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第九話「それは、当たり前の日常」②

 思わず、メロンパンを抱えたまま、右往左往してしまう。

 

 ど、どうしようこれっ!

 

 リオさんが食べちゃえーみたいなジェスチャーをしてる。

 

 はむっと食べる……うん、やっぱり美味しい。

 大口開けて、齧りついて……よし、三口で食べきった!

 

「あ、こらっ! 何、全部食ってんだっ! この食欲馬鹿っ! ええいっ! これでも食らえっ!」


 キリコ姉がボールペンをぶん投げてくる。

 

 ……けど、そのボールペンを人差し指と中指でパシッと掴み取って、流れるように胸ポケットにしまい込む。


 甘いよ……ユリはライフル銃の銃弾だって、はたき落とせるんだからね。


 ニヤッと笑うと、クラス中が拍手の渦に包まれる。

 

「ば、馬鹿な……このあたしの必殺エレクトリックローリング・サンダーペンショットがこうも容易く……」


 キリコ姉ががっくりと膝をつく。


 ローリングなんとか……御大層な名前のペン投げ。

 ノーモーションだから射出タイミングが取りにくいってだけで、こんなの止まってるようなものなのです。


「キリコ姉、こんなの人に投げたら、危ないのですよ?」

 

 目とかに当たったら、さすがにシャレにならないと思うのです。

 まぁ、キリコ姉ってダーツ投げの名人だし、お尻から飛んでいくように投げてたり、それなりに配慮はしてたみたいだけど……。

 

「言ったな! 調子に乗るな……この小娘がっ! ならば、これを止めてみせろ! 本気と書いてマジと読む! 秘伝ローリング・サンダー・オクトスマーッシュッ!」


 今度は両手の指の間をフルに使った8本ものボールペン……これを一斉に投げつけるつもりらしい。

 

 バタバタとユリの周りの席の娘達が避難する……キリコ姉、何やってるんだかなぁ……。

 

「タイミングをずらした上での連続弾! 如何に貴様と言えど、さすがにこれは見切れまい! 喰らって、あの世までぶっ飛びなぁああっ!」

 

 微妙にタイミングをずらして、一気に8本のボールペンが投射される!


 ……中には微妙なカーブすらも描く軌道すら……無駄に凝ってるしっ!

 

 けど、速度自体は余裕で見切れる程度。


 無造作にパシパシと指の間で掴み取る……繰り返すこと8回っ!

 

 あっという間にユリの両手に8本のボールペンが挟み込まれる。

 

「……キリコ姉、見切ったりっ!」


 ……ユリに当てようなんて、レールライフル持ちの1kmスナイパーか、成層圏対地狙撃プラットフォームでも用意しないと無駄なのですよ。


 よほど自信があったのか、必殺技を打ち破られて、キリコ姉がしょげかえっている。

 

 ユリの完封勝ち!

 唐突に始まった姉妹喧嘩の結末に、周りの子達はただ唖然としてる。

 

「なんて事だ……。これじゃあたしの立場ない。と言うか、相変わらずチートよね。……さすがは、ユリコ。もはや、あたしじゃ勝てないのか……。はぁ、やれやれ、出席取るぞー! 一番天本! 返事ーっ!」


 さすがに、悪ふざけが過ぎたと思ったのか、オトナな対応……華麗なるスルーを選択するキリコ姉。

 でも、さり気なく近づいてきて、出席簿でぽかんとやられた。

 

「い、痛いのですよ? 騙し討ち?」


「馬鹿め……油断した貴様が悪いのだっ! 少しは反省しろっ! 反省っ!」

 

 大人げない大人なのです……。

 ……姉妹喧嘩やると、小さい頃は全然勝てなかったけど、強化してからはむしろ勝負にならなくなってしまった。

 

 でも、最後の一発だけは譲る……それがお父さんとのお約束だった。

 

 妹とは、姉を立てるもの。

 理不尽だけど、そこは受け入れる……一応、これは私達姉妹の暗黙のルールだった。

 

