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第十話「冴さんと一緒……なのですっ!」③

「……えと……何があと二人なのです?」


 ユリがそう言うと、アヤメさんも言いにくそうな感じで、軽く目を伏せる。

 しばしの沈黙の後、ゆっくりと話し始める。


「実はな……この部活……。最低人数割れな上に、ここ数年まともな活動実績もないって事で、生徒会から廃部勧告食らっととるんや……。去年はエリーが生徒会関係者やったからってコトで、人数割れや活動実績の件も、お目溢しされとって、何も言われんかったんやけど……。エリーが抜けた途端、嫌がらせみたいに通告してきたんや……。ユリちゃんに余計な心配かけたくなくて黙っとったんやけど……隠しとって、ゴメンな」


 廃部勧告と言うと……お取り潰し宣言?

 ええっ……入ったばっかりで、そんなご無体なっ! なのですっ!


「去年は、わたくしも生徒会の幹部候補として、生徒会の仕事も随分手伝ってましたからね。本当は前会長はわたくしを会長に指名したかったらしかったんですけど……。わたくしは、むしろ宇宙活動部の復活を優先したかったので、会長職は辞退して、会長職をやりたがってたクラス委員の一人のタムラに譲って、自分は副会長で……そう考えたんですけどね。今にして思えば、失敗したって思います……。でも、生徒会長とか苦労ばかりでメリットなんて、履歴書に書けることが増えるとかその程度なんで、面倒くさいって思っちゃったんですの……」


 生徒会長とか……。

 華々しいイメージと裏腹に、体のいい雑用係の親分ってのがその実情なのですよ。


 各種行事の取り仕切りやら、予算配分……各クラスからの要望やらなんやらの調整。

 要するに、ボトムアップ型のてっぺん。


 現場が考えて、現場が上に挙げて、決断も下から意見を集約して、皆で決める。

 トップは、基本調整役に徹する……そう言う組織運営のやり方。

 

 あくまで、学生……模擬的な政治形態の実地学習と言う観点なら、この全員参加型のボトムアップ式ってのが理想なのは解る。

 

 と言うより、むしろそれでいいはず……。

 生徒会長に求められるのは、まとめ役……個人の力ですべてを取り仕切るとかそんなの誰も求めてない。

 

 にも関わらず、今の会長は、無理やり、個人がすべてを仕切るトップダウン型にしようとしたもんだから、そりゃもうグダグダにもなるのですよ。


 生徒会側も、それを無理にやろうとした結果、本来やるべきじゃなかった領域の仕事をする羽目になって、オーバーワークとミスマッチでグダグダ。

 

 組織形態からして、そう言うやり方が出来るようなものじゃないのに、無理してゴリ押しした結果、もうにっちもさっちも、いかなくなってしまった……。


 ネット上や校内ネットワークから拾ってきた断片情報を繋ぎ合わせた限りでは、そんな惨状が見て取れたのですよ。

 

 これは酷い……なんだか、なんだかなぁ……もうっ! って、感じなのです!

 大体、高校の生徒会なんかで、トップダウンを採用とか本気で馬鹿なのですよ?

 

 トップダウンの最大の欠点……トップが無能だと割と詰む。

 おまけに、上の方に負荷が集中するので、参謀本部みたいな補助要員を山盛り付けないと、あっという間に個人のキャパなんてオーバーフローする。


 要するに、個人の高い資質を求める組織形態……。

 個人の才覚次第で、高い成功を収められるとか、即断即決、即実行……そんな組織運営が出来るとか、色々メリットはあるし、実際エスクロン辺りはCEOを頂点とするトップダウン方式の代表例でもあるのですよ。


 ……エスクロンは国家と言う超巨大組織であり、全体主義国家でもある。

 エスクロンは、とある目的を遂行すべく数百年前から、看板をかけかえたりしつつ、来たるべきその日のために技術を磨き、国民を鍛え、軍備を増強し、備えを続ける……そう言う国なのですよ。


