エピローグ「恋に恋する彼女の物語」⑦
「では、陛下に、いい機会なので率直に言わせていただきますとですね……。あの……銀河帝国は無いんじゃないですかね。私としては、そんな挑発するような国号にしなくてもって思いますよ? 事実上銀河連合、すでに崩壊してるじゃないですか。まぁ、前々から使えなかったのは事実ですが、もうちょい穏便に出来なかったんですかね。そもそも、相談くらいしてくれれば、私だって議会にコネくらいあるんだから、悪いようにはしませんでしたよ?」
永友提督も、危うくエスクロン軍と一戦交えるハメになりかけたせいか、色々言いたかったみたいで、ゼロ陛下に容赦なく、意見してる。
ちなみに、永友提督の軍需物資倉庫が空になったのは、これまでエスクロンから借りてた分をまとめて返済した結果こうなったと主張してたみたいなのですよ。
まぁ、これから攻め込む相手に借りを返したとか、一応スジも通ってたんで、余計に司令部も強く出れなかったそうな……。
余談ながら、議会からの出撃命令を真っ向から出撃拒否することでその意志を示した提督には、ゼロ皇帝からご褒美に倉庫いっぱいになるほどの大量の軍事物資と桁がおかしい額の秘密資金が提供されたとかされなかったとか。
なんにせよ、この二人……要するに、グル……むしろ、結構仲良し。
裏方苦労人同士、やたら気が合うって言ってたけど。
どっちも腹黒いから……じゃないかなぁ? この空間、なんだかドス黒いです。
ダゼルくんやケリーくんも、間に入ろうか迷ってるみたいだけど、ゼロ陛下が手を上げて止めてる。
まぁ、余計な口挟まないほうが良いと思うな。
「悪い悪い、確かに永友提督にもちゃんと相談すべきだったよ。でもまぁ、いいじゃないの。なんだかんだで、風通しはよくなったしね。それにさ、銀河帝国って……なんと言うか、浪漫溢れる国名だと思わない? なんかもう、すっかり悪役みたいな扱いだったから、むしろ開き直ったんだよね……これ」
「た、確かに、宇宙世紀ともなれば、銀河帝国ってのは、ある種のお約束と言うか……浪漫ではありますからな。私も銀河帝国軍少将閣下とか言われて、そんな感じのカッコいい黒い制服着て、艦隊指揮とか……。ふむ、悪くないかもしれませんな」
「だよね? ロボット兵器とならんで、男の子の憧れだと思うんだよね。例のロボット兵器も、うちではもともとロボサーフって言う、巨大人型ロボットにサーフィンさせて、アクロバティックなマニューバをさせたり、カッコいいチャンバラさせて、観客を魅せた方が勝ちって、頭の悪い変態競技が流行ってたんで、海上での人型ロボット運用の基礎技術とかはちゃんとあってさ。それに、遥提督が紹介してくれた21世紀のアニメ……ロボットがサーフボードに乗って、空中戦やってるアニメ見たんだけさ。あれ? コレってうちなら案外、イケるんじゃないってことで開発局に打診したら、もうノリノリで一週間くらいで試作初号機とか出してきちゃって……。あとで沖合で実機デモストレーション演る予定だから、ぜひ見ていってね」
「ほほぅ、それはそれは……。確かに、空間機動力も持ち合わせた海上機動兵器ともなると、エーテル空間での運用も可能となるでしょうからね。海洋惑星国家でもあるエスクロンならではの発想と言えるでしょう。そう言う兵器があるなると、エーテル空間戦術にもかなり柔軟性が生まれますからねぇ……。エーテル空間の戦争自体を変えうると私も思いますよ」
「確かにそうだね……。エスクロンって重力係数が1.5Gとかあるんで、むしろ、地球の海上前提の設計だと船舶類とか、全部沈んじゃってね。その関係で海上艦艇類は、エスクロン独自規格にならざるをえなかったんだけど、エーテル流体面も似たような傾向があって、結構うちの海上船舶ノウハウが流用できてるんだよね。いずれにせよ、今後ずっとスターシスターズ頼みって訳にはいかないでしょ?」
「まぁ……基本的に、スターシスターズ頼みの我々は、なんとも言えませんが。各艦隊が実施したドラゴンフェイズ2との戦闘シミュレーション結果はどこも思わしくなかったですからね。我々も戦い方を根本的に見直さないと来たるべき脅威に対応できないとは思ってますな」
