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第一話「お茶会レディース」④

 

 ついでながら、続いて……ここらでひとつ、軽く自己紹介でもするのですよ。


 ユリのフルネームは、クスノキ・ユリコ。

 ……ご先祖様が古代日本の戦国武将で、割と由緒正しい家系なのです。

 

 企業国家エスクロン社国の重鎮と言われるクスノキ家の分家のひとつ。


 ユリってのは、地球原産の可憐な白い花を意味するんだけど、隠語で女の子同士でゴニョゴニョ……と言う意味もあるそうで、それ知った時、ちょっと落ち込んだ……。


 小さい頃から、自分のこと……一人称をユリと呼ぶクセがあって、余計ダメージ大きかったんだけど……ユ、ユリは、何度も言うように、別に女の子が好きな子じゃないのですよ?


 かと言って、男の子とはさっぱり縁がないのですけど。


 まぁ、本当に縁がないとは言えないけど、縁があっても身内同然だしね……。


 今どきの女子高生で彼氏持ちの方が少数派だし……。

 仮に男の子と知り合ったからって、お付き合いとか……うーん? 具体的には、何すれば良いんだろね?

 

 ちなみに、一緒に塹壕籠もって、丸一日続く猛爆撃を乗り切ったりしたら、それまで全然知らない同士でもガッツリ握手して、ハグしあって、戦友って感じになれるのですよ。


 そんな感じの男の人の戦友なら、それなりにいるかも。

 地上演習で一緒になった軍曹さんとか、色々可愛がってくれたし、兵隊さん達にはメイク落とせば可愛いんじゃないかなーとか言われたし。

 

 ちなみに、地上戦演習では顔にごってりフェイスペイントとか普通だし、ボディアーマーとかパワースーツをガチガチに着込むし、髪の毛もお団子にするから、パッと見、女の子って思われることって意外と少ない。


 と言うか、総じてそれどころじゃないって演習想定がほとんどなのですよ……。


 エスクロンの対抗演習……お互い、死なない程度に手加減するけど、基本本気で全力全開がモットー。


 ……そんな調子なので、けが人なんて、毎回山ほど出る。


 年中行事でそんなことやってるから、医療関係者は必然的に現場経験をこれでもかって積むことになり、半ば必然的に医療技術が突出して発展したんじゃないかって言われてるけど、多分それ間違ってない。


 ちなみに、エスクロン宇宙軍は、基本男女同列で扱ってて、女性兵士も多いみたいなんだけど、あんまり色恋沙汰って聞かない。


 皆、結構真面目だからってのもあるけど、そんな色恋沙汰とかやってられるような余裕なんて、エスクロン宇宙軍の厳しい訓練三昧の日々には存在しないのですよ。 


 ちなみに、家では、お姉ちゃんが二人いる。

 エリコお姉さまと、キリコ姉。

 

 それぞれ、一文字づつ違うだけの三姉妹なのです。

 

 二人のお姉ちゃんはどっちも二十代半ばで、一つ違いの年子の社会人……上の姉は、エスクロンの若きエースエンジニアと言われるほどの超有能な才女。


 今をときめく花形部署、エーテル空間兵器開発局の副主任。


 下のお姉は、私立女子校の先生……と言うか、思いっきり今の学校の担任。

 仕事モードのキリコ姉は、普通に美人教師って感じだった……お料理も片付けも出来ないだらし姉のクセに。

 

 なお、ユリはひとりだけ、ぶっちぎりで年下の16歳……十歳近くも離れてると、もう姉妹というよリ、お母さんが別に二人いる感じ。

 

 10年の年の差は、未来永劫埋まらないって決まってるんで、私にはお母さんが三人いるようなものなのです……。

 

 実際、中学校の授業参観とか三人でゾロゾロとやってきて、どれがお母さんって聞かれて困った。

 お母さん、アラフィフなんだけど……全然、年取らないんだもん……。

 

 この辺は……まぁ、エスクロン人なので。

 相応のお金はかかるけど、十代並の外見のアラフィフ女子なんて、割といる。

 

 エスクロンの男性の間では、若くて美人と思って声をかけたら、半世紀も年上だったとか、そんな話はよくある話なんだとか。


 肉体年齢若ければ、実年齢とかあんまり関係ないんじゃないかなーって思うんだけど、男の人って割とそう言うの気にするらしい……よく解んない。


 なお、ユリは、星間企業国家エスクロンの第3世代強化人間と呼ばれる軍事用の戦闘要員……だったんだけど。


 ここら辺は複雑な事情で、しばらく休業。


 今のユリは、ごく普通の高校一年生なのです。

 けど、一応エスクロン友好親善留学生って肩書もあるかなぁ……。

 

 一応、政治的な理由でここにいるのですよ?


