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第十一話「あなた、だぁれ? なのです!」①

 ……数日後。

 お昼休みに教室でマリネさん達とお弁当を食べ終わって、いつものように、とりとめもなくお喋りしてたら、冴さんが困った顔でやって来たのです。

 

「冴さん、お昼どこ行ってたのです?」


 いつもは、一緒にお弁当食べてたのに、今日はお昼休みになるなり、一人でどっか行っちゃってたのです。


 お昼食べれたのかなぁ……って、ちょっと心配になる。


「ユリコさん……ごめんなさい。実は、生徒会長に呼び出されて……その……ね?」


 なんだか言いにくそうな様子で、後ろの方をやけに気にしてる。


 ちらっとその視線の先……教室の入口を覗くと、わかめみたいなウェーブかかった深緑のロングヘアの……なんと言うか、とっても目つきの悪い人が教壇側の出入り口に立ちふさがるようにして、教室内を見渡してるところだった。

 

 なんだろう? 周囲の空気が暗い感じもして、眉間にシワ寄せてて、如何にも不機嫌そうな感じ。

 

「なぁにあれ……? もしかして、会長じゃない……なんかあったのかな?」


 マリネさんも嫌そうな顔して、教室の入口を見てる。


 ……あれが、噂の生徒会長さん……。

 目が合いそうになったので、慌てて目線を逸らす。


「もしかして……ユリに御用……だったりするのです?」


 冴さんに、確認。

 観念したように、ふかーいため息をつかれる。


「ごめん。どうしても、直に話がしたいって……あの人、言い出したら聞かなくて……」


「……正直、あまり関わりたくないのですよ?」


 見ている矢先から、クラスの子が教室からでようとして、扉の前で立ち止まってるとギロリとひと睨みされて、慌てて後ろ側へと回ってる。


 教室に残ってる子達も、お喋りやお弁当を食べる手を止めて、チラチラと様子をうかがってる。

 

 なんと言うか、一気に雰囲気が悪くなった……。

 まるで、羊の群れに狼が紛れ込んで来た……みたいな。

 

 ああも、露骨に人に悪意を向けるような人と、関わるなんて嫌過ぎる。

 このまま、回れ右しちゃいたいのです。


「あの会長……かなり評判悪いよ。一学期の頃は、抑え役の副会長が居たんだけど、追い出しちゃってからは、もうやりたい放題……。見つかってなきゃ、いませんとか嘘言って、隠れさせるとかしたんだけど……。思いっきり、こっち見てるね……。ユリちゃんも目立つ風貌だから、さすがに誤魔化せないね……。リオっち、どうしよう……私達で、なんとか出来ないかな?」


 マリネさん、遠まわしに戦略的撤退を主張。

 ユリも同感なのです。

 

 見つかってるかどうかは、もう確認するまでもない。

 敵意の籠もった視線が後頭部に突き刺さってるのを感じる……ものすごく落ち着かない。


 うっかり、反射的にカウンター攻撃を仕掛けたい衝動を必死に堪えているのが実情。


「あのさ……ユリちゃんと会長、何があったか知らないけど、出来れば関わらない方が良いってのは、確かだよ。思いっきりこっち見てるから、ここで無視ってのも、あまりお勧めできない……。ひとまず軽く挨拶でもして、適当なとこで、トイレ行くとか言って話切り上げちゃうとか……。どうでもいい世間話でもして、先生来るまで時間稼ぐとか……そんな感じの対応でいいんじゃないかな。あ、もちろん私らも一緒に行ってあげるよ。後ろで見守るくらいしか出来ないかもだけど……」


 リオさんまで似たようなことを言ってる……。

 世間話で時間を稼ぐとか、そんな器用な真似できるかなぁ……。

 

 どうしよう……いっそ窓から、飛び降りて逃げちゃおうかな……?

 さすがに、三階から飛び降りて、追ってくるとかあり得ないと思うけど。

 

 違う意味で大騒ぎになるし、問題になりそうだった。

 もちろん、力づくでぶん殴って追い払うのも出来なくもないけど、それは論外……めんどくさいし、暴力系ヒロインとか外聞が悪すぎるのですよ!

