表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/275

第七話「お買い物行くのですよ?」⑤

「……エリーさん達もエスクロンに来れば、普通に操艦免許取れるのですよ?」


 実際、調べてみたけど、エスクロンは外国人の自国での各種免許取得に特に制限は設けてない。

 観光ビザでの入国でも、期限内に取れるなら、構わないし……資格取得を理由にした留学ビザもクオン政府からの申請があれば、問題なく受け入れ可能。

 

 航宙艦免許についての年齢要件も、銀河連合準拠の16歳以上……アヤメさんもエリーさんも普通におっけー。


「……ええっ! それマジかいっ!」


「エスクロンの航宙免許所得は、外国の未成年だったとしても、大丈夫なのですよ……。合宿で丸一日缶詰コースなら一週間くらいで取れるのですよ」


 エスクロン軌道防衛艦隊主催の合宿免許。

 教習艦は、思いっきり軍艦で、教官も軍人さんだけど……。

 

 合宿だから、短期集中、早くて安くて教え方も丁寧と評判いい。

 希望者には、基礎軍事教練にも参加させてもらえたりもする。


 さすがに通商条約結んでる友好国限定ではあるものの、むしろ外国人歓迎って感じなのです。

 

 もっとも、未成年の場合、エスクロンと出身国、両方の保証人が必要。

 でも、それくらいなら、お母さんなり、エリコお姉さまに頼めば一発だし、キリコ姉だって、国籍までは捨ててないから、キリコ姉に頼む手もあるのですよ。

 

「そ、それは盲点だったわ……。馬鹿な条例作ってとか思ってたけど、意外とザルだったのね。そっかー、その手があったか」


「アヤメ! こうなったら、わたくし達も!」


「せやな! 一週間なら冬休みにでも行けばなんとかなりそうやな!」


 二人共、やる気満々なのです。


「ユリは、そのへんの伝手あるから、何とでもなるのです! ユリにお任せなのです!」


 ……冬休みくらいまでには、いくらなんでも情勢も落ち着くだろうし、年末の里帰りついでにお二人と一緒に……。

 なんだったら、お家に泊まっていってもらってもいいし。

 

 クスノキのお屋敷は無駄に広いし、セキュリティも万全なのです。

 今からとっても楽しみなのです!

 

「いいわね……それ。よし、せっかくだし他の高校のOBなんかにもその話広めちゃおう……」


「せやな。アタシもバイト増やすかなぁ……」


「……お値段とかはこんな感じなのです」


 空間投影モニターで、エスクロン軌道防衛艦隊の免許合宿案内を見せてみる。


「なにこれ、めっちゃ安っ! クオンの航宙教習所の半額以下じゃないっ! と言うか、エスクロン軌道防衛艦隊って……思いっきり軍隊? なんか妙な勧誘とかされるとかだったりしない?」


「流石に外国人を勧誘まではしないのですよ。エスクロンの軍事力、科学技術の対外プロパガンダの一環って建前なのですけど、そもそも軌道防衛艦隊って意外と暇なのですよ……。当然、教習艦は型落ちの宇宙駆逐艦とかになるのです」


「……暇だからって……まぁ、実際そんなモンよね……。今どき、戦争なんてやってるのは、エーテルロードくらい。クオンなんて、軍事力ゼロだけど、問題起きてないしねぇ」


 軍隊送り込むのも、エーテルロード経由以外あり得ない。

 結局、この構図が戦争ってものを起こりにくくさせてるのですよ。


 エスクロンに限らず、どこもそれなりに宇宙空間の防衛戦力は充実させてるので、それを退けるための戦力を送り込むとなると……。


 これが全く現実的じゃないのですよ……。

 

 エーテル空間輸送艦に詰めるようなサイズだと、エスクロンの超大型軌道防衛戦艦「万古」辺りになると絶対勝てない。


 そんな10kmもあるような、超大型艦に対抗出来る戦力をエーテル空間経由で送り込む……。

 この時点で、無理な相談なのです……。


 なにせ、銀河連合もそのへんを意識して、超空間ゲートのサイズに国際条約で制限を設けてる。

 数値にして、50m四方……この時点でまともな大型艦はエーテル空間を通せない。


 実際問題、エトランゼみたいな万能小型艦もそう言う侵略戦争の可能性を追求する過程で生まれ、やっぱり無理筋と解って廃れていった……そんな背景があるのです。

 

 つまるところ、宇宙空間戦闘では、防御側が絶対有利。

 この構図がこの銀河から大規模戦争をなくしてしまって、全銀河の共同体を生むことになったのですよ。


 なので、現存する軍隊のお仕事は純然たる抑止力。

 

 軍事力を完全になくすと、良からぬ侵略行為とか考える人達も出て来るけど、軌道防衛戦力が年中無休で居るとなると、なかなか、手が出せない。

 

 軍事力ってのは、抜かない刀みたいなもの……お父さんの受け売りなのです!