 その代わり、それで何もかもチャラにする。


 姉妹なんてそんなもんなのです。

 

「先生! クスノキさんにメロンパン、押し付けたのは私です! クスノキさんは悪くないですっ!」


 リオさんが立ち上がって、キリコ姉に頭を下げる。

 

「あ、あら……そうなんだ。ごめんね……あはは。うちってよくこんな感じで姉妹喧嘩してたから、ついいつものノリが……ね?」


 ちなみに、やりあってたのは、主にユリとキリコ姉。

 10歳近く離れてても、喧嘩する時はする。

 

 エリコ姉さまは……キリコ姉と違って、優しいので喧嘩なんて一度もしてない。


「……いつもの事なのですよ」


 言いながら、ボールペンの山をキリコ姉に押し付ける。

 こんなに要らないよ。

 

「……と言うか、何かあったの? 皆、なんかいつもと雰囲気違うけど……」


 キリコ姉がいつもと違う雰囲気のクラスメートの様子に、露骨に狼狽える。


 と言うか、皆、すご~く非難がましい目でキリコ姉を見てる。

 酷い、なんてことするんだ……とでも言いたげな感じ。


「な、なんでもないのですよ……」


 そう言って、ニコリと笑うと。

 

「「なんでもないよねーっ!」」

 

 リオさんや周りの子達が嬉しそうに、声を合わせる。

 それを見て、キリコ姉も一瞬、ポカーンとするんだけど、満足そうに笑って、咳払いひとつ。

 

「ん、解った……。皆、ユリコと仲良くやってくれてるみたいで何より。ああ、朝イチは自由運動だから、さっさと着替えてグラウンドに集合しなさい! ホームルームもこれにて終了っ! あたしは先に行ってるから、全員40秒で支度しろ! ……なんてねっ!」


 そう言い残して、キリコ姉が教室を出ていく。

 

 ちなみに、キリコ姉は体育教師。


 エスクロン育ちだから、身体能力については一般的な銀河市民の平均値を大きく上回るから、まぁ、適任だったんだろうね。


 いっそ、部活の顧問とかやればいいと思うんだけど……。

 

 一度体育会系部活の顧問やって、エスクロン流の強化練習メニューとか容赦ないシゴキの挙げ句、大不評を買って、顧問クビになってそれっきりらしい。


 高重力適応訓練とか、普通の星の生まれの子にやったら、普通に心折れると思う。

 

 窓際の席の子達がいそいそと窓のカーテンを閉め始める。

 暗黙の了解で窓際の席の子の仕事みたいになってるから、窓際族のユリもカーテンを閉める。

 

 けど、閉める前に付近一帯を一瞥するのは忘れない。

 狙撃ポイントや監視しやすいポイントには、全て当局のパトロイドが張り込んでるようだった。

 ……やるね!


 校舎の上空、コロニーの天蓋付近には、飛行船型定点観測ドローンと、その子機が配備されている。

 

 まったく、そつが無い……大げさって気もするけど、AIってのは、基本的にものすごくバカバカしい事だろうと、ミッション達成のためには全力投球するのが常。


 まぁ、こんなもんなのです。

 

 とにかく、40秒で着替えろとか言ってたけど、あんまりモタモタしてると置いていかれる。

 いつもは隅っこでコソコソ着替えてたけど、今日は堂々と着替える。

 

 上着とワイシャツを脱いだところで、唐突にマリネさんが駆け寄ってくる。


「あーっ! クスノキさん、下着おしゃれになってる! 超かわいいじゃないっ!」

 

 ……ちなみに、今日は昨日買ったばかりのパステルピンクの気持ち増量ブラってのを付けてきたのです。


 ユリはBカップって言われたんだけど、これ付けてるとCカップに増量される……エリー先輩愛用にして、お勧めの一品!


