第十二話「放課後ティータイム」②
「……危ない男の人とか、ユリなら軽く返り討ちなのですよ!」
そう言いながら、腕をまくって力こぶとか作ってみる。
もっとも、今のユリの身体は非戦闘用の華奢な身体なので、心なしか……程度の筋肉なのです。
本格的な戦闘ともなると、装甲と筋力増幅を兼ねたハードアーマーなんかを装備するから、見た目もとっても乙女らしからぬ感じになるんだけど……ユリは、あんまり好きじゃないのです。
でもよく見るとむしろ、二の腕とかプニッてるような……。
体重微妙に増えてるから、こういう所に余計な備蓄が脂肪として、付いてきてるのかも……?
なんだか、恥ずかしくなったので、そそくさと袖を戻す。
「あはは、頼もしいなぁ……。あたしなんかじゃ、男の痴漢とか出くわしたら、多分何も出来んよ……。こないだのダンさん達だって、内心ドッキドキやったし。ユリちゃんは……実際に軍隊で戦闘とかも経験しとるんか?」
「ユリは、ほとんど訓練三昧だったのですよ。演習……実戦形式の訓練とかを何回か程度。軍隊なんかでも、安全でコストもかからないVR環境で、訓練するってのが最近のトレンドなのですよ」
「……そうなんか。けど、最近のVRゲームって良く出来とるからなぁ。あたしもゲーセンなんかでたまに遊ぶし、エリーの家で一緒にやったりするんやで……やっぱ、ファンタジーRPGで剣と魔法ってやるのが一番面白いわ」
アヤメさんはファンタジーVRMMO系か。
ユリは……銃撃戦FPSとか、宇宙空間空戦シミュレーションとか。
ミニタリー系ばっかりなのです。
……でも、VRなら相手のことなんか気にせずに本気出せるし、いい勝負をしてくれるライバルみたいな人もいるのですよ。
……H・ルルカさんだっけかな? 女性ゲーマーで銀河トップクラスって言われてる有名人。
先読み回避や偏差射撃の名人で、本気で挑んでるのに、全然勝てない……まさにチートって感じの人。
VRでの自分の身体は、生身の人間の平均値+ゲーム内補正って感じで、ユリの本来の身体スペックと比較すると、かなり控えめなのだけど、それを差し引いても、ルルカさん、めちゃくちゃ強い。
ユリも上位クラスなのに、3回に1回勝てればいい方なのだから、恐れ入る。
もちろんゲームだから、装備なんかも、近代戦の常識とも言える後方情報支援やら、フライングアーマーなんかも無いし、光学兵器も当たってから避ければ無傷で済むとか、ヘンテコな仕様が多いし、全般的にむしろ前時代的だったりする。
ユリは……客観的に見ても強い部類に入るゲーマーだと思う。
一応これでも、非公式ゲーマーランキングで、トップ10に入るランカー……。
でも、そのルルカさんに最初は、全然刃が立たなかった。
色々研究や研鑽を重ねて、最近ようやっと勝てるようになってきたって感じ。
ルルカさんは、オフ会なんかにも顔出さないし、プロフィール情報も不明な点ばかりで、謎のゲーマーと言われてる。
けど、おそらくは実戦経験者……軍人さんなのは確かだと思う。
殺気への反応速度とか尋常じゃないし、達人レベルの殺気のコントロールもこなすし、紙一重の勝機に食らいついてくるような勝利への貪欲さ……。
少なくとも生きるか死ぬかとか、そう言うレベルの凌ぎ合いを何度も経験しないと、ああはならない。
でも、なんだか好みが似通ってるみたいで、ミリタリー系VRゲームやってると、割と頻繁に遭遇する。
何となくお互い名前見ると敵対陣営に登録したり、無言のライバル認定し合ってるような人でもある。
戦績は……63戦、40敗23勝……まぁ、絶賛負け越し中。
でも、勝率上がってはいるから、負けないのです!
