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第一話「お茶会レディース」③

 それでは、続けてお話を続けようね。 


 宇宙空間を超えて、惑星降下の末でお茶会を開くことになった、ユリと二人の先輩。

 煮えたぎるヤカンさんをガッと素手て掴もうとしたエリー先輩を身体を張って、止めたユリ。


 強化人間の本気、人間離れした動きを直接目にした先輩達に動揺走る……。


「さっすが、エスクロンの強化人間やな! すっごいやん! あたし、始めて見たけど、こんなに早く動けるんや……。かっこええなぁ!」


 ……知ってた。

 アヤメ先輩ってこう言う人。

 

 男らしいって言葉が似合うイケメン女子。

 抱いて欲しい先輩ナンバーワンなんだって、さすがだね!


「そうですわね……。でも、今の確かにかっこよかったわね……。乙女の危機に馳せ参じたヒーローみたいでしたわ……。ちょっと素敵って思いましたわ」


 エリー先輩も……。

 ううっ、なんだかちょっと照れくさいな。


 エリー先輩もユリの事は転校初日から知ってたみたいなんだけど。

 一年生に二年生があれこれ関わるのって、あまり良いことだと思われないらしく、キリコ姉に頼まれるという大義名分が出来て、ようやっと行動に移せたらしい。


 ちなみに、エリー先輩にも「ユリはその気になれば、片手で人を殺せますよ」なんて警告したんだけど……。


「ユリコさんは、お友達にそんな事しませんよね?」

 

 そんな一言で終わらせてくれた。

 ……そんな言葉ひとつで号泣しちゃったユリもアレだけど。

 

 お友達という言葉に思わず、感動しちゃったのですよ。


「けど、そんなゴツいの持って、何するつもりなんやって思っとったけど、こうなると思ってたんやろな。と言うか、そんな備えをするくらいなら、一言前もって注意してくれればええやん……」


「アヤメ……。ユリコさんは間違えるのも、それも学び……そう言いたいのだと思いますわ。わたくし達がミスや失敗をするのは、織り込み済み。失敗をさせないではなく、失敗をフォローして、取り返しのつかない事態にだけはさせない。そう言うことなんですわよね? 実際、危なかったんですわよね……」


「エリー先輩には、お見通し? ……始めて尽くし……失敗して当たり前。でも、最初からアレ……駄目、これ危険……とか……? それって面白くないし、失敗を教訓にすること……出来ない……」


『訓練中はむしろ、いくらでも失敗しろ、何故なら、本番で失敗は許されないから』


 軍事教練では、そんな風に教えられるのですよ。


 戦争ってのは、事前の想定通りに行くことのほうが珍しい。


 様々なエラー、失敗、想定外の連続……。

 想定以上の兵力の敵……味方の凡ミス、連絡の齟齬。


 「戦場の摩擦」もしくは、「戦場の霧」と呼ばれるそれらは、時として戦の趨勢に多大なる影響を及ぼす。

  

 要するに失敗が戦場では当たり前なのだ。


 科学技術が発展して、人間自身を強化して戦場に送り込み、AIによる統制計画などが実現されても……。

 戦場から失敗が消え去ることは決してなかった。


 だからこそ、失敗を一度も経験していないような兵隊は、戦場では使い物にならない。


 古参兵と呼ばれる人達は、数多くの失敗も経験している失敗のエリートでもある。


 だから、シゴキと称して、新兵に数多くの失敗をさせる。

 少しでも、戦場で長生きさせるために……なのです!


「さすが、ユリコさん。そこまで考えていただいていたなんて……サボって何もしないんじゃとか、邪推してましたけど、そんな事はなかったんですね」


「……せやな、あたしも少しくらい手伝ってくれても良いやんとか思っとったけど、せやな! 自分でやって、失敗を重ねることすらも糧とする……そういうこっちゃな!」


 ふふふのふ。

 解ったのですか! この新兵ちゃん共めっ!


 心のなかでそう付け加える。

 なお、本当に言ったりはしない……一応、先輩だし……。


 そもそも、今も軍人思考で色々考えてるとか、どうなんだろ……これ。

 そう言うのは、しばらくお休みでいいって言われてるのに、油断してると軍人思考になる。


 うん! ノーアーミー! めざせ、スイーツ!

 今のユリコは、どこにでもいる普通の女子高生。


 アイドルや美味しいお菓子に、彼氏とか素敵な男の子との出会いとか夢見ちゃったりする感じで!