 ……そんな訳で、話は先程のヤカンゲットの場面まで戻るのです。


 さて、煮えたぎって火炙りの刑に処されていた、ヤカンさん。

 それを素手で救出しようとする、エリー先輩の無茶は阻止したのです!


 ちょっと今のは、本気で危なかった……リーチの差でセーフ。

 

「と、とにかく……!! このヤカンさん……表面温度が軽く100度近い……のです……。ユリ……この宇宙空間作業用グローブ越し、ちょっとモヤッと温かい程度? でも直に触ったら……ジュワーって! アッチッチなの……です……多分。だから、触るの駄目? みたいな?」


 とりあえず、支離滅裂っぽいけどなんとか言葉にしてみた!


 ……まぁ、このくらいの温度なら、耐熱許容範囲だから、直に手に持ってもなんとかなりそうなんだけどね。


 惑星大気圏突入とか、ちょっと機体の突入角度や速度ミスると、機内温度が100度超えとかあっさり行っちゃうし、それくらいの経験は何度もある……。


 その程度で音を上げるほどヤワな作りじゃないから、多分300度くらいまではイケるのかな? よく解んないけど。


 でも、ユリ基準でモノ考えるのは危険っ!


 強化人間のユリは、常人が生存できないような環境でも平然と生存出来るし、過酷な環境で人間を超える戦果を上げることを目標にしてるのですよ。

 

 なんにせよ、危ないことはちゃんと伝えないと……お互い不幸な事になってしまうのですよ。


「なるほど。とりあえず、言いたいことは解ったから、それは地面に置こうや……。ユリちゃんの前に陽炎が揺らめいとって、それだけで十分ヤバいってこと解るわ……。それ……中身、ぶち撒いたりしたら、絶対アカンからな? ゆっくり、ソーっと置くんやで」

 

 アヤメ先輩に言われて、言われたとおり、コソーッと地面に置く。

 まぁ、火元から遠ざけた時点で、ヤカンのお湯の温度も一気に下降。


 90度くらいかなー?

 お茶に使うには、丁度いい湯加減なのです。


「じゃあ、早速このコップで……」


 言いながら、エリーさんがプラカップを無造作にヤカンからすくい取ろうとする。

 なお、めちゃくちゃ危なっかしい。


「待てや! そんな手でガッツリ握って、コップ諸共、指漬ける気満々やったろ! お前はほんま……一度痛い目をせんと、学習せんのやなぁ……」


「お、おーほっほっ! これは危ない一例を身体を張って示しただけですわ! そんな事、言われるまでもないですわー」


 ……開き直り?

 エリー先輩って意外とプライド高いみたいで、間違いを犯しても、簡単に認めないらしい。


 でも、基本いい子だから、意地はってても、後でそっとごめんなさいの出来る人。

 いい子、いい子なのですよ。


「まったく、人が心配しとるのに、よく言うわ……。ユリちゃん、すまんねぇ……エリーはいつもこんな調子で、人の言う事聞きゃしないんよ。まったく、エリー……あんま、ユリコちゃんに心配かけんなで……」


「そ、そうね。ユリコさんの言うことはちゃんと守る……そうするわ。なるべく」


「その一言が余計やーっ! そこは絶対って言っとくべきやろーっ!」


 掛け合いみたいに、とめどもなく話を続ける二人。


 こんな風に、何でも言い合えて、お互いを思いやれるとか……羨ましいなぁ。

 

 はっきり言って、ユリはお友達と呼べる人はあんまりいない。

 同胞と言える強化人間のお仲間はいるけど、お互い役割を持って、有事には機械のように相互連携し、小隊が一つの生物のように動くような……。


 そんな感じの関係。

 もちろん、信頼はしあってるけど、お友達とはちょっと違う。


 右手と左手がお友達とかそう言うふうには思わないでしょ?