辺境艦隊の対ドラグーンフェイズ2のVR演習結果は、割と無残なもので……。
最低でも、巡察艦隊三個艦隊……航空戦力もアサルト・ゼロなら100機単位は揃えないと、歯が立たない……そんな調子だったんだとか。
「うん、さすが永友提督だね。変革を恐れるばかりに旧態依然のままで、新戦術と新兵器の前にいとも簡単に滅びる……太古の戦争、第二次大戦のドイツ・フランス戦がそんな感じだったみたいだったからね。実際、ナイトボーダーについては、VR演習とかでも色々模索してる段階なんだけど、とにかく待ち伏せやら拠点制圧に関しては恐ろしく有用だし、それに隠密性も高いから、実戦ではかなり使えるんじゃないかと言われてるよ」
うん……現状、帝国軍がエーテル空間主力兵器と位置づけてるのは、鴉系統の戦術戦闘機なんだけど。
戦闘機は、それなりに欠点も多くて、本来主力決戦兵器とするとなると、ちょっと厳しいのですよ。
第一の欠点は、先に述べたように長時間の戦場滞在が出来ないから、防衛線の維持とか拠点制圧には全く向いてない……。
地上戦の場合は、歩兵や戦車と言った陸戦兵器がないと拠点制圧とか、いくら航空戦力があっても、不可能と言うのは、軍事関係者の間では常識。
地上制圧戦では、陸戦兵力で拠点制圧の上で、点と点を繋げて補給路を確保しつつ、敵勢力圏へと食い込んでいくと言うのがセオリーになるんだけど。
エーテル空間の場合、歩兵や戦車の代わりとなるのが艦艇戦力。
そう考えると解りやすいのですよ。
だからこそ、陸戦で言うところの歩兵戦力が必要とされていたのも事実なのですよ。
そして、航空機の欠点、その二。
飛行中の爆音や音速突破時の衝撃波を完全に消すのは難しいから、ステルス性はどうしても低くなる。
特に、対人類戦を想定すると、エーテル空間にすでにレーザー兵器や荷電粒子砲が持ち込まれてるし、黒船もフェイズ2系統はレーザー兵器や荷電粒子砲を当たり前のように使ってくる。
要するに、どんなに素早く動けても、当たる時は当たるから、損害が馬鹿にできない。
そうなると、見つかりにくくすることで被攻撃機会を減少できるステルス性能は極めて重要な要素になるんだけど、機動力特化の航空兵器はステルス性能に関してはかなり不利。
派手に動くと音でバレるし、元々黒船って、音や気配で探知してるみたいで、レーダーや光学ステルスってあんまり効かない……。
実際、ドラゴンもプラズマ雲越しにバカスカ撃ってきたし、潜航艦の「水狼」もずっと捕捉されてて、潜りっぱなしで頭が上げられなかったみたいだし……。
何より、航空機って元々構造的にどうしても脆弱になるし、防御を重視して、装甲を厚く重くすると、最大の利点のはずの機動力が失われ、継戦能力も悪化するから、防御力面ではあまり強く出来ないのですよ。
同じ理由で、搭載火器については、どうしても重量制限がつきまとうし、弾薬量も制限されるから、火力にも自ずと限界がある。
航空機ってのは、圧倒的な高速移動力と引き換えに、数多くの欠点を持つ兵器なのですよ。
宇宙空間では、音も伝わらないし、無重力でとにかく広いから、重量の問題や騒音の問題とかも割と度外視出来るから、機体を大型化して、ペイロードの増設を狙ったり、モジュール換装で機動力重視や航続距離重視にするとか、様々な方向性を狙えるんだけど。
大気のある重力圏下ともなると、航空機の運用については、まだまだ数多くの問題があるのですよ。
その点、サーファーロボは短時間ながら、流体面下に潜れたりするし、リアクターをオフにして、蓄電セル頼みにしてじっとしてれば、ほぼ無音に出来るから、プラズマ雲の下に潜れて、光学迷彩ネット被ったりすると、簡単には見つからない。
シュバルツからパクったステルスコート技術もあるから、アウトレンジで一方的にやられることもなさそう。
