第十話「冴さんと一緒……なのですっ!」②
「さ、冴さんが付いてきたのは……えっと……興味本位?」
冴さんが一緒に来た理由……想像できる限りでは、それくらい?
「そ、そうです! 興味本位ですっ! し、下心とか別にありませんから! 生徒会の一員と言っても、クラス投票でクラス委員に任命されただけで、それも見た目が委員長っぽいからなんて理由で名前出されたって……。だから、別に今の生徒会に義理とかないですし、他意は一切ありません! と言うか、エリー先輩がいる部活だったなんて、そもそも今の今まで知りませんでしたよ……」
「そうなの? でも、確かにクラス委員ってそんな感じなのよね……。そうすると、ユリコさんにくっついて来たってだけで、タムラの手先とかそんなんじゃないのね?」
「はいっ! 会長の手先なんて、むしろ、心外も良いところです!」
冴さんとエリーさんがじっと見つめ合う。
でも、それも一瞬だけ……エリーさんがふっと笑うと、キャンプ椅子に座り直す。
「その様子だと、タムラは相変わらずのワンマン唯我独尊……生徒会もグダグダって感じ?」
「……ご想像どおりです……。先輩がいた頃は、一年生の意見とか要望なんかもちゃんと聞いてくれてたりしましたけど、今は、生徒会の一方的な演説会……みたいな感じですよ」
「やっぱりね……。生徒会とか言っても、そんな独裁政権じゃあるまいし……単なる意見のとりまとめ役……その程度の役割なんだって、何度も言い聞かせてたんですけどね。クラス委員集めた会合だって、双方意見をまとめて、誰もがそれなりに納得する妥協案を探る……。本来、あれってそう言う会合でしょう? だから、一年の意見もちゃんと聞けって、当たり前の事をやったまでだったんですけどね」
「そう、おっしゃるとおりです。けど、今はもう全然……他の一年もだけど、クラス委員は皆、文句ばっかり言ってますよ。エリーさんが居なくなってしまって、会長を抑えられる人が居なくなってしまって、皆、困ってるってのが正直なところです。そのくせ、本来クラス委員達とも分担すべき作業を一手にやろうとしてるもんだから、もう皆、いっぱいいっぱいって感じですよ」
「……全然駄目じゃないの……あのバカ。偉そうなこと言っときながら、わたくしが抜けたら総崩れとか……何やってんだか……。で、菅原さんとしては、わたくしに生徒会に戻って欲しいとか思ってますの?」
「本音を言うとそうなんですけど……。今更戻っても……でしょうね」
「そう……今更よ。無責任な話かもしれませんけど。わたくしも、もうウンザリなんですの。タムラの相手してたら、一学期の間だけですっかり胃痛持ち……けど、生徒会から縁切ったら、嘘みたいにスッキリ。毎日ご飯が美味しくて、夏休みの間に少し背が伸びたんですのよ?」
十代で胃薬必須とかそれはそれで、悲しいのですよ。
横で話聞いてるだけでも、そのタムラって生徒会長が如何に問題児なのかよく解るのですよ……。
「そうですか……それは何よりです。先輩が居なくなってから、これでも少しは心配してたんですけどね。元気そうでよかったです……確かに、顔が少し丸くなりましたよね」
冴さん……最後の一言は女子的には、割とクリティカル。
エリーさんもダメージ受けたみたいで、なんか仰け反ってる……。
「……さ、最後の一言は余計ですのよ。とにかく、タムラと菅原さんが関係ないってのは解ったけど。それはそれとして、いったい何しに来たんですの?」
「えっと……きょ、今日はユリコさんの部活に興味があって……お邪魔しただけでして……。ホ、ホントですって!」
エリーさんの古巣。
生徒会の一員でもある、冴さん。
勢いで一緒に連れてきちゃったけど、これ……どうだったんだろ……。
もうちょっとちゃんとリサーチして、双方に確認とかすべきだったかなぁ……。
「まぁ、待ちや。エリーもそう言うキツい言い方せんでいいやん。要するに、この子はユリちゃんのお友達で、放課後も一緒にいたくて、うちらのとこに遊びに来たって事なんやろ? 今も仲良さそうに手ぇ繋いどるしなぁ……」
アヤメさんが割って入ってくる。
今頃になって、冴さんもユリの手を握ってた事に気づいたらしく、顔を真っ赤にする。
冴さん、来る時も自転車の後ろからギュッと捕まったら、すっごい照れてたのです。