 ユリ達強化人間同士の関係って、そう言うのに近い……なんだろ? よく解んないや。


 アヤメ先輩達は……こっちに来て、始めてできたお友達と言っていい先輩方なのです……。

 

 一年の同級生は、私のことをむしろ避けてて、アンタッチャブル扱いしてる……。

 なにせ、ユリは普通の女子高生の感覚で見ると、あまりに異質な存在。


 外見からして、人間じゃないって解るから、近寄りがたいって思われてるし、ユリも一般的な女子高生というもののメンタリティの理解が足りてないから、コミュニケーションが微妙に成立してない。

 

 でも、一人ぼっちは寂しいのですよ。

 戦場や訓練施設にいるなら、仲間もいるから寂しくないけど。


 ユリは、遠い異国の慣れない環境で唯一人。

 もう学校行きたくないとか本気で言ってたくらい……。


 そんな中、キリコ姉が、気を回して先輩達にユリを紹介してくれて、二人に出会えた。

 正直、かなり救われてもいるのですよ……珍しくキリコ姉に感謝してる。


「あら……ところで、これ……何かしら? 手が妙に香ばしいような……」


「そいや、なんかやたら、美味そうな匂いがしとったなぁ……。けど、なんかイヤな感じもするな……これ……なんや?」


 うん? 一瞬だけど炎が部長の手を炙ってたのは、確かだった。

 多分、産毛が燃えて、チリチリになってると思う……実際、タンパク質の焼ける香ばしい匂いが薄っすらとしてる。


「それ……手の産毛……焦げて、燃えた匂い? 指の毛? 普通の人にはそういうの生えてる……ので? それが……燃えちゃった……?」


 ユリは……体毛のたぐいは、髪の毛くらいで他はいっさい生えてないのですよ。

 ムダ毛っていうくらいだし、無駄だからって話だけど。

  

 ちなみに、いわゆる下の毛とかは……あうあう、ノーコメントでお願いしますっ!


「エリーっ! おまっ! それって焦げてる言うんやっ! あっぶなっ! 確かにそりゃ、恐ろしいなぁ……。あんなちょっと触れただけで、指の毛とか綺麗になくなっとるし……」


 慌てた感じで、アヤメ先輩がエリー先輩の指先をチェックしてる。

 エリー先輩の左手の産毛……綺麗に無くなってスッベスベ。


「……みたいですわね。でも、これってバランス悪いわね。じゃあ、こっちの手も軽く炙って……」


 言いながら、一歩踏み出して袖まくって火の中に腕を突っ込もうとするエリー先輩。


 お願いだから、やめてーっ!


「だから、やめいとっ! お前なぁ……そんな火の中に手なんて突っ込んで、手が火達磨になったらどうするんや! 手が丸焦げの炭みたいになったら、痛いじゃすまんで!」


 アヤメ先輩がガッツリ羽交い締めして、止めてくれた。


 うーん? 皮膚が炭化するレベルの火傷。

 でも、腕一本そうなったからって、別に人は死なない。


 えっと……表面炭化状態……傷度3レベルの場合の応急治療法はっと……。


 まず、鎮痛剤投与の上で、患部神経ブロック処置を実施。

 次に炭化した皮膚と筋肉組織類を除去し、医療ナノマシンを患部組織に直接注入。

 仕上げに、消毒液も兼ねた生体組織化ジェルに漬け込んでおけば、ものの30秒くらいで人工皮膚の仮癒着くらいは出来るから、その時点でほぼ問題なし。


 やっぱり、大したこと無いように思えるのですよ。

 なにげに、宇宙軍の艦隊実弾演習とかやると、この手の重度火傷ってあちこちで発生しちゃうのですよ。


 宇宙服とか着てても、プラズマ漏洩でスパークしてとか、何かが爆発してとかでまっ黒焦げになっちゃうことは割とよくあるのです。


 でも、手慣れた軍医さんなら、速攻でペインカットして、スパスパとレーザーメスで焦げ目部分を除去して、ペンキでも塗るような感じで、生体組織ジェルを塗り込んでおしまい。


 顔とかに火傷してても、あとでゆっくり整形処置をすれば、綺麗に治っちゃうから、ほとんど問題にされない。

 

 ……3分間クッキングならぬ、3分間メディック。

 エスクロンのメディックは、そんな調子で重軽傷問わず、一人三分くらいで速攻で治して、次から次へと最前線で治療して回る……。  

 このレベルが割と当たり前にいるのが、エスクロン宇宙軍のメディック軍団。


 そんなのがいるから、死人なんてそうそう出ないからって、友軍に向かってバカスカ弱装弾を撃ち込むのがエスクロンの実弾演習……過激なのですよ。


 まぁ、そんな話は置いといて……。


 さすが、アヤメ先輩なのですよ。

 まだ火の怖さがいまいち解ってないエリー先輩にガミガミとお説教中。


 なんだか、お姉ちゃん達を思い出すのですよ。


 特にキリコ姉。

 自分のこと棚において、片付けてないとか、宿題やれとか、お風呂さっさと行けとか。

 割とつまんないことで、ガミガミとうるさかったのですよ。

 

 でも、キリコ姉は大好き!