 要は、大きな目的があってその為に作られた国であり、その目的の為にユリ達国民も含めてエスクロンと言う国が存在してるのです……それがユリ達、エスクロン国民の考え方なのです。


 それ故に、CEOと言うトップに絶大な権限を与え、有事にはCEOの統率の下、可及的速やかに行動し、目的を達成する事を目指している。

 

 皆で決める民主主義や下の意見を取りまとめ……なんてやってると、何もかもが手遅れになってしまうから、エスクロンでは、民主主義やボトムアップ型については、非効率的とされて否定的なのですよ。


 もっとも、地方自治体とか、生徒会なんてルーチンワークを主体とする組織の運営に関しては、別にボトムアップ型でも何ら問題はない。


 そもそも、トップダウン型はリーダーに負荷が集中することになるから、相応のバックアップ組織やリーダーそのものに高い素質と言うものが必須になる。


 実際、エスクロンでは、CEO補佐官と言う役職者が大量に居て、負荷分散しつつ膨大な日々の業務をこなしているし、歴代CEOは誰も彼も軽く人間離れした情報処理能力を持ち、超人的な業務処理を行っているのですよ。

 

 そう言う実例を知ってる側の立場で言わせてもらうと、生徒会程度の組織でトップダウン式運営とか、普通にありえない。


 そのタムラ会長って人は、人間コンピューターみたいな超人スペックの持ち主なの?

 凡人クラスの能力で、全てを仕切るとか無理言うなと。

 

 もう馬鹿か、阿呆かと! 慢心が過ぎるのです!

 

「タムラ生徒会長って、馬鹿なのです? 阿呆なのですか?」


 いきなり立ち上がって、その一言。

 皆、呆然としてる……でも、どうしてもそう言いたかったのですよ!


「い、いきなり……話飛んだみたいやけど、ユリちゃんの中で何が起きたんや?」


 いきなりの生徒会長馬鹿宣言に、アヤメさんも驚いたような感じ。

 ……思わず、一人でグルグル考えちゃった結果、こうなったのです。

 

「よ、よく解りませんけど……。今のタムラのやり方とか、自分で色々調べて、なんて、バカなことやってるんだって思ったとか、そんなんだと思いますのよ?」


 とりあえず、エリーさんに向かってコクコクと頷いとく。


 ユリのお得意、アウトプットが追っつかない状態……なんだけど、そう長くもない付き合いにも関わらず、この二人は、ユリの内心の葛藤も含めて理解してくれてるようなのです……。


「実際、タムラって、相当無茶やってますからね……。権力志向が強い方だとは思ってましたけど……生徒会長って、全部仕切るとか、ガンガン人に命令したりとか……そんなんじゃないんですのよね……。あくまで取りまとめ役、体のいい雑用役ですわ……。そんな面倒くさいの、やってられませんの」


「まぁ、エリーはそう言うけどな。ハセガワ先輩……あの人かつては、生徒会長も兼任してて、その権限フル活用して、むしろ好き放題やっとったらしいからなぁ……。去年までの生徒会も会長は、ハセガワ先輩の後輩やったんや。その辺もあって、生徒会はむしろ宇宙活動部を優遇しとって、なんの活動実績がなくとも、存続させるって方針やったんや。エリーもめんどくさがらんで、そのまま会長職を引き継いどきゃ良かったんと違うか?」


「そりゃ、確かにそうなんですけどね……。わたくし、家でも帝王学とか経営学とか色々、やらされてるんですのよ? 高校くらい好き勝手に、そう言うのと縁がない感じにしたかったんですの……」


 ハセガワ先輩……そんなだったんだ。

 さぞ派手に活動してたんだろうなぁ……って、容易に想像付く。

 

