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第十一話「あなた、だぁれ? なのです!」③

 うっわー! マジ切れ会長、めちゃくちゃホラー!

 これはもう、トラウマものなのですよ!

 

 こうなったら、いっそのこと……ユリの鉄拳で粉砕しちゃう?

 意識刈り取っちゃえば、さすがに終わるでしょ? 


 あ、けど……もう時間ない! 怖いっ! 顔がーっ!

  

 けど、その課長が振り上げた手を冴さんがパシッと止めてくれる。


「会長、暴力はいけません! 暴力はっ! 元々、生徒会長なんてハッタリ程度の権限しかないのは事実なんです。だからと言って……言う事、聞きそうもないからって、暴力ふるおうとか、まったくもって話になりません! 手を上げようとした時点で、会長の負けです……もう諦めて帰って下さい。ユリコさんになにか問題あるなら、クラスの代表でもある私を通す……私、そう言いましたよね?」


 ……会長の顔の怖さに負けそうになってたとか言えない。

 会長、怖い……ホラー的な意味で。


「菅原! 生徒会長がハッタリなんて、言葉を選びなさい!」


 取り巻きさんが声を荒げてる。

 

「そ、そうよ! 私は生徒会長よ? ちゃんと信任投票だって受けて、皆から認められて……。この学校の生徒である以上、私の言うことを聞く義務がある……そうでないと秩序が保てないじゃないの! いいから、その手を放しなさいっ!」

 

「放しませんっ! ……会長、何を勘違いしてるんですか? 生徒会長はそんな絶対権力者なんかじゃないです。生徒会なんて、つまるところ生徒による生徒のための自治組織……。便利屋みたいなものなんです……なのに、独裁者みたいに振る舞って……明らかに会長は間違ってます!」


 冴ちゃん強いなぁ……。

 ユリはすっかり座り込みモード。

 

 お膝抱えてるのです……と言うか、ちょっと漏れた。

 おパンツが冷たい……のです。


 でも、まだまだセーフ!


「菅原……貴女、前々から反抗的だったけど、そんな風に思ってたのね……。もういいわ、貴女は生徒会から追放処分にします。二度と顔を見せなくて結構……!」


 乱暴に冴さんの手を振りほどくと、ドンッと指さしながら、追放宣言。

 ……どうなの……それ?


「何、言ってるんですか? 生徒会長にそんな権限なんてありません。確かに私は生徒会の一員ですが、1年2組のクラスの皆の創意として代表に選ばれたんです。会長の一存でどうにか出来ると思ったら、大間違い。生徒手帳にもクラス委員の解任には、本人の意思か、選出したクラスにて解任決議投票を行った上で……そう書いてあります」


 一年のクラス委員なのに、二年の生徒会長へ堂々とダメ出しする。

 冴さん、凄い……。


「ぐぬぬ……。ああ言えば、こう言うっ! 何なのよっ! どいつもこいつも、全然私の言う事聞く気ないのね! ふざけんじゃないわよっ!」


 ……ヒステリーを起こしたのか、ダンダンと床を蹴って、癇癪を起こす会長さん。

 挙句の果てに、床に突っ伏してアオーンアオーンとむせび泣きを始める。

 

 ……なにこれ? 駄々っ子みたい。

 

「ユリコさん、ごめんなさい。みっともないところを見せてしまって……。会長って、こう言う人なのよ……昔はもうちょっとマシだったんだけど、副会長が抜けてからもう悪化の一途……」


「これじゃあ、人望ないのも納得なのです……。生徒会長ってクビに出来ないのです?」


 こんなのと密室で孤立無援で話し合い……させなくて正解。

 何言っても、譲らないような相手との交渉とか時間の無駄なのですよ。


 当然ながら、会長に聞こえないように、冴さんには小声で囁いてるんだけど、冴さんも苦笑する。


「とにかく、会長……今日はもうお引取り下さい……。それと当面、ユリコさんにちょっかい出すのはやめて下さい。彼女、エスクロンからの留学生なんで、あまり見苦しい真似をすると、国際問題になりかねませんよ?」


「こ、国際問題? はっ、そんな大げさな……エスクロンからの留学生なんて……あの超大国から、こんな辺境の何もない星系に留学なんて、そんなモノ好き居る訳無いでしょ」


 ……居る訳なのですよ?

 それも不本意ながら、相応の国の意向を受けた上で……なのです。


「なんで、会長なのに知らないんですか? 全校集会でも話があったじゃないですか……彼女は立場的には親善大使のようなものなんですよ。そもそも、治安維持局が要警護対象にする程度には、重要人物扱いされてるんですけど……」


「知りませんわぁ……。だからなにっ! そんなのどうでもいいじゃないっ!」


「だーかーらっ! 会長、人の話聞いてたんですか? 私、連日色々説明してましたよね。それに彼女は、クスノキ先生の身内でもあります。暴力沙汰とか論外です……そんなマネしたら、むしろ、会長が退学になるんじゃないですか?」


 冴さん……ユリの周囲に治安維持局が警護を敷いてるのに、気付いてたっぽい。

 まぁ、あれだけ露骨に通学路とか学校周辺にパトロイドやら色々配備されてたら、解るよね……。


「……こ、ここで引き下がったら、それこそ生徒会長の名折れよ! エザキ……会長命令よ! やっておしまい! こうなったら、この生意気な一年に教訓を与えてやりなさい!」


 会長さんがそう声を掛けると、後ろの方にいた男の子みたいな短髪の子が前に出る。

 

 独特の威圧感で、前に居た子達も自然と道を空ける……。

 

 うーん、真打ち登場……なのですよ?