 この二人も大好き!


 ユリは根っからの妹ちゃん気質だから、こう言うお姉さん系に弱いのですよ。


 ちなみに、この二人。

 ある日、何の予告もなく教室に押し掛けてきて、割と問答無用で連行……。

 

 サラサラっと入部届を書かされた当日に、何年も動かしてなかった地表降下船なんかで、150万キロを駆け抜けて、ドーンと大気圏突入させられて、地上降下とか……もうむちゃくちゃなのです。


 なお、コロニーではとっくに、夜時間になる頃なんだけど。

 明日は土曜日で学校はお休み……保護者のキリコ姉の許可も取ってたりと、めっちゃ周到だった。


 ユリ、めでたく朝帰り確定なのです!!


「そ、そうですわね。火傷なんてした事もないですけど。どんな感じなのかしら……熱くて痛い。重度になると命の危険もあるって、習ってますけど……。でも、この仄かな炎の温かみ……これが、そんな恐ろしいものだなんて思えませんわ」


「だから、言ってる矢先から、手を炙ろうとするなっちゅーのっ! 火が服や髪に燃え移ったらヤバイって書いとったろっ! ……いたッ! なんか飛んできたでっ!」


 アヤメ先輩が、やたらと火に近づきたがる部長を止めるべく、身体を張ってたら火の粉が当たったらしく、騒いでる。


 火の粉くらいなら、制服が焦げるとか、当たった所がちょっと赤くなるとかその程度で済むだろうから、問題ないと思う。

  

「ば、爆発とかしませんよね? わ、わたくしは、こんな炎、全然平気ですけどね」


「んなこと言って、人を盾にすんなやっ! ってまた来たっ! あっつ!」

 

 立て続けにパンパンと火の粉が弾ける音がして、アヤメ先輩涙目になってる……。


 さすがに、少しは火の怖さを解ってくれたのかな?

 適度にビビってくれた方がいい……本来、動物だって火は怖がるのですよ。

 

 人は、痛い目や熱い思いや寒い思いをして、学習するのだから。

 大丈夫……全身丸焦げになっても、結構なんとかなるもんだし。


 そう言う意味では、この宇宙活動ってのは意味はあると思う。


 と言うか……ここまで地上の常識を知らないのかって思わなくもないんだけど。

 

 彼女達は、人工環境のスペースコロニー育ち……それも三世世代と銀河でもあまり類を見ない環境で育ってきた子達なのですよ。

 宇宙世紀の純粋培養の宇宙育ち……確かスペースノイドって言うんだっけかな?


 ユリは正真正銘、惑星エスクロン……その地上世界で生まれて、育ってきた。

 そんなユリ達と違って、完全に管理された人工環境のスペースコロニーで、この二人は今の今まで育ってきた。


 それこそ、惑星の本物の重力も吹きすさむ風も……本物の空すらも見たこともなかった。

 

 スペースコロニーは内部環境も徹底的に管理されてるし、基本的に火気厳禁。

 

 タバコも駄目、花火も駄目、火薬式の銃火器なんて論外だし、焚き火なんかしようものなら飛行消火ドローンが団体でやってくる。


 なにせ、万が一コロニーの中で火事なんてなったら、逃げ場のない住民は全員酸欠で死んじゃいかねない……。


 うん、宇宙で酸欠はヤバい……エスクロンの医療技術がどれだけ発展してても、酸素欠乏症に対しては無力に近い……これに関しては、とにかく時間との勝負。


 対処がほんの僅か遅れただけで、人間は酸素がないと言うだけで、あっさりと死んでしまう。

 宇宙空間での死因は、いつの時代もこの酸素欠乏症がダントツトップなのですよ。


 その程度には、宇宙環境では酸素と言うものは極めて重要で、文字通りの死活問題なのです。


 酸素と炭素の化学反応……火ってのは、宇宙空間における命綱……酸素を大量に消費してしまう。

 酸素の浪費は、文字通りの死活問題なのだから、火の管理は徹底する……当然といえば当然なのです。

 

