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第七話「お買い物行くのですよ?」①

「ユリ、お姉ちゃんは嬉しいよっ! あれだけ引っ込み思案だったのに、普通の女の子みたいに街でお買い物なんて……。エリー達を紹介してよかったわ……」


 空けて翌日。

 先輩達とショッピングセンターでお買い物の約束をして、お出かけすべく、玄関先で支度をしていたら、キリコ姉がハンカチで涙を拭きながら、そんな事を言いだした。


「キリコ姉は、大げさなのですよ……。ユリだって、スーパーやコンビニでお買い物くらい出来るのです。そりゃ、人の多い所は苦手だし……。あんまり、オシャレでもないから、周りの子と比べて、ヘコんだりしたけど……」


 ちなみに、今日のお洋服はシンプルに白のワンピース。

 おそろいの白のつばの広い帽子で、シロシロなのです……清純派っぽくて、可愛い……と思うのです。

 ただし、足元は白っぽい謎のメーカーのスニーカー。


 白い靴ってこれくらいしか持ってなかったのです……オシャレな靴も欲しいなぁ……。


「全然っ! 解ってない! ユリコにお友達が出来て、一緒にショッピングモールに行くって話、エリコ姉さんやお母さんにしたら、二人共泣いて喜んでたわっ! あたしも……ユリコの成長が嬉しくて……。やっぱり、通信制なんかじゃなく、こっちの学校に行かせた甲斐があったわ。あ、これ……お母さんとエリコ姉から、ユリコにって……」


 言いながら、マネーカードを手渡される。

 その額なんと、5万クレジット。

 

 学生の身分としては、なかなかの大金だった。

 

「こ、こんなに?」


「エリコ姉……仕事がうまく行ってるとかで、臨時収入があったんだってさ。なんか欲しいものがあったら、エスクロンの方で支給してくれるって話にもなってるみたいよ……その代わり、今度仕事手伝って……みたいな話もしてたけど」


 エリコ姉さまのバイト……。

 エーテル空間用戦闘機開発のテストパイロット業務……。


 今日日の戦闘機開発って、ほとんどがVR環境で行われるようになっていて、実機を使うのは、最終工程くらいのもの。


 やってることは、VRの仮想空間をゲーム感覚で、大きな海の上みたいなところでプロペラ機なんて古臭いのを使って、アクロバット飛行をしたり、用意された色んな似たようなプロペラ戦闘機やら、デカい虫みたいなのや、時には水上戦艦なんかと戦う……そんな感じのお仕事。

 

 エーテル空間戦闘機って、やたらと制約があって、宇宙戦闘機とかと比べると、どん亀みたいなスピードで、驚きのプロペラ機……なんて調子なんだけど。


 こないだ手伝ったのは、そんな旧態依然の機体からの脱出という事で、最新鋭のプラズマジェットを採用した戦闘機だった。

 宇宙戦闘用の制振バレル仕様のレールガン装備の最新鋭機。

 

 でも、重力圏で大気があるなかで、宇宙戦闘機感覚で無茶な機動すると羽根折れたりとか、色々大変だったりもする。

 でも、無茶をさせて限界性能を引き出すのがテストパイロットの役目だから、その辺は遠慮しなかったし、ダメ出しもしまくった。


 割と高機動型の軽い機体だったから、操縦してて気持ちよかった……ゼロ何とか、見た目も可愛くてなんか好き。


 ユリには、詳しいことは良く解らないんだけど……ユリのお仕事は、エーテル空間無人戦闘機開発の一環って事だけは、教えてもらってる。


 エーテル空間の空の敵……黒船相手を想定してると思うんだけど、その割にはむしろ、似たような日の丸付き戦闘機とか、鉤十字マークの戦闘機とかのお相手がメインだったりもする。


