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宇宙(そら)きゃんっ! 私、ぼっち女子高生だったんだけど、転校先で惑星降下アウトドア始めたら、女の子にモテモテになりました!  作者: MITT


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エピローグ「恋に恋する彼女の物語」⑬

「うん、うん……ユリもあの大楠公の子孫なので解るのですよ。偉大なご先祖様がいるって思うと誇らしくなりますからね」


 思わず、頷く。

 心の底から同意……なのですよ!


「あら、ユリコ様も己がルーツを知る者の一人なのですわね。その……大楠公という方がどんな方なのか存じ上げませんが、さぞや素晴らしいお方なのでしょうね!」


「大楠公……楠木正成公か? そりゃまた、随分な大物の名前が出てきたね。古代日本史上最高最強の戦術家、戦争の天才と謳われた名将中の名将……。確かに君達、クスノキ一族って曲者揃いだしねぇ……。でも、エスクロンってクスノキさん、やたらいっぱい居なかったっけ? なんか知ってるだけでも10人くらいクスノキさん、居るんだが……」


「クスノキ家は、エスクロンが王政だった頃から続く名門……五大家と呼ばれる一門なのです。そりゃ一族郎党なんて、いっぱい居ますよ。けど、大本を辿るとエスクロン移民時代に預言者の側近を務めていたと言われるクスノキ・レオンさんに行き当たるのですよ。で、そのレオンさんは、古代日本の英傑大楠公の血を引く名門の方だったのですよ」


「なんだか、すっごく眉唾だぞ、それ……? そもそも、レオンって思いっきり英語圏の名前なんだけど。けど……それが真実かどうか実証なんて、多分もう誰にも出来ないだろうから、言ったもん勝ちなんだろうね……。と言うか、月夜中佐のケースなんて、超レアケースだからね? あたしら再現体って基本的に、この時代に縁もゆかりもない孤独な存在なんだよ……。だからこそ、皆、とっても羨んでたよ……全く良縁に恵まれたものだね……。ツクヨ辺境伯も誇りに思うといい。けど、それだけに月夜中佐、貴女が中立を保つ事もありえないと言うことか……。同じ再現体として、子孫のために戦うと言われたら、さすがに止めようもないな」


「そうですね。中央艦隊自体はシリウスと帝国の紛争が起こっても、どちらにも肩入れせず中立を保ち、せいぜい残虐行為の監視程度に留めるのは、既定路線のようですが。私はかねてより派遣艦隊司令として、独自判断で動く権限を与えられていますからね。自らの正義に従い動けと上司の北上提督からも言質を頂いていますし、命を賭けるには十分過ぎる戦となるのは、確実……それで退しりぞく方がありえませんよ」


「……そこまで覚悟が決まってるなら、もう何も言えないな。すまないな……ユリコちゃん。状況は理解してるつもりだが、少なくとも月夜中佐は君達の敵になるのは避けられそうもないようだ。何か交わすべき言葉でもあるなら、今のうちに言っておくと良いよ……戦場で敵と言葉を交わすべきじゃない。これは戦場で命の奪い合いをした経験者だからこそ言えるアドバイスだ……肝に銘じておくと良い」


 ……今の時代、人間同士で直接戦った例ってのは、ほとんどないのですよ。

 セカンド銀河の軍勢との戦いが事実上、始めて……。

 

 そう言う意味では、ユリも人間相手の実戦経験者ではあるんだけど。

 確かに、敵と直接言葉を交わすような機会はなかったのですよ……。


「……重い言葉ですね……。解りました肝に銘じておきます」


「よろしい。それと……戦友のよしみで、もう一つアドバイスをしよう……月夜中佐の特殊能力なんだが……多分、戦機を視る能力……そんな能力だと思う。要するに針穴のような勝機を見切って、戦そのものの流れをたったの一撃で変える……そんな理不尽なまでの力。その脅威は、恐るべきものだ……。恐らく、君の持つ超級索敵に匹敵するようなチート能力だと思う。はっきり言って、敵に回して楽に勝てるような相手じゃない。よくよく考えるんだね……互角の条件とか妙なことに拘っていると、君が負けるぞ?」


 戦機を視る能力?

 どんな感じなんだろ?


 ユリも敵意や殺意を問答無用で察知するって能力持ちだけど。


 正直、なにがどう特殊なのかよく解ってないのですよ。

 ただ、そこに敵がいるのが解るだけ……一言で言えばそんな能力なのですよ。


「遥提督……ネタバレとはまた無粋な真似を……。と言いたいところですが、彼女の能力は私も知っていますからね。敵の気配や殺意……それも距離関係なく、即時に感じる能力。つまりいつ攻撃が来るか解るし、いつ敵がそこに来るかも解る……。そう言う能力……確かにそれなら、最強のパイロットにも指揮官にもなり得ますね。カイオスやバイオレット、あの程度の敵では、手に負えなかったのも頷けますね」


「ああ、それに彼女は戦場において要となる敵を確実に見切ってくるからな。敵に回した側は的確に急所をやられて、確実に崩壊する。ブリタニアの大艦隊も遠方に隠れ潜んでいた統括監視者が彼女に討ち取られ、バイオレット卿の乗艦やレプライザル、各所に放たれていた指揮統括艦が次々と彼女に仕留められた結果、あっけなく全軍の統制が効かなくなって、崩壊の道を驀進したようなものだったからね……。大軍ってのは、基本的に強いけど、統制が崩れると脆いからね……。あの戦いの勝利の立役者が誰だったか……それは、彼女に他ならないよ」


 あっれー?