演習でもミラージュフォグやALスモークみたいな隠蔽兵器と組み合わせると、気がついたら目の前にいたとか、いつのまにか後ろに居て、補給ライン潰されるとか、普通にあったから、敵に回すととにかく、恐ろしく厄介。
おまけに、母艦とマイクロ波給電方式で接続することで、稼働時間の問題も解決出来るから、文字通りの海上歩兵のような運用が可能となるのですよ……。
この場合、駆逐艦のような小型艦との組み合わせでも運用できるので、小型艦の戦闘力が飛躍的に向上する事にもなる。
他にも大型潜航艦を母艦にして、流体面下からこっそりとサーファーロボを出して……とか、様々な新戦術や運用が考案されていて、VR演習とか本国海上とかで派手に実験してるんだけど、どれもかなり有効だと認識されてるのですよ。
それに何より、多目的大型シールドのおかげで防御力もかなり高くて、生存性も高いのも魅力の一つ。
シールドは飛行モジュールとしてもだけど、ウェポンラックとしても使えるので、火力や弾薬搭載量についても、状況に応じて山盛り持たせるとかも出来るから、かなり柔軟性が効く。
いずれにせよ当初はゲテモノ扱いだったんだけど、意外と使えそう……と言うのがナイトボーダーの総評で、これからの時代、エーテル空間戦闘では、ナイトボーダーなしとありでは、勝負にならないかも知れないなんて言われてるほどなのですよ。
「やれやれ、我々もウカウカしていられないですな……。シホちゃん……うちの副官あたりもナイトボーダー対策として、色々対抗戦術とか考えてはいるみたいだけど、結局、同系統の兵器を用意しないとキツいってのが結論みたいでして……。それに祥鳳クラスの軽空母でもナイトボーダーを艦載機として搭載すれば、近接戦や母艦を囮にしての待ち伏せ戦術とか、色々と戦術の幅が広がるから、かなり有用とか騒いでましてね。いっそ、試作機の一機くらい帝国から盗み出せないかとか本気で言ってる始末ですよ」
そうなんだよね。
エスクロンも独自のエーテル空間戦闘艦開発となると、スターシスターズ艦のデッドコピー程度しか開発できてないけど。
母艦に関しては、アドラステアの実戦参加で、エスクロン独自艦艇でも十分実戦に耐えられるって実証されてる。
ナイトボーダーなら、航空機と違って、長大な滑走甲板とか必要としないから、100mクラスの小型母艦と言ったものでも、十分事足りるのですよ。
だからこそ、帝国軍は機動兵器主体で、艦艇は機動兵器母艦とその護衛艦だけと割り切った編成にして、戦略機動力重視の鴉系の航空兵器と汎用性を重視したナイトボーダーの二本立てて行く……そんなドクトリンを築き上げつつあるのですよ。
「いや、そこは堂々とパクってもいいと思うよ? 何度も言ってるけど、僕らが戦争に備えてるのは、銀河連合軍を相手にするんじゃなくて、来たるべき災厄……帰還者達の襲来に備えてるんだからさ。僕らが自力で守るのはあくまで、自分達の庭、辺境流域だけにするつもりだよ。それ以外のすべてを君達、銀河連合軍は守らないといけない……それが現実なんだ。つまり、もっと頑張れってことさ」
「た、確かにそうですな……ただ、エスクロンの脱退で銀河連合が弱体化し、瓦解しつつあるのはご存知でしょうが……。必然的に我々、銀河連合軍も弱体化しつつあるのですよ。まぁ、文句を言うべき立場ではないのは、承知ではあるのですが……」
「うん、君の立場も解るからね。あんまり堂々とは出来なくなったけど、技術支援や物資援助はこれまで通り続けるし、ナイトボーダーだって実用化したら、連合軍にサンプル横流しするのだって、一向に構わないと思ってるよ? なんだかんだで、銀河の危機に際して、過去の人間の再現体なのに文句ひとつ言わずに、最前線で戦い抜いた君達を僕は非常に高く評価してるんだよ」
「……ははっ、我々はこの銀河で誰よりも強くならないといけない……ですかな。それにしても帰還者……でしたかな? まだ見ぬ脅威への備えとは言え、些か大げさに過ぎるのではないでしょうか? せっかく平和の兆しが見えてきたのだから、もう少し肩の力を抜いてはどうかと、小官も思うのですが」
