エピローグ「恋に恋する彼女の物語」⑧
「そ、そうですね。ダイレクトリンクで人型兵器動かすのは、かなり楽でしたからね。飛行機とか戦車ともなると、ハイって手をあげようとしたら、フラップや砲塔動いちゃうとかやっちゃうんだけど、人型だと自分の体みたいに普通に動かせますからね。要はレスポンスタイムが段違いなので、人型兵器ってのは私達との相性がかなり良いんですよ」
でも、それ考えると、スターシスターズの子達って凄いなーって思う。
戦艦とか空母クラスとかになると、各種砲台やら戦闘機やら三桁近いマルチタスクを実行とか、平然とやってのけるんだからね。
「なるほど……。そう言う事なら、納得ですな。なるほど、ナイトワン卿のような強化人間ともなると、操縦桿を握って操作するよりも余程早いんでしょうな。いずれにせよ、我々もナイトボーダーの有用性や脅威は解ってますからなぁ。ここだけの話、実を言うと、すでに我々辺境艦隊も中央艦隊もナイトボーダーと同等の人型機動兵器の開発に着手しておりましてな。例の……セカンドの斑鳩の連中が興味を持ったようで、カドワキさん達と組んで、連日あーでもないこうでもないと、大騒ぎしてますよ。なんでも、もうすぐ試作初号機が完成するとか……」
初耳情報! ええっ! 銀河連合軍でもナイトボーダーみたいなの作ってたんだ!
ゼロ陛下も初耳だったようで、本気で驚いてる感じ。
「へぇ、それは凄いな! ……っていうか、君等もやるじゃないの。と言うか、セカンド銀河でも最高峰と言われる変態技術者集団、斑鳩特殊技術開発室が動いたのか……。それにやっぱり、カドワキ先生も動いてたか。絶対、あの人好みの兵器だからって、共同開発のオファーかけてみたんだけど、そう言う事なら独自に対抗馬完成させてやるって息巻いて、断られちゃったんだよね……」
「まぁ、彼らはいずれも自分達が銀河ナンバーワン技術者だと言い張ってますからな。確かにエスクロンも銀河有数の技術力を誇っていますが……彼らの気質を考えたら、迎合するよりむしろ、対抗馬を出してくる。……まぁ、そうなりますわな。ひとまず、カドワキ氏がベースプランを出して、基礎設計を行い、斑鳩がそれをブラッシュアップする……そんな感じで役割分担しつつ、完成度を上げていく。そんな体制になっているようですな。それに加えて、シュバルツの強化人間もテストパイロットとして参加することになってますからね。恐らく、我々の人型機動兵器についても、帝国と比較しても、遜色ない完成度のモノとなるでしょう」
「……そっか、そっか、マッド同士が手を組んじゃったんだね。うん、実にいいね! こんな風にあちこちで開発競争が起こるのは、我々としてはむしろ、歓迎すべき状況だよ。今度、セカンドの人達も含めた技術屋同士で会合なり、試作兵器テストの合同演習開くのも悪くないね」
ちなみに、セカンド側……異世界勢の人達は、ウラル以外の3つの勢力がすでに帝国と友好条約を結んでるので、事実上の味方なのですよ。
楼蘭の柏木提督とブリタニアの女王ルクシオン陛下、そしてシュバルツ新総帥。
この人達はいずれもそれぞれの国の代表格なんだけど、それぞれお互いがすでに同盟関係にあり、ガッツリ手を組んでる。
もう一つのウラルとか言う共産主義の国もあるみたいなんだけど、元々まともなエーテル空間戦力をもってないので、こちら側の植民星系などは全て放棄した上での不可侵条約を締結させられて、大人しくさせられている。
元々、弱い相手には強気だけど、強い相手に対しては、平身低頭……そんな狡い人達なので、当面脅威ではないとみなされている。
ちなみに、シュバルツ新総帥に関しては、ユリはとっても縁が深いのですよ。
何故かユリが友好親善大使として、先方から名指し指名されたとかで、学校もお休みにして一月近くシュヴァルツに派遣されてたんだけど。
シュバルツの代表として出迎えてくれたのは、いつぞやかのフォルゼお姉さんでユリも超びっくり!
そして、あの時フォルゼお姉さんは、秘密裏にエスクロンに接触して、ユリを狙う秘密工作員を始末して、和平の道を探る密命を帯びてたんだって知って、もっとびっくり!
うーん、のんびり文化祭を楽しんでた裏でそんな事があったなんて……。
そして、シュバルツに戻ってから、ネオナチスの手からシュヴァルツを取り戻す革命のリーダーとなって、ネオナチス総統カイオスと一騎打ちの末に打倒し、シュバルツの新総統に任ぜられるまでになった。
そんな壮大なサクセス・ストーリーを聞かされて、もう開いた口が塞がらなかったのですよ。
それから一月、思いっきり歓待されて、シュバルツ観光とかシュバルツの貴族さん達に紹介されたり、フォルゼお姉さんの実家にお邪魔して、妹ちゃん達に熱烈歓迎とかされながら、最終日には、フォルゼお姉さんに「いっそ私の養子にならないか?」なんて言われたけど。
さすがに、ご遠慮させていただいたのです……。
お姉さんならともかく、お義母さんとか!