 

「……行くしか無い……のですよ……!」


 進退窮まったのなら、まっすぐ前を向いて、血路を開くのみ!

 ……唐突に訪れた決戦の舞台! 向こうから来てくれたのなら、迎え撃つのみなのですよ!


 席から、立ち上がって、振り返ると会長さんの目を真っ直ぐ見つめ返す。


 一瞬、怯んだように目線を逸らされた。


 よっしゃ! 勝ったーのですっ!

 メンチ合戦はユリの勝ち! この調子で追い返しちゃうのですよ!


 マリネさんとリオさんも、頷き合うと後ろから付いてきてくれる。

 冴さんに至っては、止められなかったことで責任を感じてるらしく、庇うように前に立って、先導してくれる。

 

 これが一人ぼっちで……だったら、なんか一方的に言い負かされて涙目になる未来しか見えないけど、味方が後ろにいてくれるって思うだけで、頼もしいのです。


 軍事教練でも、逃げ出したくなったら、後ろにいる戦友の目を見ろとか言ってたけど。

 その言葉の意味がやっと解った気がするのです。

 

「……クスノキ・ユリコです……えっと……何か御用なのです?」


 目を見て、毅然として名乗る。

 にらみ合いではこっちが勝ってる。


 くぐった修羅場の数が違うのです……怯んでなんか絶対しない!


 人数は三人……本人と、取り巻きっぽい子が二人。


 それと、あと一人。


 ちょっと離れた所で、壁に寄りかかってる背の高い、ショートカットの女子生徒がいる。

 やっぱり、緑リボン……二年生。

 

 結構身体鍛えてるみたいで、足の筋肉とか凄い……いわゆる武闘派な感じの娘。


 ……女子力とかかなぐり捨てて、アスリートの道を邁進する……求道者みたいなストイックさが垣間見える。

 むしろ、女の子にはモテそうなんだけど……感じとしては、戦闘要員……荒事の専門家って感じ。


 いずれにせよ、敵は六人……。

 まぁ、白兵戦になったら余裕かな?

 

「貴女が、クスノキさんですね……。少しお話がしたくて……お時間よろしいかしら?」


「……手短に、お願いするのですよ」


 向こうは、もっと怯えるとでも思っていたのか、割と平常運転なユリの様子に、露骨に鼻白んだようだった。


 ユリももうちょっと緊張すると思ったけど……いざ、相手を目の前にしたら、意外と落ち着いてるのです。

 初っ端、メンチ合戦で勝ったのが効いてるね! この調子で完封勝利……なのです!

 

「……ちょっと、クスノキさん! 会長がご挨拶してるのに、頭も下げないっての? 一年のくせに生意気よ!」


「そうよっ! 大体、こんなに待たせる時点で非常識よ! 菅原も単に呼びつけるだけで、どれだけ時間をかけてるのよ! この無能者がっ!」


 取り巻きさん達がそんな事をいうので、会長さんを無言でじっと見つめてから、軽く会釈。

 

 そもそも、相手は頭を下げるどころか、偉そうに腕組みしてて、むしろ威圧してる……。


 相手に合わせるなら、こんなおざなりな対応で、いいのですよ。


「大人しそうな見かけの割に、意外と度胸はあるのね……。この私に敬意の欠片も示さないとか……。それにさっき思いっきり睨みつけてたわよね? この私にあんな反抗的な態度を取るなんて……言語道断ですわ。さすが、外国人……野蛮人の国……エスクロン人なだけはあるのね……。大体、なんなのかしら、その派手な髪は……郷に入っては郷に従えって言葉知らないのかしら?」


 ……ユリ、キレていいかな?