 黒船の飛翔体は……むしろ、全然話にならない感じで、物凄くオーバークオリティって感じ。

 当然、指摘はしたんだけど、そこら辺は曖昧にされた。


 所謂、アグレッサー役を任されることも多くて、同じVRテスターと空戦なんかもやったことある。


 お相手の事は良く解らないんだけど、結構手強かった……なんかもう、そこらのオンラインゲーマーとかとは格が違うって感じで……リアルだったら、何回死んだか解らないくらいの回数落とされたけど、ユリだって何回か相手を落としたから、おあいこ。


 お姉さまの話だと、プロ中のプロ……普通は勝てる相手じゃないとか言ってたけど……。


 人間相手って、詰将棋みたいな感じでパターンにハメ込んだり、読み合いとかの応酬だから、何度かやりあってると、攻略法が見えてきたりもする。


 るでーるさん? 割と手強い人だったんだけど、その人、ハメパターンにハメ込んで、撃ち落とした時、開発室の人達が凍りついてたみたいだけど……何者なんだろね?


 ちなみに、その時のお仕事で、お姉さまから結構な額のバイト料がもらえた。


 その額なんと50万クレジット……本来は、その十倍くらい出してもいいくらいの貢献とか言っててたけど。

 お父さんやお母さんがそんな大金持たせるな……とか言って、預かりになったらしい。


 おかげで、ユリも学生にしては結構お金持ち……自由になるお金も結構な額になってる。 

 近い内に、またバイトのアテがあるなら、今日、思いっきり散財したって問題ない。

 

 とは言え、そんな欲しいもの……となると。

 ゲーム機はこないだ買って、実家に置いてきちゃったし……。


 いや、そんなものよりむしろ、お洋服とか靴、もうちょっとオシャレなのがあったらとか思うし……。

 なにより、地上世界アウトドア用品……これがあったんだ。


 それと地上活動における安全対策用品……エスクロンなら、郊外活動用品の専門店があったりするんだけど……。

 クオンでそんなの……果たして扱ってるかどうか……?

 

 それに、あれから少し調べた感じだと、どうもクオンの地上世界は、監視の目が甘いことを良いことに結構、無法地帯化してるらしく、割と治安も良くないという話だった。


 自衛用の武装なんかも……手に入れたいんだけど……ショッピングモールに売ってるのだろうか?

 自前レールガンも命中精度とかに問題あるから、ちゃんとした武器の一つも持っておきたい。


 とにかく、軍資金……ありがたく使わせてもらうのです。

 

「あ、ありがと……なのです。それとちょっと帰り遅くなる……かも?」


 少なくとも晩御飯も一緒に食べるって話になってるから、昼時間内に帰るということはなさそうだった。

 

「うん、門限なんて気にしなくていいわよ……。でも、男の子にナンパとかされて、ホイホイ付いてっちゃ駄目よ? まぁ、エリー達と一緒なら、間違いも起こらないでしょうけどね」


「ナ、ナンパ……ユリが? ユリは、男の子とお話なんてしたことないのですよ……」


「ああ、ユリはそんなんだっけ……。少しは男と話とかも……と言いたいところだけど、そこら辺は慌てないでいいか。どのみち、ナンパなんてやるような男にロクなのいないから、基本ガン無視でオッケー。大丈夫、ユリにもきっと運命の人ってのが現れると思うわよ……ふふっ」


「……楽しみにしとくのですよ。じゃあ、行ってくるのですよ!」


 それだけ言い残して、お出かけお出かけ!

 

 クオンコロニーは、いくつかの区画に分かれてる。

 学校とか、住居の集まった居住区……これが半分近くの面積を占めている。

 

 各種商店やオフィスなどが集まった商業区。


 工場や農業プラントのある工業区。

 行政施設の集まった行政区。


 こんな感じ? ちなみに、ドーム状になってる部分は居住区と商業区が大半。

 食糧生産に関しては、専用の農業サブコロニーがあって、そっちは省エネとしてシリンダー型になって、随伴艦みたいにすぐ近くを航行してる。


 ちなみに、内部環境は炭酸ガスと酸素濃度を高めてる上に、気温や湿度も割と高めだから、そっちのせいでむしろ、予圧服が必須だと言う……。

 