実際、それも悪くないなーって思ったけど、ユリは帝国を支える要と言える立場なのですよ……。
でも、今後も個人的な友人として……と言うことで、連絡先とかも交換して、今でも時々メール交換とかもやってるのです。
「ははっ、黒船関連が静かになったとは言え、まだ向こう側では戦いは続いてますし、定期的に湧いてくるフェイズ2の対応やらで、気の休まる暇もありませんからね……。それにスターシスターズと人型機動兵器についても、意外と相性は悪くないようなんですよ。特に空母タイプの子になると、同時並列制御で数十機の人型機動兵器を動かすことも出来るようでして……。彼女達もなんだかんで普段は頭脳体という人型の身体を動かしているので、人体を模した機動兵器の同時遠隔操作も割と問題ないようなのですよ」
「……え? それホント? 確かにスターシスターズの子達って、要するに艦体側が本体で、頭脳体と言っても人型UIみたいなものだって話だからね。なんにせよ彼女達の演算力なら、それくらいやってのけるのか。こりゃ、銀河連合製のナイトボーダーも本気で侮れないものになりそうだね」
「ふふふ、我々も馬鹿にしたものではないでしょう? それに陛下のおっしゃる帰還者の脅威についても、ありえないと断じるほど我々も寝ぼけておりませんからな……はっはっは!」
「今の今まで、それ黙ってて僕らにすら悟らせないって、提督もつくづく狸だねぇ……。けど、それって司令部にもダンマリで……そう言うことだよね?」
「……まぁ、当然ですよ、それは……。あの分からず屋共に説明なんてするだけ無駄ですし、そもそもアドモスも斑鳩も銀河連合とは関係ないですからね。結果的に非エスクロン勢での結託みたいな形にはなっていますが。得意分野を結集すれば、エスクロンにも負けない事を証明せねば、我々も彼らも立場がありませんからな」
「そして、そのラインを繋げた張本人が提督って訳だ。ホント、相変わらず暗躍がお好きなようで……実に、人が悪いね……はっはっはっ!」
永友提督さんと、ゼロ陛下……楽しそうに話し込んでるのですよ。
議論は白熱中……なんだか、バチバチ言ってるような気もしてきたのですよ。
ユリもなんだか暇になってきたし、そろそろお暇しようっと。
一歩離れて、遥提督に軽く会釈して、その場をゆっくりと離脱……。
と思ったら、遥提督も二人に軽く手を振って、一緒に付いてくる。
「ははっ、さすが絶妙なタイミングの引き際だねぇ……。なにげに、あそこ辺境艦隊の事実上トップと帝国トップで、狸同士の腹のさぐりあいが始まってたからね。外野は引っこんでるに限る……せっかくだから、エスコートでもしてもらおうかな……ナイトワン卿」
そう言って、腕に抱きつかれる。
あれー? なにこれ。
「さ、さすがに、遥提督から逃してはもらえませんか……。別に会場警備しつつ、挨拶廻りしてるだけなんだから、付きまとわなくても良いじゃないですか……。それになんで私達、腕組んでるんです? まるでラブラブカップルみたいですよ?」
「いや、こっちは見目麗しきドレス乙女で、君は厳ついフルアーマーの騎士様。となれば、こうするのが自然じゃない? と言うか、君……なんか危なっかしいし、近くで見てると面白くてさ……。次は誰とエンカウントして一騒ぎ起こすのか、楽しみだよ!」
「ちょっ! 建前と本音が一緒になってますよ!」
「あはは……ナイスツッコミ。まぁ、その気になれば、あたしらってVRゲーム内で待ち合わせして密談とか、いつでも出来るけどさ。アタシは君とは戦友のつもり……だしね。そいや、ナイトスレイヤーで知り合いって紹介してくれた、化け物みたいに強い剣士……レイさんは元気? あの人、アタシどころか、ユリコちゃんすらも下すって時点で、尋常じゃないよ……何者なのさ? あのひと」
あうあう。
レイさんって……実はフォルゼお姉さんのこと。
親善大使として、お邪魔した時に、こっちのVRゲームの話をしたら、興味持ってくれて、お試しでナイトスレイヤーって言うひたすら剣で殴り合ってサーバー最強を目指すってVRゲーム紹介したら、ガッツリハマっちゃって……。
なお、フォルゼお姉さんは今の所、サーバートップを一年近く守りきってる。
彗星のように突如、ナイトスレイヤー世界に降り立って、並み居る強豪を文字通り、バッサバッサと薙ぎ倒して、最強の称号「エクススレイヤー」の称号を手にし、月イチで開かれるエクススレイヤートーナメントの防衛戦でも、選りすぐりの挑戦者達を全く寄せ付けていない。
……ユリも挑戦したけど、もうあの人……次元が違うのですよ。
VRだから、本来の身体スペックよりも下がってるとは言え、相手も条件は一緒。
……はっきり言って、剣術の熟練度が桁違いに高くて、全然勝てなーいっ!