「永友提督……。帰還者の脅威については、すでに何度も説明してるじゃないか。すでに各地の遺跡の活性化や未知の新種の黒船と言った現実的な脅威を提督達も目の当たりにしてるはずだよ? 何より、セカンドでの戦いは新たな局面を迎えつつある。セカンドで黒船をけしかけているのは、帰還者、或いはその下位存在の可能性が高いんだ……」
「ふむ……確かに。セカンドの柏木提督辺りも同じような話をしていましたな。セカンド銀河人類を排斥しようと言う明白な意思を感じさせる存在がいると……。その謎の存在がこちらの銀河にも現れると? 確かにフェイズ2駆逐種などは定期的に次元境界面を乗り越えて、最外辺ストリームに出現していますからな……」
「こっちについては、まだまだ様子見の段階みたいだけどね……。でも、この時点で、本格侵攻の前兆なのは明らかだろう? まぁ、予言書の記載によると、恐らく本格来襲まで10年くらいは猶予があるとは予想されてるけど、逆を言うとそれしか時間が残されてない……。そんな一時の平和で、ウカウカしてる場合じゃないと思うよ」
「……確かに、そうかもしれませんね。備えあれば患いなし……。いずれにせよ、帝国は中央への侵攻の意志はないと」
「そうだね。そこは断言しても良い。と言うか、そんな事をしても、うちにメリットなんてないし、僕らもそんな暇じゃないよ……。もっとも、向こうが喧嘩ふっかけてくる可能性は否定できないし、喧嘩売られたら、その場合は徹底的にやるつもりだけどね」
「ごもっともな話ですな。ですが、個人的な疑問としてもう一つ。何故人型兵器なのかという疑問があるのですが……。もちろん汎用性の高さは艦載兵器としては、高く評価する部分ではあるのですが……。海上歩兵のような戦力が必要なら、20m級程度の小型戦闘艇などでも十分とも思えるのですが」
ユリもこの辺はあんまり詳しくないけど。
元々人型兵器ってのは、兵器としてみたら微妙ではあるんだよね。
陸戦兵器としてみた場合、戦車なんかに比べると、的が大きいし、構造的な強さを追求すると、箱型や丸型みたいなシンプルな形ってのが本来一番いい。
手足とかあっても、本来はデッドウェイトにしかならない。
空間兵器としても、空力特性とかゼロだから、重力圏内では、エンジンパワーで無理やり飛ばすようになるから、そんな長く飛べないし、空中機動力も微妙。
宇宙空間機動兵器としてみても、人型ってのはやっぱり微妙……。
大昔に流行った宇宙人の乗り物……UFOとかって、丸に円盤はめ込んだような形してたけど、あれって宇宙空間での運用を想定すると割と理想的な形だったりするんだよね……。
「まぁ、浪漫って言えばそれまでなんだけど。帰還者の主力生物兵器も人型の可能性が高いんだよ……。それも10mくらいの巨人種……。シュバルツの極秘情報として、あちらさんが地上遺跡探索中にそんなのに遭遇して手酷い損害を受けたらしい。それに遺棄された太古の巨大戦艦の残骸に、パワードスーツみたいなのを着た巨人の死骸なんかも見つかったんだとか……。要するに巨人兵士……そんなのの相手を想定しないといけないようなんだよ」
「それは初耳ですな。ですが、実際上陸戦闘用の揚陸種あたりでは、手足のある個体も確認されておりますからな。その大型タイプ……となると、こっちもその巨人と殴り合える白兵戦を想定した兵器を用意しないと確かにキツイですな」
「まぁ、そう言う事なんだよ……さすがに10mともなると、重パワードスーツ歩兵でもまともに相手をするのはちょっとキツいからね。それともう一つの理由として、そこの彼女に代表されるうちの精鋭、強化人間を有効活用するには、人型兵器の方が好都合なんだよ。彼女達は兵器に直結して、兵器を自分の体同然に動かすことも出来る。そうなると人体からかけ離れた兵器より、人型の方がすんなり馴染める……そうだよね?」
いきなり、振られたし。
えっと、ちょっとまってねー!
帝国のロボ兵器は……多分、次回作に出てきます。
次回作はロボSFファンタジー?(笑)