 自分はともかく、エスクロン人を野蛮人とか言ったのだけは絶対許せない。


 別に、エスクロン国民と言うわけじゃないリオちゃんですら、その一言で激怒してるのが解る。


 でも、落ち着こう。

 相手はこっちを挑発すべく、口喧嘩を挑んでるのだから。


 こっちも相手の土俵で勝負して勝たないと、勝ったことにはならない。


「……敬意を払う払わないは、ユリが決めることなのですよ。敬意を払ってほしくば、相応の態度を示すべきなのです……。ユリは確かに、ここの皆からみたら外国人だけど、礼儀くらいは弁えてますけど、貴女の発言は銀河のおよそ1/3はいるとされるエスクロン系住民のすべてを侮辱しています。そんな言葉を平然と口にするような方に払うべき敬意なんてユリは持ち合わせていません! それとこの髪は地毛なのですよ。このコロニーでは人種差別がまかり通ってるのです? 今どき、ありえないのですよ」


 相手の身体的特徴を差別するような言動。

 民族すべてを侮辱する言葉……。


 腕組みして、名乗りもしない……。

 普通に喧嘩売ってるし、何もかもが最低っ! こんなのが生徒会長を名乗る?

 ありえないのですよ……。


「そ、そこまでは言ってませんし、そんな民族まとめて侮辱する意図なんて……私が差別主義者だとでもいうのですか? それこそ、侮辱です!」


「あのさー、ちょっと言わせてもらっていい? 私もその野蛮人の末裔なんだけどさ」


「な、なによ! 部外者は口を挟まないでくれる?」


「いいや、言わせてもらうよ! あんた……エスクロン人を一括にして馬鹿にしてたけど、このクオンって、エスクロンからの移住者がかなり多くいるし、この場にだって、私と同じエスクロン人の血を引いてる子なら何人もいるよ? 私達全員をあんたは一瞬で敵に回した……。いいよ? なんだったら、野蛮人流の流儀で勝負してみる? 悪いけど、私……ド付き合いなら結構強いよ? もう話し合いとか面倒だから、それでケリつけようよ!」


 リオちゃん……思ったより、怒ってた。

 リオちゃん以外にも何人もの女子生徒が前に出てきて、怒りをあらわにしてる。


 およそ10人くらい。

 なるほど……このクオンは、元々エスクロンからの移民が多く居る。

 けど、こんなにいたなんて知らなかった。


 けど、それまで後ろに居た壁によっかかってた二年生が、ゆらりと姿勢を姿勢を正して、こっちを睨みつける。


「なんだぁ……タムラ、もうアタシの出番かい? ったく、エスカー共を変に挑発するなよ。そいつらは血の気が多いから、ビビって手出ししないとか甘く考えてると、いきなり殴りかかってくるぜ? そこの白いのも相当なやり手だろ? ……まぁ、アタシがやってやってもいいが、ちょっと血なまぐさいことになるかもしれねぇな」

 

 彼女が動いた瞬間、一瞬でその場が静まり返り、後ろの子達が何人か腰砕けになる。

 強烈な殺気……それだけで、一瞬で場の空気を変えてしまった。


 なるほど、それなりの使い手なのですよ。


「……リオちゃん達は、下がって……会長さんは、お話し合いに来たんですよね? それとも、そこの人を使って、一年生に制裁を与えに来た……どちらですか? 後者であれば、その方が余程野蛮人ですよ……力づくで制圧とか……そう言う事なら、相手になりますよ?」


 そう言いながら、手を上げてリオちゃんたちをかばう。


 もう会長さんとか眼中にない……二年のカラテカ先輩がド本命。

 ちょっとユリも本気出しちゃおうかな?


「へぇ……言うねぇ。おい、タムラ……言われてっぞ? お前も少しは言い返せよ……。ったく、何しに来たんだって話だぜ……ホント、アタシがいねぇと口喧嘩も出来ねぇとか笑わせんなよ? ああ、後ろのエスカー共、コイツの暴言はアタシが代わりに謝っとくから、外野はすっこんでろ……いいな? 正直、すまんかったな……」


 獰猛な笑みを浮かべながら、頭を下げるカラテカ先輩。


 その様子に、リオちゃん達も皆、肩の力を抜く。

 

 なんなんだろ、この人。

 意外と言ってることはスジが通ってるし、暴力一辺倒って感じでもない。

 

 人間としては、この会長さんなんかより余程できてる。

 

 理想を言えば、この人が先に手を出してきて、目にも留まらぬマッハパンチで軽くあしらって、頼みの武力を失った会長さんに、とっとと帰れバーカ! ってやるのが理想的な展開だったんだけど。


 なんだかとってもやりにくくなったよ?