「あの……一応、確認なんですが。先程、やかんに触ろうとした時、ユリコさん……血相変えてたようですが、かなり危なかったって事ですわよね……。あの時、やかんに直接触っていたら、わたくしどうなっていたのでしょう?」


 ……うーん。

 そこ気になるんだ……。


 常識的に考えて、沸騰したお湯の入ったヤカンを素手で触るなんて、沸騰したお湯に手を突っ込むようなもの。


 と言うか、完全に火炙り、お手々ウェルダンなのです。


「えっと……。エリー先輩、生の天然肉って食べたこと……ある? それも目の前で……ジュワ~って焼く? 焼き肉とかステーキ……」


「そりゃ、ステーキくらいなら、食べた事ありますわよ。だって、わたくしは貴族なのですからねっ! でも、毎日贅沢三昧とか思われてたら心外ですわ! けど、それと何の関係が?」


「えっと……100度のお湯。グラグラなヤカン……素手で触る。通常の人間の手、一瞬で大やけど……負う。まずですね……手のお肉がステーキみたいにジュワジュワに……。皮……ベリっと剥けて、グズグズに……。ものすごく痛い……それに熱い。思わず、地面……転がり回る……? でも、その程度じゃ人間は死なない。傷度レベル……グリーン相当、かすり傷……かな?」


 ちなみに、ユリが所属するエスクロン宇宙軍の傷度判定レベルとしては……。

 

 手足がもげる……イエロー、止血できてれば、命に別状なし、基本後回し。

 お腹に風穴が空く……オレンジ、そのままほっとくとそのうち死んじゃうので、早急なる応急治療が必要、でも慌てない。


 首と胴体が生き別れ……レッド、即時の緊急救命処置が必要、緊急、最優先!


 なお、どのレベルであっても、余裕で救命可能とされている。

 人間首だけになっても、5分以内に脳に酸素供給を行えば、十分生還できる。


 身体は……神経接続や再生医療で、繋げることも出来なくもないけど……。

 全身サイボーグにする方が余程早いので、戦傷で首だけになっちゃった人は、大抵サイボーグ体として生まれ変わることになる。


 もっとも、全身が消し炭になるとかそこまで行っちゃうと、ブラック……救命不可とされる。


 要するに、即死しなきゃ割となんとかなると言うのが、エスクロンの標準的な医療レベルなのですよ。 


 ちなみに、ここまで行ってるのは、再生医療やサイボーグ技術が発展してるエスクロンとその関連星系に限られてるんだとか。


 他の星間国家の医療技術は、そこまでのレベルにない……。

 他ではサイボーグ技術とかが忌避される傾向がある上に、昨今の人類は自然回帰傾向が強くなりつつあるとかで、エスクロンだったら余裕で助かってたような人が、つまらない事故や病気で亡くなったりしてるらしい。


 エスクロンの医療技術は銀河一ィイイ! って、馴染みのドクターさんはいつも言ってるし、銀河医療業界では、エスクロンの医療技術こそ最高峰であり、規範とすべしと言って、結構な数の医療関係者が研修に来たりしてるから、そのうち他の星間国家でも、もうちょっとマシにはなるんじゃないかな?


 まぁ、ユリが所属するエスクロンって国は、万事が万事こんな調子。


 人類の最先端を歩む企業国家であり、他の追従を許さない銀河トップの最強星間国家なのですよ。


「……そ、そんなエグいことになるところやったんか。けど、そんな酷いことになっても、かすり傷同然って……ユリちゃんとこの医療技術って半端ないって聞いとるけど。さも当たり前のように言ってるあたり、マジでそんなんなんやな……」


「そ、そうですわね……。エスクロンって、即死しなければ、身体がバラバラになってても助かる……そんな話も聞きますけど……。あれって誇張でもなんでもないのですね……」


「そ、それは……緊急医療措置……可能な設備? 無いと無理。それに相応の医療技術者とか……医療AIがいないと……。こんな……未開惑星の地上の真っ只中……それは無理。くれぐれも……無茶はしない」


 うん、命は大事に……。

 人間そう簡単には死なないけど、無茶したら、割と簡単に死ぬ時は死ぬ。


 だからこそ、無茶はしない……これ、重要なのです。


『ユリコ様、それは失敬な話ですぞ。当艦にはエスクロン最新医療規格準拠の緊急医療処置パッケージが常備されておりますし、この私はAクラス医療免許を所持しております。万が一、どなたかが負傷、或いは急病の際は遠慮なく頼ってください。そんな訳で、皆様……無茶結構、多少の怪我など恐れずとも結構ですぞ』


 唐突に、降下船の管制AI……エルトランが口を挟んでくる。

 なお、ユリの持つコマンドブレスレッド経由で、わざわざ二人にも聞こえるように告げてくるとか。


 なんとも、自己主張が激しいAIなのですよ。 


 でも、言ってることがどっかズレてる。


 そうじゃない、そうじゃないのですよ……。


「エルトランって、医療免許持ちのAIやったんか……ホンマ芸達者な奴やなぁ……。それなら、もう安心安全やな。そんな訳で、エリーここはひとつ、経験ということでジュワーッとヤカン手づかみに挑戦や!」


