第七話「お買い物行くのですよ?」⑥
ひとまず、次回の地上降下は……入門編って事で、地上の管理キャンプ場でのキャンプに決定。
……管理人が常駐してて、おトイレや水道なんかもある至れり尽くせり的なところなのです。
しかも、露天風呂まであるって言う……。
旅番組で見たことあるのですよ……お外が丸見えの大自然お風呂……ドキドキ、恥ずかしくないのかぁ……。
おまけに、防犯ロボや警戒ドローンなんかも配備されてる上に、緊急避難用シェルターなんてのまである。
とっても安心、安全なのです。
「トコロザマキャンプ場……。思いっきり管理されてるところなんですのね」
「せやなぁ……。観光地みたいな感じやけど、こんなんでええのか?」
「ユ、ユリはこう言うところでまったりしたいのですよ?」
ハセガワさんのとこにパンフレット置いてあったので、皆でそれを見ながら、口々に評価する。
大きな山の麓で、クオンの地上では貴重な水源……湖なんかもあって、緑も豊富で風光明媚なところなのです。
でも、エリーさんとアヤメ先輩の二人はちょっとご不満な感じ。
そりゃ、なにもないところでも、寝るところやおトイレはエトランゼ使えば、文明的ってレベルは確保出来るんだけど……。
ユリ的には、無警戒にまったりゆるーくテント泊とかやってみたいのです。
塹壕で歩哨立てながら、皆一塊になって、毛布かぶってーとか、あんなのしんどいだけなのです。
「まぁまぁ、アンタ達素人だけで、いきなり管理区域外キャンプなんて無謀でしょ。いくらエルトランやユリちゃんとかいるからって、頼り切りは良くない。自分達は何も解らない初心者だって自覚しなさい」
「せやなぁ……。こないだもユリちゃん、色々苦労させてしもうたしな。あ、ご飯作りならあたし得意なんやで! さすがに泊まりで行って、晩ごはんカップラーメンとかは悲しすぎるからなぁ……。でも、やっぱキャンプの定番メニューとかあるんかな?」
「キャンプの定番って言えば、カレーかな? と言うか私らの時は、毎回カレー作るってのが定番だったかしらね。まぁ、キャンプといえばカレー……基本だよね!」
「俺達はバーベキューとかもやってるぞ。何と言っても地上だと直火使い放題だからな。コロニーの電熱調理器で焼いた肉と違って、炭火焼きの肉ってのは、独特の風味が付くから、最高に美味いんだぞ?」
「ええなそれっ! バーベキューかぁ……好きなもんを串焼きにして直火で炙るんやろ? そかそか、直火ならではの料理とかも地上だと作り放題なんやな」
「カレーは大好きですし、バーベキューの串焼き肉も、なかなか美味しそうですわね! お母様とかにもちょっと聞いてみますわ」
確かに……電熱調理器でも火は通るんだけど、どこかマイルドなのです。
でも、野外でお肉というと……ユリ的には……。
「……蛇とかトカゲさんの丸焼き?」
ユリの知ってるバーベキューはそんななのですよ。
なお、味はカレー味か塩コショウ味。
「……エ、エスクロンのキャンプって、そんななの?」
ダンさんが引き気味な感じで聞いてくる。
レジャーキャンプとかだと、普通の食材で美味しくご飯とかそんな感じらしいんだけど、お父さんがやってたガチキャンプだと、基本は現地調達……。
お肉食べたいってなったら、その手の小型爬虫類のお肉がお手軽簡単なのですよ。
「こんなセミなんかも食べたのですよ」
手で30cmくらいの大きさを示してみる。
……エスクロンのジャングルには、そんな感じの巨大セミがいたりなんかする。
近くにいると、めちゃくちゃうるさいので、大抵追い払うか、撃ち落として食べちゃうのです。
中身ほとんど空っぽで、手足や羽を動かす筋肉の部分だけ食べるんだけど、大きいからそれだけでも食べごたえがあるのです。
味は……鳥のささ身? 塩振って焼くだけで、意外と美味しいのです。
「エ、エグいなエスクロン……。もしかして、ユリちゃんってかなりの玄人キャンパー?」
「お父さんが自給自足現地調達キャンプ大好きで、良く付き合わされてたのですよ」
またの呼び名を「ガチ過ぎるキャンプ」……「がちキャン」とか言うそうなのです。
「見ろよ、これ……すげぇな……エスクロンって。入植から数百年の年月が経ってるから、独自生態系が発展してるとかで、訳の判らん生物だらけ……おまけに重力が5割増し……。事前のナノマシン身体強化措置とクラス2以上の武装を推奨、管理区域外での地上活動は文字通り命がけ……どんだけだよ?」
シュワさんがネットで調べてくれたみたいで、携帯端末を手にしながら、そんな感想を漏らす。
複数星系を股にかけて、あちこちでキャンプとかやってる人の情報サイトっぽいのです。
キャンプ難易度SS惑星、エスクロンで一週間過ごせたなら、もうどこ行っても平気とか評されてるのですよ?
