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第十一話「あなた、だぁれ? なのです!」②

 お笑いワールドで、完封勝利……と思ったら、会長さん。

 うつむいて、不気味にクックックと笑ってる。


 その不気味な様子に、周囲は一瞬で静まり返る。


「クックック……この私に向かって、誰だか知らない変な人なんて……。本気で馬鹿にしてるのね……そう……。けどまぁ、いいわ……。とにかく、もういいわ……一緒に付いてきてくださる? ここで立ち話ってのもなんですので、話の続きは生徒会室でいたしましょう……ここは雑音が多過ぎですからね」


 そう言って、周囲を見渡す会長さん。

 辺りには、うちのクラスメートのみならず、他のクラスからも騒ぎを聞きつけて、様子見に来てる子とか居て、とっても賑やかになってる。


「……ここで立ち話で、全然構わないのですよ? あまり時間もないのです……午後の授業に遅刻とかイヤなのです」


 付いてくるのが当然と言った様子で、すでに背中を向けかけていた生徒会長がピタッと立ち止まると、般若みたいな形相で振り返る……怖いのです……。


「……こ、この……ねぇ、貴女ぁ……私の言うことが聞けないっていうのぉ?」


 ワカメヘアーが斑に顔にかかってて、猫背になって顔は影に覆われてる。

 ……やばい、この人……軽くホラーなのです。


 この人、手強いっ!

 お笑いの空気をホラー映画のような空気に変えることで、完全に払拭してしまったのですよ。


「わ、わざわざ、生徒会室に場所を移す理由を、端的に説明して欲しいのですよ?」


 ここでひるんで相手ペースで話を進めさせちゃ駄目……ユリの直感が警鐘を鳴らしてるのです。


 ぶっちゃけ、生徒会室まで来いとか、めんどくさいのですよ。


 おトイレだって行きたいし、お弁当箱だって洗っておきたいのです……。

 

 何が悲しくて、こんな変な人達に連行されて、貴重なお昼休みを潰されなきゃいけないんだか……なのです。

 生徒会室まで往復する……それだけで多分、10分はかかる……。


 お昼休みももう30分も残ってない……そんなの付き合ってたら、間違いなく、午後一遅刻が確定した上に、授業中、トイレ行っていいですか! なんて恥ずかしい宣言をするハメになる。

 

 ……断るには、十分な理由なのですっ!


「な、なら……放課後、お一人で生徒会室までいらっしゃいな……それでどうかしら?」


 譲歩案……のつもりらしいのですけど、生徒会室での話し合いにやけに拘るってのが引っかかるのです。

 

 理由を推測……。

 人に聞かれたくない話とか、人目に付かない方が都合いい……。

 

 ……あー、解った。

 密室で、孤立無援の状況作って、取り巻きで囲い込んで、圧迫脅迫って流れに持ち込むつもりなのですよ。

 

 内容も何となく見当付く。


 宇宙活動部から手を引けとか、そんな感じで迫って、同意しない限り、帰さないとか。


 体のいい拉致監禁の上での脅迫……。

 

 確かに、宇宙活動部……事実上、活動不能の状況で放っといても堂々とお取り潰し出来るまで追い込んでたのに、ユリのせいで、息を吹き返しつつある。

 

 会長からしたら、ユリは邪魔者……なんとかして、排除したいって思ってるとみて、間違いないのです。

 

 生徒会室なんて一緒に行ったら、それこそもう、何時間も密室で、精神的にネチネチといたぶられるくらいはあり得る。


 と言うか、こんなホラーな会長に早く折れろ……みたいに迫られたら、確実に泣く!


 おしっこ漏らして、ノーパン帰宅とか待ったなしなのですよ!


 それだけはイヤぁあああっ!

 

 でも……そうは行かないのです。

 ここは、断固徹底拒否なのですっ!

 

「放課後は、用事があるのです。要するに、お断りしますですですっ!」


 きっぱりとそう言って、ぷいっと横を向く。


 そもそも、ユリが付き合う道理なんてないのですっ!

 こっちは、生徒会長とお話する理由なんてないし、お話したいとも思えない……。

 

 交渉決裂なのですっ! おととい来やがれなのでっす!


「……な、なんですって! いい? 貴女は生徒会長たるこの私から、お呼び出しをされてるのよ? その意味が解ってるのかしらぁ……? 小娘ぇえええ……」


 だから、怖いって! 顔……近っ! なんで首かしげるの? 怖いって! それ!


