冷却の為に、フィールド出力を落として、スカスカになるってのは、避けようのない条件反射みたいなものなのですよ。


 ……レーザーキャノンやプラズマキャノンで、防御リソースを削り、熱飽和状態に追い込み、抵抗を廃した上で、実体弾でトドメ。


 宇宙戦闘のセオリー、一応教科書通りの戦い方。

 

 案の定、隙間からこぼれるように飛び込んだ弾丸のひとつが船体を直撃したらしく、弾かれたようにスピン状態に陥ると敵ステルス艦は、あらぬ方向へとその軌道を変えて、ものすごい勢いで遠ざかっていく。

 

 直撃で爆散するかと思ったけど、相対速度が下がってたのが幸いした上に、意外に迎撃能力が高かったようで、弾幕にモロに突っ込んでいったのに、その大半を迎撃したようだった。

 

 もっとも、彼らの努力は、頑張って轟沈を回避した……その程度のようだった。


 あっという間に視認範囲外に消えてしまったけれど、空間レーダー上でも、盛大に何かをばら撒いているように見えているので、相応の損害を与えたようだった。


 少なくとも航行不能……実戦だったら、白旗を掲げて敵の情けに期待する……つまり、完全敗北。

 本来なら、爆散してクオンの夜空を飾る流星雨になるはずだったけど、運が良かった。

 

「……おしまいなのです。状況終了……全システム解除……リリース」


 いずれにせよ、敵艦の被害は甚大……。


 亜光速ドライブ中にあんなスピン状態ともなると、イナーシャルキャンセラーも、乗員保護だけで手一杯になるから、姿勢復旧だけで相当ホネだし、運が悪いとこのまま外宇宙へとさようなら。

 

 対応策としては、外装を可能な限りパージして、船体を軽量化、バイタルパートを残して質量を最小限化しつつ、少しづつゆっくりと高速回転状態を減速させていく。


 艦体姿勢を安定させた上で、丸一日くらい延々重力機関フル稼働で減速方向へGでもかければ、自力で止まることくらいは出来る。

 

 もっとも丸一日もフル出力での重力機関稼働とかやってたら、それだけで燃料が空っぽになる。


 補給のアテがないとそのまま宇宙の迷子……いずれにせよ、あんな状況になった時点で、あの艦は事実上無力化してる。


 無事に帰還できたとしても、もはやフレームレベルでガッタガタだろうから、廃艦確定。

 

 単艦で海賊行為とか、さすがに無いと思うから、きっとお仲間が助けてくれるだろうし、そこまで責任なんて持てないのです。


 亜光速ドライブ中は、戦闘にならない……それが常識だけど。 

 そこはそれ、エスクロンでは、亜光速戦闘の切り札になり得る研究を行ってたのですよ……。


 そして、その研究の被検体は……他ならぬユリが担当してた。

 

 結果はご覧の通り。

 50m級の小型艦にも関わらず、200m級の宇宙駆逐艦を軽く返り討ちにしてしまった。


 ユリの勝ちなのです! イエイっ!

い、意外と好評?

日常ものとか言っときながら、バトル展開すまんのー。

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