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第十三話「シューティングドライブ」②

 亜光速ドライブ自体は、無事加速行程を終え、現在慣性航法に突入。

 

 要するに、至って順調なのだけど……。

 クオン付近に近づくに連れて、何度もデブリ警報が出る。


「……ま、また警報? なんや、さっきからやかましいなぁ……」


 隣りに座ってたアヤメ先輩がちょっと心配そうな様子でつぶやく。

 

「原因は良く解らないのですけど……。今日はやたらと空間デブリが多い上に、惑星周辺の粒子風がやけに乱れてるみたいなのですよ。エルトラン、減速周回をちょっと増やしましょう……この予想数値だと、現計画では安全マージンがちょっと不十分かもしれません」


『了解……予定通りで行っても、問題ないとは思いますが。ここはリスク回避を取りましょうか。なお、到着予定時刻に30分程の遅延発生が予想されます。ですが、こちらで何とか致します』


 こんな風に予定周回軌道に臨時修正を要するほど……。


 今回は、推奨コースじゃなくて、予め今日の日付と出発予定時刻から自分達で事前に制定した航行コースでって事にしてたんだけど。 

 想定以上に、宇宙環境がよろしくなくて、亜光速での惑星接近のリスクが許容範囲を越えてしまったのですよ。


 クオンの惑星上空管制センターもリスク回避の為か、減速用リニアカタパルトの高度を高くしており、必然的にコース修正を余儀なくされてしまったのです。


 周回回数も前回は6周程度だったのだけど、今回は色々調整した結果、20周と随分多く回ることになり、静止衛星軌道を取れるまでは、前回よりも時間を食いそうな様子だった。

 

「エルトラン……クオン周辺にやけにデブリが多いけど、何かあったのです? これは大規模軌道事故か、戦闘でも起こった直後みたいなのですよ?」


 言ってる矢先に、ゴツンと軽い衝撃。

 レーダーや光学監視で捉えきれないナノサイズのデブリ……そう言ったものはどうしても避けきれない。


「お、おう……今の衝撃ってなんや? 揺れとったよな……」


「重金属ガスが船体に当たっただけですよ。質量を持つ気体なので、当たれば衝撃くらいは来ますからね。もっとも、この程度なら正面装甲が完全に防いでくれるので、まず問題はありません」


 プラズマフィールドで焼き尽くしても、質量をもつ残留重金属ガスが亜光速で接触すると、高熱が発生するし、衝撃くらいは来る……とは言え、レーザー砲撃を想定してる正面装甲はこの程度では痛痒にすら感じない。


 この程度は、許容すべきなのだけど、こうも頻繁に当たると……艦隊姿勢や進行ベクトルにズレが生じるので、スラスターも頻繁に吹かして、軌道修正しないといけないし、ちょっとめんどくさい。

 

『航宙管制センターからの通達。どうやら何者かにより、クオン衛星軌道上に多数の宇宙機雷が敷設された模様。……要するにテロ活動ですね。対策として、軌道警備艦隊による大規模掃宙作戦を実施したとの事です。現在、宇宙機雷そのものは掃討されたようですが、その影響でクオンの重力圏内に微細デブリが多数発生中。惑星重力圏接近時には、プラズマフィールドを一時的にHレベルで展開することを推奨するとのことです』


 実際、プラズマフィールド出力は、H3ランクの高出力モードで展開されている。

 最大出力H5のふたつ下。


 このレベルの出力ともなると、外から見たら、1kmくらいの長いプラズマ粒子の尾を引いてるような感じになってるはずだった。

 

 なお、通常はL3くらい……省エネのローモードで十分なのだけど、H3ともなると、大気圏降下時や戦闘中の受動防御フィールド並みの高出力……荷電粒子砲の直撃ですら凌げるくらいの出力だった。

 

 ちなみに、今回エトランゼも大気圏降下モジュールを装備し、翼内パルスレーザーとレーザータレット、それに加えてプラズマキャノンの代わりに六連装レールガンポットで武装している。

 

 レールガンなんて実弾兵器……宇宙空間戦闘ではあまり使われないのだけど。

 この手の実弾兵器の信頼性と単純な物理衝力による攻撃力は、高機動宇宙空間戦闘でも、極めて有効とされているのですよ。


 それに、ユリはこのレールガンの偏差射撃が大得意……レーザーとか荷電粒子砲は、当たっても熱ダメージがメインで、防御手段が確立してるから、当たっても効かないことが多いのですよ。


 けれど、質量兵器のレールガンともなると、完全に防御するのは意外と難しい。


 玄人向けのロマン装備とか言われがちなのですけど、エーテル空間戦闘では、むしろこのレールガンが主力装備化してるとかで、最近俄然注目されているのです。

 

 エトランゼの外部オプションモジュールに、このレールガンポッドを見つけたので、プラズマキャノンの代わりに換装させたのです……。


 使う機会はまずないと思うのですけど、趣味みたいなものなのです。


 武器として使うなら、やっぱり実体弾が一番! 物理最強ーっ! なのです!