 ……そ、そんなだったっけ?


 ブリタニア決戦では、ユリは後方の安全地帯上空で適当にロックオン、ファイヤーを繰り返してただけなんだけど……。


 あくびしながら、作業感覚でモニター見ながら、お菓子つまみながら、ドリンク片手にクリック、クリック。


 確かに、ブリタニア艦隊って、ものすごい数が居たのに、途中からグッダグダな動きになって、もうボッコボコにやられて、割と早い段階でまとめて白旗ってなってたけど……。


 ああ、でも……巨大空母を真っ二つにして沈めたのは覚えてる。

 アレに関しては、最後方にいたけど、とんでもない数の支配機出してたから、ヤバいと思って最優先で沈めた。


 なかなかいい動きの戦闘機を操って、先頭が八咫烏の目前にまで迫られてたけど、先に母艦沈めたら、パタパタと落ちて居なくなった。

 

 アレくらいかな、ちょっと危ないかなって……思ったのは……。


 ユリの感想としては、あの戦いは本当に、退屈な戦いだった。

 航空優勢下の安全圏の奥深くで、ターゲットクリックしてるだけとか、面白くもなんともなかった。


 ……バイオレット卿ってそもそも誰?

 

 カイオスって人は知ってるけど……。

 逃げるついでの行きがけの駄賃でユリ達にちょっかい出してたら、結局、逃げ遅れてエルトランにあっさりやられた不幸な人。

 

 あの人、他にもフォルゼおねーさんとか、遥提督とか色んな人に何回も殺されてたらしい。


 何度殺しても生き返るとかそんな不死身系キャラだったらしいけど、逆を言えば、何度も繰り返しやられるヤラレ役の雑魚キャラだったんじゃないかなーって。

 

 いずれにせよ、ユリとしては……そんな人達には、別に興味なんて無い。


 どうせやるなら、最前線でギリギリの死線を何度も超えるような……。

 そんな魂が燃え尽きるような戦いをしてみたい……それが出来ないなら、のんびり日常に埋まったほうが余程マシ……そんな風に思うのですよ。


「……あの退屈な戦いには、私も参戦してましたけど。そうですか……あの時、後方から悪魔じみた支援射撃を繰り返していたのは、貴女だったんですね……。遥か天空から、私が目をつけた者たちを次々と射倒していく様……まさにあれこそ、軍神! 戦場を支配し、戦を統べる戦女神とは、まさにこれだと思いましたよ。なるほど、いいですね! 実に素晴らしい……。是非、本気で命のやり取りをしてみたい程に……これは、挨拶に伺った甲斐がありましたね……ふふっ」


 そう言って、月夜中佐もニコリと微笑むんだけど。

 

 その言葉に辺境伯さんと遥提督は完全に凍りついてる。


 うん、物凄く不穏な事言ってる。

 解りやすく訳すと、貴女とぜひ殺し合いたい……と。


 間違っても、こんな場所で耳にするような言葉じゃない。


 でも、ユリは平常モードのままで軽く受け流す。 

 だって、月夜中佐……そう言いながら、敵意も殺意もゼロだし。

 

 感じるのは、むしろ友愛の感情……。

 まるで、強化人間の皆やクラスメートの子達と一緒にいるときに感じる穏やかな安らぎに満ちた思い。

 

 それに、なんとも言えないけど、この人って……ユリのご同類のような気がする。


 退屈な戦い……彼女は確かにそう言った。


 あの史上空前の頂上決戦と言われた決戦をそんな言葉で切って捨てる。

 ……ユリと同じ感想を抱いていたのであれば……。


 もししたら、この思いも……一緒なのかもしれない。

 

 ……心の奥底にしまっていた思いが、秘めていた渇望がゆっくりと頭をもたげるのが解った。


 この三年間……平和な女子高生としての暮らしの中で……戦場から遠く離れながら……。

 ユリの心のなかには、いつも何か満たされないような感情がくすぶってた。


 ギリギリの命懸けの戦い。

 あの瞬間、瞬間の心が踊るような高揚感……そして、胸の高鳴り……。


 死のギリギリでこそ感じる命の煌きの美しさ……。


 それは敵であっても同じこと。

 殺されまいと、殺そうと必死になって……。

 

 敵と味方、お互い死物狂いの思いがぶつかり合いって生み出される奇跡の瞬間の連続……。

 儚くも美しい……まるで流星のような……刹那の魂の輝きっ!


 あそこには、戦場には……この世の全てが凝縮されていた。

 

 だからこそ……あの時、最後までやれなかったのが悲しかった。

 

 カイオスとかあんなの、勝ち確な蛇足な戦でしか無かった。


 だからこそ、ずっと思っていた。


 あの瞬間をもう一度って……!

 満たされたいって、ずっと、ずっと!


 ユリは……あの戦場の輝きを……もう一度、味わいたいのですっ!


 月夜中佐にも聞いてみたい……なんとなくだけど、ユリのこの思いを理解してくれそうな。

 ……そんな気がするのですよ。

お察しかと思いますけど。

ユリちゃんってこう言う子。

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