「あの……か、会長。お言葉ですが、生徒会長にそんな一般生徒を呼びつけるような権限なんてありませんから。生徒会室でクスノキさんと話し合いをしたいなら、ちゃんと理由を説明した上で、むしろ会長が頭を下げて頼み込む立場かと、それとユリコさん一人だけでとか、そんなのありえません。当然ながら、私も同伴した上で、面会時間を区切った上で会話記録なども残させてもらいます」


 冴さんが冷静に告げる。

 他の子達も生徒手帳を取り出して、確かに書いてないねーとか口々に言い合ってる。

 

 この学校……生徒会長の権限に裏付けなんて、何もないのですよ。

 

 なんとなく、偉い……生徒会長なんだから、言うことくらい聞いてあげよう……。

 そんななんとなくの敬意。

 

 それが生徒会長の権限の実態なのですよ……。

 

「……ば、馬鹿言わないでよ。なんでこの私が、こんな一年風情に頭を下げないといけないのかしらぁ……」


 小馬鹿にしたような様子で、にらみつける会長さん。

 だから、なんでそこで、カクカク、グギギって感じで首かしげるの? いちいち、ホラーな演出やめて。

 

「……この一年達……さっきから聞いてれば、何様のつもりなの? 会長、いいんですか? 下級生にここまで舐められて……。いい機会ですから、きっちり落とし前ってものを付けさせましょう」


 取り巻きさんAが前に出てくる。

 ……この人に至っては、名前すら解らない。


 ユリの中では、モブAさんでけってーい!

 

「そうですわ! 下級生なんて、上級生に絶対服従……そんな常識も知らないなんて、非常識もいいところ……菅原さん、あなたの事よっ!」

 

 もうひとりのは、モブB子さんと命名。

 

 ちなみに、論調は会長さんとほぼ一緒。

 下級生なんだから、問答無用で言う事聞けと。

 

 さっきまで、完全に空気だったけど、形勢が有利と見て援護射撃を開始した。


 なんと言うか……、会長さん一派のやり方が何となく解ってきたのですよ。

 

 ことわりではなく、声の大きさと勢い、それと迫力で押し切る。


 会長のホラーな演出は……なんか、天然っぽいからそれは置いといて……。


 古代地球では、大陸恫喝……なんて、呼ばれ方もしてたような手口。

 要求が通らないと、非論理的だろうがお構い無しで、とにかく大声で喚き散らして、無理を押し通す。

 

 気の弱い人とか女性相手には、効果的な手法じゃあるし、口論ってのは空気を支配した側が勝ちなのです……。

 そう言う観点でいうと、会長さん達の戦略は全く以って正しい。


 うん、ホラー演出も相まって、会長さんマジで怖い。

 夜中うなされて、トイレいけなくなったらどうしてくれるの?


 でも、ユリはこの程度じゃ、折れたりなんかしないのです!


 世の中、上には上がいる。

 いつぞやか見かけた「大佐」さん……。

 

 一瞬だけぶつけられた底の知れない獰猛な殺意。

 

 VR演習シミュレーターから出てきた所で、たまたま、背後から「お疲れ様でした」……なんて声をかけただけで、そんなものをぶつけられた。


 不覚にも一瞬、金縛りになったように動けなくなって、一瞬で腰が抜けた上に……思いっきり漏らした。

 

 あれに比べたら、こんなの全然、可愛く見える。 

 まぁ、その後「大佐」さんには、めちゃくちゃ謝られたんだけどね……。

 

「あのさー。一方的に生徒会室に来いとか言われて、何されるか解んないとか、警戒もするでしょ……? と言うか、ここで出来ない話って時点で、後ろめたいことやるって言ってるようなもん……いくらなんでも横暴だと思いまーす! ユリちゃんもこんなのに付き合う必要なんてないって! ねぇ、もう行こうよっ! おトイレ行きたいって言ってたじゃない……嬉し恥ずかし連れション、行っちゃおうぜいっ!」


 マリネさんが声を上げると、手を握って教室の外へ連れ出そうとしてくれる。

 

 他の子達も続々と集まってきて、さり気なく壁をつくってくれて、そうだよねーとか同意してくれて、連れ立って歩いてくれる。


 廊下の野次馬達もどさくさに紛れて、会長、さっさと帰れーとかやり始めてる。

 