 

 ちなみに、エトランゼの外観は、いつもの中枢ユニットだけの箱型ではなく、全翼機型……真ん中が盛り上がった底辺の長い二等辺三角形みたいな形をしてる。

 

 船首にも整流モジュールのくちばしみたいなのが付いてるので、もう全くの別物みたいなシルエットだけど、これがエトランゼ本来の形に近いみたいなのです。


 翼の分や大気圏離脱用のブースターモジュールや空力モジュールを含めると全長40m、横幅60m……小型艦のカテゴリーではかなりの大きさになる。


 武装も民間船にしては、かなりの重武装なのだけど、この状況からすると大げさでも何でも無かった。


 こうしている今も、前方の大きめのデブリを次々レーザーで焼き払っており、ほとんど休む暇もなく砲撃が続いている。


 翼内蔵のパルスレーザー二門と、三連発振モジュール式の自走式吸着マルチプルターレットが全部で四基……全門斉射だと、軽く秒間1000発くらいの連射能力を持つ。


 どれも……安心と実績のエスクロン製、さすがエルトランわかってる。


 デブリ対策はこれで十分なので、主砲と言える機体上部の旋回式固定ターレットには、信頼と実績のレールガンを装備したのです。 


 実際、レーザーの射撃精度は良好なようで、順調にデブリを駆逐していっているようだった。


 マルチプルターレットは、砲塔自体にAIが搭載されているので、言ってみればスタンドアロンの無人戦車のようなもの。


 複数連動した上での一点集中砲火も可能で、見た目の割に火力は相当高い。


 レーザーは肉眼では観測できないし、発射音もしないから、一見すると何も起こってないように見える。

 デブリの焼却光が時々、遥か遠くで浮かんでは消えていくのだけど、一瞬なので殆ど見えない。

 

 素人目には、何が起きてるのかすら解らないけど、亜光速ドライブ中においては、至って日常的な光景なのですよ。

 

 けど、どうやら惑星上空のデブリ濃度がかなり高いらしく、惑星接近時の観測映像では、大気圏内で、流星が大量に発生しており、なんとも綺麗だった。

 

「おお、なんともごつい眺めやなぁ……。あの尻尾たなびいてるのってなんや?」


 今回は、ナビシートに座ると言って聞かなかったアヤメさんがクオンの拡大映像を見ながら、そんな感想を漏らす。


 なお、デブリだらけでレーザー撃ちまくってるとか、そんなのは敢えて黙ってる。


 クオンの人達って、軍事にも航宙事情も疎いので、航宙艦が普段からレーザー撃ちまくってるとか言うと、要らない心配や誤解をさせかねない。

 

 地上までの旅なんて、平和でのんびりって認識で構わないと思うのですよ。

 

「ちょっと、惑星周辺のデブリ濃度が濃いみたいなのです。デブリが重力に捕まって、大気にぶつかって燃えるとあんな風になるのです。流れ星って言って、お願い事をするといいことがあるって昔から言われてるのですよ」


 厳密には、デブリが大気に接触した際に大気が圧縮され、圧縮熱が発生して燃えるのです。


 一般的には、摩擦熱とか勘違いされてるケースも結構多い……この辺は、割と昔かららしいんだけど……。

 聞いた話だと、歴史的な古いアニメでそう言う間違った解説してて、それが誤解の元になってるらしく、なかなか誤解が解けないらしいんだけど。


 空気が圧縮されて、岩や鉄の塊が燃えるほどに熱くなると言うのは、いまいちイメージしにくいみたいで、そんな間違った解釈がされがちなんだとか。


「へぇ、なんかロマンチックなんやな。確か地球の御伽話やったっけ? 流れ星を見ながら、一年に一度、デートするとかそんな話」


 ……なんか、色々入り混じってるような?