でも、冴さん……なんか抱き心地よくって……つい。
ああ言うのって、控えたほうがいいのかなぁ……どうも、人との距離感ってよく解んないのです。
「そ、そうですっ! 私、ユリコさんとお友達になったのですよ! ……えっと……その。宇宙活動部……でしたっけ? わ、私もちょっと興味出て来て……地上世界に降りていって、コロニーで出来ない体験とか、凄く憧れますっ!」
冴さんがそう言うと、エリー先輩とアヤメ先輩も揃って、顔を見合わせる。
「ほなら、ひょっとして部活見学とか、入部希望とかそんなんだったんか? あ、二人共、突っ立っとらんで、そこの椅子座ってみてや……今日、届いたばかりの新品なんやで!」
アヤメ先輩に、例のキャンプ椅子を勧められる。
真ん中にテーブルがあって、テーブルの上にクラシカルなデザインのランタンが置かれてる。
テーブルを囲むように、キャンプ椅子が並んでて……薄暗い照明のせいで、夜の屋外キャンプのワンシーンって感じにも見える。
ランタンもオレンジ色でゆらゆらと揺らめく炎のような明かりだけど……発光素子の発光パターンを制御して、そんな風に見えるようになってる。
これなら、コロニーだろうが、宇宙船だろうが、安心安全でご利用可能。
デザイン的には、ハリケーンランタンなんて、20世紀のものに酷似してるらしい。
ブロンズ製のアンティーク風デザイン……これはこれでいーなー。
ユリも欲しくなっちゃう!
「これ……お部屋に欲しいのです。なんか見てると、フワフワ癒やされるのですよぉ……」
テーブルの上にアゴを乗せて、ランタンの明かりを見つめながら、思わずそう呟くと何故か、皆揃って優しい目で見られる。
「……うふふ、私は……ユリコさんの仕草見てるだけで、癒やされるかなー」
「せやな……。このなんとも、小動物ライクなとこがえーなー」
冴さんとアヤメさんが、勝手にユリの評価を始める。
「ですよね? ユリコさんって、うちのクラスで最初はかなり浮いてたんですけど。色々あって、すっかり皆のアイドルって感じなんですよ……。なんだろう、つい守ってあげないとって、義務感に駆られるような……あはは」
「……冴ちゃんやったっけ? あたし、なんか色々解っちゃったで……」
「わーっ! 先輩、黙っててください! と、とにかく……地上降下とかよく知りませんけど、生徒会よりは全然楽しそうです! と言うか、この椅子っていい感じですねー。座面とかこんなペラペラなのに、身体が包み込まれるような感じで……すっごく、落ち着きます。この手すりの穴ってなんです?」
「せやろ? この穴はドリンクホルダーや……ここに冷たいものや暖かいもんを置くんや。本番やと、こんな感じで、暖かいココアとか飲みながら、焚き火を囲んで、友達同士で広い空を眺めて、心ゆくまでくつろぐんや……どうや? ええやろ……しかも、皆でご飯作ったり、一緒にお泊りとかもするんやで?」
なんか、端的に言うと、シンプルにダラダラしに行くってだけのような。
でも、確かにもうこの時点で十分、幸せ気分夢気分……。
これで、地上で美味しいもの食べてーとか、青い空をのんびり眺めて……なんてなったら、シンプルに幸せ……。
言われて、冴さんも色々想像してるらしく。
ぼんやりと考え込む……。
「そこには、ユリコさんも……一緒なんですよね?」
「なのですよ……ユリもお友達と一緒に美味しいもの作ったり、一緒にお泊りとかしたいのです」
うん、あの軍事教練の同年代の子達との塹壕ライフとか……そんな迷彩色の青春の思い出とかむしろ、上書きすべきなのです!
「……先輩、私も入部……します!」
見学とか言ってたのに……冴さん、まさかの入部希望!
素敵ーっ! なのですーっ!
「よっしゃー! 一年部員とか、他の部からしたら垂涎やで! あたしは、構わんで!」
「わたくしも、構いませんわ……。菅原さん……心から歓迎させていただきますの!」
エリーさんがニッコリ笑う。
「……そうなると、エリーあと二人やな! 一気に部員が倍になったとか、こりゃ、いい流れやで!」
「そ、そうね……なんと言っても、一年生! おまけに生徒会にも入ってるってなると……逸材よね!」
謎の盛り上がりを見せる二人……良く解らないのですよ?