ユリの先読みも来ると解ってても避けられない必殺の一撃とか駆使してくるから、素のVR体と言う条件だと、じぇんじぇん勝てないのですよ……。
遥提督も自信満々で挑んで、あっさり負けて涙目になってたくらい。
でも、あの人、仮にも異世界シュバルツの国家元首なのに、何やってんだろね?
「ノ、ノーコメントなのですよ! レイさんもあまり素性を追求してくれるなって、言ってたじゃないですか……」
「うん? あの尋常ならざる反応速度と、判断力……ありえないほどの先読みと戦術眼……絶対に強化人間……ユリちゃんのお仲間だと思ったんだけど、その感じだと外れっぽいな。けど、この時代の現代人にしてはあまりに実戦慣れしてる感じだったしなぁ……案外、再現体の誰かだったりするのかな?」
その辺は同意。
あの人、多分ユリの剣のお師匠様とか、お父さんとかに匹敵するような人類最強クラスの達人だと思う。
いずれにせよ、上には上がいるのですよ……ガクブルなのです……。
「ご、ご想像にお任せしますよ……。と言うか、色々探り入れたりしても、ユリからは大した情報出ませんよーっと!」
「まぁまぁ、久しぶりにリアルで顔を合わせたんだ。戦場の華、戦女子同士、もうちょっと仲良くしようじゃないの……。なぁ、ユリコ戦友、これ食べてみない? 虹色ババロアだってさ! あはは、なんだこれ! 色超ヤバいっ!」
……虹色のカラフルなババロア。
確かに色ヤバいけど、どんな味なのか気になってた。
遥提督って、ユリが美味しそうって思ったのをすかさずキープしてくれたり、気遣いが嬉しいんだよね。
ほんと、男子だったらほっとかないくらいのイケメン女子だよ……!
「……嬉しいですね。戦友って言うと、お友達なのですよね? あ、意外とイケますね……色は確かにヤバいですけど」
虹色ババロア……色はド派手だけど、味はそれぞれの色に合わせたフルーツ系。
赤はイチゴっぽいし、緑はメロン味、紫はブドウとそんなに色のイメージからかけ離れてない。
ただ青は……なんだか良く解らない味。
なんかスーッとするから、ミント系かな? 確かに青いフルーツってあんまり想像できない……。
「確かに、意外と美味いね……これも、永友提督監修だったりするのかな? ああ? お、お友達? うーん、お友達と戦友はちょっと違うような……?」
「そうですよね! なんか戦友って言うと命懸けの戦場を共に乗り換えたって感じで、本気の友情って感じですよね。ドラゴンフェイズ2……あれっきり、戦場と言っても安全なところにばっかり回されてるんですけどね。あの戦いはユリも本気で命懸けでした! 遥提督の援護とか近くに居たら、もう抱きしめたーいとか何度も思ったんですよ! わかります……戦場の絆! ですよねっ!」
「あ、ああ、そうだね。あの戦いは、正直、アタシもかなり厳しかったよ……一人じゃ勝ち目なんてなかった。と言うか、あの時……何度も危ないから引っ込めって言ったのに、無茶してくれちゃってさ。挙げ句に眼球破損とかそんなのアタシだって、超やばいって解るよ。一応、警告しとくけど、あんな命知らずな戦いは、もう二度としないように……あんなの絶対認めないよ……。君はもっと慎重になるか、いっそ後方でどっしり構えてるべきだと思うよ」
「……えっと? やぶ蛇? と言うか、本気で危ない時はピキーンって解りますからね。あの時は……ちょっと機体性能に振り回された感じで……。今はもう白鴉の限界性能も解ってますし、Gキャンセラーもあの時とは、比較にならない程高性能化してますから、あんなのは二度とありえないですよ! 実際、VR演習ではドラゴンフェイズ2も余裕で勝てるようになってますからね! 実戦だって、もうワンパン余裕ですよ!」
うん、もうあんなフライングトカゲなんて、余裕で勝てるのですよ!
ナイトボーダーもVR演習ではかなり完成度が上がってて、過去の戦闘記録の再現VR演習なんかでも、かなりいい成績が出てる。
ドラゴンフェイズ2に関しても、ナイトボーダーなら近接白兵戦も出来るし、小回り性能なら白鴉より高いほどだから、頭を取って上空からレーザー弾幕をシールドで跳ね返しながら突貫かけて、頭部めがけてのゼロ距離電磁加速パイルバンカーであっさり撃破出来てしまったのですよ。
一応、その後に現れた別個体のデータなんかも参照して、VRデータ化したものだから、実物と遜色ないはずなんだけど。
密着しての物理でドカンの使い捨て電磁加速パイルバンカーなら、その強固な鱗や頭蓋骨、各種シールドもまとめて撃ち抜けるって事が判明してるのですよ。
物理最強、ドラゴン何するものぞーなのです!
 