「……さ、さすがに、それは勘弁ですわ……。わたくしも、自分の手がバーベキューになるのなんて見たくありませんわ……。けど、もしかしたら、意外と美味しいかも?」


「……どんな飢えてても、それはないでー」


「わたくし、スリムだから骨ギスで食いでがないから、それは仕方ないですね……。そう言う意味ではアヤメはなかなか美味しそうね」


「あ、あたしは食っても美味かないでー! そこ、指咥えて見んなや!」


 ……と、オチが付いたところで、まずはエリー先輩こと、部長のエリザベート・ユハラさんでも紹介するのです。


 この惑星クオンの領有権を持つ大出資者、通称クオン四大貴族のひとつ、ユハラ家の末っ子ちゃん。

 貴族って言うと、パンが無ければ、お菓子を食べればいいじゃない的な鼻持ちならない人って思えるけど。

 

 この人、全然そんな事ない……ユハラ財閥は、サクラダ高校のメインスポンサーなので、特別扱いされても不思議じゃないのに、別に車とかで送迎される訳でもないし、優遇されてるようには全然見えない。


 少女漫画みたいに親衛隊みたいなのがゾロゾロ付いたりもしないし、お嬢様要素は、ほぼ皆無。


 強いて言えば、金髪縦ロールくらい?

 たまにセットし忘れたのか、時間がなかったのか、普通にもっさりロングで登校することもあるみたいなんだけど、皆、誰か解らなくなって、お休みと思われたりするんだって……。


 贅沢はしない主義と言ってるけど、それもホントのことで、お昼も普通に購買でパンとかおにぎり食べてるし、大好きな食べ物はポテチと大福餅……。


 貴族と言っても、とっても庶民的……いい子ちゃんなのです!


 ちなみに、牛乳飲むと背が高くなって、胸も大きくなるという迷信を信じてるみたいで、いつも合成牛乳パックを片手に飲んでるのですけど……もう何年も続けてるみたいだけど、そんなに恵まれてないユリにも劣るぺったん胸。


 そのバストサイズは、驚愕のAA……。


 ユ、ユリだって、Bくらいはあるのですよ?


 なお、アヤメさんは余裕のE……はっきり言って、大きい。

 ユリでは、もう勝負にすらならないし、エリー先輩なんて、比較するのも悲しいくらい。


 そ、そんなことより、エリーさんの話の続きっ!


 寝坊して遅刻、遅刻ーとか言いながら、町中をダッシュ……とか、よくやってるらしいけど、出会いもないとか愚痴ってた。


 それで出会いがあるなら、ユリだってやってみるのです!

 トースト咥えて、遅刻、遅刻ーは、27世紀になった今でも少女漫画のテンプレなのです。


 140cm台の人並み以上にちっこい身体で、いつも元気に走り回ってる……ユリの通う女子校……私立サクラダ高校の名物みたいな人。

 

 特徴:黄色の縦ロール、ちっちゃ可愛い。割とぽんこつ。

 

 次に、アヤメ先輩。


 男勝りのイケメン女子として、学内でも有数のモテモテ女子!


 と言っても、女子校でモテモテってのは要するに、そう言う事。


 女の子に、絶賛、大人気!


 バレンタインとかは、決まって大量のチョコもらう側で、ラブレターとか、放課後に体育館裏に呼び出されて、後輩ちゃんから付き合ってくださいとか、割としょっちゅうなんだって……。


 ……男の子だったら、普通にモテモテ君なんだけど。

 アヤメ先輩は、正真正銘女の子なのですよ……。


 エスクロン辺りだと、別にいいんじゃないかなーってことで同性婚も認められてるし、双方の遺伝子をかけ合わせてデザインチャイルドとか作るのも許されてるけど。


 世間一般では、女の子同士でラブラブってのは……同性の感覚だと、ちょっと……微妙。

 本人は、全然嬉しくないし、むしろ困るって言ってた。

 

 ワイルドっぽい外見の割に女子力も高くて、いつもスカートミニしてて、下着もおしゃれで、色気たっぷりのまさにお姉さんって感じで……ユリも憧れる気持ち解らないでもないのです。


 ちなみに、ユリは別に女の子が好きな女子じゃないのです。


 夢は、素敵な旦那さまのお嫁さん。

 子供を作るのは、無理なんだって知ってるんだけど。


 今日日の遺伝子合成技術なら、自分の遺伝子を半分受け継いだクローンとかも作れるから、問題なし!


 そして、幸せな家庭で奥さんとして、旦那様とイチャラブして、たくさんの子供に囲まれて、人生の最後の瞬間まで添い遂げるのです。


 アヤメ先輩には、乙女チックって笑い飛ばされちゃたけど。


 ユリが子供を作れない理由を説明したら、無言で抱きしめてくれたり……なんともイケメンな行動ばかり目立つ素敵な人なのですよ。


 アヤメ先輩だ~いすきっ!


 この二人の先輩と、そしてユリ。 


 この三人で、はるばる150万kmの宇宙の彼方から、惑星クロンの地上へ降下してきたのです。

 

 何のため?

 

 それは宇宙活動部の始めての活動の為です。

 

 今回のミッションは「始めてのお茶会」……それは、まだまだ始まったばかりなのですよ

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