 

 とにかく……そうやって、今の銀河の平和ってのは維持されているのですよ。

 それを考えるとクオンみたいな非武装星系国家ってのは結構危うい所があるのです。

 

「ぐ、軍艦で練習させてくれるんか……。けど、どうなんや……それ? 軍艦と民間船って全然違うと思うんやけど……」


「宇宙航行艦なら、軍艦も民間船も大差ないのですよ……。強いて言えば、民間船は宇宙機雷積んでないとか、武装が控えめで、姿勢制御スラスターが簡略化されてるとかそんなもんなのですよ」


 実際問題、輸送艦や旅客船も普通に武装してるし、民間船と言っても、元軍艦なんて経歴の艦も多数就役してるのです。


 そもそも、宇宙軍の軍艦と言っても自前で専用設計艦とか持ってる国なんて少数派で、大抵の所が民間の航宙艦にオプションモジュールをゴテゴテと搭載して、戦闘艦に仕立て上げる……。

 そんな調子なので、性能なんかも似たり寄ったり……そんなもんなのです。


 だから、クオンも軍事力ゼロと言っても、民間船は結構な数が就役してるので、潜在的な戦力はそれなりのレベルを確保してるのだけど……。

 

 戦争ってのはハードだけじゃ出来ないし、兵器自体が船があればなんとかなるってものじゃない。


 兵器はシステム……後方支援やバックアップなんかも含めてのもの。

 エスクロンは銀河連合でもダントツレベルの軍事力を持つ星間国家だから、比較しちゃいけないって解ってるんだけど……もうちょっと頑張ろうって思うな。 


「……そう言えば、エトランゼ号も元々は宇宙戦闘艦だったって話だったしね。私も高校卒業してから、B級ライセンス取りに行って、200m級輸送艦動かして、鈍臭さにびっくりしたくらい。あの船って、ビックリするくらいの超高性能艦なのよねー」


「そう言えば、ユリコさんも言ってましたよね。昔の船だから、今とぜんぜん違うって」


「いい船なのですよ? ユリが乗った中でもアレは最高の艦なのです」


「うんうん、エルトランも大はしゃぎだったみたいよ。いきなり、私の所にメール送ってきたくらい!」


 ……とまぁ、こんな感じでハセガワ先輩と時々、ダンさん達も交えながら、色んなお話を聞きながら、色々と道具なんかも取り揃えたりなんかで、楽しく過ごしたのです。

 

 お買い物楽しいのですっ!

 

「……とりあえず、一泊想定なら、環境シールド付きのテントと焚き火セット、シェラフにランタン……最低限だと、こんなもんかな? あとはクロージング……着るものは充実させといた方がいいよ」


 ひとまず、最低限って事で並べられたアイテムの数々……。

 テントは解る……。

 シェラフも解る……寝袋だね……ミノムシみたいになって、キンキンに寒いところでもホカホカなって寝れる。

 塹壕で毛布一つに包まって、とかに比べたら、随分と寝心地良さそうだった。


 ランタンはそのまんま、バッテリー式の据えライトなのですよ。

 省電力自光素子を使うタイプだと、昼間のような明るさで何日も持つ。


 頭に装着するヘッドライトタイプもあるけど、そう言うのは、夜の森とか山を歩く時用。

 軍事用途では、こっちが主流でヘルメットに装着したりするけど、普通のキャンプじゃあんまり使わない。


 焚き火セットは……ユリは使ったことないんだけど、網網になった三脚椅子みたいなのの上で火を焚く焚き火台ってのを使うのがマナーらしい。


 直に地面の上で焚き火をすると、地面が焦げちゃうし、後片付けも大変だから、そう言うのを使うんだって。

 

 そして、これまた見慣れないモノ……六角形で中心に穴が空いてて、ジェル状のモノが詰められた真っ黒の棒の山。


 凝縮炭素棒ならこないだも使ったけど、これはそれに一手間加えた感じに見える。

 

「凝縮酸素剤入りの炭素燃料棒なんて、便利なものがあるのですね……」


 エリーさんがその真っ黒な棒きれみたいなのを片手に、感心してる。

 ユリも初めて見るのですよ。


 熱が加わると徐々に溶けながら、酸素を放出する酸化ジェルを詰め込んだ炭素棒。

 さすがに、こんなのは見たこと無い。


「クオンって、酸素濃度が薄いからね。植物の伐採なんかも禁止されてるし、焚き火をするなら、薪とかは持参するのが基本。もっとも現地調達っても、木切れすらもロクに落ちてないからねぇ……。色々試したけど、その酸化剤入りの六角炭素棒が一番お手軽かな。もちろん、本格派になると天然炭とか天然木の薪を使ったりするけどね。天然炭なんてバカ高いし、送風ファン付きの焚き火台とか大仰な事になっちゃうから、余りオススメはしないよ」


 いつのまにか、話に加わってたダンさんが解説してくれる。

 

 ユリの知ってる地上世界は、あくまで環境自体は完成されたエスクロンの話なので、クオンみたいな開発中惑星だと、色々知らないことがいっぱいあるのです。


「枯れた苔とか草くらいしか燃えるものがなくって、大変だったのですよ」


「よくそんなので焚き火なんてやれたなぁ……。俺らも試したけど、普通にやるとそもそも火が付きゃしねぇんだ」


「非常用の酸素タブレット放り込んだら、威勢よく燃えたで!」


「うわっ、無茶するなぁ……」


「こーんな感じで燃え上がって、大変だったのですよ!」


 手でぴょんぴょん飛び跳ねながら、あの時のビッグファイアーを表現。

 

 何故か、爆笑されたのですよ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