 と言うか、この宇宙活動部って、かなり前から生徒会と表裏一体だった……多分、そう言う事。


 ……何となく状況が見えてきたのですよ。

 要するに、タムラ会長って人は、ハセガワ先輩が作った生徒会の仕組みを壊したかった……そんな気がする。

 

 CEOとその補佐官達がありとあらゆる事を仕切ってるエスクロンでは、そう言うのって、あんまり聞かないけど。


 各星系の執政官や首相……権力者の間とかでよくある話らしい……。

 

 政権交代とかで、全然考え方の違う人達が政権につくと、前政権のやったこととかを全否定して、事業予算をごっそり削減したり、認可取り消しとかやって、前政権の色を消すのに躍起になったりするってのが、世の常だったりするのですよ。

 

 さすがに、外国と締結した条約や同盟を破棄とか無茶するのは、めったに無いけど……それだって、珍しいことじゃないってのが実情。


 国家イデオロギーがある日を境に180度変わるとか……歴史上でも、幾度となく実例があるのだから、割と始末に負えない。


 なのでまぁ……大国とかになると、衛星国がおかしな主義に染まる前に、裏工作とかでその芽を摘んだりとか普通にやってたりするのです。


 エスクロンでも定期的に民主化テロリストなんてのが湧いてきて、国民に自由を! とかやり始めたりするから、地方運動レベルの段階でぶっ潰すとか当たり前にやってる。

  

 ……世の中ってのは、綺麗事だけじゃ成り立たないのです。

 

 とにかく……ここで起きてるのも、概ね同じ構図。


 規模も小さいし、やってることも可愛いものだけど、そこに権力や利権というものがある以上、政治の世界と同じことが起きるのですよ……社会の縮図とはよく言ったもんなのです。

 

 多分、アヤメさんが言うように、生徒会もエリーさんが会長だったら、これまで通り、上手く行ってたんだと思うけど。


 変にガチで権力志向の強い人がしゃしゃり出て来ちゃって、エリーさんも自分から生徒会から出ていく流れに乗せられちゃった。

 

 たぶん、そう言うことなのです。

 どうも話を聞く限りだと、アヤメさんがエリーさんのウィークポイントだと見切った上で、色々巧妙な工作を仕掛けられた。

 

 ……そんな感じがするのですよ。

 

 なんと言うか、高校の生徒会程度で、そんな権謀術数渦巻くとか……なにそれ?

 少女漫画とかで、生徒会の陰謀、ドロドロとした人間関係とか……割と鉄板だけど。


 ……実際に、そんなのに出会すと……なんともドン引きなのです。

 

 けど、このままだと、間違いなく宇宙活動部は、お取り潰しの流れになる。


 エリーさんが目の敵にされてるっぽい上に、生徒会が生殺与奪権を握ってる以上、割とどうにもならない。

 

 でも、やらせないよ?

 エリーさん達には、大きな借りが出来てしまったから……。

 

 エリーさん達と知り合ってから、ユリの周囲は、全ていい方向へと進むようになったのですよ。


 ユリの事が必要とされる……居場所がもらえたし、二人に受け入れてもらって、友達になって一緒に街で遊んだことがきっかけで、クラスから浮いてたのに、いい感じで受け入れられて、冴さんやマリネさん達とも仲良くなれたのです。

 

 あれほどまでに、散々苦労して、半ば絶望してたコミュ障や言語障害も、ちょっとしたきっかけ一つですっかり、まともになった。


 もう、感謝してもしたりないくらいなのですよっ!


 なんかもう、本書けそう……宇宙キャンプ始めたら、コミュ障治って、美味しくご飯が炊けましたーとか。


 とにかく、ここは、ユリも頑張りどころなのですよ?

 

 まずは、なんとかして、部活存続の条件を満たして、活動実績も作って、内外に活動をアピールして、潰しちゃいけないよねって流れを作る……。

 

 流れを作る……それこそ、一人じゃ難しい。

 隕石を荷電粒子砲で消し飛ばすほうがよほど気楽……でも、やるのですっ!

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