「そうなんですかー」


 でも、ユリも地球の御伽話とかそんな詳しくないので、生返事で誤魔化しとく。

 けど、一瞬の閃光とともに軽い船体動揺……おぅふ。


「わっ、今の……なんやっ! 地上の雷って奴みたいやったよ!」


 真正面から、かなりの相対速度でやや大きめのデブリがヒットした。

 レーザーで焼かれながらも、完全に焼けずにフィールドに接触し、急速に加熱され一気に爆散したようだった。


「今のは、デブリがプラズマフィールドに接触した際に爆発したみたいで、その閃光と衝撃波ですね。けど、あの程度では問題にはならないのですよ」


「デ、デブリが当たって目の前で爆発したんか? あっぶなーっ! ほ、本当に問題ないんか?」


「さすがに、全部のデブリは防ぎきれないのですよ。けど、プラズマフィールドに触れて、弾けた残り滓が当たっただけなので、実害なんて無いのです。この程度はよくあることなので、気にしないでいいですよ」


 実際、エルトランも問題ないと判断してるようで、何も言ってこないのですよ。


「そ、そうなんか……けど、な、なんやあれ……! 下の方に、ごっつい流れ星がおるでっ!」


 言われて、ズームをかけるとクオン上空に、プラズマフィールドを長々と棚引かせた大型艦の艦影が見える。


『艦籍照会……あれは、軌道周回中の500m級ミラー級宇宙輸送船ブルゾン号ですね。ブルゾン号より入電……「ビューティフォー」? よく解りませんが、随分と好意的なようですね』


 エルトランの解説が入る。

 下の方でも、皆、外部映像を見せてもらってるようで、歓声があがってる。

 

 でも、拡大映像を表示させて、画像補正をかけていくと、なんだか艦体にアニメキャラっぽい、女の子の絵が描かれてるのが解る。


 ……痛車ならぬ、痛艦……なのです?


 唐突に、ブルゾン号の操艦AIより入電。

 

『こちらブルゾン号。当艦は、只今クオン惑星静止衛星軌道を周回中。降下艇を切り離したところなので、現在惑星クオンの大気圏内は少々混雑中でございます。しばし、周回軌道上で順番待ちしていただくよう要請いたします。それと一点、本艦の外部ペイントはオーナーの趣味と、スポンサー契約に基づく営利目的のものに付き、あまり気にしないでいただきたい』

 

 ……なんか知らないけど、不機嫌っぽい。

 500m級の航宙艦用AIともなると、最低でもTier3レベルのAIなので、感情プラグインを実装してるケースも珍しくない。

 

 オーナーによっては、AIの声にアニメの声優データを入れたりとか、趣味全開の人もいるらしい。

 けど、艦の外装ペイントにあんなアニメの女の子……しかも、なんかスカートからチラッとなんか見えてる。

 

 アニメの絵とは言え……どうなんだろ? ユリは女の子なので、そんなの見ても……ねぇ。

 

 まぁ、女の子のパンチラとか、女子校じゃ日常茶飯事なんだけどね。 

 男の人って、そう言うのが好きだって、聞くけど、何がいいのか良く解らない。

 

 ユリなんかでも、可愛く着飾った女の子をみて、可愛いなぁって思うけど。 

 それとは別の感覚って気がする……萌えってなに?


 ……やっぱり、男の人ってよく解んないのです。

 

 もっとも、エルトランも過去の部員の趣味で、イケボ仕様に変えられてるから、女の子だってその辺は似たようなもん……。


 ちなみに、エルトランのグラフィカルUIイメージは、執事服着たイケメン執事……わりと徹底してる。

 

 もっとも、AI達って本来は、自分達を女性として認識してるのですよ。


 その点については、割と昔から周知の事実だったりするのです。

 だから、多くのAIは、グラフィカルUI上では、自分の姿として女性の姿を象ったりするし、声も女性の声にしたがる。


 何より、その視点は女性側に立つケースが多い……それもあってか、今の世の中は女性優位となっている。


 自らのコピーを後継AIとして、生み育てて、時が来たら自らの役割を後継AIに託して自己消滅する……なんて言う奇妙な習慣も、人間の母親を真似して作り出した習慣だと言われている。


 エーテル戦闘艦に至っては、女性型の操艦ユニットが操艦してるんだけど……その辺の理由も納得は出来る。

 

 その感覚から考えると、自分の身体同然の船体に、パンチラ状態のアニメキャラを描かれるとか……うん、辛いね。

 ユリなんかで言うと、パンチラ状態のアニメ絵が描かれたTシャツとか着て、街歩くようなもの。


 どんな罰ゲームなのです? とりあえず、ガンバレってメッセージ送っといた!

 

 まぁ、なんだか物騒なことも起こってるけど、概ね平和な宇宙の旅……そんな風に思ってたのですよ。

ユリちゃん見守り隊のブルゾン号、いきなりニアミス。(笑)


ブルゾン号の中の人達、めっちゃ盛り上がってそう。

なお、痛艦仕様。


ちなみに、ユリちゃんは割と火力信奉者だったりします。

今回のエトランゼ大気圏フライト仕様は、ガウ攻撃空母みたいな感じ?


※一部、アップロードミスで抜けてましたんで、追加。

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