……そ、そこまで酷くないと思うのです。
ちなみに、クラス2の武装ってのは、重機関銃とか対戦車プラズマキャノンとか。
携行できる武装としては、限りなく最強レベルの重装備を指す。
巨大昆虫系とか巨大爬虫類って、外殻や鱗が固いから、それくらいは無いとたしかに危ないのです。
拳銃なんて、文字通り豆鉄砲なので、威嚇程度にしかならないのですよ……。
「慣れれば、結構なんとかなるのですよ?」
「な、ならないよっ! クラス2装備なんて、対戦車装備じゃないか! 要するに、軍人でもないととても生き延びれないって事じゃん」
ダンさん、結構詳しいのです。
……ミリオタ?
「エスクロンにもこんな感じの観光キャンプ地とかあって、その辺は戦闘ロボットとかが24時間警備してるから、そこまで物騒じゃないのですよ? クラス2装備なんて、管理区域外に行く一部の物好きや探検隊くらいしか使わないのですよ」
実際問題、戦闘用ガードロイドの一体でも貼り付けとけば、よほどの規格外生物でもない限り、なんとかしてくれるので、人間様はテントで寝てても問題ないのです。
お父さんキャンプの場合は……お父さんと交代で寝ずの番とかやってたけど。
クラス2装備が必要な相手なんて、早々お目にかかれないから、ハンドレールガンやフラッシュグレネード程度でもなんとかなるのですよ。
ハンティングとか言って、超巨大生物に好き好んで喧嘩売る人もいるみたいなんだけど……。
たまに出る死人は大抵、そう言う人達で、自己責任の一言で終わるのです。
スリルを求めて、死んでちゃ世話ないし、基本エスクロンのアウトドアマンは無益な殺生とかしないのですよ。
「……世界が違いますのね。なんと言うか」
「せ、せやな。クオンの地上はその辺どうなんや? 先輩……地上にヤバい生物とかいたりするんか?」
「まぁ、管理や監視がちゃんとしてる所はほぼ問題ないわよ。ただ、管理外区域になると、最近ちょっと物騒なのよね。だからこそ、私達も管理区域内のキャンプ場をお勧めしてるのよ」
「こないだも盗賊団が出たとか、言ってたしなぁ……。どうもコロニーからのはみ出しモノみたいな奴らが色々悪さしてるらしいんだ。それに、何処ぞの軍隊みたいなのが勝手に拠点作ってるなんて話も聞く。まぁ、赤道直下は環境も悪くないし、衛星の監視網もちゃんとしてるから、管理区域外に行かなきゃ問題ないと思うよ」
むぅ、なんだか要注意的な情報なのです。
所属不明の軍隊が拠点ってどう言うことなのです?
普通、エーテル空間から通常空間に来るには、ゲートを経由しないといけないから、そんな正体不明の軍隊なんて、簡単には入ってこないはずなのです……。
クオンのゲート管理が杜撰なのか、買収でもされたのか。
クオン政府って仕事してないのです……。
そもそも、こんな開発中の惑星……降下しても、何がある訳でもなし……。
何が目的なんだか……。
むー、気になるのですよ。
なにより、クリーヴァの工作員だって、入り込んでる可能性はあるし……さすがにユリは安心安全なんて、のほほんとしてられないのです。
懸念点はあるものの……それは脇に置いとくのです。
どうせ、ユリに出来ることなんてたかが知れてるのですよ……。
エリコお姉さまにでも、懸念情報として報告しとけばいいと思う。
とりあえず、環境シールド付きのテント、燃料棒、ランタンとかの照明、調理機材とか買い込んで、エトランゼに送付を依頼。
受け取りや管理は、エルトランが何とでもしてくれると思うのです。
防寒装備なんかについては、男性向けのヘビーデューティ仕様のものしか置いてないとかで、遠慮したのですよ。
女性向けとなると、普通のところで買ったほうがオシャレだと助言されたので、先輩達とショッピングモールに行くことなったのです!
話によると、今年からコロニーに冬期設定ってのが導入されて、11月くらいから気温が10度台になるんだとか。
コロニーの温度設定をちょっと下げるだけでも全然省エネになるし、ファション業界とか家電メーカーから冬物売りたいし、地上世界はむしろ寒いんだから、年中一定とかじゃなく変動させるべきとプッシュがあったとかなんとか。
それに惑星クオン自体が楕円形の公転軌道で、近日点・遠日点の差が結構ある。
その関係で、コロニー自体の受ける熱量差から、四季と言うものが本来存在するのですよ。
今までは、遠日点よりの時は、暖房強化で対応してたんだけど、それを少し緩めにするって話で、誰も損はしないのです。
一応、納得の理由。
そう言うことなら、地上ももうすぐ冬到来……と言うことなのです。
結論、冬ファッションゲットは必須!
そんな訳で、冬ファッションを調達すべく、ユリ的待望のショッピングモールに場所移動っ! なのです。