「あの……その。えっと? 会長さん、何の用なんですかね……結局。もう解散していいなら、戻りますけど……」


 なんか、一気にやる気なくなったよ。

 口論とかなったら、ユリはあんまり強くないのですよ。


「くっ! このっ! クスノキ・ユリコ! 貴女、この私をどこまで侮辱するの? そもそも、何の用だなんて……そんなの、解りきってるでしょうが!」


「解らないから、聞いてるのですよー。それと侮辱したつもりはないのですよ。単に敬意を払うには値しないって言っただけです。そもそも、敬意を払うかどうか決めるのはユリなのですよ。そのユリのジャッジはこんな人に敬意を払う必要はない……そう言うことなんで、会長さんが何言ってもユリは聞きません。そんなの、ユリの知ったこっちゃないのですー!」


 ドンと指を指して、思いっきり断言。

 

 言い方が面白かったのか、後ろでクスクスと笑い声。

 パチパチと拍手の音も聞こえてくる。


 うん、形勢は悪くないのです。


 ここは、相手が言い返してくる前にダメ押しを仕掛けて、こっちのペースに巻き込むのですよ!


 にゅふふ……ユリもそのうち、こんな日が来るだろうと、エスクロン防衛士官学校で行われた「生徒会長決定論説バトルロイヤル」の録画映像とか見て、学習してたのですよ。


 この手の口論を制するには、別に相手を言い負かす必要なんて無いのですよ。


 ……オーディエンスを如何に取り込むかが勝負の要。

 支離滅裂な議論で、論理的でもなんでもなくても、なんとなく言い負かされたって空気で相手を支配して、オーディエンスを味方にできれば、勝ちなのですよ!


 正直、なにやってんのか全然解かんなかったけど、多分そんな感じなのです!


「……キィーーッ! ムカつく! アンタ、絶望的に可愛げないわねっ! せ、先輩後輩の関係を何だと思ってるのっ! 私は生徒会長で二年生! 目上の立場なのよ! それを会った早々延々と小馬鹿にして! 失礼にもほどがあるわ! 私は……生徒会長なのよっ!」


「あれ? 二年生の先輩さんだったのですか? と言うか、そもそもお姉さんは、初対面の上に名前も名乗られてないので、ユリは誰だか解らなかったのですよ? お姉さんは、だぁれ? どこの人? なのです。知らない人とは、話しちゃいけませんってお母さんにも言われてる……なのです! ぷいっ!」


 ほっぺたプクプクにして、そっぽ向くと、うしろで、パンパンパンと手を叩く音が聞こえる。


「あはははっ! ユリちゃんの返し……もうっ! 面白すぎるっ! もう限界っ! お腹痛い……! な、なにこれ? 漫才? 面白すぎるよ! そ、そだねー、ユリちゃん、こんな知らない変な人と話しちゃいけませんよ! 早くおうちに帰りましょう! ば、馬鹿が移っちゃうわよ! プーックックック!」


 マリネさん……お腹抱えて笑ってる上に、ここぞとばかりにノッてきた。

 

 それをきっかけに、近くで話を聞いてた他の子にも笑いの渦が伝染して、皆、揃って肩を震わせてる。

 

 生徒会長だから、知ってて当然……って態度で来て、この対応。

 訳もわからないまま、笑いものにされて……。 


 そりゃ、面白いと思う。


 うんうん、頭に血を上らせて、突撃してきた相手を軽くいなして、オーディエンスを笑いの渦に引き込む……ナイス展開なのですよ。


 もうこうなったら、相手も怒れば怒るほど、逆効果。


 ユリ達がお笑いでこの場を支配してる以上、相手が萎縮させようと怒れば怒るほど、逆効果。


 完全にこの場を制することに成功したのですよ?

 

 ユリの勝ちーっ! いぇいっ!

 

 誰に喧嘩を売ったか、少しは思い知れー! ……なのですよーっ!

この会長との下り、ちょっとコミカルな感じにしてみました。


ちなみに、この会長のイメージとしては「あそびあそばせ」に出てたオカ研の岡さんみたいな感じで、

普通に見た目がホラー入ってる感じの人です。(笑)

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