 実際、服着てるといつも以上にバストサイズが大きくなって、なんか凄く嬉しくなった。

 見栄なんだけど、見栄くらい張りたいお年頃なのです。


「お、お子様モブ下着からは、卒業なのですよ……」


 ここは敢えて、モブ下着卒業アピールすべく、敢えて皆に見せつけるように堂々とする。

 

 マリネさんの一言で、皆めっちゃこっち見てる……けど、前みたいに見なかったことにしよう的な視線じゃない。


 でも、マリネさん……思いっきり下着姿。

 フリフリレースのブラに、下は……なんと紐パンっ!

 

 思わず、目のやり場に困ってワタワタする。

 

「へぇ……。さすがにアレはないって思ってたけど、意外とセンスいいね! 大人じゃんっ! どれどれ、下はどんなかなぁ……」


 止める間もなく、手慣れた手付きで、スカートのホックを外されて、ストーンとスカートが床に落っこちる。


「あ、あう、あう、あう……」


 さすがに、これは想定外……思った以上に恥ずかしい。


 思わず、手で隠そうとしたら、マリネさんに腕を掴まれる。


 おまけに、胸を軽く揉まれて、太ももをすっと撫でられる。

 一瞬、変な声が出そうになったんだけど、かろうじて、それは押さえきった。


「うふふ、ユリコちゃん。かーわいいっ! 慎ましい胸と言い、すべすべのお肌……ムダ毛の手入れも完璧とか、超いいわね……。ふっふー、良いではないか、良いではないかっ!」


 獲物を前にした肉食獣のような目をしたマリネさんに、密着されたまま、あちこち触られる。

 その手が、下着の中へ伸びようとしたその直前に、スパーンと言う小気味よい音と共に、その蛮行は阻止される。

 

「マリネさん、およしなさい……。まったく、すぐそう言う破廉恥な真似をする。ユリコさん、気をつけなさい。この子、そっちのケがあるから、要注意人物なのよ……。まったく油断も隙もないわ!」


 思わぬ救いの手……ナイト様のように颯爽と登場した緑の髪の眼鏡を掛けたジャージ姿の子。

 ハリセン片手にとっても鋭い目つきで、マリネさんをぐいっと押しのけると、間に入ってくれる。

 

「い、委員長さん……」


 思わず、そんな風に呼んじゃったけど、さすがに、名前は覚えてる……菅原冴すがわらさえさん。 

 クラス委員を勤める真面目な人……ちなみに、メガネかけてるけど、伊達らしい。

 

 メガネは委員長を名乗る者にとっての様式美だとかなんとか。

 

 色々と気を使ってくれてるのは知ってたんだけど、基本無愛想でツリ目でちょっと怖そうな風貌だったから、いまいち苦手だったんだけど……。


 マリネさんの暴走に見るに見かねて、仲裁に入ってくれたようだった。

 

「はい、皆さんっ! 人の着替えをあんまりジロジロ見るものじゃありません! マリネもいい加減にしなさいっ! ユリコさんも嫌がってるじゃないのっ! いくら同性だからって、そう言う破廉恥行為は厳禁っ! 校則違反よっ!」


「はいはい、まったく委員長はお硬いわねぇ……。ちょっとしたスキンシップってとこじゃない……。ユリコちゃんもそんな嫌がってなかったじゃないの……ねーっ!」


 確かに、誰かとピッタリとくっつくのって、意外と悪くない。

 女の子同士でも、割と手を繋ぐとか、後ろから抱きっとかよくやってるの見るから、普通っぽいのですよ。

 

「どこが、ちょっとした……よっ! 流石に下着に手を入れようとするとか、アウトですっ! アウトッ!」


 ……実はアウトだったのですよ? ちょっと手遅れだったのですよ。

クオンの人達は、日系国家のエスクロンの影響を強く受けてるので、日本名が多いです。


マリネと冴……こいつらのせいで、百合タグとR15タグが……。

下着姿で女子高生がイチャラブとか、さすがに付けないとアウトでしょう。

いや、困った困った!

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