 地上世界は広大だからその辺、どこも結構緩いんだけど……宇宙、特にコロニーや軌道ステーションみたいな閉鎖空間では、そう言うのは、超厳格かつ徹底されている。

 ちょっとライターの火をつけただけで、厳罰に処された……なんて話も珍しくない。


 宇宙駆ける航宙艦も事情は一緒で、火気の管理は徹底されてるし、そもそも艦内では火気絶対厳禁と言うのが常識。

 

 お湯をわかすのも電気ヒーター、食事だって、コンロに火を付けて温めて……なんて論外。

 電子レンジでチンしたり、お湯で温めるレトルト食品が基本。


 宇宙空間の食事事情は貧しいって昔から相場が決まってるけど、その大きな理由は、調理に火が使えない事にあると言われてるんだけど、多分それは間違ってない。


 星々を繋ぐエーテル空間は……むしろ、地上環境に近いって話だけど……。


 落ちたらものの10秒で焼け焦げて死ぬ、水のように見えるけど違う「なにか」に満たされた異空間は、民間船と称しながら、戦闘艦みたいな重装甲の船が当たり前って時点で、人が住めるような世界じゃないのはお察しなのですよ……。

 

 あんな空間で、日夜戦ってる人達がいるってのは……ちょっと信じられない話なんだけど。

 エスクロンは、そのエーテル空間の戦争にすでに参戦してるようなもので、ユリも他人事じゃいられないかもしれない……そんな風に思ってる。 


 さすがに、コロニーの食事に関しては、電熱調理器とかもあるので、それなりのものが出来るみたいなんだけど、基本的に合成食材中心で焦げ目も少ないヘルシーなのが出て来る。


 お野菜なんかもシート状の合成品だったり、なんとも水っぽい水耕栽培のくたびれたのばかり……。

 天然食材や果物なんて、贅沢の極みでびっくりするほど高額だし、早々出回らないらしい……。


 ……ご飯については、エスクロン本土辺りと比較すると明らかに微妙で、もうちょっとなんとかならないのかなーって、キリコ姉とも愚痴り合ってるのですよ……。


 コロニーの市街地についても、この火気厳禁は徹底されていて、可燃物も極力少なめにって事で、市街区に並んでる植物ですら、実はイミテーション……。


 季節に応じて、夜時間にこっそり植え替えてーとかやってるんだから、徹底してる……。

 

 とにかく、そこら辺は徹底的にやってるみたいで、皆が着てる服なんかも、難燃素材で出来てる。

 身近な燃えそうなものとしては……リアル書籍やティシュペーパーくらい?

  

 そんな訳で、先輩達はこれまで間近で自然の火を見たことも無かった上に、自然環境ってものに触れ合う機会が一切無かったのだという。

 

 と言うか、そもそも、地上世界の常識ってもんが全然わかってない……その上、ここに来て、始めて見る生の地上世界に、もうずっと子供みたいに騒ぎっぱなし。

 

 もっとも……周囲を見ても、岩と砂と灌木と雑草と苔むした地面。

 岩をめくるとダンゴムシがうじゃーっといて……。


 これの何が楽しいのか、ユリにはよくわからないのです。


 おまけに、自然環境を肌で感じるとか言って、制服の環境保護シールドをオフにしてるから、とっても寒そう。

 今の外気温は、約10度……ひんやりしてて、ちょっと防寒具は必須。

 

 ……なんだけど、二人共普通に制服姿。

 おまけに、生足ミニスカ状態……ユリ的には色々ありえない。


 それに、この惑星……テラフォーミング現在進行系だから、環境自体はかなり微妙。


 酸素濃度とかは、19%から20%とギリギリセーフラインだから、大丈夫みたいだけど……。

 酸素濃度基準値の20.9%には届いてないから、運動量が激しくなったりすると、あっという間に酸欠症状が出かねない。


 低酸素濃度での緊急呼吸法とか、大丈夫なのです? 不安なのですよ。


 結論:とっても危なっかしい。

 

 コロニーってのは、何もかもが程よい環境で、気温は20度から28度といつも快適そのもの。

 きっとにゃんこだって、コロニーなら幸せだと思う。


 ……ユリは、にゃんこになりたいですにゃー。

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