 

「おいおい、今の完璧にお前の負けって流れだったぞ? それであたしに頼るとか、単なる恥の上塗りになるぜ? けど、このまま帰るのも癪だし、一年に舐められっぱなしって訳にはいかねぇよな……おい」


 目の前に立ちふさがって、堂々と見下ろす。

 

 この人、背も高いし筋肉とか凄い。

 素人でも解る殺気をまとって、なんかゴゴゴゴって擬音とか出てそうな雰囲気。


 でも……むしろ、こっちの方がやりやすい。

 会長はホラーだったけど、こっちは単に武闘派。


 この程度の殺気……涼風なのですよ。


 無言で、立ち上がると軽くバク転を決めて、間合いを離す。


「……へぇ、いい運動神経してるし、あたしの殺気にこれっぽっちも怯まねぇとはな。あんま、気は進まなかったんだけど……。ちょっと興味出て来たぜ。さすがに、ここまで会長に恥をかかせた以上、落とし前は付けさせてもらうしかねぇよな。安心しな……ちゃんと寸止めにしてやるけど、下手に抵抗したり、変な避け方すると当てちまうかも知れねぇ……大人しく、そこで突っ立ってることをお勧めするぜ?」


 ……空手家かな?

 独特の構えを取って、重心を落として、間合いを計りだす。

 

 近接格闘戦とか専門外だけど……。

 

 なるほど、これはちょっとした演舞……それも目の前で自分を標的に。

 寸止めにして、本気だったらどうなってたかを……実感させる。


 教訓とはまた、上手い言い方なのです。

 

 普通のか弱い女の子にやったら、まぁ……確実に泣くね。

 けど、見たところ、空手と言っても、あくまで対人レベル……それも、スポーツ空手。

 

 対サイボーク戦を想定してるようには、見受けられない。

 実戦でプロ相手だったら、こんな悠長に口上並べてる間に、先制攻撃で制圧されるのが関の山。

 

 ……要するに、アマチュアさん。

 この程度なら、ユリでも勝てない相手じゃないのです。

 

 でも、痛いのとか痛くさせるのは、嫌なのでなるべく、平和的に……。

 

 サブシステム起動、高速演算モード起動……瞬時に視界がスローモーション化する。

 行動予測……全身の筋肉の動き、重心移動を観察。

 

 構え自体は……左脇を締めて、右半身になって、左手を脇に構えた、左正拳突きの構え。

 

 でも、この人右利き……腕の筋肉の付き方から、それは明らか。


 手加減のつもり? いや、違う。

 見切った……左足で踏み込んで左正拳突きとみせかけての、右足でのハイキック狙い。

 

 フェイントを織り交ぜてとか、なかなか実戦慣れしてる……そんなの素人がやられたら、対応なんて出来ない。


 いくら寸止めされたって、普通に腰が抜けちゃうと思うのです。

 

 生意気な一年生の鼻っ柱をへし折った上での見せしめには十分すぎる……。

 要するに、会長の権力を裏付ける武力……この人は、そう言う人って訳なのですよ。

 

 つまるところ、会長を追い払うには、この人の攻略が不可欠。

 お互い、怪我とかしない程度にやりあって、負けを認めさせる……それが出来れば、万々歳。

 

 ……アレやっちゃうか。

 ユリも、覚悟を決めたのです。

 

 タイミングを図るように、エザキさんがすり足でジリジリとにじり寄ってくる。

 こちらの目をじっと見て、どこを見ているかを探ってるようだけど……。


 ユリのマシンアイは、人間と違って、全体視がデフォ……何処を見てるか解らない目……そんな風にも言われるけど、要するに、目に映る全てを同時に見ているようなもの。

 

 その視認範囲は、260度にも及ぶ……真後ろ以外は死角なし。

 空間識別覚も加味すると、真後ろからの攻撃にだって対応できるから、死角自体が存在しない。

 

 周囲の皆は、十分に距離を取ってる……無意識に近づいちゃ駄目って理解してるっぽい。

 冴さんやマリネさんが間に割って入ろうとか考えてるみたいだけど、リオさんが止めてるっぽい。

 

 10m……7m……。

 5mライン……エザキさんもそこで唐突に足を止めた。

 

 気付いたみたいなのです……そこがユリの迎撃範囲……制空圏だって。

 

 そこに踏み入れた瞬間、動きを止めて、それまで余裕と言った雰囲気だった表情を真剣なものにする。

エザキ先輩逃げてーっ!(笑)

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