 もちろん、居住区にもコンビニとかスーパーなんかはあるし、個人経営の喫茶店とか料理店、雑貨店やコンビニなんかもあって、その辺の区別はそこまで厳格じゃない。

 

 エスクロンだと、ネットでのVR商店での通信販売とかが主流で、一応お店とかもあるんだけど……。

 要は、見本品置き場みたいなもので、手触りとか色合いとか確認する為の見本品がズラッと並んでるだけのところが大半。

 試着なんかもVRなら、色なんかも選り取り見取りだし、支払いなんかもネット決済でやった方が早いのですよ。

 

 もっとも、クオンは敢えて、人を使って対面販売って言うケースが多いらしい……いろんな部分で回帰主義ってのがまかり通ってるのだけど、お買い物はこっちの方が楽しいような気がする。


 店員さんにオススメとか聞けちゃうし、お友達と一緒なら、あれがいい、これがいいってワイワイやりながら、色々選べるし……。


 ついでに言うと、高級食材の天然モノも個人商店なら割とちらほら見かける。


 学校の近くにもパン屋さんがあって、天然小麦の高級パンとかも売ってたのですよ……イイなぁって、いつも思いながら、通り過ぎてる……。


 移動手段も、どこでも主流になってる無人タクシーだけでなく、運転手付きの有人タクシーなんてのまであるのですよ。


 もっとも、運転手と言っても、基本ハンドル握って座ってるだけで、運転自体はAI任せ。

 お客さんと世間話をしたり、観光ガイドみたいな事するだけの仕事だったりするのだけど……。

 

 ちなみに、たまたま拾ったタクシーも有人の奴だった。

 品のいいおじいちゃんドライバーが運転手。

 

 よく解らなかったので、今日はいい天気ですねーとか、コロニー住まいにとっては、心底どうでもいい話をしてたんだけど。


 ユリが外国人だって、解ってくれたみたいで、別に馬鹿にしたりもせずに、話を合わせてくれながら、ちょっとした観光ガイド的な小話とか聞かせてくれた……なるほど、有人サービスってのも悪くないね。

 

 待ち合わせ場所の中央ターミナル前に到着。


 運転手さんにお礼を言って降りると、すでにこの中央ターミナルの有名な待ち合わせスポット「太陽系の像」とやらの前に二人の姿が見える。

 

「太陽系の像」……人類発祥の地、太陽と太陽系の惑星群を模した像で、似たようなのが銀河系のあちこちにあるらしい。


 バリエーションによっては、宇宙戦艦がいたり太陽の上で子供たちがはしゃいでるとか、シュールな絵面になってるところもある。


 ここのは……なんか知らないけど、やたらとデッカイ。


 10mくらいでかつアンバランス……地震とかあったら、ヤバいんじゃって思いつつ、コロニーはそんな心配要らないって事を思い出す。


 エスクロンは……たまに沖合で大地震発生で、大津波襲来とかあるし、プレート活動も結構活発みたいで、地震も割と日常茶飯事。


 高層ビルとかが、ウネウネしてるのを見ると、ホントに大丈夫なの? って思うけど、ポッキリ折れたとかそんな事は一切ない……まぁ、中にいるとグワングワンと傾きまくるから、大騒ぎ……らしいのですけど。


 ちなみに、大津波の時の対応は、基本的にメガストームとか一緒……街がまるごと津波に飲まれて、どっぷり浸かっても大丈夫な様になってるんで、シェルターに逃げ込んで、大人しく水が引くまで避難生活を送る……。

 