「ま、待ちなさいよ! そもそも、アンタはなに? 関係ないのに、口挟まないでくださる? それに他の連中もどういうつもり……私達のやることに文句でもあるの? 私達は上級生で生徒会なのよ? 下級生の分際で逆らおうとか、生意気よ!」


「ここは一年の教室なんだから、そっちがよそ者じゃない……。そんなのが、訳の解らない理屈並べて、喚いてたら、誰だって反感持つに決まってるじゃん! 生徒会だかなんだか知らないけど、なんでも思い通りになると思ったら大間違いだよっ! それに、さっきの野蛮人って言葉、今すぐ取り消せ! そっちのお姉さんはちゃんと謝ってくれたけど、アンタは一言も謝ってない! そうだよね? 皆っ!」


 今度は、リオさんが食って掛かる。

 この娘、小さいのに意外と迫力あるのです……エスクロン系の子達もリオちゃんに勇気づけられたように、一緒に声を上げてる。


「そうだ、そうだ! 謝れっ!」


「さっさと帰れーっ!」


「生徒会の横暴をゆるすなーっ!」


 もう、完全にアウェー化して、誰もが会長に帰れコール!

 会長さん達も、皆の思わぬ団結とその剣幕に思わずたじろいでる。


「な、なによっ! なんで、私がアンタ達なんかに謝らないといけないの! 邪魔しないで! こ、これは私達と、ユリコさんの問題なんです! その他大勢なんて、眼中ないの……他の奴らも何ぞろぞろと集まってるのよ! 見世物じゃないのよ! さっさと散りなさいっ!」


「関係なら、おおありだよ! 私らはユリコちゃんの友達だもん、さすがにこんな横暴、見て見ぬふりとか出来るわけないよ! マリネ、ユリちゃんどっか連れてっちゃって……こうなったら、皆で壁作って、通せんぼしちゃおうっ! 皆、手伝って!」


 リオさんも前に出て来て、そう言い放つ。


 他の子達もリオさんに勇気づけられたのか、一歩も引かない構え……皆、お互い手を繋いで、会長さんたちを取り囲み始める。

 

 ……内心は怖いらしく、膝が笑ってる子もいるけど。


 笑ったり馬鹿にしたりとか、出来るはずがないのです。

 

 マリネさんが、早く逃げようって言いながら、手を引くんだけど……。

 ここで逃げちゃうってのは、なんか違うのです……。


「……くっ! どいつもこいつも、生徒会長をなんだと……一年共! さっさと道を開けなさい!」


「やーだよっ! なんでも、思い通りになると思ったら、大間違いなんだよ!」


 その言葉に、すっかりヒートアップした会長さんが、リオさん達へ近づいていく。

 

「とにかく、会長……今日はお引取り下さい。こんな騒ぎになって、穏当な話し合いとかもう無理ですって……!」


 不穏な空気を感じたらしく、冴さんが間に割って入ってくれる。

 

「うるさいっ! 菅原……そこをどきなさいっ! その女は、私に恥をかかせた……報いを受けるべきよ!」


 会長さんが冴さんを突き飛ばすと、平手をかざしながら、一歩前に出てくる。


 ……あ、この人やる気だ。

 

 沸点低い人なのです。

 どうしよう……おとなしく殴られるとか、気が進まない。

 

 かと言って、受け止めて、ひねっちゃったりしたら、確実に腕の骨とかポッキリ行くし……さすがに、それじゃこっちが悪い子になる。

 

 避けるのも難しくないだろうけど、避けたら避けたで、絶対もっとヒートアップする……。


 敢えて殴られて、大げさに痛がって、エグエグ泣いてでも見せれば、満足する?


 ユリ、そこまで演技派じゃないしなぁ……。


 人に殴られた事って無いから、どう振る舞えば良いんだか……。

 と言うかそもそも、ソフトスキン装甲だから、女子高生のパンチくらいノーダメージだと思うな。

 

 そんな事を考えていたら、無表情に首を傾けて……ゾンビみたいな顔した生徒会長がもう目の前まで来ていた!


 はぅわーっ! なにこれ、怖すぎっ! おしっこ漏れるぅうううっ!

「大佐」……ギルティッ!(笑)

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