「ユリはガンシューティングとか、宇宙空間戦闘シミュレーターとかやってるのですよ。ファイナルコマンドーとか、スターダストって知ってるのです?」
「ああ……あのハードな感じの女子向けじゃないヤツやね。あれって野郎ばっかって聞いとるけど、どうなんや? けど、それはそれでナンパとかされたりとか……。そう言う事ならあたしもやってみたいな。姫プレイとか女子的には憧れるわ」
アヤメさんも結構なゲーマーさんらしい。
姫プレイとか……女子人口少ないVRゲームとかでありがちな話。
一人の女子に何人もの取り巻き男性がついて、ちやほやするって感じ。
見たことはあるけど……。
ユリには、真似できそうもないのですよ。
「……ユリは、ソロゲーマー系なのであんまり、人とお話とかしないのですよ。でも、女の人もよく見かけますよ。OLさんとかがストレス解消にってやるんだって。姫プレイは……ユリ、そんな器用な事無理なのですよ」
「まぁ、確かにユリコさんが、何人もの男を侍らして……とかやってたら、むしろ驚きますわよね。でも、なんでゲームだと男の人って、ああも気軽に声かけてきたりするんでしょうね。わたくし達もVRゲームでナンパとかはしょっちゅうされますわ」
「せやな、でもまぁ、未成年保護機能とか、大抵付いてるから。皆、未成年って知るとそそくさとどっか行ってまうんや……。別に身体触ったり、セクハラ発言とかしなきゃ問題ないんやけどなぁ。大人なんだから、その辺は割り切って、少しくらい相手してくれてもええやんって思うわー」
……VRゲーム共通の鉄の掟……未成年者保護措置。
一応、銀河条例に基づいてるらしいけど、もう何百年から伝統のように続いてると言われてる、まさに鉄の掟。
VRゲームって、管理AIがそのVR世界のすべての事象を把握してるから、異性のVR体へのセクハラ行為、言動はもちろん、個人情報を聞き出そうとしたり、恐喝とかすると、ほぼ確実にその場で強制退去される。
そうなると、しばらくはログインも出来ないし、三回ほど強制退去を繰り返すと、悪質プレイヤーとみなされて、無期限追放措置……いわゆるアカウントBANとされる。
……男性ゲーマーにとっては、恐怖の措置。
どう言うわけか、AIってのは女性的な心理モデルを持っているケースが多くて、こう言うハラスメント行為に関しては、物凄く厳しいところがある。
特に、未成年相手だとこれがものすごく厳しい。
なにせ、三秒以上触れたってだけで、ハラスメント認定されるほど。
でも、戦場シミュレーションゲームで、猛爆撃の中、塹壕飛び込んで、お尻で下敷きにしちゃった人が強制ログアウトさせられちゃった時は、とっても悪いことした気になったのです……。
向こうは、こっちに来いとか声掛けしてくれて、そもそもユリが女の子だって知らなかったみたいなんだけど……。
まさに悲劇……名前も解らなかったから、謝りようも無かったし……。
一応、管理AIに異議申し立てしておいたから、ノーカン扱いされたみたいだけど。
「あれ……結構、事故も起きるのです。うっかり、お尻でドーンッ! とかも出来ないのです」
「……せやな。あたしも崖から落ちそうになったときに、手を握ってもらったら、相手が強制ログアウトして墜落死とかしたで……。さすがに、あれはどうかと思ったわ」
融通効かない管理AI……それのやらかすVR空間の悲劇の数々。
何処にでもある話みたいなのです……。
「まさに悲劇なのですよ……」
「私、VRゲームとかゲーセンでやる程度だけど、そんな厳しいんだ……」
マリネさんが、話に加わってくる。
そう言えば、いつぞやかそんな話もしてて、ユリもやってるーって心の中で絶叫してたりしてたのです。
「せやで……おかげで、逆ナンすら出来んのや。さすがに、身体に三秒以上触ったらアウトってないわーって思うわ」
「それじゃ、うかつに手も繋げないじゃない……。私らがVRゲームやってて、男の人達に声かけても、妙によそよそしいのって、そう言うのもあるんだ」
マリネさんが、しみじみとそんな事を言ってる。
VRゲームに妙な男女の垣根があるのは、この厳しすぎるハラスメント判定もあるような気もするのですよ。
もちろん、大人同士で、合意があれば問題ないんだけど、年齢レートの関係で人前でイチャラブとかしてると、不健全行為とされて、やっぱり強制退去される。
通称「リア充爆発した」
……遠く離れた男女がバーチャルデートとか、なにそれ? って感じなのですよ。
まぁ、ダベリパート?
ちなみに、この世界……割と女尊男卑的なところがあります。(笑)