 コロニーにも、非常事態用の緊急退避シェルターとかはあるにはあるんだけど、もう長いこと使われてないらしい……。


 つくづく、ヌルい環境なのだなぁ……なんてことを思ったりもするけど。

 緊急警戒警報の音にビクビクしなくていいのは、お気楽って思わなくもない。


 あの地の底から響くようなヴィーヴィーって音が響き出して、そこら中の空間投影モニターが赤文字の「CAUTION!!」ってのに、切り替わる恐怖の瞬間。


 およそ5秒後には、皆一斉に最寄りの緊急退避シェルターへと駆け込むまでが、エスクロンの日常……。


「お、ユリコちゃん! もう来たんか……って、早すぎやろっ!」


「そ、そうですわ……待ち合わせの時間には、まだまだ30分はあったのに……」


 ……待ち合わせは10時って事になってたんだけど、時刻は午前9時半……。

 ユリもちょっと気が早いかなーって思ったんだけど、先を越されていたらしかった。

 

 アヤメさんは、ジーンズ生地のミニスカートに革ジャケット。

 大人な感じのロングブーツがとってもオシャレ!

 

 エリーさんは、紺色のブリーツスカートに白いワイシャツに赤いリボン。

 淡いピンクのカーディガンを羽織ってと、なんと言うか学生服をゆるふわにした感じの格好。

 

 ……シンプル過ぎるユリと違って、普通に女子力高いのですっ!

 

「……さ、三十分前行動……なのですよ。先輩達も人のこと言えないのです……」


 なんとなく、ハンドバックを胸の前に持ってきて、隠れたくなる。

 うん、こう言うのがオシャレ女子なのです……それに引き換え、ユリ……ショボ女子すぎるのです。

 

「いやぁ、なんかつい早く来てもうてな……エリーも似たようなもんや」


「……先輩らしく一番先にって思ってたんですけどね。けど、早く来て正解でしたわね」


「せやな。……ユリちゃんの私服、なんか涼しげてええ感じやん! あたしはこんなんばっかやからなぁ……エリーみたいなカッコむしろ、全然似合わんのや」


「わたくし、アヤメみたいなのを着たら、思い切り笑われましたの……。ユリコさんは、もうちょっと派手な感じでも似合うと思いますわ……。うふふっ、これはお洋服も選び甲斐がありそうですの!」


「よ、宜しくおねがいします……なのですっ!」

 

 ……むしろ、硝煙と機械油の匂いがするっぽいユリだって、そう言う世界からはもう離れたんだから、人並みの女子っぽく、可愛いカッコとかオシャレなバックとかアクセサリーとかゲットするのです!


 今日日のオシャレな高女子力女子って、どんなのか良く解らないけど、そっちに少しでも近づくのですっ!

 

 ……と思ったんだけど。

 先輩達が向かったのは、何とも薄暗い裏路地のとっても怪しげなところ。

 

 ……てっきり、ショッピングモールとか行くのかと思ってたのですよ?

 

「……アヤメ先輩、質問っ!」


 シュタッと片手を上げて、質問!


「ん? なんや……ユリ後輩」


 追うような感じで返事してくれる先輩……ノリがいいのです!


「ここ……どこなのです? とっても……怪しげ……なのですっ!」


「せ、せやなっ! エリー……ちょっと説明したってや……」


「……わ、わたくし達も始めて来るんですの……。ハセガワ先輩……宇宙活動部のOBの方に相談したら、良いお店があるって紹介されたんですけどね……。けど、こんな怪しげなところだったとは……」


 ……これは、ちょっと危険なのですよ。

 薄暗くて、人影もない……ビルとビルの隙間みたいなところで、道も狭いし、排水システムや換気システムの調子が悪いのか、地面も濡れてるし、変な匂いもするのです。

 

 でも、エスクロンにもこんな所はあったのですよ。


 治安の行き届かない旧市街とか、廃棄区画。


 そんな所に限って、不法移民やら、社会からドロップアウトしちゃった人達が勝手に住み着いたりするもので、総じて治安は最悪レベル。


 人殺しやら泥棒、婦女暴行とか、悪い事が日常茶飯事のまさに世紀末の世界!


 コロニーって、どこも明るくて清潔って思ってたのに……こんなスラムみたいなところもあるなんて……。


 そ、そんな所に、こんな女子高生三人組なんて……とっても危ない。


 貞操の危機って奴なんですよーっ! ユリちゃん、ピンチだよっ!

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